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ダンジョン探索
邂逅、そして戦闘
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俺は怒りに任せ、上空に広がる魔粒子を彼らへと振り落とした。
地上は一気に真っ黒で埋め尽くされ、驚きと戸惑いの声が聞こえてくる。
彼らからしてみれば突然視界が真っ暗になったのだ。
慌てふためいて当然だろう。
だが怒りは静まる事無く燃え続けている。
それでも、心のどこかで冷静に状況を判断する自分も存在した。
そのため俺は真っ黒な魔粒子に飲み込まれ身動きできない彼らを見ても油断することは無い。
「…シね!!」
俺はそのまま魔粒子を、彼らの頭の中へ唸るようにして流し込んだ。
突然の事で反応できなかったのか、うめき声を上げる間もなく想像以上に抵抗なく、簡単に体内に侵入できた。
だが、当然これで決着がつく筈は無い。
「ぐぅぅっ。」
玉座の俺にもまた、強い衝撃が突然襲いかかり、彼らの中への流入を緩めてしまう。
彼らは相談など無く瞬時にまとわりつく魔粒子を払おうと、それぞれが即時に自分を中心に魔法や弓矢を放っていたのだ。
風の刃や魔力を纏った弓矢、それに可視化出来るほどの濃密なただの魔力の塊が、体に侵入する真っ暗闇な魔粒子ごと掻き分け払いだす。
視界が突然奪われ、何が起きたか分かっていないだろうに、直感によるものか即座に最適解の行動をしたのは流石としか言いようがない。
あまりの速い対応により、俺は十八番である脳を弄ることこそできなかった。
だがそれでも全くの無傷というわけでは無い。
「くっ、、。」「はぁ、はぁ。」「ごほっ、ごほっ」
宝箱を開けるため支援魔法をかけられていたリーダー以外は、無理矢理体内から追い出したために目や口、鼻から血が流れ出て十分深手といえる傷を負ったのだ。
「はぁはぁ。ちっ、おめーら無事か?」
「ええ、なんとかね。」
未だ彼らの周囲には魔粒子が漂っており、視界は良好では無い。
そのため、声をかけ合いお互いの無事を確認している。
(……こいつらエルフだったのか)
そんな彼らの纏っていたフードも無事では無く破けてしまいとがった長い耳に鮮やかな黄金色の髪があらわになっていた。
人間を、というか自分達以外を馬鹿にした態度が端々から感じていたが、エルフなら納得かもしれない。
(隙だらけだ!……ッち)
だが相手が人間でなかろうが正直関係ない。
消耗している彼らへと、周囲に魔粒子を操り再び襲いかかる。
だが、その魔粒子は彼らへ届く前に弓によって打ち払われた。
俺は衝撃に耐えながら状況を見回す。
「貴様等、高貴なる我々エルフが簡単に地面に伏すな。恥を知れ!」
そこには唯一無傷だった長髪で非常に容姿の整ったリーダーエルフが、顔を顰め弓を放っていたのだ。
危機に瀕したところを助けたとは言え、仲間達を見る目は酷く冷め切っており、口ぶりは不機嫌さを隠す様子は一切無い。
「耐久はそれ程無い、簡単に崩れる。さっさと起き上がって戦え」
直ぐに的確な指示を出しながら、男は弓を引く。
キリキリと極限まで引かれた魔力を纏う弓を一気に撃ち放つと、弓矢とは思えない程の轟音と共に空中で複数に分裂し、漂う魔粒子を打ち払うのだ。
「がはっ――」
俺は咄嗟に避けようと空中で拡散するように一斉に捌けた。
しかしスキルによってなのか予想外に弓が分裂したことで、避けきることが出来ず余波と共に強い衝撃が襲ってきた。
魔粒子だけで無く、砂煙も舞い上がり視界が更に悪くなる。
