そして消えゆく君の声

厚焼タマゴ

文字の大きさ
上 下
42 / 113

夜は更けて2

しおりを挟む
(〇×※△□ー!?)
 
 何。何。何が起こったの。
 
 驚きのあまり声も出ない私を抱えて、黒崎くんは迷いなく夜道を進んでいく。突然高くなった視界と浮遊感に、頭がくらくらした。
 
「あああ歩ける、歩けるよっ」 
 
 手足をばたつかせて叫びに近い声を上げても歩みが止まることはない。それどころか膝を支える手に力が込められて、ますます黒崎くんと密着するかたちになった。
 汗をかいたTシャツ越しに伝わる体温に、体温が急上昇する。
 
「そんな足で歩けるわけないだろ。泣きそうな顔してるくせに」
「へ、へーき、本当大丈夫だから、下ろして、ね、ね?」
「うるさい。さっさと行くぞ」
 
 どこに、という言葉を目で制して脇道からさらに外れた小道へ入っていく。
 腕も足も細長いのに力が強いんだな、さすが男の子……なんてこと考えている場合じゃない!
 
「あ、あの……黒崎くん?」
 
 無理やり連れ込まれた砂利道は鬱蒼とした木々に包まれていたけれど、思ったほど真っ暗ではなかった。
 ポツポツと古びた街灯が並んでいたのも一つの理由。だけど、それだけじゃない。
 
「一つ、聞きたいんだけど」
「何」
 
 明かりの元は、道の奥にたつ建物の、場違いなネオンだった。
 すぐ近くにのどかな田んぼ道が広がっているとは思えない毒々しい色彩は、経年のせいかところどころ電気が切れている。私が生まれる前から存在してそうな色褪せた看板と、シャッターの閉まった車庫。生い茂る背の高い草むらの中に、錆びついた自転車が倒れている。
 
「ここって、その」
 
 短いようにも、とてつもなく長いようにも感じられた道のり。
 一度も目を合わせることなく歩き続けて、ようやく立ち止まった黒崎くんに、私は思いっきり上ずった声で話しかけた。

 休憩3000円
 宿泊5500円

 と、書かれた看板の前で。
しおりを挟む

処理中です...