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秋
二度目の会話6
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要さんと二人で店を出た時にはもう、辺りは暗くなっていた。
薄闇をかぶった空に光る星。金属質の階段をカンカンと鳴らしながら細い裏通りへと下りると、要さんはシンプルな黒いケースに包まれた携帯を眺めて。
「じゃあ、俺はここで」
「あ、人に見られたら困りますもんね」
「それもあるけど、これからデートだから車出してもらおうと思って」
デート。要さんが。
下世話かもしれないと思っても、どうしても聞き流すことができなかった。
「お、お付き合いしてる方、年上なんですか?」
そわそわとたずねた私に要さんが首を振る。
「年上だけど別に付き合ってないよ。まあ、日原さんにはわからない関係」
さりげなく問題発言を口にしながら右側面のボタンを押し、消灯した携帯を鞄にしまう。いっそう暗くなる周囲。切れかけた街灯の明かりだけが、まるで連続写真を撮っているみたいに光っては整った顔を照らしていた。
「征一に言ったら理解できないって言われたよ。好きでもない人と一緒にいて楽しいのって。世界で一番言われたくない相手なんだけど」
「征一さんは、えっと、こ、恋人……とか」
「いたら笑えるけど、いないだろうね。だから代わりにお前は秀二といて楽しいのかって聞いたらなんの迷いもなく頷いてたよ、楽しいはずだって」
「はず……」
「肉親は大切なはず。弟は大切なはず。だから秀二は大切で、秀二といれば楽しいはず。全部想像だよ、あいつ自身がそう思っているわけじゃない」
要さんの話を聞けば聞くほど、自分の中の征一さん像が揺らぐのがわかる。
正直に言うと、私は心のどこかで征一さんを苦手に思……ううん、嫌っていたのだと思う。
大事な人を傷つける人。怖い人。たとえ征一さんが黒崎くんに歪んだ愛情を持っているのだとしても、胸に生まれる敵意を消すことはできなかった。
でも、今はわからない。
あの人がしているのは悪いこと。
でもあの人は悪い人ではないのかもしれない。
ただ空っぽなだけ。
自分の命すらどうでもいいほど。
ならどうして征一さんは黒崎くんにだけ固執するんだろう。どうして黒崎くんは征一さんを止めないんだろう。どうして。
その答えを持っているのは、征一さん自身と黒崎くんだけ。だから、要さんと別れて明るい大通りに向かって歩きながら、私はこれからのことを考えた。
私は黒崎くんに向き合わなきゃいけない。ちゃんと話さなきゃいけない。
黒崎くんは背を向けるだろう。今だって私を避けているのに、これ以上近付いたら嫌われてしまうかもしれない。私の行動は、黒崎くんの心を傷つけるだけなのかもしれない。
それでも知りたい。
だって黒崎くんは泣いていた。たった一人で苦しんでいた。例えどんな事情があったとしても、大切な人が傷つく姿をこれ以上見たくない。だから。
向き合わないと。
黒崎くんの気持ちに、自分の気持ちに。
「黒崎くん」
手の中で、ガラスの花が揺れる。夏の思い出が、私を後押しするように。
「…………黒崎くん」
雑踏の向こう、見上げた空には細い細い月が浮かんでいた。
薄闇をかぶった空に光る星。金属質の階段をカンカンと鳴らしながら細い裏通りへと下りると、要さんはシンプルな黒いケースに包まれた携帯を眺めて。
「じゃあ、俺はここで」
「あ、人に見られたら困りますもんね」
「それもあるけど、これからデートだから車出してもらおうと思って」
デート。要さんが。
下世話かもしれないと思っても、どうしても聞き流すことができなかった。
「お、お付き合いしてる方、年上なんですか?」
そわそわとたずねた私に要さんが首を振る。
「年上だけど別に付き合ってないよ。まあ、日原さんにはわからない関係」
さりげなく問題発言を口にしながら右側面のボタンを押し、消灯した携帯を鞄にしまう。いっそう暗くなる周囲。切れかけた街灯の明かりだけが、まるで連続写真を撮っているみたいに光っては整った顔を照らしていた。
「征一に言ったら理解できないって言われたよ。好きでもない人と一緒にいて楽しいのって。世界で一番言われたくない相手なんだけど」
「征一さんは、えっと、こ、恋人……とか」
「いたら笑えるけど、いないだろうね。だから代わりにお前は秀二といて楽しいのかって聞いたらなんの迷いもなく頷いてたよ、楽しいはずだって」
「はず……」
「肉親は大切なはず。弟は大切なはず。だから秀二は大切で、秀二といれば楽しいはず。全部想像だよ、あいつ自身がそう思っているわけじゃない」
要さんの話を聞けば聞くほど、自分の中の征一さん像が揺らぐのがわかる。
正直に言うと、私は心のどこかで征一さんを苦手に思……ううん、嫌っていたのだと思う。
大事な人を傷つける人。怖い人。たとえ征一さんが黒崎くんに歪んだ愛情を持っているのだとしても、胸に生まれる敵意を消すことはできなかった。
でも、今はわからない。
あの人がしているのは悪いこと。
でもあの人は悪い人ではないのかもしれない。
ただ空っぽなだけ。
自分の命すらどうでもいいほど。
ならどうして征一さんは黒崎くんにだけ固執するんだろう。どうして黒崎くんは征一さんを止めないんだろう。どうして。
その答えを持っているのは、征一さん自身と黒崎くんだけ。だから、要さんと別れて明るい大通りに向かって歩きながら、私はこれからのことを考えた。
私は黒崎くんに向き合わなきゃいけない。ちゃんと話さなきゃいけない。
黒崎くんは背を向けるだろう。今だって私を避けているのに、これ以上近付いたら嫌われてしまうかもしれない。私の行動は、黒崎くんの心を傷つけるだけなのかもしれない。
それでも知りたい。
だって黒崎くんは泣いていた。たった一人で苦しんでいた。例えどんな事情があったとしても、大切な人が傷つく姿をこれ以上見たくない。だから。
向き合わないと。
黒崎くんの気持ちに、自分の気持ちに。
「黒崎くん」
手の中で、ガラスの花が揺れる。夏の思い出が、私を後押しするように。
「…………黒崎くん」
雑踏の向こう、見上げた空には細い細い月が浮かんでいた。
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