不味い、そう考えこの隙に俺は立て直そうとするも、既に他の敵の面々も立ち上がり、男に続くようにして攻撃を仕掛けようとしているではないか。
彼らからすれば、視界が悪かろうが仲間に当たらないよう適当に放てば、ここらに広く漂った魔粒子は簡単に狙えるただの的である。
(……しかたない)
奇襲の際にはこの状態の方が良かったが、今ではむしろ足を引っ張る要員でしか無い。
戻ったとしても状況はさして変わらないかもしれないが、今の状況よりは幾分もましだ。
窟中に漂う魔粒子を急いで集め、離れた位置、ダンジョンの入り口を背に黒人形を作り出した。
エルフ達の放った攻撃がズシリとダンジョンを揺らす。
だが真粒子を黒人形にする方が早かったようで、一切のダメージを負うこと無く避けることが出来た。
エルフの放つ攻撃で一層砂煙が濃くなり、お互い攻撃の手を止める。
両者に緊迫した空気が流れる。
だがそうしてる間にも砂煙も落ち着き、更には視界を悪くしていた原因の魔粒子もが一気に捌けたことで、随分と見通しが良い状態へと戻った。
「あぁ、やはりあの時の化け物か。我らがエルフのためせっかくの門出だというのに、全くもって忌々しい」
相手もこちらを視認したようで、黒人形の姿を見て苦虫を噛みしめたかのような顔で睨みつける姿がはっきりと見えた。
そのまま、側に寄ってきた図体のでかいエルフと一言二言交わすと、再び追撃のため弓を引く。
放たれる弓は魔力を纏い分裂して、襲いかかってくる。
それでも前とは違い、撃つ瞬間をはっきり視認し軌道が見えている。
そのため完全では無いが黒人形の着地点に穴を開けたり、形を変えたりと避けることは出来るのだ。
エルフはこちらを警戒してか、遠距離での攻撃を続ける。
俺も物量の差に近づくことが出来ず、避けに徹する。
そんな、ある程度戦況が落ち着いた時である。
「……なんで、なんで僕の索敵に引っかからなかったんだ……?」
小柄なエルフが悲壮感を漂わせ、なにやらぼそぼそと呟きだした。
突然頭上から現れ少なくない傷を負ったのだ。
状況が落ち着いた今、責任感と、ゴブリンとは比べものにならない存在感があるのに分からなかった、そんな黒人形に対する気味に悪さが湧いてきたのだろう。
「はぁ、はぁ…、だから私はこいつに索敵を任せるのを反対してたのよ!」
「っ、私だって当然反対でした!それでも最低限索敵ぐらいは出来ると思ってたんです!!」
だがその発言に対して残りの仲間のエルフも攻撃の手を止め、責め立て始めたのだ。
(ふざけるな…舐めやがって)
彼らの不仲など一切合切どうでも良い。
いかに今俺は攻めあぐね、防戦一方の形になっているとは言え、戦闘の最中に目の前でお喋りする余裕っぷりに再び怒りが湧いてくる。
だがそれでも、この機会を利用しないわけにはいかない。
(敵の前で口論?ふざけた態度、死んで後悔しろ)
俺はダンジョンの階層ヘの入り口付近に残しておいた残りの魔粒子を操る。
醜く言い争う彼らの中で一番手前にいた女のエルフへと、次は途中で緩めることの無いよう一直線に背後から襲いかかる。
当然口論に夢中の彼らは気が付いていない。
(まずは1人――――)
完全に隙を突いたことで、今度こそ十八番の脳へ侵入し、殺れると確信する。
だがその真粒子が背後からエルフの肌へとほぼ触れる直前だった。
「フンッ!」
その完全に隙を突いたと思った一撃が何者かによって防がれたのだ。
黒人形に向かい攻撃していたはずの、図体のでかいエルフが脇から飛び出しぶつかる直前の真粒子に向かって蹴りを放ったのだ。
ただの蹴りのため、俺には一切の衝撃もダメージも無い。
だがそれでも迫り来る魔粒子自体は簡単に弾き、崩された。
