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11、火を吐く土の国
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土が枯れ水もとぼしい荒涼とした貧しき地は、人目を避けて逃げてきた二人にとってかっこうの隠れ処となった。
蜜月が終わり二人が去った後は、穏やかな気候、豊富な水、緑あふれる地が残された。人が住まうようになり、国となり栄えた。
この地を初めて統べた王は善き王で、諍いをおさめ、技術を起こし、富を分かち合い、国の基盤を作り上げた。
できたばかりの若い国は、たび重なる侵略を受ける。しかしそのような災厄も神の加護か偶然か、火吐山の噴火により回避された。
それらはやがて建国の神話となり、興行師が芝居にし、レリーフにしたものは街の浴場で湯につかりながら眺めることができる。
敵国からの攻撃を迎え撃つように猛威をふるった火吐山は、以降鎮まっている。だが地中深くの熱は絶えることなく、人々の暮らしに農工業に利用された。
王は、民の声を聴く存在として尊敬を集め、それが何代も続いた。平和が続き、繁栄が続くことで、民の力は増大し、その声がますます大きくなってゆく。
こたびの国王の不在は、本来であれば一刻も早く解決すべき事態であった。平和が続くゆえに隠ぺいされ留保されてしまったといえる。
さらにゼイロが前王にとりいったことで、事態を複雑にした。
火吐竜の女を王宮に送りこみ何人目かの新しい妃にしたてた。
火吐竜と番った者が衰弱するのは自然のことわり。
王は行方不明となり、ゼイロは計画通り王になりかわった。しかし予想通りにいかなかったことがある。思ったより早く権力に飽いてしまったのだ。
ザミドは首を左右に振った。
「だからといって、犬蛇にならずとも」
ザミドの髪や髭の長さが、体感では、一週間くらいの不在が、実際は半年も経過していることを物語っていた。
ザミドによればその間、王の崩御が発表され国全体が喪に服した。葬儀のすべてをニト王子がとりしきり、それは立派なものだったという。
王となるには、民の信を得なければいけない。王は絶対権力者でありながら、人気がなければその地位はあやうく国を統べることが困難になる。つまり葬儀をもって己の采配を民に示す必要があり、ニト王子はそれに成功したということだ。
(ゼイロは自分の意志だと思わされているが、違う。なぜなら私は犬蛇がゼイロだと気づかなかった。犬蛇の意識が優勢になり、実質飼い殺しにされていたのだろう。
ゼイロの誤算は火吐竜の女、つまり王妃に据えた女がゼイロの手に負えない女だったということだ)
「ヨミ王子とイチ王女の母君が火吐竜だったとして、火吐竜とはなんなのでしょうか……」
(ただの眷属の亜種かと思ったが、どうであろう。子を残すために番った相手を死に至らしめてしまうというのは因果だが、自然界ではさして珍しい事象ではない)
「ニト王子は何者なのでしょうか」
(下級淫魔だ。私との接触から力を得てしまった。それまでは大量の精を必要としていたから、腹も空かなくなって自由の身となったからには、野心も持とう)
神妙な顔でききいっているそぶりのザミドに、トウヤは水を向けた。
(さっきからなんだその顔は。言いたいことがあれば言うがよい)
ちょうど、「そもそもトウヤ様がニト王子からべろんべろん口を吸われていなければ、そもそもこんなことになっていない」と思っていたところで、ザミドの目が泳ぐ。
(あれは淫魔封じの特殊な手かせだから、わたしは不可抗力である。お前も私の噂くらい耳にしているだろう)
「噂とは……はて?」
それはそれですっとぼけた。しかし、トウヤはじじいのとぼけぶりに乗らず、冷めた目で促す。
「あ……いや、あ~聞いたことがあるといえばあるような」
大昔のこととはいえ、トウヤの駆け落ち騒ぎを知らない弟子など一人もいない。気まずい空気にとぼけるのも限界と思ったのか、ザミドは口を開いた。
「その、あ~、あくまで聞いた話にございますが、トウヤ様が遠縁の若者となにやらあって、あげく身をお隠しになったと」
「駆け落ち」という言葉をあえて使わないザミドを、さらにじっと目を見る。
「あ、ええと、その、蜜月は短く痴話げんかのすえ、塔に帰ったはいいが、その道中にやけくそ気味に目についた相手とお戯れを」
トウヤの直視に耐えられず、ザミドは明後日の方向に視線をやりながら腹をくくり淡々と言った。
「ゆえに、ありえない場所に水が沸き、緑が興り、諸国に多大な影響を与えたと……だいぶこう、奔放な、その、属性ゆえ、常識にとらわれず性愛にまい進されるところが、お若い頃にはあったと」
