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愛は暗闇の中で踊る
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翔が店に来てから、咲は翔に言われた通り店を辞めた。
そして、学校に通う様になった。
「咲?随分休んでたけど、身体はもういいの?」
泉には、心配かけたくなかった咲は、病気に掛かったと嘘を付いて学校を休んでいたのだ。
翔と別れた事は既に、学園中で噂になっていた。
「うん、心配掛けてごめんね。もう大丈夫だから」
「でも、咲随分痩せちゃったじゃない。赤井君が原因なんじゃないの?みんな知ってるよ、あんたと赤井君が別れた事」
「ううん、翔君は関係ないよ。本当に病気だったんだ」
「そう?もうすぐ卒業しちゃうんだからさ、ちゃんと学校出て来なさいよ?」
「分かってるよ、泉....もうここにはいられなくなっちゃうんだもんね」
あたしの楽しかった時間がここに詰まってる。
卒業しちゃったら、翔君とは違う世界に行ってしまうんだ....。
咲の進学先は紅葉学園の大学だった。
けれどここには中等部と高等部しか、ない。
大学のキャンパスは別の場所にあるのだ。
さすがに大学まで同じ敷地には、建てられない。
色んな学部があるだけに、敷地も広くなる。
それでも咲は決意していた。
翔君が待ってろ、そう言ってくれた。
その言葉に嘘は感じられなかったから。
だから、あたしは翔君を待つの。
いつか、きっと戻って来てくれるって、信じてる。
「咲、たまには部活に顔出そうか?」
泉は何を思ったのか、咲を部活に誘った。
もう三年生は卒部して、部長も二年生に引き継いだのに。
「いいけど....でも何で?」
「やっぱりあたし達の原点じゃない?チアガールで頑張った三年間はさ。たまに懐かしくなるんだよね。晴美も誘ってさ、行こうよ」
体育館....。
翔君はバスケット頑張ってるのかな。
翔君の姿、見えるね。
行ってもいいのかな....?
「うん、じゃあ三人で行こう」
「おっしゃあ~。久しぶりに踊るぞ~」
体育館のステージ。
懐かしい思い出がいっぱいあるね。
ステージに立つと、バレーコートの向こうにバスケットコートが見える。
懐かしい景色だな。
ふ....と、視線を感じて、咲が振り向くと、翔がバスケットコートからこっちを見ていた。
茫然と立ち尽くして、驚いた様な顔をして....。
その時、咲の携帯が鳴った。
ディスプレイには懐かしい名前。
翔からの着信だった。
『咲?どうしたんだ?三年は部活はもう終わりの筈だろ?』
「翔君、よく気が付いたね。泉に誘われてね、踊りに来たんだ」
『そっか、元気か?俺の言った事聞いてくれたみてぇだな』
「そりゃあ、翔君の頼みは聞かない訳にはいかないもん」
『そういうとこ、変わんねぇな。咲はいつも俺の言う事には本当に素直だったもんな....あの日以外はな』
「あの日がまさか運命を変える日になっちゃうなんて、想像出来なかったもん」
「咲?電話誰から?」
泉と晴美が心配そうな顔をして、聞いて来た。
咲はふっと笑って、バスケットコートを指差した。
「赤井君?何を今更咲に電話なんてして来てるの?」
『泉先輩、怒ってるみたいだね。俺、咲を傷付けたって散々なじられたよ。マジで恐かったわ』
「泉が?そんな事を?知らなかったよ…泉あたしにそんな事一言も言わないから」
『だろうな、でも、本当に咲の事心配してんだなって思ったよ』
「うん、ずっと一緒だから。あたしの弱いとこも知ってるから、きっと泉はあたしが学校休んでたのは、自殺未遂したと思ってるよ」
『俺は、咲の全てを知ってるつもりでいたけど、本当は何も判ってなかったんだな。咲にはそんなに俺が必要だなんて、夢にも思わなかったもんな』
「そうだね、あたしも思わなかったよ。自分がこんなに脆(もろ)かったなんて、翔君失くしたら生きる力すら出なくなっちゃうなんてね」