「おい、テメェらいい加減にしやがれ!俺も思うところは当然あるがそれは後でだ!今は目の前の敵に集中しろ!」
「っ!?助かったわ…」
「礼は良い、さっさと援護しろよ!」
だが、男は迫り来る魔粒子を追い払うだけで無かった。
仲間に援護するように言うないなや、風の魔法を推進力に黒人形へと一気に距離を詰めてくるではないか。
(バカかこいつ?近づいてくれるならこっちのものだ)
支援魔法や仲間のカバーといい、見た目の割にクレバーなのかと思ったが、やっぱり見た目通り脳筋のようだ。
距離もあり、そして絶えず狙われてるため、俺は真っ正面からでは攻め倦ねていた。だが自ら近づいてくれるらしい。
(飛んで火に入る夏の虫だな)
普通に走るよりは断然速いとは言え、捕らえられなくはない。
俺は黒人形の腕を伸ばし、鞭のようにしならせたたき落とそうとする。
(ちっ――)
だがそれを、おおよそ人間の動きとは思えない軽やかさで、四方八方に走りながら避けてくる。
(――全く、邪魔くさい)
さらにはその動きに合わせ、助けられた面々が腕のみを的確に狙い撃ち動きを阻害してくるのだ。
結局ほとんど攻撃が直撃すること無く、腕は空を切ってしまい、気づけば目の前まで接近されてしまった。
「見た事ねぇ化け物だが、所詮魔物は魔物。核となる魔石を狙えば終わりだ」
そうして迫り来る眼前でそう言うと共に、腰にくくりつけられたダガーナイフを抜き黒人形の頭部の位置へと振り下ろしたのだ。
頭部がパカリと割れる。
だがそれだけで終らず振り下ろした勢いを利用し、空中でくるりと身を反転し、素早い剣筋で胴体を切り刻んだ。
黒人形の体が崩れ落ちる。
「へっ、どんな魔物だろうと魔石の位置は大抵決まってんだよ――――――がはっ!?」
勝ちを確信した口ぶりで、崩れる黒人形を尻目に仲間の方へと振り向いた。
だが当然魔物では無いため、当然魔石なんてあるはずも無い。
そのまま俺は、真粒子を集め顔面をフルスイングする。
思いもよらぬ一撃に受け身を取ることも出来ず、男エルフは何度もバウンドし壁に激突する。
(あーうっとうしい……)
直ぐに転がる男へと向かおうとするも、やはり追撃は許されず魔法や弓が飛んでくる。
「ふむ、なるほどな。今の反応といいやはり魔力か。」
そんな一連の流れを、1人黙ってじっと見てたリーダーエルフがにやりと笑みをこぼし、呟いた。
「……魔力ですの?」
「あぁ、そうだ。大方魔力のこもった攻撃以外は通用しないのだろう、避け方が明らかに違う」
そう言いながら再び弓を引く。
「それならば時間をかけてじっくり戦えば、私たちに負ける要素は無い。あれはただの雑魚だ」
頭から血を流し、未だ起き上がれない様子の男エルフを一瞥し、更に言葉を続ける。
「はぁ、エルフという優れた存在なのにもかかわらず、あのような雑魚に良いようにされたとは。情けない、酷く業腹だ。お前達これが挽回の機会だ、魔法でも弓でもさっさと放て。」
そう言うと倒れるエルフ以外一斉に攻撃を放つ。
リーダーエルフの言葉を聞き、全員がなんだか勝ち誇った顔をし始めた。
…エルフというのは直ぐにそうやって油断をするのが好きなようだ。
『リリス、シロ準備は良いな?さぁ、地獄を見せてやれ』
俺としても時間をかけてじっくり戦うのは大歓迎だ。
むしろその方が望みですらあった。
だが、それはもういい。
予想外に早く準備はできたのだ。
◆◇◆
「……なんの音だ?」
最初に気が付いたのは小柄なエルフだった。
自分達の放つ攻撃による物以外にも何か物音が聞こえた気がした。
普段から索敵をさせられていたため、この僅かな空気の変化に気が付いたのだ。
