異世界は呪いと共に!

もるひね

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Phase3 真の力の目覚め的な何か!

食堂へようこそ!①

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「あんなこと言っちゃいましたけど……俺、勝てますかね?」

 喧騒溢れる食堂にて、隣に座るウィーザに問う。

「もちろん、勝てると思うであります。勝ってもらわなければ困るであります」
「困るって……」
「あのすかし小僧をボコボコにするであります。団員たちの目の前で、プライドをへし折ってやるであります」

 物騒な事を言いながら、荒々しい動作で配膳された料理を口に運ぶ。
 オニキスの話題となると、彼女は豹変する。深い確執があるようだ。

「ウィーザさん、何か恨みでも?」
「そんなもの無いであります。ただ、あれのことが気に入らないだけであります」

 あれ、というのはオニキスのことで間違いない。
 気に入らない、ときたか……母性溢れるウィーザでさえも受け入れられない程の存在。

「班を組めば色恋沙汰、街を歩けば色恋沙汰、任務に出向けば色恋沙汰。行く先々で数多の現地妻を拵えており、ともに歩ているだけで石を投げられるのであります。同じ班に所属していた頃は、生きた心地がしなかったであります」

 フォークをグサッと肉に突き立て、忌々し気に吐き捨てる。

「恨んでるじゃないですか……」
「恨んでなどいないであります……」

 絶対に恨んでる。
 座った瞳には、感情が無い。
 色恋沙汰か……今の俺には無縁だな、周りには凶暴な獣ばかり。由梨花は暴力ばかり振るうし、グラナには刺されるし、ヴァルターの妹には絞め堕とされるし。ウィーザとは少しばかり仲良くなったが、あの日の確執を忘れられない。今も優し気に接してくれるのは、仲間であり大人だから。
 あの女の子となら、何も気にせず接することが出来るのに。

「ていうか、同じ班だったんですか? ウィーザさんから見て、あれの実力とかはどうでした?」
「申し上げた通り、あれは天才であります。任務で怪我を負った姿を見たことは、一度も無いであります」
「一度も……?」
「一度も、であります」

 そう言って、重い溜め息を一つ。
 なんだそれは……俺が勝てる相手なのか。体に走る震えを堪え、気になった点を訪ねる。

「任務って、静謐の箱庭でのことですよね」
「確かに、要塞での監視や防衛、敵の撃滅が主な仕事であります。しかしそれだけでは無いであります、重要施設の警備や要人の護衛、パトロールなどの任が与えられる場合もあるであります」
「え、本当ですか? 知らなかった」
「初日に話さなかったでありますか? まあ、色々と忙しかったでありますから、忘れるのも仕方ないであります」

 呆気にした表情で、ジロリと睨まれる。オニキスへの恨みが込められた瞳。
 色々……そうだ、色々あった。いきなり敵が進行するし、過去の友人と再会するし、別れなければならなくなるし、情けない姿をこの女性に見せてしまうし……色々ありすぎた。

 結局、自分が何をするかが分かればそれで良い。それが彼女を守ることに繋がっていると、信じているから。
 ──目を見れば分かるよ、本当は誰にも、何にも、これっぽっちも関心が無いってことが!!
 そんなことはない、と強く念じる。
 命を懸けられるほど、大事なものを見つけたのだと。

「警備に訪れた村や町で、数多もの恋人を拵えるのでありますよ、あれは。モンスターを切り裂き、颯爽と場を去る姿に見惚れたのでありましょうね。しかしその感情は一方的なもので、あれは全く関心を向けないであります。激しいアプローチにも耳を貸さず、その行動は気が動転した故のものだと決めつけるであります。女性たちは哀れでありますね、鈍感なあれに心を射止められてしまって。挙句の果てには私が彼女だと思われて、石を投げられるのでありますよ。私がいなければいいのに、と口々に言いながら」

 感情の無い声音で愚痴を綴る。
 肉には幾度もフォークが突き立てられ、立派な蜂の巣を形成していた。
 伝わるのは、嫉妬ではなく恨み──怖い、この人怖い。大人しい彼女が見せた、内に秘めた本性。いや、大人しくなど無いか。心が広い彼女でも、許せないものがあるのだ。