『咲が卒業するまでには、俺も答えが出せそうだから、もう少し待っててくれな。あと、たまに電話してもいいか?』
「うん、待ってる。電話ぐらいいつだって掛けて来ていいよ」
『俺、今回の事で本気で女を愛するって事がどういう事なのか、何となく分かった気がするんだ』
「そう....。あたしもよく分かったよ。翔君以外愛せないって、ね。翔君と一緒に作った想い出は全部あたしの宝物なんだ」
『そうだな、俺も咲と一緒にいた時が一番楽しかったよ....なのに傷付けて悪かったな』
「いいんだ、だって待ってろって、言ってくれたじゃない。あたしその言葉信じてるから」
『あぁ、ちゃんと待ってろよな。俺が戻る場所、用意しといてくれな』
「うん、分かったよ。翔君だけの特等席用意して待ってるから。」
『....じゃ、まだ練習あるから。気を付けて帰れよ』
「うん、ありがと。練習頑張ってね」
「咲、赤井君なんでしょ?電話。何て言って来たの?」
咲が電話を切ったのを見て、泉が聞いて来た。
「うん、あたしに待っててくれって....翔君あたしの事裏切ったって自信失くしちゃってたみたいで、それで卒業までには答え出すから、待っててくれって」
「それでまさか咲、その言葉信じる気じゃないでしょうね?」
「あたしは信じたい....もう暗闇に閉じ込められるのは、嫌なの。だから、翔君を信じて待つよ」
泉も晴美も、咲の想いが伝わったのか、待つと言った咲の言葉を咎(とが)めたりはしなかった。
ただ、心配そうに咲に話し掛けた。
「咲の気持ちはよーく分かった。だから咲が赤井君を待つって言うんなら、止めない。けどね、それで赤井君が戻って来なかったらその時はきっぱり諦めるんだよ」
咲は笑って「分かったよ、泉。その時は仕方ないと思って諦めるよ」と言った。
けれど、咲の笑顔からは『諦める』という気配は微塵(みじん)も感じられなかった。
翔君はきっと戻って来てくれる。
咲はそう信じて疑わなかった。
それは翔の言葉に、何かを感じ取っていたのかも知れない。
あたしはもう迷わない!
あの暗闇の中からあたしを助けてくれたのは、紛れもなく翔君の一言だったんだから。
だからあたし翔君を信じて待ってる。
咲に本当の笑顔が戻って来るまでには、そんなに時間は掛からなかった....。
そして、学校に通う様になった。
「咲?随分休んでたけど、身体はもういいの?」
泉には、心配かけたくなかった咲は、病気に掛かったと嘘を付いて学校を休んでいたのだ。
翔と別れた事は既に、学園中で噂になっていた。
「うん、心配掛けてごめんね。もう大丈夫だから」
「でも、咲随分痩せちゃったじゃない。赤井君が原因なんじゃないの?みんな知ってるよ、あんたと赤井君が別れた事」
「ううん、翔君は関係ないよ。本当に病気だったんだ」
「そう?もうすぐ卒業しちゃうんだからさ、ちゃんと学校出て来なさいよ?」
「分かってるよ、泉....もうここにはいられなくなっちゃうんだもんね」
あたしの楽しかった時間がここに詰まってる。
卒業しちゃったら、翔君とは違う世界に行ってしまうんだ....。
咲の進学先は紅葉学園の大学だった。
けれどここには中等部と高等部しか、ない。
大学のキャンパスは別の場所にあるのだ。
さすがに大学まで同じ敷地には、建てられない。
色んな学部があるだけに、敷地も広くなる。
それでも咲は決意していた。
翔君が待ってろ、そう言ってくれた。
その言葉に嘘は感じられなかったから。
だから、あたしは翔君を待つの。
いつか、きっと戻って来てくれるって、信じてる。
「咲、たまには部活に顔出そうか?」
泉は何を思ったのか、咲を部活に誘った。
もう三年生は卒部して、部長も二年生に引き継いだのに。
「いいけど....でも何で?」
「やっぱりあたし達の原点じゃない?チアガールで頑張った三年間はさ。たまに懐かしくなるんだよね。晴美も誘ってさ、行こうよ」
体育館....。
翔君はバスケット頑張ってるのかな。
翔君の姿、見えるね。
行ってもいいのかな....?
