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章魔6年。その年は魔界に大きな転機が訪れた年だった。その「知らせ」が魔術協会会長、ラウドの元に届いたのは、春の初めのうららかな日だった。
「ラウド会長!」
協会の集まりを前にして、自称・ラウドの一の側近であるレスは早口で告げた。
「現れました! 現れたんです!」
「なにがだ」
なにやら興奮冷めやらぬ様子の部下に、ラウドは冷めたように応える。
「あれです、「時空」の魔術士です!」
「そうか、ついにか」
衝撃的なことを知らされたにも関わらず、彼は落ち着いていた。「時空」の魔術士とは、250年に1度しか生まれない逸材のことである。
「これで我が方の情勢も変わる! 怨霊とブラッディストを滅ぼすことができるんですよ!」
興奮するレスを、軽く視線でいなす。
「いくつだ、その子は」
「時空」の魔術士だとわかるのは、たいていその者が幼い時だった。額に紋様が現れ始め、2、3歳ほどになるとくっきりとそれだとわかるようになる。
「2歳と聞いていますが」
「問題ない。すぐに全寮制の学校へ入れろ。どうせ孤児だろ?」
レスは頷く。魔術士はみな短命。30まで生きられればいいほうだ。
「本当に孤児なんです。訳ありの」
「訳あり?」
眉をひそめたラウドに、レスは続ける。
「2年前にあったでしょう、魔術士同士が結婚したって違反が。彼らの娘です。兄もいて、そっちは4歳だとか」
「ああ、それか」
脳の片隅から掘り起こされた記憶を確かめる。確か、夫婦は魔術士最高位の称号を与えられた「W・D」の魔術士だった。残念に思っていたので、記憶に残っているのだと承知した。
「私の独断で助けたんだな」
2年前。本当は違反になるはずのその子たちを、ラウドの鶴の一声で協会は助けたのだった。
「会長の判断は間違っていません。無駄な血は流すべきではありませんし。それにその判断のおかげで「時空」の魔術士が守られたんですから」
「それもそうだな」
両親は殺した。だが子供たちは助けた。可能な限り無駄な命を亡くしたくなかったのと、魔界法の改正に先駆けてのことだったが、なぜかそれだけではない気がしてならなかった。その理由が今になって分かったようだった。
「まあ、なんだ。入れるならジョゼの魔界学校がいいだろうな。ジョゼに早急に連絡して、彼女に直接の指導を仰ぐのがいいと思う」
ラウドは独り言のつもりで言ったが、レスは待ってましたと言わんばかりの笑顔で駆けていった。
「おい、アキ」
小さくなったレスの背中を横目に、傍らに控えていた女性の名前を呼んだ。
「はい、閣下」
このラウドの秘書である女性は、なぜか彼のことを「閣下」と呼ぶ。何年も前、彼がこの女性と出会った頃、その呼び方はやめろと言ったはずなのだが、今になってもやめてはくれなかった。
「ジョゼ校長に連絡。「時空」の魔術士の教育を即刻に頼め。レスより早く頼む」
深刻な顔で告げたラウドに対し、女性は
「かしこまりました」
とだけ言い、ハイヒールを高鳴らせて去っていった。
「ラウド会長!」
協会の集まりを前にして、自称・ラウドの一の側近であるレスは早口で告げた。
「現れました! 現れたんです!」
「なにがだ」
なにやら興奮冷めやらぬ様子の部下に、ラウドは冷めたように応える。
「あれです、「時空」の魔術士です!」
「そうか、ついにか」
衝撃的なことを知らされたにも関わらず、彼は落ち着いていた。「時空」の魔術士とは、250年に1度しか生まれない逸材のことである。
「これで我が方の情勢も変わる! 怨霊とブラッディストを滅ぼすことができるんですよ!」
興奮するレスを、軽く視線でいなす。
「いくつだ、その子は」
「時空」の魔術士だとわかるのは、たいていその者が幼い時だった。額に紋様が現れ始め、2、3歳ほどになるとくっきりとそれだとわかるようになる。
「2歳と聞いていますが」
「問題ない。すぐに全寮制の学校へ入れろ。どうせ孤児だろ?」
レスは頷く。魔術士はみな短命。30まで生きられればいいほうだ。
「本当に孤児なんです。訳ありの」
「訳あり?」
眉をひそめたラウドに、レスは続ける。
「2年前にあったでしょう、魔術士同士が結婚したって違反が。彼らの娘です。兄もいて、そっちは4歳だとか」
「ああ、それか」
脳の片隅から掘り起こされた記憶を確かめる。確か、夫婦は魔術士最高位の称号を与えられた「W・D」の魔術士だった。残念に思っていたので、記憶に残っているのだと承知した。
「私の独断で助けたんだな」
2年前。本当は違反になるはずのその子たちを、ラウドの鶴の一声で協会は助けたのだった。
「会長の判断は間違っていません。無駄な血は流すべきではありませんし。それにその判断のおかげで「時空」の魔術士が守られたんですから」
「それもそうだな」
両親は殺した。だが子供たちは助けた。可能な限り無駄な命を亡くしたくなかったのと、魔界法の改正に先駆けてのことだったが、なぜかそれだけではない気がしてならなかった。その理由が今になって分かったようだった。
「まあ、なんだ。入れるならジョゼの魔界学校がいいだろうな。ジョゼに早急に連絡して、彼女に直接の指導を仰ぐのがいいと思う」
ラウドは独り言のつもりで言ったが、レスは待ってましたと言わんばかりの笑顔で駆けていった。
「おい、アキ」
小さくなったレスの背中を横目に、傍らに控えていた女性の名前を呼んだ。
「はい、閣下」
このラウドの秘書である女性は、なぜか彼のことを「閣下」と呼ぶ。何年も前、彼がこの女性と出会った頃、その呼び方はやめろと言ったはずなのだが、今になってもやめてはくれなかった。
「ジョゼ校長に連絡。「時空」の魔術士の教育を即刻に頼め。レスより早く頼む」
深刻な顔で告げたラウドに対し、女性は
「かしこまりました」
とだけ言い、ハイヒールを高鳴らせて去っていった。
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