だが自分以外は何も気が付いた様子はない。
「…気のせいか?」
「どうした、手を休めるな、、、なんだ?」
だが直ぐにこれは勘違いなどではないと思い知らされた。
背後から轟音と共に激しい地鳴りがはっきりと響いてきたからだ。
それは段々と大きくなり、明らかに近づいてきているではないか。
「……おい、何が起きてる?」
流石にこれには全員が気が付き、攻撃の手を緩める。
明らかに異常なこの状況に、全員の表情に困惑が表れる。
だが唯一、小柄なエルフだけは真っ青な顔をしているでは無いか。
「何があったの!?説明しなさい!」
何かに気が付いた様子に、仲間は直ぐに問いただす。
小柄なエルフはこれに答えるように震えた手で通路の先を指さし、震えた声で呟いた。
「魔物が、魔物が来てる。それも、あり得ない数の魔物が…大量に…」
その言葉に一瞬彼らの間に沈黙が漂う。
明らかに全員がこのエルフを下に見てるとは言え、それでもそこそこ戦闘力も認めてはいるのだ。
そのため、数が多かろうとただの魔物に対し、ここまで狼狽えるのは明らかに異常なのだ。
直ぐに全員が振り返る。
それと同時だった。
大きくなる地鳴りと共に、砂煙が舞い上がっているではないか。
黒人形の事も意識しながら、それに目を凝らす。
「ひっ!?」「ななな、なんだ!?」
その光景を目にし、全員が息を吞んだ。
そこには我先にと押し合って走る、おびただしい数の魔物がいたのだ。
それも通路全体に隙間無くびっしりとだ。
先が見えないほど伸びた魔物の大群は、エルフ達を前にしても勢いを緩めること無く、まるで雪崩のように彼らの元へなだれ込んでくるのだった。
◆◇◆
俺はその光景を見てうまくいった安堵と共に、つい笑みがこぼれる。
別に俺自身の手によって殺さなくても良い。
ただ目の前で自分の発言を後悔しながら、惨たらしく死んでくれればいいんだ。
それが今の俺の意思、ダンジョンの願いだ。
さぁ、スタンピートだ!
地上は一気に真っ黒で埋め尽くされ、驚きと戸惑いの声が聞こえてくる。
彼らからしてみれば突然視界が真っ暗になったのだ。
慌てふためいて当然だろう。
だが怒りは静まる事無く燃え続けている。
それでも、心のどこかで冷静に状況を判断する自分も存在した。
そのため俺は真っ黒な魔粒子に飲み込まれ身動きできない彼らを見ても油断することは無い。
「…シね!!」
俺はそのまま魔粒子を、彼らの頭の中へ唸るようにして流し込んだ。
突然の事で反応できなかったのか、うめき声を上げる間もなく想像以上に抵抗なく、簡単に体内に侵入できた。
だが、当然これで決着がつく筈は無い。
「ぐぅぅっ。」
玉座の俺にもまた、強い衝撃が突然襲いかかり、彼らの中への流入を緩めてしまう。
彼らは相談など無く瞬時にまとわりつく魔粒子を払おうと、それぞれが即時に自分を中心に魔法や弓矢を放っていたのだ。
風の刃や魔力を纏った弓矢、それに可視化出来るほどの濃密なただの魔力の塊が、体に侵入する真っ暗闇な魔粒子ごと掻き分け払いだす。
視界が突然奪われ、何が起きたか分かっていないだろうに、直感によるものか即座に最適解の行動をしたのは流石としか言いようがない。
あまりの速い対応により、俺は十八番である脳を弄ることこそできなかった。
だがそれでも全くの無傷というわけでは無い。
「くっ、、。」「はぁ、はぁ。」「ごほっ、ごほっ」
宝箱を開けるため支援魔法をかけられていたリーダー以外は、無理矢理体内から追い出したために目や口、鼻から血が流れ出て十分深手といえる傷を負ったのだ。
「はぁはぁ。ちっ、おめーら無事か?」
「ええ、なんとかね。」
未だ彼らの周囲には魔粒子が漂っており、視界は良好では無い。
