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28.優しい風は白馬と共に在れ……
しおりを挟む「最近、来客多くない?」
「仕方ないでしょう。ヨウさんは周囲が気になる行動を起こしているのですから」
まあそりゃそうなんだけど。
「それで、どうします?」
「……行くしかないわよね」
本当にめんどくさいな、あの王子。心の中でアニキと呼んでいるからって調子に乗ってないか? 基本的に俺は男は好きじゃないし、イケメンはもっと好きじゃないんだからな!
でも、まあ、来そうな気はしてたんだが。
部屋を出て一階休憩室へ向かえば、昨日……じゃないか、一昨日と同じテーブルに、一昨日と同じようにソファに座る、俺様王子ことキルフェコルト殿下が待っていた。これまた同じく女子の視線を釘付けにしながら。
「おはようございます」
「おう。座れ」
あ? 何様だこの野郎。呼び出した挙句にまともに挨拶も返さないとか、偉そうに。何様だよ。……あ、王子様か。そりゃ偉そうでも仕方ねえな。何せフロントフロン家より格上だしな……
やはり周囲の女子たちに睨まれながら対面に座ると、さっき逃げるようにして部屋から出て行ったクローナが、何事もなかったかのように俺の分の紅茶を淹れてくれる。
「まず言っておく。スケルトンはもう出ない」
「そうですか」
やはりできる王子だな。国益に繋がると判断して、もう手を打ったようだ。
骸骨狩りはもうできない、と……まあ仕方ないよな。昨日こいつが付いてきた時点で、この流れは確定していたんだろう。
それに、俺は「闇の魔法石」を量産することで方々に不都合が起こる可能性を、やはり捨てきれなかった。いっそ封じられて少しほっとしている部分もなくはない。
何事も、やりすぎると色々危険なんだ。
現にほら、アクロディリアが色々やりすぎて尋常じゃないレベルで嫌われてるだろ? やりすぎるとこうなるんだよ。
「それで?」
「なんですか?」
「次はどうやって稼ぐつもりだ?」
「それを考えていた矢先に殿下がやってきたんですよ」
やれやれと溜息を吐いてみせると、王子はニヤリと笑った。
「おまえが困っていると、どうしてこう嬉しさがこみ上げてくるんだろうな」
面倒なくせに迷惑な奴だな! どういうことだよアニキ!
……でも企画の上役だから、無視するわけにもいかないだろうな……
それに、そもそもを言うなら、アクロディリアがキルフェコルト王子の不評と恨みを買いあさったせいでもあるからな。面倒だが付き合うしかないんだよな……
「優先順位で行けば、開発でしょうか」
「開発?」
「先日、少し話しましたよね? 購買部と少しだけ提携しようと思っている、と」
「ああ、浴場と魔法陣を繋ぐとか言っていたな?」
一昨日の段階では、まだ思いつきに過ぎなかったのだが。
「購買部の責任者と話をつけました。浴場建造の目処が立ったら向こうも動くそうです」
「そうか……」
王子は紅茶を一含みし、腕を組んだ。
「その案は悪くないと思っていた。要するに、冒険から戻れば風呂に直行できて汗と汚れを流せる、ということだろう?」
「ええ、その通りです」
「いいよな。疲れている時に準備要らずで風呂に入れるのは」
さすが王子様、風呂の良さを知っているか。やっぱり王宮にはデカい風呂とかあるんだろうな。
そう、冒険から帰ってきてすぐに風呂場へ行ける。冒険者として経験を積んでいるレンやヴァーサスだからこその発想と言えるだろう。部屋に戻る前にモンスターの血液やら体液やら汚れを落としたいとか、疲れた身体と磨り減った心をリフレッシュするために風呂に入りたいとか、思うこともあったんだろう。
そして購買部責任者のあのがめついおっさんは、浴場へ転送する際に手数料を取って購買部の利益にするつもりらしい。一人100ジェニーくらい取るとか言っていたっけ。100円で利用できるなら、利用者は結構いると思う。
疲れ切って帰ってきて、だらだら歩いて寮へ戻る。そんな気力さえ湧かない時は風呂へ行って湯に浸かり、風呂上がりにキューッとやれば、疲れさえ心地よくなるだろうよ。
で、その「キューッ」とやる奴を、作らないといけないんだが。
「お風呂上がりに飲むドリンクの開発をしたいと思っていました」
「ドリンク?」
「風呂で火照った身体に、冷たい飲み物。一度経験すればわかりますわ」
どうやらこの王子も、風呂は知っていても風呂上がりに冷たい飲み物って習慣はないようだ。ちなみにがめついおっさんは、風呂場から購買部への転送はフリーにするとか言っていた。購買で飲み物を買わせるためである。
「ふむ……まったくピンと来ないな」
「来なくていいです。わたしの企画ですし、わたしの査定ですから」
「そういうわけにもいかん」
何? なんだと?
