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西乃真 るう

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10.体力測定

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──垂直跳び58センチ

高校にも体力測定というものがある。
懸垂に反復横跳び、運動は得意でもないが不得意でもない。
ごくごく平凡、ザ・フツーの僕だ。それでも授業ではなくみんなとワイワイ体を動かすのは楽しい。

ダンス得意だというぐっちーは身体が柔らかく前屈では60cm の記録を出した。子供の頃からバレエをしていたという女子に勝ったと喜んでいた。

そしてメガネで委員長の森がまさかのパワー系で握力62kgの記録を出していた。
「りんご潰せるじゃんプロレスラーじゃん、俺もう絶対お前と握手しないからな」
ぐっちーが震える。
「そうか、握手に代わるものを探ねば」
メガネを押し上げる森を無視して、ぐっちーの視線は50m走の準備をしている永准に向けられている。
「どうせ早いんだろ」
憎々しげなぐっちーの言葉どおり、スタートで飛び出した永准はそのまま風のようにゴールまで駆け抜けた。女子の歓声が聞こえる。
残像はないのに、走り去った風が見えた。

永准は何と言うか全部がすごかった。帰宅部のくせにハンドボール投げでは野球部並みにボールを投げるし、上体反らしでは足を押さえていた俺がびっくりするぐらい立ち上がった。
「上体反らしでもかっこいい」という女子の声が聞こえた。

ぐっちーは「チンアナゴかよ」と悪態をつきながらも永准より記録を出したのに「かっこいい」の声が掛からなかった。「やってらんねぇ」とやさぐれている背中に森が低い声で「かっこいい」と声援を送っていた。クラスメートに手厚い学級委員長だ。

「気持ちわるっ」
僕の記録用紙を見ていたぐっちーが声を上げた。「なんだ?」と森も覗き込む。
記録用紙の左の欄に自分の記録を記入する。用紙の右側には高校1年生の全国平均が書かれていて、自分の記録と全国の平均が一目でわかるようになっている。
僕の記録は、その右側と左側に書かれている数字が全部同じなのだ。

「すべてが同じではないか」
「狙ってもできねぇよ、どういうことだよ」
僕だって狙ってない。でも「やっぱりな」とも思った。
前の体力測定っのとき、中学生のときだろうか。そのときも全国平均の記録と同じだった。

「こんなことがありえるのか」
森が眉間にシワを寄せている。
「ただの……平均的な人間ってことだよ」
そう、可もなく不可もない。ごくごく普通の「ザ・平均」の人間なんだ。毒にも薬にもならない、面白みのない人間が僕なのだ。
「究極に美しい顔とは完全なる平均の顔だというな」
「へー、そうなのか」
と、ぐっちーが探るように顔を覗き込んでくる。

そんなわけあるか。
僕は、残像が見える以外は平凡を絵に書いたような人間だ。
身長こそ平均より高いが、体型は太ってもないし痩せてもない。大きくも小さくもない目、高くも低くもない鼻、大きくも小さくもない口。何の特徴もないのが僕だ。
グッチーはまだじろじろとそんな僕の顔を見て叫んだ。
「なるほどな!」

そのとき、「何の話してるんだ」と永准が戻ってきた。
「一真の顔が美しいって話だよ」
「えっ」
僕と永准の声が重なった。
永准が驚いている。僕も驚いた。
体力測定の記録と同じ「ザ・平均」なことは自分が一番わかってる。
「そんなわかりきったこと」
永准が呟いた。
本当そうだよ、僕の平凡なんてわかりきったことだ。
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