【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋

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15、出立の日

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「トウヤ様、ご気分がすぐれないのでは」
(何も申すな)
 実は数日前から具合が悪い。何か食べるものを考えるだけで、吐き気がする。
 馬車がゆくのは悪路ではない。氷の上をすべるごとく、とはいかないまでも、しごく順調な旅路であった。
 火吐国を今朝、後にした。
 戴冠式を終えたばかりの新しい王が、悪鬼にのっとられたとなれば、その穢れを払う必要があった。火吐国初の女王の戴冠と第一王女のおひろめも控え、王宮は目が回るような忙しさだった。
 ヨミ王子は、積極的に人々の中にはいってゆき、その絶大な人気をさらに不動のものとしながら、国を覆う不安の影を一掃していった。
 もとより剣闘のスターで、悪鬼となった兄を討った悲劇の剣士となれば、それを読み物にしたり芝居にしたり、語り師が語ったりと、商売人も儲かって仕方がない。
「ぎゃるる」
「ぎょりり」
「しーっ、トウヤ様のおかげんにさわる、静かにするのだ!」
 鳥かごが二つ、中には小さな犬蛇とこれまた小さな下等淫魔が入っていた。トウヤが力を無化したところ、このような姿になった。本当は喋ることができるくせに、わざとこのように獣じみた声で鳴く。
 トウヤがゼイロとニトをじっとみつめると、二人は縮みあがって震え、黙った。
(馬車をとめてもらえまいか)
 馬車を降りて、風にあたる。
 吐き気がこみあげて、喉をごつごつとした違和感が通過する。その場で嘔吐した。
 でるわでるわ、大きいもの、砂のような粒状のもの、数々の宝石がごろごろとトウヤの口から出る。
 従者たちはおろおろとし、ザミドは無言で麻袋をトウヤの口にあてがうが遅い。そこらじゅうキラキラと光を受けて輝く宝石だらけになっている。
 ひとしきり吐いてややすっきりしていると、空に見覚えのある影をみつけてしまった。
 逃亡は失敗に終わったかとあきらめの境地で、火吐竜から半竜と変幻しながら降下してくるヨミ王子を、膝をおってこうべをたれて迎える。
「恐れながら殿下、このような御姿を安易にさらすのは軽率かと」
 今にも口から火を吐きそうなほど、かっかと頭に血がのぼっている王子に、ザミドはひれ伏した低い姿勢で小言をたれる。
「よい。もう民に知れ渡っている。わたしは火吐山の神の化身ということになっている」
「さようで」
「それより調査官、なぜわたしに断りもなく出立したのだ。わたしの許しなく勝手にこの国を出るなどと」
 そこでトウヤの顔色が悪いことにやっと気づき、態度を軟化させた。
「いったい何があった、どうしたというのだ」とヨミ王子はザミドに問う。あたりに宝石がごろごろと転がっていることにまだ気づいていない。
 ザミドは無言で、袋に宝石をつめてゆく。従者たちもそれにならった。数人の従者はこっそりと懐にしのばせようとしてザミドに叱りとばされている。
 ヨミ王子は人目もはばからずトウヤを抱き上げた。
 小声でトウヤを問いつめる。
「他にも各地に昔の恋人がおり、その始末をつけにゆくというのは誠か。しかもなぜ犬蛇と兄を連れてゆく。わたしも行く。わたしはあなたの伴侶ではなかったか」
 トウヤはザミドを見た。耳をそばだてているじじいは素知らぬふりがとても下手だった。
 おしゃべり好きのくそじじいめ。
 二人を連れてゆくのは、このままほうっておけばろくなことにならないことが明白で、監視下において更生させるためにほかならない。
 各地に恋人がいるなど人聞きが悪い。大昔にまいた種を刈り取るだけだ。だいたい昔の恋人などとうの昔に死んでいる。
 発火寸前の王子に、説明するのも億劫、いちいち抱き上げるなと言うのも億劫、指文字で伝えようにも、指を持ち上げるのも億劫だった。
 昏い目でトウヤがヨミ王子を見つめると、火が鎮火してゆき、ようやく話を聞く様子をみせた。そこで王子の耳もとに唇をよせた。真実を告げた。
 その時のヨミ王子を見たザミドは、後にも先にもこのように喜びにあふれる者を見たことがないと、後に語る。
 塔の高官も火吐竜も長命である。望みをかなえ、すべきことをするため、離れることもあったが、火吐国には子孫が繁栄した。
 その恩恵はありとあらゆる人々に行き届くものとなったという。

end
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