「うん、じゃあ三人で行こう」
「おっしゃあ~。久しぶりに踊るぞ~」
体育館のステージ。
懐かしい思い出がいっぱいあるね。
ステージに立つと、バレーコートの向こうにバスケットコートが見える。
懐かしい景色だな。
ふ....と、視線を感じて、咲が振り向くと、翔がバスケットコートからこっちを見ていた。
茫然と立ち尽くして、驚いた様な顔をして....。
その時、咲の携帯が鳴った。
ディスプレイには懐かしい名前。
翔からの着信だった。
『咲?どうしたんだ?三年は部活はもう終わりの筈だろ?』
「翔君、よく気が付いたね。泉に誘われてね、踊りに来たんだ」
『そっか、元気か?俺の言った事聞いてくれたみてぇだな』
「そりゃあ、翔君の頼みは聞かない訳にはいかないもん」
『そういうとこ、変わんねぇな。咲はいつも俺の言う事には本当に素直だったもんな....あの日以外はな』
「あの日がまさか運命を変える日になっちゃうなんて、想像出来なかったもん」
「咲?電話誰から?」
泉と晴美が心配そうな顔をして、聞いて来た。
咲はふっと笑って、バスケットコートを指差した。
「赤井君?何を今更咲に電話なんてして来てるの?」
『泉先輩、怒ってるみたいだね。俺、咲を傷付けたって散々なじられたよ。マジで恐かったわ』
「泉が?そんな事を?知らなかったよ…泉あたしにそんな事一言も言わないから」
『だろうな、でも、本当に咲の事心配してんだなって思ったよ』
「うん、ずっと一緒だから。あたしの弱いとこも知ってるから、きっと泉はあたしが学校休んでたのは、自殺未遂したと思ってるよ」
『俺は、咲の全てを知ってるつもりでいたけど、本当は何も判ってなかったんだな。咲にはそんなに俺が必要だなんて、夢にも思わなかったもんな』
「そうだね、あたしも思わなかったよ。自分がこんなに脆(もろ)かったなんて、翔君失くしたら生きる力すら出なくなっちゃうなんてね」
『咲が卒業するまでには、俺も答えが出せそうだから、もう少し待っててくれな。あと、たまに電話してもいいか?』
「うん、待ってる。電話ぐらいいつだって掛けて来ていいよ」
『俺、今回の事で本気で女を愛するって事がどういう事なのか、何となく分かった気がするんだ』
「そう....。あたしもよく分かったよ。翔君以外愛せないって、ね。翔君と一緒に作った想い出は全部あたしの宝物なんだ」
『そうだな、俺も咲と一緒にいた時が一番楽しかったよ....なのに傷付けて悪かったな』
「いいんだ、だって待ってろって、言ってくれたじゃない。あたしその言葉信じてるから」
『あぁ、ちゃんと待ってろよな。俺が戻る場所、用意しといてくれな』
「うん、分かったよ。翔君だけの特等席用意して待ってるから。」
『....じゃ、まだ練習あるから。気を付けて帰れよ』
「うん、ありがと。練習頑張ってね」
「咲、赤井君なんでしょ?電話。何て言って来たの?」
咲が電話を切ったのを見て、泉が聞いて来た。
「うん、あたしに待っててくれって....翔君あたしの事裏切ったって自信失くしちゃってたみたいで、それで卒業までには答え出すから、待っててくれって」
「それでまさか咲、その言葉信じる気じゃないでしょうね?」
「あたしは信じたい....もう暗闇に閉じ込められるのは、嫌なの。だから、翔君を信じて待つよ」
泉も晴美も、咲の想いが伝わったのか、待つと言った咲の言葉を咎(とが)めたりはしなかった。
ただ、心配そうに咲に話し掛けた。
「咲の気持ちはよーく分かった。だから咲が赤井君を待つって言うんなら、止めない。けどね、それで赤井君が戻って来なかったらその時はきっぱり諦めるんだよ」
咲は笑って「分かったよ、泉。その時は仕方ないと思って諦めるよ」と言った。
けれど、咲の笑顔からは『諦める』という気配は微塵(みじん)も感じられなかった。
翔君はきっと戻って来てくれる。
咲はそう信じて疑わなかった。
それは翔の言葉に、何かを感じ取っていたのかも知れない。
あたしはもう迷わない!
あの暗闇の中からあたしを助けてくれたのは、紛れもなく翔君の一言だったんだから。
だからあたし翔君を信じて待ってる。
咲に本当の笑顔が戻って来るまでには、そんなに時間は掛からなかった....。
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