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国始動編

第128話 パーキ、ライラ、マーレ

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日が完全に暮れた頃、大地達は飲食街から少し外れたところにある大きな教会に来ていた。

「こんな時間にどうしたんですか?」

教会に入ると、本殿の奥にある大広間のような場所で、丁度食事をしていたリリーナと子供達の姿があった。

リリーナは現在この教会に住みながらリリスの研究助手をしていた。

教会はマルタの時と同じように身寄りのない子供達を受け入れる施設にもなっており、リリーナは日中に助手の仕事、夕方からは子供達の世話と忙しくしている。

西と東の領地を巡る戦争や、その後の領主不在による混乱によって、トームには多くの戦争孤児が生まれてしまっており、それにより現在この教会には五百人以上の子供達が衣食住を共にしている。

もちろんリリーナ一人で全ての面倒を見きれるわけもなく、現在は国からの補助をもらいながら育児経験のあるお母さん達を雇い、教会の運営を行っている。

ケンプフも教会に住んでいるようで、非番の日には朝から晩まで子供達の遊びの相手をしているそうだ。



「こんな時間にすまない。今日はパーキ達に用があってな」

パーキ達の場所を聞かれたリリーナは視線をテーブルの真ん中辺りに移す。

リリーナの視線の後を追ってみると、そこにはどんぶり飯をかきこむように食べているパーキ、そしてそれを注意するライラ、その二人を見てオロオロとしているマーレの姿があった。

実は三人はペンタゴンを作成し教会を建設して以来、教会に住み着くようになっていた。

最初は大地達と同じように王宮内に部屋を設けていたのだが、三人が教会でリリーナの手伝いをしたいと言い出したのを機に、教会に住むことになり、今ではリリーナ達の手伝いをしている。

もしかしたら小さいながら身寄りのいなくなった子供達の姿を密林にいた時の自分達と照らし合わせたのかもしれない。

まだ九歳という幼い歳でありながら、パーキ達は小さい子供達の相手や、料理や掃除のお手伝いなど、よく動き教会の子供達にとってリーダー的存在になっているのだと以前ゼーレから聞いたことがあった。

久々に見る少したくましくなったようにも思える三人の姿におもわず表情が綻ぶ大地。

そんな大地の視線に気付いたのか、急に大地の方へと振り向いた三人は、大地の姿を発見すると、一目散に大地達の前まで走ってきた。

「ばいひひはひふり!」

「久しぶりだなパーキ。けどまずは口の中の物飲み込んでくれ」

「大地兄ちゃん今日はどうしたの?」

「ライラ達にちょっと話があってな」

「大地だよぉ~!    久々だよぉ~!」

「おっおう。なんでマーレは泣いているんだ?」

三人とも久々に大地と話せるのがうれしいのだろう、パーキを大地の腕を持ってブンブン振り回し、ライラは目をキラキラさせながら大地を見つめ、マーレは泣きながらも満面の笑みを浮かべていた。

