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煙草
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「おら飲めー!もっと飲めー!・・」
「飲み・・・ーすぎーですってー・・・」
「いいー・・・だ・・・ろー・・・・・・」
賑やかな喧噪が遠ざかる。外に出ても聞こえるくらいの騒ぎっぷりだ。流石に疲れた林藤は外の空気を吸うため席を立った。
慣れたつもりであっても気疲れをしてしまう。林藤は元々多くの人間とはつるまない。必要最低限関わって懐に入れた相手はとことん甘やかす性分だ。可愛い後輩と酒を飲むだけならいいが関わったことの無い人も一緒に酒を飲むのは疲れる。酒の力を借りてもきつい。ましてや、大型プロジェクトが終わりみんな浮かれている。楽しくない訳では無いが、それも疲れる要因のひとつだろう。忙しかったせいで時間を作れていなかった。
林藤は無意識に指で唇を触っていた。
店の横の路地裏に入り、口寂しさを誤魔化すためのタバコを胸ポケットから取り出す。ひとつ取りだし咥え、ライターを探す。が、ない。ポケットに手を突っ込み隅々まで探すがそれらしきものは無い。
肩を落とし、タバコを諦めようとした。
「どうぞ」
突然横に現れた手が火を差し出していた。その手の持ち主を見て驚いた顔を見せた後、苦笑いをしながら火を受け取る。
真だ。ずっと見たかった顔なんて、そんなことを素直に言う質じゃないし、言える立場では無い。真が林藤のことを好意的に思っているのは知っている。だが、林藤が関係を確かめたことは無い。
煙を吸いこむ。苦味が口の中に広がる。煙が闇に消えるのを眺めてから言葉を繋ぐ。
「お前も抜けてきたのか」
「酔い覚ましで・・・、あと、先輩が抜けるの見えたから追ってきました」
「そうか・・・」
少し沈黙が流れる。林藤は真の気配を横で噛み締める。
簡単に会えるのなら、こんなことはしないだろう。関係を確かめるのが怖くてただ現状維持を続けている。
会いたい。その一言を言えれば少しは変わるだろうかと考えたが実行には移さない。アラサーにそんな可愛いことは出来ないと思っている。
「・・・プロジェクト、よく頑張ったよ・・・・・・。お偉いさんがお前のこと褒めてた」
ただ無言でいるのは気まずくなり言葉を紡ぐ。真は照れ臭そうな顔をする。
「ありがとう、ございます・・・。林藤さんが、教えてくれたおかげですね」
「・・・俺なんざ、なんもやってねぇよ」
謙遜ではなく本当にそうだ。自分がやったことと言えば、本当に内容の基盤を一緒に作ったくらいだ。そこからは仕事内容が違くなり、別々に仕事をしていた。それでしばらく会えなかった。だから、名前を付けられないこの関係が終わることも視野に入れていた。
素直になれば、こんなことをいちいち恐れなくていいのに。そうは思うが、結局今のままだ。歳を重ねれば重ねるほど素直になれない。それはきっとこれからも同じだ。
「林藤さんの先を見据えながらの仕事は本当にすごいです・・・憧れです・・・」
それなのに、真はこんなことを隠さず素直に言う。自分との正反対さに眩しくなる。林藤はそんな真に惹かれていた。だが、そんな真もこの関係については明言しない。結局は一緒なのかと考えてしまう。
林藤は答えず煙を吹かす。
こいつの未来のためにも終わらせるべきか。そんなことを考えてしまう。そんなことを考えるとどうしても口寂しくなってしまう。タバコを支える下唇に人差し指が触れる。もう癖になってしまった。ふと視線を感じ、そちらを見ると真がこちらを見ていた。月に照らされ光る黒髪に目を奪われる。