「闇討ちでもしようかと、何度思ったことでありましょうか。しかし、不意を突いての攻撃も完璧に躱すのであります。空気の流れでも読めるのでありましょうか、流石は天才であります。まあ、そんなことをすれば団に居場所がなくなるであります、あれを不快に思っている団員はそれなりにおりますが。ミズキ殿、これはまたとない機会でありますよ」
「は、はい……?」

 不意に名を呼ばれ、裏返った声で返事をしてしまう。
 食事の手を止めて顔を向けると、妖しく笑うウィーザの顔があった。

「必ずボコボコにするであります」

 あのチビに鉄槌を下せ──怨念の込められた厳とした声で、きっぱり言い切った。

「はあ……頑張ります。でも、あれって天才なんですよね?」
「剣裁きは達人級ではありますが、天炎者だからこその戦術を用いればボコボコに出来るであります」
「どんな……?」
「ユリカ様の言葉を借りると……えぇっと、何でありましたか。ニクヲキラセテホネヲ……ホネヲタベル?」
「肉を切らせて骨を絶つ?」
「そんなんであります」

 由梨花は日本の文化を広める癖でもあるのだろうか。ティアには四字熟語を教え、ウィーザには諺、更には和食を用意したりと、文化が浸食してきている。
 ふと、グラナも諺を口にしたことを思い出した。“扉は開いているか閉まっているかのどちらかだ”意味は、中途半端は許されない。後日由梨花に聞くと、フランスの諺だと教えられた。由梨花の知識はどれほどのものか興味もあるが、即刻石を積まれる拷問が開始されたので興味は霧散した。
 皆、元の世界に帰りたいと思っているのだろうか。自国の文化を持ち出すのは、自分という存在を確かな物とする為の行為。過去の生活を、どれだけ悲惨なものであったとしても、忘れたくなくて。

 自ら死を選んだことを、後悔しているのだろうか──思考は、甘い香りに遮られた。

「ヤマシロ坊ちゃん、食後のデザートを……ってあれ、まだ食べてたみたいッスね」

 窓際の席に座っている俺たちの元に、盆上にガラスの容器を載せた炊事係が近づいてくる。

「へ……? デザートって?」
「ユリカお嬢に提案されてた試作品ッス。って、当の本人がいないじゃないッスか……まあいいッス、こちらをどうぞッス」

 頬がこけたその男は、まるでいつものことのように動じず仕事をこなす。卓の上に丁寧に置かれたのは、汁気の無い赤茶色の液体に、白い玉と果物が散りばめられた──何だコレは、少なくともデザートには見えない。

「ウィーザ姉もどうぞッス」
「ありがとうであります、コルト……って、何でありますかコレは?」

 作戦会議を中断されたウィーザは苦い顔。それを気にも留めない様子で、コルトと呼ばれた青年は配膳を続ける。穴だらけになったステーキを視界に入れたらしく、優し気な顔が若干歪むが、すぐに平静を浮かべた。どうやらこれも、いつものことのようだった。

「ゼンザイ? とかお嬢は言ってたッス」
「ユリカ様の地で生まれた料理、でありますか?」

 ゼンザイ……もしかして善哉?
 茶色く見えるのは小豆か? あのワガママ姫、日本食を流行らせようとしているな。

「豆を砂糖で煮て、小麦粉を丸めたものを浮かべたんッス。砂糖は高価ッスから、えらい金が掛かったんッスけどね。恩もあるし、士気が高まるならってことで予算が下りたッス」

 そういえば、この世界で甘味を口にすることは初めてだ。村では満足な給金が与えられず、手にしたとしても何も無い。街で買い物をしようとすれば金を奪われ、何も買えず。踏んだり蹴ったり。
 だが苛立ちや怒りは鼻腔を擽る香りに掻き消される。これは果物の香りか、それとも砂糖の香りか。過酷な戦争に挑む戦士たちに与えられる、束の間の安らぎ。

「ミズキ殿も同じでありますよね?」
「あ……はい、そう、です」

 ウィーザに問われ、香りだけで飛びそうになった意識を取り戻す。
 そうだ、この女性は知っている。俺が由梨花と同じ地で生まれ、そしてここへ堕とされたことを。

「これにも、食べるサホウというのがあるのでありますか? オハシを使うのは慣れないであります」

 オニキスへの恨みはどこへやら、道の料理を前にウキウキ顔。
 由梨花お前、彼女に箸を使わせたりしたのか。腹心であるヴァルターも同様だろう、これは文化による侵略だぞ。

