12 / 14
下着売り場「魔法のブラ」
しおりを挟む
『寄せて上がる 魔法のブラ』
由希は真剣に、一語一句漏らさずにその文字を確認した。
『ワンサイズ大きいサイズでのご購入をお勧めします』
つまり由希のバストがBカップになるということだ。
背中や脇の無駄な肉をギュッと寄せ、理想的なラインのバストを造り出す…
とかなんとか書いてある。
まさに。
由希が長年、追い求めていたものだ。手に入れたくともついぞ叶わず、夜な夜な涙で枕を濡らす日々。そんな由希の積年の願いが成就する日がこようとは。
そして、その素晴らしい夢のアイテムが今!!
由希の目の前にさっそうと降臨している!
タグを読み上げながらブツブツ呟く由希を遠巻きに観察していた店員が、見かねて声をかけてきた。
気味の悪い客が売り場の真ん中に居座り続けたら、営業妨害だからである。
「良かったらご試着なさってみますか?」
心なしか引きつり気味の店員を見て、由希はハッとした。
店員の頭に後光が差しているではないか…!
由希は涙ぐんだ。
神は私を見捨てなかった。
《ランジェリーアドバイザー》
女性店員の胸の名札には、確かにそう記されている。
アドバイザー
アドバイザー!
なんていい響き。
「アドバイザー!!」
知らずと言葉が口に出ている。由希の頭の中で鐘が鳴り響き…
(あたしは神の手によってゴージャスに生まれ変わるんだわ!)
「あの…どうなされますか?
ご試着…」
ハッと我に返る由希。
「も、もちろん!!お願いしますっ」
白地に、薄い水色の花柄刺繍が施されたブラ。とても上品だ。その中からBカップのブラを選ぶと、ランジェリーアドバイザーの鼻っ面にむんずと突き出す。
してやったりのドヤ顔。
(素晴らしい正拳突きだ!
弟子よ!)
由希の耳に、架空の師匠の声が聞こえた気がする。
たじろぐ店員をよそに、一足先に試着室へと向かう貧乳の女。
数分後。
「う~ん…ちょっと失礼しますね。手を入れさせていただきます」
由希は驚愕した。
本格的なブラの試着というのはこうも生々しいものなのなの?
「蟻の子一匹っ!!…
通れないよう、なっ!!
立派な谷間…をっ!!」
力を込めるたび、ランジェリーアドバイザーの言葉が途切れ途切れになる。
あちこちの肉を寄せ集め、
ブラの中にねじ込む作業を終えるとランジェリーアドバイザーはにっこり微笑んで鏡を指差した。
「ほらどうです?ぴったりですよ」
鏡に映った…あたし…は…
まるで…
み、峰不二子ぉお!?
左右の乳房の間に見たこともない谷間がある。
(巨乳だわ、すごい、すごい!巨乳だわぁああ!)
「お気に召されましたか?」
「こんな…巨乳になるなんて」
実際にはAがBに変わっただけで巨乳とは言い難い。
ランジェリーアドバイザーは一抹の憐憫を感じながらも、
営業スマイルを保っている。
筋金入りのプロだ。頭が下がる。
「これなら彼氏も喜ばれますね」
沈黙。
…沈黙。
………地雷?
凍りついた空気を打破すべく…
「お洗濯の際は必ず専用のネットに入れて洗ってくださいね、ワイヤーが曲がったり生地が傷んだりせずに長持ちしますよ」
慌てて話題を変えるランジェリーアドバイザー。実にお見事。
スポーツブラばかり着用していた由希は、ブラの正しい洗濯の仕方を知らない。
メモを取る勢いで真剣に耳を傾ける由希を見て、ランジェリーアドバイザーが一枚の名刺を取り出す。
「なにかお困りのことがございましたら、遠慮なくご相談ください」
Lingerie Adviser
【ISHIKAWA KEIKO】
「ねぇ由希、少し胸おっきくなったんじゃない?」
「え?そうですか?(えへへ…さすが先輩!よくぞ気づいてくれました!)」
高校時代の先輩で、由希より二つ年上の志津花はフェロモンが服を着て歩いているようなフェロモン人。とても24才には見えない。同性から見ても華があり、道を歩けばたいていの男が振り返る。
幼児体型で童顔な由希にとって、志津花は理想の女性像を絵に描いたような存在だ。
「私は由希の、小ぶりで可愛いおっぱい大好きだけどなあ」
由希は驚きを隠せずに、
手にしていたストローを取り落とした。
「まさか…そんなことないですから。あたしは志津花さんみたいな巨乳に憧れます」
「由希はどうして巨乳になりたいの?肩が凝るし、思うよりいいものじゃないわよ?」
「巨乳になれば…彼氏ができるかなあと思って。ほら、男の人ってみんな巨乳が大好きみたいだから」
いいながら目を伏せる由希。
「由希は本当に健気で可愛いわねぇ…!大好きよ、もう」
志津花が優しい目をして由希を見つめる。
「あのね由希。胸と男は関係ないのよ。由希には絶対、胸の大きさなんか気にしない、素敵な彼氏ができる。側でずっと由希を見てきた私がいうんだから間違いなしよ。自信満々で保証しちゃうんだから」
「先輩…」
由希の瞳から迷いが消えた。
「あたし、胸では誰とも勝負にならないけど、先輩みたいに素敵な女性になれるよう、内面磨きを頑張ります!!」
単純なのが由希の長所でもあり、短所でもあり。
キラキラとした目で屈託なく自分を見つめるこの子は妹みたいだ。志津花はそんな由希を本当に愛しいと思う。
とにもかくにも、由希のハートが一回り…ワンサイズ大きく成長したことは否めない。
由希は真剣に、一語一句漏らさずにその文字を確認した。
『ワンサイズ大きいサイズでのご購入をお勧めします』
つまり由希のバストがBカップになるということだ。
背中や脇の無駄な肉をギュッと寄せ、理想的なラインのバストを造り出す…
とかなんとか書いてある。
まさに。
由希が長年、追い求めていたものだ。手に入れたくともついぞ叶わず、夜な夜な涙で枕を濡らす日々。そんな由希の積年の願いが成就する日がこようとは。
そして、その素晴らしい夢のアイテムが今!!