「・・・・・・俺も1本貰っていいですか」
「・・・今吸うなんて、珍しいな・・・」
真がタバコを吸うのはだいたい決まっている。事後だ。後処理を終え、ベランダに出て吸う林藤に着いてきて一緒に吸う。冷たい風が吹くその時間を林藤は少し寂しく思う。
「・・・吸いたく、なりました」
林藤は胸ポケットから箱を取り出し、取り出し口を真に向ける。真は細長い指でタバコを受け取り口に挟む。林藤はタバコを咥えなおし、胸ポケットに箱を戻す。真はその隙をついて手を林藤の項にまわす。程よく筋がでた、しなやかな首だ。そのまま引き寄せ、タバコの先端同士をくっつける。
シガーキスだ。
林藤もすぐに理解し、息を吸い込む。項の手が遊ぶのかのように生え際を撫でる。その手つきで腰が震える。
タバコは口寂しさを忘れさせてくれるがタバコの苦さは心の寂しさを思い出させる。
思わせぶりなことをしてくる真に少しイラつきを覚える。それと同時にどうしても寂しさも覚えてしまう。
林藤は真のタバコに火がついたことを確認し、タバコを離すが距離は変わらない。林藤は煙を吐く。その煙が真の顔にかかる。
「・・・随分、粋なことをしてくれるな・・・・?」
あくまで余裕を持って含みある言い方で言葉を放つ。余裕なんてない。そう見せてるだけだ。
「・・・あなたも、してくれたじゃないですか・・・?」
顔にかかった煙を嗜むかのように真は答える。
「意味、知ってたのか・・・」
「もちろん」
「・・・意図的じゃあない」
実際にかけるつもりはなかった。ただ、風向きがそっちだっただけだ。
林藤は真から目を逸らす。タバコを落とし、靴裏で火を消す。
「意図的じゃないのは残念です・・・。誘ってくれてると思ったので・・・・・・」
真の言葉に思わず振り返る。しかし、真の表情は見えない。視界が白で覆われる。
「意味的にも・・・俺が誘った方がいいですよね」
真が吐いた煙を吸い込む。馴染んだ匂いが肺にいっぱいになる。
「・・・生意気だな・・・・・・。でも・・・、嫌いじゃない」
本当は嬉しい。でも素直にならない。
林藤は煙ごと真の唇を奪う。これが林藤の精一杯だ。
項に添えられている手に力が入る。息苦しさを感じながらもその感覚を楽しむ。真は舌を絡ませてくる。それに答え、林藤の口の中へ招き入れる。唾液を混ぜ合い、飲み込み合う。
林藤は真の首に手をかけ、さらに深く唇を重ねる。
「んっ・・・ふっ・・・・・・」
お互いの口から漏れた空気が白い。それをまた絡め取るように2人はキスを深くする。タバコの味などとうに消えていた。
銀の糸を引いてゆっくりと唇が離れる。2人の息遣いが異様に響いている感じがした。
真はタバコの火を消しながら言う。
「・・・このあと、2人で抜け出しましょうよ。それで、俺の家行って・・・明日も休みなんで・・・・・・ずっと一緒にいませんか」
そんな誘い文句は、ずるい。
林藤は真を抱き寄せ、耳元で囁く。
「一緒にいるだけでいいのか・・・?」
真は林藤の首筋に吸い付く。チリッと小さな痛みが走った。熱い吐息もかかる。
「いいわけないじゃないですか・・・」
林藤は真を抱きしめる腕の力を強める。そして、真も抱き返す。
「明日、どこか行きましょうよ・・・。デートしましょ」
「ふっ・・・じゃあ、ほどほどにしてくれよ・・・?」
「それは無理です」
真は即答し、林藤は笑う。
月明かりの下、ふたつの影が重なる。
「好きです・・・林藤さん」
初めて聞けた言葉。
他のことは素直に言うくせに、唯一言ってくれなかった言葉。
その言葉を噛み締める。
「あぁ・・・俺もだ・・・」
初めて素直に言えた言葉。