言ってしまってザミドは正解を探すようにトウヤの顔色を伺った。もともと率直なやりとりを好む気質であるが、機嫌が悪いと何が吉かはわからない。
蜜月が終わり二人が去った後は、穏やかな気候、豊富な水、緑あふれる地が残された。人が住まうようになり、国となり栄えた。
この地を初めて統べた王は善き王で、諍いをおさめ、技術を起こし、富を分かち合い、国の基盤を作り上げた。
できたばかりの若い国は、たび重なる侵略を受ける。しかしそのような災厄も神の加護か偶然か、火吐山の噴火により回避された。
それらはやがて建国の神話となり、興行師が芝居にし、レリーフにしたものは街の浴場で湯につかりながら眺めることができる。
敵国からの攻撃を迎え撃つように猛威をふるった火吐山は、以降鎮まっている。だが地中深くの熱は絶えることなく、人々の暮らしに農工業に利用された。
王は、民の声を聴く存在として尊敬を集め、それが何代も続いた。平和が続き、繁栄が続くことで、民の力は増大し、その声がますます大きくなってゆく。
こたびの国王の不在は、本来であれば一刻も早く解決すべき事態であった。平和が続くゆえに隠ぺいされ留保されてしまったといえる。
さらにゼイロが前王にとりいったことで、事態を複雑にした。
火吐竜の女を王宮に送りこみ何人目かの新しい妃にしたてた。
火吐竜と番った者が衰弱するのは自然のことわり。
王は行方不明となり、ゼイロは計画通り王になりかわった。しかし予想通りにいかなかったことがある。思ったより早く権力に飽いてしまったのだ。
ザミドは首を左右に振った。
「だからといって、犬蛇にならずとも」
ザミドの髪や髭の長さが、体感では、一週間くらいの不在が、実際は半年も経過していることを物語っていた。
ザミドによればその間、王の崩御が発表され国全体が喪に服した。葬儀のすべてをニト王子がとりしきり、それは立派なものだったという。
王となるには、民の信を得なければいけない。王は絶対権力者でありながら、人気がなければその地位はあやうく国を統べることが困難になる。つまり葬儀をもって己の采配を民に示す必要があり、ニト王子はそれに成功したということだ。
(ゼイロは自分の意志だと思わされているが、違う。なぜなら私は犬蛇がゼイロだと気づかなかった。犬蛇の意識が優勢になり、実質飼い殺しにされていたのだろう。
ゼイロの誤算は火吐竜の女、つまり王妃に据えた女がゼイロの手に負えない女だったということだ)
「ヨミ王子とイチ王女の母君が火吐竜だったとして、火吐竜とはなんなのでしょうか……」
(ただの眷属の亜種かと思ったが、どうであろう。子を残すために番った相手を死に至らしめてしまうというのは因果だが、自然界ではさして珍しい事象ではない)
「ニト王子は何者なのでしょうか」
(下級淫魔だ。私との接触から力を得てしまった。それまでは大量の精を必要としていたから、腹も空かなくなって自由の身となったからには、野心も持とう)
神妙な顔でききいっているそぶりのザミドに、トウヤは水を向けた。
(さっきからなんだその顔は。言いたいことがあれば言うがよい)
ちょうど、「そもそもトウヤ様がニト王子からべろんべろん口を吸われていなければ、そもそもこんなことになっていない」と思っていたところで、ザミドの目が泳ぐ。
(あれは淫魔封じの特殊な手かせだから、わたしは不可抗力である。お前も私の噂くらい耳にしているだろう)
「噂とは……はて?」
それはそれですっとぼけた。しかし、トウヤはじじいのとぼけぶりに乗らず、冷めた目で促す。
「あ……いや、あ~聞いたことがあるといえばあるような」
大昔のこととはいえ、トウヤの駆け落ち騒ぎを知らない弟子など一人もいない。気まずい空気にとぼけるのも限界と思ったのか、ザミドは口を開いた。
「その、あ~、あくまで聞いた話にございますが、トウヤ様が遠縁の若者となにやらあって、あげく身をお隠しになったと」
「駆け落ち」という言葉をあえて使わないザミドを、さらにじっと目を見る。
「あ、ええと、その、蜜月は短く痴話げんかのすえ、塔に帰ったはいいが、その道中にやけくそ気味に目についた相手とお戯れを」
トウヤの直視に耐えられず、ザミドは明後日の方向に視線をやりながら腹をくくり淡々と言った。
「ゆえに、ありえない場所に水が沸き、緑が興り、諸国に多大な影響を与えたと……だいぶこう、奔放な、その、属性ゆえ、常識にとらわれず性愛にまい進されるところが、お若い頃にはあったと」
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