そのため、声をかけ合いお互いの無事を確認している。
(……こいつらエルフだったのか)
そんな彼らの纏っていたフードも無事では無く破けてしまいとがった長い耳に鮮やかな黄金色の髪があらわになっていた。
人間を、というか自分達以外を馬鹿にした態度が端々から感じていたが、エルフなら納得かもしれない。
(隙だらけだ!……ッち)
だが相手が人間でなかろうが正直関係ない。
消耗している彼らへと、周囲に魔粒子を操り再び襲いかかる。
だが、その魔粒子は彼らへ届く前に弓によって打ち払われた。
俺は衝撃に耐えながら状況を見回す。
「貴様等、高貴なる我々エルフが簡単に地面に伏すな。恥を知れ!」
そこには唯一無傷だった長髪で非常に容姿の整ったリーダーエルフが、顔を顰め弓を放っていたのだ。
危機に瀕したところを助けたとは言え、仲間達を見る目は酷く冷め切っており、口ぶりは不機嫌さを隠す様子は一切無い。
「耐久はそれ程無い、簡単に崩れる。さっさと起き上がって戦え」
直ぐに的確な指示を出しながら、男は弓を引く。
キリキリと極限まで引かれた魔力を纏う弓を一気に撃ち放つと、弓矢とは思えない程の轟音と共に空中で複数に分裂し、漂う魔粒子を打ち払うのだ。
「がはっ――」
俺は咄嗟に避けようと空中で拡散するように一斉に捌けた。
しかしスキルによってなのか予想外に弓が分裂したことで、避けきることが出来ず余波と共に強い衝撃が襲ってきた。
魔粒子だけで無く、砂煙も舞い上がり視界が更に悪くなる。
不味い、そう考えこの隙に俺は立て直そうとするも、既に他の敵の面々も立ち上がり、男に続くようにして攻撃を仕掛けようとしているではないか。
彼らからすれば、視界が悪かろうが仲間に当たらないよう適当に放てば、ここらに広く漂った魔粒子は簡単に狙えるただの的である。
(……しかたない)
奇襲の際にはこの状態の方が良かったが、今ではむしろ足を引っ張る要員でしか無い。
戻ったとしても状況はさして変わらないかもしれないが、今の状況よりは幾分もましだ。
窟中に漂う魔粒子を急いで集め、離れた位置、ダンジョンの入り口を背に黒人形を作り出した。
エルフ達の放った攻撃がズシリとダンジョンを揺らす。
だが真粒子を黒人形にする方が早かったようで、一切のダメージを負うこと無く避けることが出来た。
エルフの放つ攻撃で一層砂煙が濃くなり、お互い攻撃の手を止める。
両者に緊迫した空気が流れる。
だがそうしてる間にも砂煙も落ち着き、更には視界を悪くしていた原因の魔粒子もが一気に捌けたことで、随分と見通しが良い状態へと戻った。
「あぁ、やはりあの時の化け物か。我らがエルフのためせっかくの門出だというのに、全くもって忌々しい」
相手もこちらを視認したようで、黒人形の姿を見て苦虫を噛みしめたかのような顔で睨みつける姿がはっきりと見えた。
そのまま、側に寄ってきた図体のでかいエルフと一言二言交わすと、再び追撃のため弓を引く。
放たれる弓は魔力を纏い分裂して、襲いかかってくる。
それでも前とは違い、撃つ瞬間をはっきり視認し軌道が見えている。
そのため完全では無いが黒人形の着地点に穴を開けたり、形を変えたりと避けることは出来るのだ。
エルフはこちらを警戒してか、遠距離での攻撃を続ける。
俺も物量の差に近づくことが出来ず、避けに徹する。
そんな、ある程度戦況が落ち着いた時である。
「……なんで、なんで僕の索敵に引っかからなかったんだ……?」
小柄なエルフが悲壮感を漂わせ、なにやらぼそぼそと呟きだした。
突然頭上から現れ少なくない傷を負ったのだ。
