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序章、異世界で召喚された王国編

7、勇馬くんはヒロイン!

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 朝が来た。

 素晴らしい朝だ。
 久しぶりゆっくりと時間を忘れて寝られたような気がする。

 ただ床で寝ていた所為か、体の所々が痛い。
 だが睡眠できたならばそれを考えてもプラスに及ぶ。

 ただしだ。

 幾らかヤベェことがある。

 一つ目、縛られていること。
 腕を頭の腕で縛られて、足も縄でグルグルと。
 自分で言うのもなんだがドラマでしか見たことのないような状況で多少笑える。
 …ま、うちで何度も見ているが。

 二つ目はここがアゲハの部屋だということ。
 ちなみにアゲハは俺を抱き枕のようにして寝ている。
 …いや、ベッドで寝ろよ!!
 ここお前の部屋だろ!!?
 ただ幸せそうなのでつい寝るのを邪魔したくなくなる。

 というか一つ目の時点で気がついただろうがあの後結局、このまま放置させられていたのだ。
 俺がアゲハに呼びかけても完全無視。
 怒ってないはずだったのだが…。
「勇馬くんをここに閉じ込めるのもありかも…」とか言ってたような気もするけど怒ってないはずだ。

 ともかくここまではさほど問題ではない。
 アゲハはまだ成長過程なので当たるものが当たっても特に心は乱れない。
 俺は恐らくそれだけならば二度寝に陥っていたことだろう。

 だが三つ目。

「…アゲハちゃん。監禁は…ダメ…だよ?」

 開けられた扉から姿を現した蓮。
 どうやら俺の状況を見て、アゲハが俺を監禁したと考えているらしい。
 あながち間違いではないが間違っている。
 一応間違いである。

 …でもどうやって弁解しよう。

「…ふわぁ…おはよ、勇馬くん…」

「あ。ああ。おはよう、アゲハ」

「…おはよう。アゲハちゃん…」

 するとアゲハは起きた。
 まだぼうっとしている様子で、窓の方をじーっとぼーっと眺めている。
 太陽光で体内時計を整えているのだろう。

 するとアゲハが再びこちらに振り向いた。
 ただしバッ!と!
 恐ろしい速さでバッ!!と!!

 グルグルに巻かれた俺と蓮を往復するように凝視。
 それは何度も。
 飽きないのかというぐらい何度も。

 アゲハの顔がだんだんと赤く染まっていく。
 頭がカクンカクンと上下するたびに染まっていくので一種の玩具のようで多少面白い。

 そして顔が爆発するぅ!とまで赤くなった所で硬直。
 目は涙目で恥ずかしさが圧倒していることがよくわかる。

 そしてアゲハは震えた声で一言。

「……これ、新しい…抱き枕なの…」

「「その言い訳はないだろう!!?」」

 アゲハの可笑しな発言に俺たちは怒涛の勢いで突っ込んだ。

 ちなみにこの声の所為でクラスのメンバーが駆けつけ、俺のあられもない姿を公開された際、本気で死にたくなったのは言うまでもない。
 ついでに言えばそれで男子の一部と「お姉様ぁ」と俺を慕う女の子たちが興奮していることに鳥肌がブツブツッ!となり三途の川を見て来たのも言うことではない。

 ..................................................

「「だから違うんだってばー!!!」」

「いや、わかってるよ…わかってるんだよ…」

「つーか、お前がそこまで動揺するとは、勇馬。…まさか本当に済ませて来たのでは…」

「「違うぅーーーーー!!」」

 食堂で響く声。
 俺とアゲハは今、思いっきり弁解状態である。

 というのもここにいるのは確かにいつもの四人組。
 されど油断してはならない。

「「「「「「「(ピクピク、ピクピク)」」」」」」」

 今この食堂にいる全員が耳を全力で済ませ、こっちにのめり込んでいる状態だからだ。
 ついでに言っておけばその中には北村はいない。
 できればあいつの耳には届かないことを祈る。
 じゃないと俺、死にそうだし。

 確かにここはアゲハと息を合わせて本当に潔白だということを表さねばならない。
 だがしかし! だ!

