3つの言葉の物語

夕凪夜

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ポスター 写真 アイス

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    夏、僕の部屋。
    体育祭のポスター制作の係になった僕は、色の配色が決まり、ついに色を塗ろうとしていた。
    ガチャ
「アイス買ってきたぞー。やっぱり外あっちいな」
アイスが入っているであろう袋を片手に、颯は部屋へと入ってきた。
「俺がガリガリ君で、お前はスーパーカップのバニラな」
「サンキュ、ありがと。ちょうど一段落したところだから、食べるか」
「おう!」
    僕はペンを置いて、颯からアイスを受け取った。カップの周りに付着した水滴が足に垂れるが気にしない。冷たくて心地いいからだ。
「金、後で返すよ」
「いいんだよこれぐらい。働いた分のご褒美だぜ、涼」
颯は歯を出してニカッと笑って見せた。
    颯とは幼稚園時代からの幼なじみで、親友だ。家が隣同士で暇さえあればお互いの家に上がり込む。それが許されるほど親同士も仲がいい。
「にしてもお前ほんと押しに弱いよなぁ。ポスター作りとか、女子に頼めよってな」
「で、でも、絵を描くのは好きだからさ。楽しいよ?」
「他にもお前、文化祭のカフェの構造とか任されてたじゃん」
「それは、他にやってくれる人がいないって明石さんが…」
「そういうのが押しに弱いって言うんです~」
「は、はーい」
    正直、そういうことをするのは楽しいから苦ではない。将来も、デザインの仕事などに就きたいと考えている。颯もそれは知っているのだが、僕が昔から頼み事を断れないことを知っていて心配してくれているのだ。
「明石も俺に相談しないでなんで勝手に頼むかね…」
    明石さんと颯は僕のクラスの体育祭、文化祭の実行委員だ。女子と男子それぞれから選ばなければならず、2人とも推薦で決まった。2人とも、クラスのみんなの信頼が高いからだ。
「そういえば、明日も準備しなきゃなんだっけ」
「そう。三年生は受験とかの関係で、二年生が主体だからな。あー、めんどい」
    僕達の学校は夏休み明けすぐに体育祭と文化祭がやってくる。そのため、夏休みも作業をしに学校へ行かなきゃいけなかったりする。
    「めんどい」と言いつつもちゃんと仕事をこなすのが颯。そんなやつだから信頼度が高いんだろうなといつも思う。
「元々学校行こうと思ってたし、手伝おうか?」
「なにしに行くんだ?」
「カフェの構造はこれでいいか矢戸さんと打ち合わせ。その後写真部の展示のために写真撮るの手伝って欲しいって矢戸さんから頼まれてて」
「お前なぁ…。こっちは大丈夫、そっちに集中しとけ」
    颯はまだ頼まれてたのかと呆れたらしい。もう何も言えねえって顔してる。
「あ、食べ終わっちゃった」
    無意識にバニラアイスを口に運んでいた僕はスプーンとカップのそこが擦れる音を聞いて、バニラアイスがなくなったことに気づいた。
「もう一個ぐらいいる?俺買いに行こうかなと思ってるんだけど」
颯はアイスの棒をゴミ箱に捨て、再び財布を持ち部屋を出ようとする。
「僕も行くよ」
僕は引き出しから財布を取りだし、颯に続いて部屋を出た。
    さすが真夏。家を出た瞬間体を取り巻いていた冷たい空気はすぐに逃げていった。
「早く店に行こうぜ」
颯はそう言うと急に走り出す。
「あっ、ちょっと待ってよ!」

夏、僕達の夏。
きっと来年も変わらず、こんな日を送るのだろう。
そうなればいいなと、僕は颯の背中を追いかけた。
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