ふたつの影が再び重なり、ひとつになる。
タバコの苦味はもう感じなかった。
「飲み・・・ーすぎーですってー・・・」
「いいー・・・だ・・・ろー・・・・・・」
賑やかな喧噪が遠ざかる。外に出ても聞こえるくらいの騒ぎっぷりだ。流石に疲れた林藤は外の空気を吸うため席を立った。
慣れたつもりであっても気疲れをしてしまう。林藤は元々多くの人間とはつるまない。必要最低限関わって懐に入れた相手はとことん甘やかす性分だ。可愛い後輩と酒を飲むだけならいいが関わったことの無い人も一緒に酒を飲むのは疲れる。酒の力を借りてもきつい。ましてや、大型プロジェクトが終わりみんな浮かれている。楽しくない訳では無いが、それも疲れる要因のひとつだろう。忙しかったせいで時間を作れていなかった。
林藤は無意識に指で唇を触っていた。
店の横の路地裏に入り、口寂しさを誤魔化すためのタバコを胸ポケットから取り出す。ひとつ取りだし咥え、ライターを探す。が、ない。ポケットに手を突っ込み隅々まで探すがそれらしきものは無い。
肩を落とし、タバコを諦めようとした。
「どうぞ」
突然横に現れた手が火を差し出していた。その手の持ち主を見て驚いた顔を見せた後、苦笑いをしながら火を受け取る。
真だ。ずっと見たかった顔なんて、そんなことを素直に言う質じゃないし、言える立場では無い。真が林藤のことを好意的に思っているのは知っている。だが、林藤が関係を確かめたことは無い。
煙を吸いこむ。苦味が口の中に広がる。煙が闇に消えるのを眺めてから言葉を繋ぐ。
「お前も抜けてきたのか」
「酔い覚ましで・・・、あと、先輩が抜けるの見えたから追ってきました」
「そうか・・・」
少し沈黙が流れる。林藤は真の気配を横で噛み締める。
簡単に会えるのなら、こんなことはしないだろう。関係を確かめるのが怖くてただ現状維持を続けている。
会いたい。その一言を言えれば少しは変わるだろうかと考えたが実行には移さない。アラサーにそんな可愛いことは出来ないと思っている。
「・・・プロジェクト、よく頑張ったよ・・・・・・。お偉いさんがお前のこと褒めてた」
ただ無言でいるのは気まずくなり言葉を紡ぐ。真は照れ臭そうな顔をする。
「ありがとう、ございます・・・。林藤さんが、教えてくれたおかげですね」
「・・・俺なんざ、なんもやってねぇよ」
謙遜ではなく本当にそうだ。自分がやったことと言えば、本当に内容の基盤を一緒に作ったくらいだ。そこからは仕事内容が違くなり、別々に仕事をしていた。それでしばらく会えなかった。だから、名前を付けられないこの関係が終わることも視野に入れていた。
素直になれば、こんなことをいちいち恐れなくていいのに。そうは思うが、結局今のままだ。歳を重ねれば重ねるほど素直になれない。それはきっとこれからも同じだ。
「林藤さんの先を見据えながらの仕事は本当にすごいです・・・憧れです・・・」
それなのに、真はこんなことを隠さず素直に言う。自分との正反対さに眩しくなる。林藤はそんな真に惹かれていた。だが、そんな真もこの関係については明言しない。結局は一緒なのかと考えてしまう。
林藤は答えず煙を吹かす。
こいつの未来のためにも終わらせるべきか。そんなことを考えてしまう。そんなことを考えるとどうしても口寂しくなってしまう。タバコを支える下唇に人差し指が触れる。もう癖になってしまった。ふと視線を感じ、そちらを見ると真がこちらを見ていた。月に照らされ光る黒髪に目を奪われる。
「・・・・・・俺も1本貰っていいですか」
「・・・今吸うなんて、珍しいな・・・」
