α、β、Ωで結婚したら無敵だった

月田朋

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7、夫のアレがアレだとしても

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 夜風に当たろうとベランダにでる。
 いや、これはバルコニー? テラス? それとも屋上庭園?
 別荘は大きく広く、周囲は木々で囲まれていた。あそこからここまで、そして向こうもひっくるめて全部私有地だ。
 歴史があって重々しくて、空間に無駄が多くて、そこかしこに細かい植栽や花壇があって花が咲き乱れている。管理維持するのがとても大変そう。お金持ちってすごいなあ。
 イオはどうでもいいことをつらつらと考えながら夜空を見上げ、知っている星座がないか探した。
 あ、カシオペヤ座。
 すすめられるままシャンパンを何杯も飲んだが、緊張のせいかちっとも酔ってない。
「イオくん、こんなところにいたんですね」
 振り返ると、イオをみつけてほっとした様子の鳥飼が立っていた。隣に並び同じように空を見あげ、「北極星」と言った。
「ここ、星だけはよく見えるんですよね」
 横顔が、瞳が、星よりきれい。
 なんて。

 鳥飼はフィルタグラスをつけていない。出会ってから肌身離さず装着していた特殊アイウェアをここ二年、すっぱりやめた。
 やめてしまってから、実はつけっぱなしだと視力に影響するという情報をネットで見つけ、イオは愕然とした。なじるようにそれを言うと、「視力よすぎるのも考えものですから、ちょっとくらい落ちても平気ですよ」などと、腹が立つことを平気で言う。もう少し自分の健康を大事にしてほしい。
 なんにせよ、今後は絶対フィルタグラスはつけさせないとイオは心に決めている。鳥飼の今のストレス症状が回復したとしても、だ。
 別荘をバックにしている鳥飼は、さっきから良家のご子息感が増し増しだ。
 休日よく着ているジップアップのジャケットになんてことないチノパンというイオが見慣れた恰好も、場になじんでノーブル感が半端ない。
 
 ここに連れてこられてわかったのは、この人立派な家の子なんだなあ、という当たり前の事実だった。一緒に暮らしていても育ちの良さは隠しようがない鳥飼だが、実際その環境に身をおいているのをみると、自分とは違う人種であることがはっきりした。
 イオはなんの変哲もない普通のβの家庭で育ち、家族なんてものは「そこにある」「そこにいる」といった空気レベルでしか考えたことがない。実家に帰ったら気が抜けまくり、顔も身体もたるみそうになるのであまり長居しないようにしているくらいだった。
 鳥飼はというと、自分のホームにいるというのに、全くリラックスしていない。暗い顔、暗い目で夜空の星に目をこらしている。それが鳥飼と家族の関係をすべて物語っているようだ。
「帰りましょう」
 食事は、と思ったが「いいよ」と何も聞かず応じた。
「あ、荷物とか」
「もう車に運んであります」
 すっと、背中に軽く手を添えられ、玄関までエスコートされた。誰にも挨拶をせずに、すみやかに別荘をあとにする。ホールを出る前、一瞬鳥飼の母親が輪の中心で笑っているのが目に入った。鳥飼はというと固い表情で前を向いている。イオは義母と目が合った。うなずいたように見えたが気のせいだったかもしれない。
 車に乗りこみ発進する。砂利の敷かれた私道を通り敷地をぬけ、公道に出た最初の信号で、鳥飼は「はっ」と短いため息をつき、「何かお腹にいれました? どこか寄ります?」とイオに尋ねる。カクテルとともにオープンサンド、ナッツとチーズは食べた。
「うーん、食べたような食べてないような」とこたえると、「確かこの近くに美味しいジビエ料理の店が」と言った。
「ジビエ! 何それ、よさげじゃん」
 明るくこたえる。そして簡単に前言をひるがえした。
「あったかいうどんがいい」
 鳥飼は笑った。
「うどん、了解です。駅前に立ち食いが」
「立ち食い最高」
 前を向く顔が笑っているのを確認し、やや安心した。
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