【R18】貧乏令嬢は金色の夢を見る (改:金の波 子ヤギの夢)

るりあん

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「触れても、いいですか?」
 こんな――熱に浮かされたようなエリックは、初めてだった。
 カペラの返事を聞く前に、肩をつかんでいた彼の手が、彼女の背中にそっと触れる。
 そのまま押し倒されそうになって、その積極性にカペラの方が気後れした。
「待って、一つだけ……」
「もう待てません」
 彼の手が、カペラの胸に優しく触れ、唇が耳朶を擽る。
 その先を期待した体が、火照り始めているのがわかった。
 でも、まだ、だめだ。
 きちんとしておきたい問題が、もう一つある。

「……どうして、ルセイヤン伯爵夫人と、……娼館、なんかに――?」
 首筋を責め始めていたエリックは、その一言に律儀にも顔を上げた。
「ご存知だったのですか?」
「偶然、見かけて」
「そうですか。見られていたのでは、仕方ありません」
 何を、告白されるのかと、カペラは身構える。
「ルセイヤン伯爵夫人とは、確かに娼館へ参りました。信じてもらえないかもしれませんが、女性を買うためでも、ましてや伯爵夫人を抱くためでもありません」
「だって、娼館って――」
「ええ、そういうところです」
 だが、エリックがカペラに語った内容は、彼女の予想を大きく裏切り、彼が落馬した日にまで遡った。

 伯爵夫人が何気無くこぼした一言に過剰に反応してしまったのは、心の奥底に自分自身のルーツについてずっと消化しきれないものがあったせいなのだろう。
 この国には珍しい、同じ色の瞳。――もしかしたら、同郷の者なのかもしれない。
 その夜、彼女の部屋で聞き出せた情報は、王都のどこだったかの貴族の館で、見かけたということだけ。汚い格好をしていたから、奴隷として売られてきたばかりなのかもしれない――

「――ですので、王都へ来た私はまず、暇さえあればその少年を探しておりました。それで――」
「見つけたのね」
 結論を急ぐカペラにエリックは頷いた。
「グレン侯爵にたまたま連れて行かれた、娼館で、深い茶色の瞳の少女を見かけました。それで、ルセイヤン伯爵夫人に本当に少年だったのか確認しますと、自分の目で確かめて見たいとおっしゃるので――」
 だから、彼女を連れて娼館へ出向いたということだ。
 その一回限りの出来事をカペラに見られていたとは、露にも思わなかったとエリックは付け加える。
「それで?」
「伯爵夫人が見たのは彼女でした。おそらくついたばかりで薄汚れていたから、少年に見間違えたのだろうと。……その後も何度か娼館に足を運び、彼女から話を聞き出そうとしましたが、知らない男に大きな船に乗せられて、気がつくとこの国にいたということ以外はききだすことができませんでした。売られたショックのせいか郷里のことなどは覚えていないようで――」