「いえ、特には……スプーンで食べていいと思いますよ」

 確信の無い知識に従って助言する。大きな餅も入れらていないし、それで構わないだろう。第一、箸ではなくスプーンが添えられたのだから、コルトたち厨房係には十分な知識が与えられている筈。

「その通りッス、食後のデザートを楽しんでほしいッス。でも坊ちゃんには今すぐ食べて欲しいッス、是非とも感想を聞きたいッス」
「へ……?」

 甘味は最後に、だが催促される。
 料理はほぼ胃に収めているので構わないが。

「お嬢に言われたんッスよ、坊ちゃんが満足するものを作れって。こっちとしては完璧だと思うんッスけど、元の味を再現できているか判断に困るんッスよね」
「由梨花が……? なぜに……?」
「あれ? 坊ちゃんはお嬢と同じ国の出身ッスよね?」
「そう……ですけど」
「有名なものだって聞いたッス。そうッスよね?」
「まあ……」

 この青年にも色々と知られている? 個人情報駄々洩れじゃないか。だからといって困ることはないし、失うものも無いので構わないが。
 しかし満足するもの、か。参考資料もなく作り上げたこの料理、果たしてどのような味なのか。善哉を食べたという記憶は無いが、多分、甘いものだという知識はある。

「まったく、無茶を言ってくれるっスよね。人の好みなんてジュウニントイロだって、いつか愚痴っていたクセにッスよ。そこがまた可愛らしいんッスけどね」
「はあ……」

 十人十色? コルトたちにまで侵略の手を進めているのか、あのワガママ姫は。
 まあ確かに、人の好みは様々。甘いものが好きな人がいれば辛い物が好きな人もいる、その逆もしかり。自分はどちらだろう、これまで甘味を嗜んでいた記憶は無い。

「あ、今の本人に言っちゃダメっスよ? お嬢に可愛いって言うと鉄拳が飛んでくるッス、容赦なく顔面を殴られるッス」
「えぇ……」

 左手に盆を載せたまま、右手で“しー”の恰好をとる。
 あの女、同じ天炎者どころか団員にすら手を出すのか。

「照れ隠しだってみんな分かってるッスから、自分から殴られにいくヤツもいるッス」

 変態というのはこの世界にも存在するらしい。

「まま、細かいことは置いておいて。お嬢がいないうちに食べて欲しいッス、口に合わなかったらすぐに作り直すッスから」
「はあ、じゃあ……」
「では! 私は先に頂くでありま──」
「ちょっと黙ってて欲しいッス」
「す──はい、静かに頂くであります」

 コルトに諫められたウィーザは、しょぼくれた顔でスプーンを握る。しかしすぐデザートに手を伸ばさず、とある一点を凝視する。善哉でも、食べかけの料理でもなく、別のもの。

「な、なんですか……?」

 善哉が収められたグラスを手に取ると、それが熱い視線に貫かれた。白玉粉ではなく小麦粉でつくられた団子を掬う手が止まる。

「いえ、やはりミズキ殿が先に食べるべきかと思っただけであります」
「そんなこと気にしなくてもいいですよ」
「いえいえ、お先にどうぞであります」
「でも……」
「お早く」
「はい……」

 強い声で主張され、渋々ながら口へ運ぶ。
 途端に広がる小豆の香りと、煮込んだ団子のもっちり食感。多少は歯に粘り付くが、それでも確かな弾力を持ち、心地よい歯ごたえをもたらす。

「──ッ!?」

 走る電撃。
 何も、感動のあまり全身が震えたワケではない。
 故郷の味に涙を浮かべたワケではない。
 団子の強力な弾力により、歯が抜けたワケではない。

「どうしたでありますか?」
「だ、大丈夫ッスか?」

 二人が心配そうな顔で覗き込む。
 ウィーザは団子を喉にでも詰まらせたかと心配そうに。コルトはあどけなさを残したその顔に、若干の不安を浮かべながら。どうしよう。

「お……美味しい、です」

 無理矢理な笑顔をつくって、言葉を紡ぐ。
 多分、酷く歪なものだったろう。

「びっくりしたであります……しかし、美味しいというのは本当でありますか? では私も早速──」
「いやあ良かったッス、お口に合うようで。これならお嬢も喜んでくれるっス──」
「ぶ──!」
「うへっ!?」

