もう恋なんてしない

竹柏凪紗

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第600話 見送り

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「見送りに来てくれるとか聞いてないんだけど」
そう言いながら涙ぐんだミヤビを見て絢世は思わず胸がぎゅっと苦しくなって戸惑う。

無人の誰もいない駅。
電車が来るまでにはもう少し時間があっていろんなことを話しておきたいはずなのに言葉が出てこない。

友己から教えてもらったこの場所に到着するまでの間、千隼が運転する車の助手席であれだけ何を話すか考えてきたはずなのに。

困った様子の絢世を見て口を開いたのはミヤビ。

「そういやさぁ、私、もう山井ミヤビじゃないんだよ。知ってる?」
「…うん。笹倉雅美ささくらみやびになったんだっけ?」

「そうそう。佐原社長が、私が養護施設に入る前の親について調べてくれてさ。親のネグレクトとか虐待とかがあるから氏・名の変更が“やむを得ない事由”に該当するんじゃないかって弁護士も紹介してくれてね」

「うんうん」

「もし起訴されてたらアウトの可能性も高かったみたいけど、リンゴジュースへの薬物混入について証拠不十分で釈放されたお陰で前科を隠すためのネームロンダリングも疑われなかったからかな?氏・名の変更の許可、すんなり裁判所から下りたんだよね」

「よかったね」

「うん。本人が依頼しないと戸籍や住民票なんかを取得できないよう手続きも済ませたし。まあ、元締めのこともあるからしばらくは住民票も移さず生活するんだけど」

「それも佐原社長のアドバイス?」

「そうそう。でもそれだと生活が困るだろうからって住み込みで働ける会社も紹介してくれたんだよね。あの人、私に刺されそうになったのにやたら親切でさ」

…まぁ、俺には相変わらず意地悪だけど。

絢世は苦笑いしながら続けた。

「よかったね。元締めたちも足がつくような派手な動きはなるべく抑えたいだろうし、佐原社長の知り合いならある程度は事情も知っててミヤビのことを助けてくれるだろうし」

そう言った絢世の手をミヤビが握って言う。

「絢世はやっぱりやさしい。…このまま強引に連れて行きたいな」
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