真がタバコを吸うのはだいたい決まっている。事後だ。後処理を終え、ベランダに出て吸う林藤に着いてきて一緒に吸う。冷たい風が吹くその時間を林藤は少し寂しく思う。
「・・・吸いたく、なりました」
林藤は胸ポケットから箱を取り出し、取り出し口を真に向ける。真は細長い指でタバコを受け取り口に挟む。林藤はタバコを咥えなおし、胸ポケットに箱を戻す。真はその隙をついて手を林藤の項にまわす。程よく筋がでた、しなやかな首だ。そのまま引き寄せ、タバコの先端同士をくっつける。
シガーキスだ。
林藤もすぐに理解し、息を吸い込む。項の手が遊ぶのかのように生え際を撫でる。その手つきで腰が震える。
タバコは口寂しさを忘れさせてくれるがタバコの苦さは心の寂しさを思い出させる。
思わせぶりなことをしてくる真に少しイラつきを覚える。それと同時にどうしても寂しさも覚えてしまう。
林藤は真のタバコに火がついたことを確認し、タバコを離すが距離は変わらない。林藤は煙を吐く。その煙が真の顔にかかる。
「・・・随分、粋なことをしてくれるな・・・・?」
あくまで余裕を持って含みある言い方で言葉を放つ。余裕なんてない。そう見せてるだけだ。
「・・・あなたも、してくれたじゃないですか・・・?」
顔にかかった煙を嗜むかのように真は答える。
「意味、知ってたのか・・・」
「もちろん」
「・・・意図的じゃあない」
実際にかけるつもりはなかった。ただ、風向きがそっちだっただけだ。
林藤は真から目を逸らす。タバコを落とし、靴裏で火を消す。
「意図的じゃないのは残念です・・・。誘ってくれてると思ったので・・・・・・」
真の言葉に思わず振り返る。しかし、真の表情は見えない。視界が白で覆われる。
「意味的にも・・・俺が誘った方がいいですよね」
真が吐いた煙を吸い込む。馴染んだ匂いが肺にいっぱいになる。
「・・・生意気だな・・・・・・。でも・・・、嫌いじゃない」
本当は嬉しい。でも素直にならない。
林藤は煙ごと真の唇を奪う。これが林藤の精一杯だ。
項に添えられている手に力が入る。息苦しさを感じながらもその感覚を楽しむ。真は舌を絡ませてくる。それに答え、林藤の口の中へ招き入れる。唾液を混ぜ合い、飲み込み合う。
林藤は真の首に手をかけ、さらに深く唇を重ねる。
「んっ・・・ふっ・・・・・・」
お互いの口から漏れた空気が白い。それをまた絡め取るように2人はキスを深くする。タバコの味などとうに消えていた。
銀の糸を引いてゆっくりと唇が離れる。2人の息遣いが異様に響いている感じがした。
真はタバコの火を消しながら言う。
「・・・このあと、2人で抜け出しましょうよ。それで、俺の家行って・・・明日も休みなんで・・・・・・ずっと一緒にいませんか」
そんな誘い文句は、ずるい。
林藤は真を抱き寄せ、耳元で囁く。
「一緒にいるだけでいいのか・・・?」
真は林藤の首筋に吸い付く。チリッと小さな痛みが走った。熱い吐息もかかる。
「いいわけないじゃないですか・・・」
林藤は真を抱きしめる腕の力を強める。そして、真も抱き返す。
「明日、どこか行きましょうよ・・・。デートしましょ」
「ふっ・・・じゃあ、ほどほどにしてくれよ・・・?」
「それは無理です」
真は即答し、林藤は笑う。
月明かりの下、ふたつの影が重なる。
「好きです・・・林藤さん」
初めて聞けた言葉。
他のことは素直に言うくせに、唯一言ってくれなかった言葉。
その言葉を噛み締める。
「あぁ・・・俺もだ・・・」
初めて素直に言えた言葉。
ふたつの影が再び重なり、ひとつになる。
タバコの苦味はもう感じなかった。
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