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いち
しおりを挟む「お前顔は良いけど、やっぱり痩せ過ぎで無理だわ」
付き合って半年になる男が、突然放ったこの酷すぎる台詞は、長年体型にコンプレックスを抱き続けた私の、心をバッキバキにするのに十分だった。
「ひどい、そんなこと…」
「別れてくれ、他に気になる女ができたんだ」
そう言って呆気なく半年の交際期間は終了し、私は心に負った傷が深過ぎて引きこもりになってしまった。
毎日起きて寝て、食べ物は食欲が湧かず食べたり食べなかったり、心配した友人が様子を見にきてくれたりしたが、会わずに断り続けていたある日、風邪を拗らせて呆気なく死んでしまった。
(もし生まれ変われるなら、次の人生では巨乳に…最低でもFカップ以上になりたい…!!!)
ふと自分の意識が戻ってきた。死んだはずの私は今、めちゃくちゃ豪華な金と白で構成された空間に立っている。
「ここどこ?私生きてるの?」
思わず呟くと、
「あなたは元の世界では死亡しています。ここは人間が死に生まれ変わるまでの間滞在する、狭間の世界です」
後ろからなんだか綺麗な声が聞こえてきた。驚いて振り返ると、見たこともないような金髪美人が立っていた。
「ここでは生前罪を犯したものを除き、全ての人間が転生を待つ間滞在する場です。通常は死亡したことを告げ、後は漂い生まれ変わるのを待ってもらうのですが、あなたはどうも、強すぎる未練があるようですね」
「強すぎる未練?」
「そうです。何か心当たりは?」
ある。ありすぎる。多分というか絶対死ぬ前に思ったことだ。でもこんな美人に、巨乳になりたいとは恥ずかしくて言いたくない。最低でもFカップ以上になりたいなんて、そんなのが未練だなんて知られるのは恥ずかしすぎる…!
「一応、あります…」
内容までは言えないにしろ、心当たりはあるのでそう答えると金髪美人は、ゆっくり頷く。
「自覚があるなら話は早いです。ここでは生前の強すぎる未練を断ち切り、次の人生を健やかに始めるため、転生時にその願いを叶えることができる制度があります」
「ほ、本当ですか!!??」
最高だ。前世でダメなら来世。憧れのボンキュッボンライフ。
「やります、何でもします!!」
「そうですか。では簡単にご説明いたします」
そう言って金髪美人は詳しい話を教えてくれた。どうやらこの狭間の世界で、金髪美人率いる天使の仕事のお手伝いを行うことで、来世で希望を叶えるための徳ってのを積むらしい。働いて給料の代わりにポイント集めをするのだ。そのポイントが貯まると、晴れてこの世界を卒業し、転生して希望の人生をスタートできるって寸法らしい。
「あなたは、今人手が足りていない生前判断部に配属になります。そこにはあなたと同じように徳を積んでいる途中の方もいますので、仕事も行いやすいでしょう」
生前判断部?なんだかここは最初の印象と違い、随分会社っぽい場所のようだ。
「はい。わかりました!よろしくお願いします」
とにかく生前やってきた事務OLの力を活かして、さっさと徳を積みまくってボンキュッボンライフを手に入れてやる!!!すごい、死ぬ前感じたことのない程のやる気がみなぎっている。頑張れそう!
「では、ご案内します。良い転生を」
そう言って金髪美人は私の後ろを見るように促すと、私の後ろにはこれまた違ったタイプの美人が立っていた。
「ついてきなさい。あなたの働く場所はこちらです」
艶やかな金髪に、スッとした目元。キツそうだが、かなりの美形だ。低くて落ち着いた声に、少しときめいてしまった。この世界の人たちは、みんな金髪美人なのだろうか。不思議に思いつつ後をついて行くと、生前勤めていた会社を彷彿とさせる事務室のような部屋に着いた。
中に入ると何人もの金髪美人が、机に向かい難しい顔をしたり、慌ただしく行き交ったりしている。先程の部屋のように、造りはとても豪華なのに、家具や働いてる人たちとのミスマッチ具合が凄い。
「この部署は、この狭間の世界に来た人間を選別したり、生前の行いを確認し転生先を決定したりする重要な場で、常に人手が不足しています」
「そうなんですね」
「あなたは今日からこの部署の長である私の元で働き、転生への準備をしていただきます」
「わかりました!全力で頑張ります!!」
「良いやる気ですね。では早速、ここにある書類の分別をお願いしましょうか」
「はい!!」
示された方を見ると、見たこともない高さに積まれた書類の山があった。
「こちらの引き出しに分別して入れていってください。単純な作業ですが、ミスは許されません。と、その前に1人紹介しておきましょう」
金髪美形が、妹尾さんと声をかけると黒髪平凡顔の男性がこちらへ来た。
「あ、もしかして俺と同じ感じでポイント貯める人ですか?」
「そうです、こちらは花園さん、こちらは妹尾さんです。同じ仕事をしてもらうので、あなたは妹尾さんに詳しいやり方を教わってください」
「はい、わかりました。妹尾さん、よろしくお願いします」
「花園さんって可愛いってよく言われませんでしたか?こんな人と働けるなんて嬉しいなぁ、こちらこそよろしくお願いします」
妹尾さんはどうやら人懐っこい性格のようで、仕事がしやすそうだとホッとした。
「無駄口を叩く暇はありません。速やかに仕事にあたってください。では私はここで。何かあれば、一番奥の席にいますので」
そう言って、ここの長だという金髪美形は足早に離れていった。
「サミュエルさん厳しいけど、良い人だし、頑張ろう!仕事、早速教えるね」
そうか、金髪美形はサミュエルさんという名前なのか。というかみんな名前あるんだな。そりゃそうか、ないと働いてて不便だもんね、などと考えつつ妹尾さん説明を聞き、仕事を開始することになった。
これから徳を積みきるまでどのくらいかかるかわからないけど、絶対やり切るぞ!と私は気合を入れる。
そんな私の様子を、サミュエルさんが眺めていたことには全く気付かなかった。
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