状況が落ち着いた今、責任感と、ゴブリンとは比べものにならない存在感があるのに分からなかった、そんな黒人形に対する気味に悪さが湧いてきたのだろう。
「はぁ、はぁ…、だから私はこいつに索敵を任せるのを反対してたのよ!」
「っ、私だって当然反対でした!それでも最低限索敵ぐらいは出来ると思ってたんです!!」
だがその発言に対して残りの仲間のエルフも攻撃の手を止め、責め立て始めたのだ。
(ふざけるな…舐めやがって)
彼らの不仲など一切合切どうでも良い。
いかに今俺は攻めあぐね、防戦一方の形になっているとは言え、戦闘の最中に目の前でお喋りする余裕っぷりに再び怒りが湧いてくる。
だがそれでも、この機会を利用しないわけにはいかない。
(敵の前で口論?ふざけた態度、死んで後悔しろ)
俺はダンジョンの階層ヘの入り口付近に残しておいた残りの魔粒子を操る。
醜く言い争う彼らの中で一番手前にいた女のエルフへと、次は途中で緩めることの無いよう一直線に背後から襲いかかる。
当然口論に夢中の彼らは気が付いていない。
(まずは1人――――)
完全に隙を突いたことで、今度こそ十八番の脳へ侵入し、殺れると確信する。
だがその真粒子が背後からエルフの肌へとほぼ触れる直前だった。
「フンッ!」
その完全に隙を突いたと思った一撃が何者かによって防がれたのだ。
黒人形に向かい攻撃していたはずの、図体のでかいエルフが脇から飛び出しぶつかる直前の真粒子に向かって蹴りを放ったのだ。
ただの蹴りのため、俺には一切の衝撃もダメージも無い。
だがそれでも迫り来る魔粒子自体は簡単に弾き、崩された。
「おい、テメェらいい加減にしやがれ!俺も思うところは当然あるがそれは後でだ!今は目の前の敵に集中しろ!」
「っ!?助かったわ…」
「礼は良い、さっさと援護しろよ!」
だが、男は迫り来る魔粒子を追い払うだけで無かった。
仲間に援護するように言うないなや、風の魔法を推進力に黒人形へと一気に距離を詰めてくるではないか。
(バカかこいつ?近づいてくれるならこっちのものだ)
支援魔法や仲間のカバーといい、見た目の割にクレバーなのかと思ったが、やっぱり見た目通り脳筋のようだ。
距離もあり、そして絶えず狙われてるため、俺は真っ正面からでは攻め倦ねていた。だが自ら近づいてくれるらしい。
(飛んで火に入る夏の虫だな)
普通に走るよりは断然速いとは言え、捕らえられなくはない。
俺は黒人形の腕を伸ばし、鞭のようにしならせたたき落とそうとする。
(ちっ――)
だがそれを、おおよそ人間の動きとは思えない軽やかさで、四方八方に走りながら避けてくる。
(――全く、邪魔くさい)
さらにはその動きに合わせ、助けられた面々が腕のみを的確に狙い撃ち動きを阻害してくるのだ。
結局ほとんど攻撃が直撃すること無く、腕は空を切ってしまい、気づけば目の前まで接近されてしまった。
「見た事ねぇ化け物だが、所詮魔物は魔物。核となる魔石を狙えば終わりだ」
そうして迫り来る眼前でそう言うと共に、腰にくくりつけられたダガーナイフを抜き黒人形の頭部の位置へと振り下ろしたのだ。
頭部がパカリと割れる。
だがそれだけで終らず振り下ろした勢いを利用し、空中でくるりと身を反転し、素早い剣筋で胴体を切り刻んだ。
黒人形の体が崩れ落ちる。
「へっ、どんな魔物だろうと魔石の位置は大抵決まってんだよ――――――がはっ!?」
勝ちを確信した口ぶりで、崩れる黒人形を尻目に仲間の方へと振り向いた。
だが当然魔物では無いため、当然魔石なんてあるはずも無い。
そのまま俺は、真粒子を集め顔面をフルスイングする。
思いもよらぬ一撃に受け身を取ることも出来ず、男エルフは何度もバウンドし壁に激突する。