 やはりというか……そうだよな、それが正しい反応だよな、というか。
 ウィーザは善哉を口に入れた途端、茶色いそれを吐き出してしまった。対面に座らなくて良かったな、と思いながら、掃除の為に卓の端にあるタオルを手に取る。

「何でありますか、不思議な味ではありますが、そんなことより!」

 ぺっぺと行儀悪く吐きながら、感想を述べる。
 小豆を口に入れたことも初であろう彼女を襲ったものの正体。

「甘すぎであります!!」

 まあ、そうなるな。

「まじッスか? お嬢が言うには、これくらいが丁度良いって言ってたっス」
「高価な砂糖を無駄遣いしすぎであります!」
「いやでも……坊ちゃんは美味しいって言ったッスから、きっとこういうものなんッスよ。俺たちには分からない良さがあるんッス」
「そう……でありますかね。初めての味であった為、つい動揺してしまったであります。申し訳ないであります、ミズキ殿」

 しゅんとなって目を伏せてしまう。
 違う、違うんですウィザードさん。俺も同じ気分なんです、我慢してるだけなんです。
 俺達を襲ったのは、歯を溶かし、糖尿病をもたらすのではないかと疑うほどの強烈な甘さ。吐き出そうかとも一瞬思考したが、コルトの困惑顔と、提案したであろうワガママ姫の顔を思うと、好意を無下にするようで躊躇われた。
 甘いものは多分苦手ではないし、むしろ好物だと思う。それでも顔に出てしまうほどの甘い苦痛……正直、すぐにでも水で口をすすぎたい。

「い、いえ……」

 どうする、どうすればいい。
 はっきり言うべきか、これは失敗作だと。
 いやしかし、俺の味覚が間違っている可能性も捨てきれない。
 ウィーザは未知の味に驚愕しただけだ。由梨花も口にしているようだし、これが丁度良い甘さなのだ。きっと俺の味覚が、久々の甘未に混乱しているだけだ。そう信じて、新たな団子を掬いあげる。

「やっぱ……甘ったるい……」

 聞こえないようにひとりごちる。
 歯の隙間にささる小豆の皮も、粘度の高い団子の食感も悪くはない。
 だが、甘い。甘すぎる。

「坊ちゃんには高評価だったんッスから、これで間違いないッス。いやあ良かったッス、もう味見をしないで良さそうッス。あまりにも甘すぎるんッスよね」

 ヘラヘラ笑いながら、コルトは言う。
 やっぱりそうですよね、俺がおかしいんじゃありませんよね。
 おかしいのは、あのワガママ姫の味覚だ。

「お嬢にも食べてもらいたかったんッスけど、いないなら仕方ないッスね。いつごろ来るんッスか?」
「それが、休憩に行ったっきり帰ってこないであります。非番ではありますが、怠けているよりもマシだろうと、ユリカ様自ら提案したというのにであります」
「へえ。まま、あの年頃は難しいッスからねぇ……ウィーザ姉も昔は随分と……」
「何でありますか?」
「何でもないッス」

 この甘さをどう表現すればよいか考えていると、笑いを堪えるように二人は囁き合った。まるで本当の兄妹のような自然さであり、酷評を発して会話を打ち切るのを躊躇った。
 家族だと、誰かが言った。
 俺も、入れるかな──口を開くと、不愉快な済まし声が発せられた。

「ふっ、随分と余裕だな?」

 振り向いた先には、打倒するべき存在。

「これからオレに倒されるというのに」

 誰もいないテーブルに体を預け、短い足を組み、手で頭を抑える、カッコつけたポーズで。

「精々楽しむが良い……メインは敗北の味だ」

 キザったらしい言葉を吐いて。

「ではな……」

 何も言う間も無く、オニキスは踵を返す。
 空になった食器を載せた盆を手に取り、返却コーナーの方向へ体を向けた。目的は何だったんだ?