「邪魔をするおつもり?」
「いや。……うむ、コホン」
王子は口ごもり、咳払いをすると、若干照れながら言った。
「おまえの考えた金を稼ぐアイディアを、俺の独断で丸々貰った形になってしまったからな。次の査定までは、俺が手伝ってやる」
ありゃ。意外な方向に話が進んだな。
いや……そう意外でもないのか。キルフェコルト殿下は貸し借りが嫌いで、アクロディリアからの借りは特に嫌なんだろうしな。
昨日の骸骨狩りのアイディア没収で俺に借りを作ったと思ったのであれば、こういう申し出をするのは筋は通るだろう。
「それに、次におまえが何をするかにも純粋に興味がある。開発と言ったな? 新しい飲み物を作るのか?」
何興味示してんだよ……こっちはあんまり関わりたくないのによ……
「またわたしのアイディアを没収すると?」
「フン! そう何度も俺が欲しがるものを簡単に作れると思うなよ?」
それ欲しがるフラグにしか思えねーよ。……まあ金額次第でアイディアを売るのも悪くはないかもな。今は即金で必要だし。
購買のおっさんも「いい出来だったらレシピと使用権を買い取る」とか言っていたが、ふっ、本音を言えば高い方に売りたいしな。へっへっへっ。せいぜい高値で買ってもらわないとなぁ!
そんな皮算用をしていると――来てしまった。
「――随分楽しそうだね、キルフェ。アクロ」
女子たちがきゃあと黄色い悲鳴を上げる中、奴は堂々とやってきた。
この襲来は予想外だったのか、それとも想定内だったのか。
俺にもよくわからない。
「――よう、ラインラック」
「――お久しぶりです、ラインラック殿下」
キルフェコルトと俺は、やってきた青年――この魔法学校のもう一人の王子であるラインラック・ウィートラントに挨拶した。
ラインラックがやってきた。
記憶にある通り、今日も穏やかな笑みを浮かべている。うむ……こうして見ると、白馬がめちゃくちゃ似合いそうな王子様だな。
「座ってもいいかな?」
「おう、座れよ。――クローナ、ラインラックにも紅茶を淹れてやれ」
この国の王子と、異国の王子が並んだ。
赤の混じった荒々しい金髪と、木漏れ日を思わせるようなどこまでも明るい金髪。
力強さを感じさせる黒っぽい藍の瞳と、光の具合によっては青くも緑にも見える瞳。
黒毛の軍馬が似合いそうなのと、早駆けが得意な白馬が似合いそうなのと。
背も身体も一回り大きいがっちりタイプと、標準よりやや細いけどよく締まっているように見える細マッチョタイプ。
一見正反対に見えるし、接してみると更に正反対さを強く感じるが、内面は意外と共通点が多かったりする。どちらも王族としての責をきちんと背負っているからかもしれない。
ちなみにこの二人、結構仲が良いみたいだ。王子同士でしか分かり合えない苦労もあるんだろうな。
更にちなみに、二人の王子を一人占めしているという状況のせいか、女子たちの視線がすげー痛い。なんて理不尽な視線だろう。中身男の俺には、相手などんなに美形でも「王子」という時点で嬉しいことなど一つもないのに。
……目立ちたくないし、これ以上反感を買いたくないし、主要キャラにもできるだけ関わらないように決めているのに。
なのに。
なんだこの状況は。
めちゃくちゃ目立ってるし、めちゃくちゃ睨まれてるし、主要キャラの中でも超メインの王子二人にめちゃくちゃ絡まれてるじゃねえか。
主人公はこの七年間何やってきたんだよ。
王子どもがフラフラしないようにちゃんと口説いとけよ……
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