「で、なんであんな感じに縛られてたんだ? ちゃんと説明できるよな? 勇馬?」

 この質問には答えられん!
 俺の大事なプライドがバッキンバッキンしちゃうから!

 というわけでFPに任せて全力ダァッシーー

 ガシッ!

「逃がさねぇぞ?」

 園田が「テメェ一人だけ抜け駆けとか許さん」と顔に書かれている勢いで俺に迫る。
 ついでに俺の胸ぐらを掴んで逃がさない感じに。
 …なんでこんな時だけ非戦闘員じゃありえないようなステータスを手に入れちゃってんだか…。

「じゃ、勇馬くんが答えたくなさそうだから私が説明するね♩」

「ここは黙っておくのが得策では?」

「実は勇馬くんさー」

「無視は止めて貰えません!!?」

「自分が戦えないってことにコンプレックスがあるらしくてー」

「ワーワーワー!! 聞こえない聞こえない!!」

 どうにかみんなの耳に届きませんようにーー!!

「「「「「ほうほう」」」」」

「聞こえてたーー!!!」

 めちゃくちゃ興味ありげに頷くクラスメイト。
 止めろ!
 聞くなー!!

「それでね。昨日あたり拗ねちゃったみたいでー」

「チェストーーー!!」

「捉えて!」

「「ラジャー!!」」

 再びグルグル巻きに逆戻り!
 だから蓮も園田もどっちも非戦闘員でしょうが!?
 なんでそんな俺を押さえつけるような力があるのかね!!?

 そうして抵抗もできぬまま数分後。

「…もう殺してください」

「可愛いとこあんなー。うちの参謀」

「ていうかブラック毎日こなしてるから逆に一番大変な位置にいると思うんだけど…」

「これから後、これゆすれるネタだな」

「ごっつぁんです!」

「黙れお前らー!! 帰れ帰れー!!」

 もう全身が熱い!
 マジでもう部屋に帰って布団うずくまって寝たい!

 だが上にのしかかる蓮と園田がそれを許さない。

 二人ともちょっと照れた様子でこちらを見ていた。

「なんというかー」

「あれだな。日頃褒めない分、そんなに裏では褒められてたのかと思うと気恥ずかしい部分があるな」

「それだよねー」

「うっせー!! 帰れ帰れー!!」

 三人とも照れて火照ってるけどこっちは業火で火炙りにされたような気分だからな!
 なんかもう涙出て来たからな!

 ちなみに三人の後ろに控える奴らがなんか前屈みになっていた。
 何やってんの? アイツら?

「それにしてもやっぱり勇馬は責任感が重いというか…ガチヒロインと言うか…」

「うん。勇馬君はやっぱり自分一人で解決しようとするし、勇馬さんガチヒロインだしね」

「そうなんだよね。勇馬くんガチヒロインなんだよねー」

「男じゃ! 俺は!!」

 なんかもう言葉のバリエーションが無くなってきた…
 もう脳内辞典の文字数が少なすぎる。
 恥かし死しそう。

 すると園田と蓮は俺の肩をポンとして一言。

「ともかくお前はヒロインなんだから他人に頼るぐらいはしろ」

「本当に。勇馬君はヒロインなんだからもうちょっとおねだり上手になろうよ」

「それだよ! 勇馬くん可愛くねだってみて!」

「なんかもうお前ら黙れー!!!」

 後半からただただ弄ってるだけじゃねーか!!
 もういい俺帰るー!!

 縄を抜け、俺は部屋にダッシュする!

 何故だろう。
 涙が溢れてる。
 …多分感動には縁遠い恥かしさからのものだろうが…

 ともかく俺はダッシュした!

 逃げるんだよー!!
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