「あ、待って欲しいッス、オニキス坊ちゃん。ついでなんで、これ食べてみないッスか?」

 呼び止めたのはコルトだ。不味いと分かっていながら進めるのか? いや、未知の味に触れてもらいたいだけなのだろう。決して由梨花とヴァルターの分を処分するのが面倒だからではない。

「ふっ、何だコレは? 毒でも盛って不戦勝にするつもりか?」

 律儀に歩を止めて戻ってくる。口では不満を述べるものの、瞳には感心の光が灯っている。

「ゼンザイって呼ばれるデザートッス。ユリカお嬢の国で有名なものらしいッスよ」
「ユリカの? ほう……」

 聞いた途端、一段と輝いた気がした。

「やれやれ、そこまで言うなら仕方ない。毒味は済ませてあるな?」
「厨房には毒なんて無いッス」
「ふっ、そこのサルがいつ入れたかも分からんだろ。戦争は既に始まっているのだから」

 嘲笑を浮かべて卑下する。
 一々うぜーなコイツ。

「ミズキ殿はそんなことしないであります。それ食べてさっさと帰れであります」
「やれやれ、ウィーザには嫌われたな。オレが何をしたって言うんだ?」
「あっちいけ、であります。ぺっぺっ」
「うわあっ!? や、やめろ!」

 いいですよウィーザさん、もっとやれ。床は俺が綺麗に掃除しますんで。

「何をしてるのウィーザ!」
「オニキス様を汚すなんて、許しませんわ!」

 黄色い声が響き渡る。
 いつの間にやら、オニキスを守るように二人の女性が立ちはだかった。

「私がオニキスを守るんだから!」
「それはあたくしの役目ですわ!」
「何!?」
「何ですって!?」

 騒がしい……いやしかし、楽園がそこにあった。
 四つの果実に押しつぶされるという、秘密の楽園。

「や、やめないか! むぐっ……息……できな……」

 もみくちゃにされる黒い物体。
 若干の羨ましさはある。だが……

「添い遂げるのは私! 毎日朝食を用意して欲しいって頼まれたんだから!」
「いいえあたくしですわ! 手の甲にキスされたんですもの!」
「何!?」
「何ですって!?」

 近づけば斬られる、と思考するほどの金切り声。それを耳元で聞かされるとは、ハーレムの主人公というのは大変だな。いくら爆乳を押し付けられるとはいえ、こんな奇声を……爆乳……いいなあ……ティアの何倍あるんだろ……由梨花が霞むほどの大きさ……いいなあ……。

「むっ……ぐうっ……!」
「んっ……!」
「やんっ……!」
「だ、ダメだよオニキス、こんな所で……」
「優しくしてくれるのなら……あたくしは構いませんわ」

 暴れるオニキスを、顔を火照らせた二人が優しく包む。
 いいなあ……いやいや冷静に慣れ。目のやり場にも困るが、いい加減鬱陶しくなってきた。

「むぐっ……ぷはあっ! やめないか君たち!」
「きゃんっ!」
「あぁんっ!」

 耳たぶまで真っ赤なオニキスが顔を出す。鼻の下は伸びており、満更でもない様子だ。

「オレは挑戦を受けたんだ……君たちに構ってる暇は無い」
「う、うん……」
「はいぃ……」

 二人はトロンとした顔で応答する。それを俺、ウィーザ、コルトは冷めた顔で見ていた、と思う。惚気なら他所でやって欲しい、こんな大衆が見る中でするな。食事中の団員に迷惑だ。

「では頂こう……何と言ったかな?」
「ゼンザイって呼んでるッス」

 コルトから渡されたグラスを左手に取り、スプーンを右手に大仰な動作で構える。

「ゼンザイ……くくくっ、オレの血肉となれ!」

 団子、果物、小豆を絶妙な配分で掬いあげ、一息に口へ放り込む。
 刹那。
 凍り付いた顔を浮かべたかと思うと、ぷるぷると体が震え出した。

「ま……ず……い……!」

 残響は闇へと。
 感想を一言だけ述べると、オニキスは動かなくなった。

「オニキス―!」
「オニキス様―!」

 目を覚ました女性二人組に、ゆっさゆっさと揺らされる。四つの果実に包まれながら。

「なんだコレ……」
「不愉快であります」
「食堂では静かにして欲しいッスねえ」

 本当に、何だコレ。
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