 エリックが寂しそうな表情を見せた。
 カペラは腕を伸ばし、彼の蜂蜜色の髪をそっと撫でる。
 記憶を失ったことに対して、これまで彼は気にした様子を微塵も見せなかったが、心の奥底ではずっと悩み、考え続けていたのかもしれない。
 そして、ようやく見つけたと思えた手掛かりの先には何もぶら下がっていなかったのだから、その失望感はどれほどのものだろうか。
「エリックは、エリックよ。どこの出身で、どんな身分であろうと。いつも私のそばにいて、見守ってきてくれた、それだけじゃ、だめ?」
「カペラ様――」
 頬を真っ赤に染め、こくんと頷いた彼女の表情を伺いながら、彼は自分の着衣をはぎ取り、それから大事なものを扱うような手つきで彼女の夜着を脱がせた。
 アルダートンの城で、侯爵の目の前で何度も繰り返された行為。けれど、この夜の愛撫には、グレン侯爵の目はなく、エリックの意思があった。
 それだけで、いつもより体の感度が上がっていく。
 彼のしなやかな指先が、脇腹に触れただけで、体の奥が熱く潤んだ。彼の舌が乳首を掠っただけで、まだ触れられていない下半身が、彼を受け入れたいと蜜を溢れさせる。
 それでも彼は、いつも以上に時間をかけて、カペラの身体を解した。
 まるでガラス細工を愛でるかのように、触れるか触れないかの微妙なタッチで、エリックの手がカペラの白い肌の上をすべる。
 ゾクゾクとした感覚が背中を這い上がっていった。
 耳朶を軽く食まれて腰がピクリと跳ねる。掴まれた胸の先端を吸われて、秘された部分が滴るほどに濡れてきているのが分かった。
 触れて欲しい、と思う反面、まだ触られてもいないのに、こんな状態になっている自分を彼はどう思うだろうかと、不安にもなる。
 そんなことを頭の中で考えているうちに、エリックの唇が腋から脇腹、そして腹部へと降りてきた。
「や――」
 恥ずかしさが先立って、手が彼の動きを止める。
「舐められるのは、いやですか?」
 なら、今日は止めておきましょうと、囁いた彼の手がカペラの太ももの間を割って、割れ目に触れた。
「あっ」
 心の準備もなく触られて、彼女は声を上げた。
 エリックの笑顔はどこまでも優しく、彼女の不安を消してくれる。
「もう、こんなに――」
「ごめんなさい」
「謝ることはございません。私としては、大変光栄であります」
 エリックがカペラの髪をやさしく撫でた。
 その優しさにまた、胸の奥がじんとして、全身に甘い感覚が広がっていく。
「そろそろ、挿れますよ」
 先端がカペラの膣口にあたる。
少しあたりを探るような動きの後、自然と先がなかに入ってきた。
 異物が入ってくる感覚に、無意識に体がずりあがる。
「あっ」
「力を抜いていてください」
 安心させるように、エリックは一旦動きを止め、カペラを抱きしめた。
 夢のように朧ろげで儚い甘さが彼女を包む。
 ゆっくりと、エリックがカペラのなかを進み入る。
 初めて異物を受け入れるそこは、エリックには抵抗を、カペラにはキリキリとした痛みを与えた。
「大丈夫、ですか?」
 カペラの表情に、動きを止めたエリックが、彼女を伺う。
「……だい、じょうぶ」
「まだ、半分くらいですが、辛いならここでやめますよ?」
「や、だ。……このまま、続けて」
 カペラはエリックの首にしがみついた。カペラ中でエリックのそれが太さを増す。
「これでも、十分我慢しているんです。――そんなに可愛らしく煽らないで頂きたい――」
 眉間を寄せたエリックが、堪らない表情で、カペラの口を塞いだ。
 カペラの胸にじわりと温かい衝撃が広がる。
 カペラがそのぬるま湯のような幸せに浸っていると、「奥まで、いきますよ」と耳元で告げたエリックが腰に、ぐっと力を入れた。
「――っ」
 ふっと中で何かが解放されたような感覚。続いて先ほどよりも強い痛みがカペラを襲う。
「痛い、ですか?」
「……だい、じょうぶ。……でも、もう少し、このまま、で、いて」
 心配そうに覗き込む深い茶色の瞳に、カペラは眉根を寄せたまま笑顔を作って見せた。
 エリックの腕に力が入る。
 肌と肌が密着し、彼の腕の中にいるという安心感が、痛みを和らげてくれる。
 カペラは幸せだった。
「――すみません。もう、これ以上は……自制を、失ってしまいそうです」
 エリックの激しい突き上げに、初めて感じる痛みとそこから生まれる甘い痺れに、カペラは何も考えられない。
 ただ、彼の首にしがみつき、ただただ一生懸命、彼の動きに合わせて痛みを逃がす。
 その先のことを記憶できるほどの理性は、もう、カペラには残っていなかった。



 朝の柔らかい光の中で、カペラが目を覚ますと、エリックは寝台の横で身なりを整えているところだった。
 彼のまだ乱れた髪と、開けたシャツからのぞく胸に、昨夜のことを思い出す。
 あの髪を乱したのは自分の手で、あの胸の中で一晩過ごしたのだとあらためて思うと、頬が熱くなった。

「あの……」
 声はかけてみたものの、こんなとき何を言えばいいのかわからなくて、カペラは言葉に詰まる。
「ああ、おはようございます。昨夜は――、よく眠れましたか?」
 エリックもエリックで、どことなくぎこちない。
 お互いに黙り込んでしまって、なんとなく気まずい雰囲気が漂っていたところへ、実にタイミングよくグレン侯爵が部屋に入ってきた。
 心なしか、すっきりした表情をしている。

「大ヤモリの黒焼きと鹿の陰嚢の効果は、思ったよりもゆっくりだったな」
「何の話ですか?」
「知り合いの魔術師がサンプルにくれたものだが、すぐにビンビンになるような代物ではないと報告しておこう」
「侯爵様。まさか、私の口に放り込んだのは……」
 にやりと嗤って彼は真相を曖昧にした。

「ところで、エリック、良い知らせだぞ――」
 それから二人は熱心に荷揚げの予定と運搬、工事の計画を話し始める。
 急に活気づき、厳しいとはいえ真っ直ぐな眼差しで論じ合う二人がなんだか楽しそうで、それを目にしたカペラも自然と笑顔になった。

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