(あーうっとうしい……)
直ぐに転がる男へと向かおうとするも、やはり追撃は許されず魔法や弓が飛んでくる。
「ふむ、なるほどな。今の反応といいやはり魔力か。」
そんな一連の流れを、1人黙ってじっと見てたリーダーエルフがにやりと笑みをこぼし、呟いた。
「……魔力ですの?」
「あぁ、そうだ。大方魔力のこもった攻撃以外は通用しないのだろう、避け方が明らかに違う」
そう言いながら再び弓を引く。
「それならば時間をかけてじっくり戦えば、私たちに負ける要素は無い。あれはただの雑魚だ」
頭から血を流し、未だ起き上がれない様子の男エルフを一瞥し、更に言葉を続ける。
「はぁ、エルフという優れた存在なのにもかかわらず、あのような雑魚に良いようにされたとは。情けない、酷く業腹だ。お前達これが挽回の機会だ、魔法でも弓でもさっさと放て。」
そう言うと倒れるエルフ以外一斉に攻撃を放つ。
リーダーエルフの言葉を聞き、全員がなんだか勝ち誇った顔をし始めた。
…エルフというのは直ぐにそうやって油断をするのが好きなようだ。
『リリス、シロ準備は良いな?さぁ、地獄を見せてやれ』
俺としても時間をかけてじっくり戦うのは大歓迎だ。
むしろその方が望みですらあった。
だが、それはもういい。
予想外に早く準備はできたのだ。
◆◇◆
「……なんの音だ?」
最初に気が付いたのは小柄なエルフだった。
自分達の放つ攻撃による物以外にも何か物音が聞こえた気がした。
普段から索敵をさせられていたため、この僅かな空気の変化に気が付いたのだ。
だが自分以外は何も気が付いた様子はない。
「…気のせいか?」
「どうした、手を休めるな、、、なんだ?」
だが直ぐにこれは勘違いなどではないと思い知らされた。
背後から轟音と共に激しい地鳴りがはっきりと響いてきたからだ。
それは段々と大きくなり、明らかに近づいてきているではないか。
「……おい、何が起きてる?」
流石にこれには全員が気が付き、攻撃の手を緩める。
明らかに異常なこの状況に、全員の表情に困惑が表れる。
だが唯一、小柄なエルフだけは真っ青な顔をしているでは無いか。
「何があったの!?説明しなさい!」
何かに気が付いた様子に、仲間は直ぐに問いただす。
小柄なエルフはこれに答えるように震えた手で通路の先を指さし、震えた声で呟いた。
「魔物が、魔物が来てる。それも、あり得ない数の魔物が…大量に…」
その言葉に一瞬彼らの間に沈黙が漂う。
明らかに全員がこのエルフを下に見てるとは言え、それでもそこそこ戦闘力も認めてはいるのだ。
そのため、数が多かろうとただの魔物に対し、ここまで狼狽えるのは明らかに異常なのだ。
直ぐに全員が振り返る。
それと同時だった。
大きくなる地鳴りと共に、砂煙が舞い上がっているではないか。
黒人形の事も意識しながら、それに目を凝らす。
「ひっ!?」「ななな、なんだ!?」
その光景を目にし、全員が息を吞んだ。
そこには我先にと押し合って走る、おびただしい数の魔物がいたのだ。
それも通路全体に隙間無くびっしりとだ。
先が見えないほど伸びた魔物の大群は、エルフ達を前にしても勢いを緩めること無く、まるで雪崩のように彼らの元へなだれ込んでくるのだった。
◆◇◆
俺はその光景を見てうまくいった安堵と共に、つい笑みがこぼれる。
別に俺自身の手によって殺さなくても良い。
ただ目の前で自分の発言を後悔しながら、惨たらしく死んでくれればいいんだ。
それが今の俺の意思、ダンジョンの願いだ。
さぁ、スタンピートだ!
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