ボレアス領地に移ってからというもの、帝国の襲撃やその後のアーヴ達との戦争と、常に忙しくしていた大地はこれまでパーキ達と会うことすら出来ていなかった。

それもあってかパーキ達は久々に会えた大地を逃がすまいと、顔を合わせると大地の身体にタックルをかましてくる。

わかりやすく懐いてくる三人の姿を見て、照れくさそうににやけ顔をさらす大地。

「へぇ~あんたもそういう顔出来るのね」

「これはかなり珍しいショットですよ。まさか大地さんが子供に笑みを見せるなんて」

「おい。お前らは俺を一体何だとおもっているんだ」

楽しそうに子供とじゃれ合う大地の姿にメリアと犬斗は驚愕した顔を見せる。それを見た大地は怪訝そうな顔をパーキ達に見えないようにしながら二人に向けた。

「それで大地! 俺達に話って一体何なんだ!? これから遊ぶって話か?」

「そんな訳ないでしょ! パーキはいつも遊ぶことしか考えていないんだから」

二人は大地の身体に抱き着いたまま、夫婦漫才のようなやり取りを行っていた。

大地はひとまず落ち着いて話が出来る場所に移ろうと、本殿の方に向かうように三人に伝える。

三人が楽しそうに走って本殿に向かっているのを見ながら大地は空いたテーブルの上に多量のケーキやクレープなどのおやつを再現する。

「リリーナ。食後のデザートを置いておく。後でみんなに食べさせてやってくれ。もちろんリリーナの分もあるから」

「ありがとうございます! 後でみんなで食べさせてもらいます!」

よほど甘い物には目がないのか、リリーナは飛び跳ねるようにして喜ぶと、食事中の子供達に声をかけて大地からおやつをもらったことを伝える。


「「「「創造神様ありがとう!」」」」


リリーナから大地よりおやつをもらったことを聞いた子供達は元気よく大きな声で大地にお礼を言う。


ちょっと待て。なんで子供達まで俺を創造神なんて言うんだ? 一体誰が教えているんだ・・・・


子供達から創造神だと呼ばれた大地は額を手で押さえながらガックリと肩を落とす。

後ろにいた犬斗とメリアは必死に笑い声を出すのをこらえていた。

しかし子供達の無垢な感謝の意に答えないわけにもいかず、不本意ながら「どういたしまして」と返した大地は、パーキ達の待つ本殿へと向かった。

本殿ではパーキ達が仲良く長椅子に座って待っていた。大地はパーキ達の大好物のスイートポテトとジュースを再現して渡すと、早速三人に要件を話す。

「俺達は明日仕事でディランチ連邦って国に行くんだ」

「え~せっかく来たのにもう行っちゃうのか・・・・またゴーレム作りに来てくれたのかと思ったのに」

「仕方ないよ。大地兄ちゃんはこの国の王様だもん。忙しいに決まってるよ・・・・」

「大地また行っちゃうのぉ~! 寂しいよぉ~!」

大地から明日またディランチに出発することを聞いた三人は寂しそうにうつむく。

「待て待て! それでな、お前達さえ良ければ一緒に行きたいと思ってるんだ。お前達もずっと教会の中や近場の広場じゃ遊ぶにしても飽きてしまうだろ? せっかくだし密林を出た時みたいに俺達とちょっとした冒険に行かないか?」

「「「行く!」」」

大地の提案に飛びつくように即決で返事をするパーキ達。パーキ達は三人で手をつないで輪っか状になると、「冒険! 冒険!」と楽しそうにぐるぐると回り出す。

そんな光景を大地達がほのぼの眺めていると、リリーナが消灯の時間を告げに来た。

大地はリリーナに事情を話し、明日の朝に迎えに来るため三人の準備をお願いしたいことを伝える。

リリーナも内心パーキ達が手伝いばかりしていて遊ぶ時間がないことを気にしていたようで、是非連れていってあげてくださいと笑顔で快諾してくれた。

パーキ達は大地に大きく手を振りながら「また明日!」と元気よく挨拶すると、自分達の部屋のある二階へと続く階段を駆け上がっていった。

リリーナも大地達に軽く挨拶をした後、パーキ達の後を追って二階へと上がっていった。

「孤児院か。本当にこの国は民を大事にしている国なんだな・・・・」

教会に入ってから一言も言葉を発することのなかったマリカがリリーナ達が二階へと上がった途端、感動したように話しだした。

「孤児院なんて何処にでもあるものじゃないのか?」

大地は感動するマリカの行動は大袈裟だと言いながら、教会の長椅子に座る。

「いやこのような立派な孤児院など何処を探してもあるまい。あるとしても人の良い者が個人でやっているような所ぐらいだ。規模を見る限りこの孤児院には国が関与しているのだろう? それに今日見て周った限りでは乞食をしている者が一人も見当たらなかったぞ。本当にこの国は良い意味でこの世界の常識から逸脱しているな」

「技術提供の話は理解出来ないくせにそういう所は良く見えているんだな。」

「それは褒めているのか? それとも馬鹿にしているのか? どっちだ大地!」

「マリカさん子供達が寝る時間なんですから静かにしてください! それに大地さんもここでくつろぐぐらいなら自分の部屋に戻ってからくつろいで下さいよ!」

大地の子馬鹿にした発言にムッとしたマリカが大きな声で大地に詰めようとするが、思ったい以上に響いた声に反応したルルがマリカを注意する。

ついでにルルに早く教会に出るように注意された大地が教会から出ようとした時、先に出口付近に向かっていた犬斗とメリアがある物を見つけて盛大に笑い声をあげた。

「メリアちゃんに犬斗さんまで大きな声をあげないでください!」

「ククク・・・ごめんルル。けどあんなの見たら笑っちゃうわよ。ねぇ犬斗。」

「さすがにあれは反則ですよ・・・あんな顔いつもしてないですもん・・・」

二人はお腹を押さえて必死に笑い声を抑える。しかし余程ツボにはまったのか「ククク・・・」と小さく声が漏れていた。

「何がそんなに面白いんだ?」

大地は不思議そうに二人の視線の先にある出口の上にある窪みを見た。

するとそこには両手を天に掲げ、満面の笑みを見せる大地の像があった。

「ククク・・・道理で子供達があんたを創造神なんて呼ぶわけよ・・・それにしてもこの笑顔。あんたの笑顔がこんなに面白いものだなんて初めて知ったわ・・・」

「こんな物誰が作ったんですかね・・・ククク・・・駄目だ早く出ましょう。このままでは僕のお腹が壊れてしまいます!」

二人は耐えきれないといった様子で急いで教会から出ていく。

「ふぅ・・・これは明日リリーナに詳しい話を聞く必要があるな」

「・・・・そうですね」

「大地はキレるとあのような顔になるのだな・・・・」

大地は血管が切れてしまうのではないかと思う程の太い青筋を額に浮かべると、その後無言で教会から出て行った。

次の日の朝、聖騎士団の詰所に、教会に飾っていた創造神の銅像が盗難にあったと、教会の従業員から報告があった。しかしその盗難の手口、動機など犯人につながる証拠は見つからず、結局その銅像が返ってくることはなかった。
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