由希の目の前にさっそうと降臨している!
タグを読み上げながらブツブツ呟く由希を遠巻きに観察していた店員が、見かねて声をかけてきた。
気味の悪い客が売り場の真ん中に居座り続けたら、営業妨害だからである。
「良かったらご試着なさってみますか?」
心なしか引きつり気味の店員を見て、由希はハッとした。
店員の頭に後光が差しているではないか…!
由希は涙ぐんだ。
神は私を見捨てなかった。
《ランジェリーアドバイザー》
女性店員の胸の名札には、確かにそう記されている。
アドバイザー
アドバイザー!
なんていい響き。
「アドバイザー!!」
知らずと言葉が口に出ている。由希の頭の中で鐘が鳴り響き…
(あたしは神の手によってゴージャスに生まれ変わるんだわ!)
「あの…どうなされますか?
ご試着…」
ハッと我に返る由希。
「も、もちろん!!お願いしますっ」
白地に、薄い水色の花柄刺繍が施されたブラ。とても上品だ。その中からBカップのブラを選ぶと、ランジェリーアドバイザーの鼻っ面にむんずと突き出す。
してやったりのドヤ顔。
(素晴らしい正拳突きだ!
弟子よ!)
由希の耳に、架空の師匠の声が聞こえた気がする。
たじろぐ店員をよそに、一足先に試着室へと向かう貧乳の女。
数分後。
「う~ん…ちょっと失礼しますね。手を入れさせていただきます」
由希は驚愕した。
本格的なブラの試着というのはこうも生々しいものなのなの?
「蟻の子一匹っ!!…
通れないよう、なっ!!
立派な谷間…をっ!!」
力を込めるたび、ランジェリーアドバイザーの言葉が途切れ途切れになる。
あちこちの肉を寄せ集め、
ブラの中にねじ込む作業を終えるとランジェリーアドバイザーはにっこり微笑んで鏡を指差した。
「ほらどうです?ぴったりですよ」
鏡に映った…あたし…は…
まるで…
み、峰不二子ぉお!?
左右の乳房の間に見たこともない谷間がある。
(巨乳だわ、すごい、すごい!巨乳だわぁああ!)
「お気に召されましたか?」
「こんな…巨乳になるなんて」
実際にはAがBに変わっただけで巨乳とは言い難い。
ランジェリーアドバイザーは一抹の憐憫を感じながらも、
営業スマイルを保っている。
筋金入りのプロだ。頭が下がる。
「これなら彼氏も喜ばれますね」
沈黙。
…沈黙。
………地雷?
凍りついた空気を打破すべく…
「お洗濯の際は必ず専用のネットに入れて洗ってくださいね、ワイヤーが曲がったり生地が傷んだりせずに長持ちしますよ」
慌てて話題を変えるランジェリーアドバイザー。実にお見事。
スポーツブラばかり着用していた由希は、ブラの正しい洗濯の仕方を知らない。
メモを取る勢いで真剣に耳を傾ける由希を見て、ランジェリーアドバイザーが一枚の名刺を取り出す。
「なにかお困りのことがございましたら、遠慮なくご相談ください」
Lingerie Adviser
【ISHIKAWA KEIKO】
「ねぇ由希、少し胸おっきくなったんじゃない?」
「え?そうですか?(えへへ…さすが先輩!よくぞ気づいてくれました!)」
高校時代の先輩で、由希より二つ年上の志津花はフェロモンが服を着て歩いているようなフェロモン人。とても24才には見えない。同性から見ても華があり、道を歩けばたいていの男が振り返る。
幼児体型で童顔な由希にとって、志津花は理想の女性像を絵に描いたような存在だ。
「私は由希の、小ぶりで可愛いおっぱい大好きだけどなあ」
由希は驚きを隠せずに、
手にしていたストローを取り落とした。
「まさか…そんなことないですから。あたしは志津花さんみたいな巨乳に憧れます」
「由希はどうして巨乳になりたいの?肩が凝るし、思うよりいいものじゃないわよ?」
「巨乳になれば…彼氏ができるかなあと思って。ほら、男の人ってみんな巨乳が大好きみたいだから」
いいながら目を伏せる由希。
「由希は本当に健気で可愛いわねぇ…!大好きよ、もう」
志津花が優しい目をして由希を見つめる。
「あのね由希。胸と男は関係ないのよ。由希には絶対、胸の大きさなんか気にしない、素敵な彼氏ができる。側でずっと由希を見てきた私がいうんだから間違いなしよ。自信満々で保証しちゃうんだから」
「先輩…」
由希の瞳から迷いが消えた。
「あたし、胸では誰とも勝負にならないけど、先輩みたいに素敵な女性になれるよう、内面磨きを頑張ります!!」
単純なのが由希の長所でもあり、短所でもあり。
キラキラとした目で屈託なく自分を見つめるこの子は妹みたいだ。志津花はそんな由希を本当に愛しいと思う。
とにもかくにも、由希のハートが一回り…ワンサイズ大きく成長したことは否めない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる