俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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カレカ編 04.ダイル・ローに聴く

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 さて、次の調査対象は――

「次は男子目線の話でも聞きたいところですね」

 最初の情報提供者でもある後輩・ミラ・ガーネット。
 それからさっき怒らせたハロルゥ=シトトラ。
 女性目線の証言が続いたので、確かにここらで男性目線の証言が欲しい。

 欲しいところではある、が。

「私よりやる気あるんじゃない?」

 何が「先輩の調査の手伝い」だ。後輩は明らかに、カレカと同じくらい調査に前のめりではないか。

「そんなことないですよ。もし私がリードしてるように感じるなら――」

 ミラは、非常ににくったらしい笑みを浮かべた。

「先輩の腕が錆び付いたか、私が先輩を追い抜いちゃっただけいてっ」
「あ、ごめん。むかついたからつい」
「理由がストレートすぎる! せめてそれらしい言い訳して殴ってくださいよ! 虫が付いてたとか!」
「じゃあ付いてた」
「言い訳する気がなさすぎる! もっと上手に嘘ついて! 騙して!」

 うるさい後輩はさておきだ。

「誰か手頃な男子いる? できれば上級生として威圧できる下級生がいいかな」
「まだ痛いんですけど」
「わかった。それで?」
「謝る気もなさすぎる……それなら何人か心当たりはありますけど」
「じゃあそっちはミラに任せるわ。私は闘技場周辺で探してみるから」

 八年生であるカレカは、授業がない。これから授業があるミラとはここで別れることにした。

「昼休み、食堂で会いましょう」

 そんな約束をして、二人は一旦別れた。




 噂が噂通りなら、今頃フロントフロン令嬢は、闘技場で剣術修行の真っ最中のはずだ。

「本当になんだって急に……」

 思わずつぶやいてしまうくらいに、かの令嬢の行動がわからない。
 一年生二年生の頃ならまだわかる。三年生四年生でも納得はできる。五年生六年生ではさすがに遅いと思うし、それ以上となると論外だ。

 この年齢、この学年で剣術なんて始めて、何があるというのか。
 特に貴族……フロントフロン家ほどの大きな家ともなれば、更に意味がわからない。

 剣を鍛えたい、剣で身を立てたいという生徒は多い。
 貴族の場合は一般生徒よりもその気持ちが強い者が多い。
 特に次男以下は、家督を継げないので、「貴族として恥ずかしくない就職先を確保せねばならない」という理由から本気度が違う。

 だが、女性でありフロントフロン家ほどの家の娘なら、そんな努力は必要ない。剣術も必要ない。それこそ花嫁修業でもした方がよっぽど役に立つはずだ。

「……ん?」

 闘技場の出入り口付近に到着すると――知った顔を見つけた。

「ダイル?」
「おうっ!?」

 声をかけた相手――ダイル・ローは、返事なのか悲鳴なのかよくわからない声を上げて振り返った。

 刈り上げた金髪に、凛々しい眉毛。鍛えた肉体は制服の上からでもわかるほどに逞しい。
 兵士志望の八年生で、カレカの友達でもあるダイル・ローだ。

 入学当初からの付き合いなので、もはや幼馴染とも言えるのかもしれない。あの頃はカレカよりも身体は細く小さかったのに、今や立派な青年である。
 昔からバカだけど元気で明るく皆に好かれていた彼だが、冒険者としてそこそこ腕を上げた今もあまり変わっていない。下級生の中にはダイルに上級生の貫禄を感じるという目が腐っている系の稀有な子もいるが、カレカにとっては今も何も変わらない友達である。

 そんなダイルは、声を掛けてきた相手がカレカと見て、……思いっきり溜息をついた。

「…………はあ……おまえに会っちまうとは……」
「え? 何その反応?」

 カレカは意味がわからない。むしろ顔を合わせた途端溜息を吐かれてちょっと腹が立ったくらいだ。

「――ついにおまえにバレちまったな、俺の恋……」

 語るに落ちるどころか、自ら暴露するとか。

 カレカは「こいつのバカは昔から本当に変わらないな」と思った。




 とりあえず、フロントフロン令嬢のことは一旦置くことにした。

「何? 恋? 誰に?」

 こんな面白いネタを掴む気もなく掴まされたのだ、もう聞かない方が失礼だろう。

「あ、ミラはダメよ? あの子すっごい理想高いから」
「あいつじゃねーよ。あいつ見た目はいいけど中身おまえじゃん」

 それはどういう意味で何が問題なのかと仔細に問いただしたい発言だが、それより話の中身の方が気になる。
 何せ、よく見たらダイルは、非常に似合わないものを持っていたりもしたから。

「その花、あげるの?」

 どこで摘んだのか、ダイルは黄色い花を一輪だけ持っていた。

「お、おう……やっぱほら、女の子には花あげちゃうと喜ぶだろ?」

 ダイルにしてはまあ気が利いたプレゼントである。
 あくまでも、ダイルにしては。
 二年生の頃にもらった飢毒ガエルの標本は、貰った瞬間に速攻で投げ捨て――たかったのだが、さすがに貰い物なので捨てるに捨てられず、結局学校に寄付したが。それに比べたら成長が見られるだけ褒めてやりたい。

「それで? 相手は誰なの?」

 ダイルのことは、すごいバカだが幼馴染同然の友達だと思っているカレカである。
 荒事や冒険者の真似事なんてできないのでそっち方面での助けにはなれないが、それ以外、更に言うなら情報関係ならば多少は力になれる。

 バカなダイルのことだ。
 恋した相手が知り合いだったら後先考えず告白して、後になって「なぜ一言相談しなかった」と説教したくなるくらいすでにあっさり玉砕しているはず。

 これで顔は広いと自負しているカレカだ。
 少々無茶な相手でも、コネを駆使して紹介くらいはしてやれる。相手によってはデートまでセッティングしてやってもいい。ダイルはバカだがいい奴だと胸を張って紹介できるから。

 この様子を見るに、玉砕前に間に合ったようだし。

「え~? 聞きたいの~? ど・う・し・よっ・か・な~?」

 キモイ。
 それなりにガタイの良い兵士志望の青年が、恋する少女のように頬を染めて照れて照れてくねくねしながら花びらをむしっている姿は、長い付き合いになるカレカでも直視に耐えない気持ち悪さだ。

 あと贈り物が無残にお亡くなりになってしまったのだが。止める間もなかった。やはりバカはバカのままである。

「話したくないならもういいや」

 贈り物の花で花占いをして贈り物を失うようなバカ、冷静に考えると、自分を通して誰かに紹介とかあんまりしたくない。

「いや聞けよ! ここは聞けよ! 聞いてくれ!」

 ついに花を捨てやがった。正確には茎のみを。

「花がかわいそうでしょ。命の無駄遣いにも程があるわ」
「あとで墓作るから! いいから聞いてくれ!」




「うん。なんとなく予想はしてた」

 このバカのことだから、バカな相手に恋したんだろうなーと。
 そんな予想は、見事に的中した。

 ダイル曰く、

「――俺の恋した相手は、そう、この残酷な世界に突如舞い降りた戦乙女……もう一目でズギュウウウンとハートを打ち抜かれたぜ……」

 だそうだ。

 カレカは頷いた。

「ダイル。私、あんたのそんな期待を裏切らないバカなところ、バカだとは思うけど決して嫌いじゃないから」
「え? お、おいおい褒めるなよ……おまえが俺を褒めるなんて始めてじゃないか?」

 褒めてない。まったく。
 カレカの発言には本当に他意はないが、発言だけ取れば「バカにしているのか」と怒っていいくらいだ。

「言いづらいんだけど、それ、諦めた方がいいわ」
「なんでだよ」

 一瞬、カレカの中の悪魔が「教えない方が後々絶対に面白い」と囁き迷ったものの、下手をすれば本気で放校処分だの、リアルに首が飛んだりしかねないので、さすがに教えることにする。

「あれ、フロントフロン辺境伯令嬢よ?」

 あの学校一の嫌われ者と言ってもいいくらいの困ったお偉いさんである。もちろんダイルも彼女が大嫌いだ。

「……」

 真実を知らされたダイルは、無反応である。
というかきょとんとしている。
なんて無垢な瞳だろう。
人を疑うことを知らない純真無垢な子供のような澄んだ瞳だ。

「そんなわけないだろ。何言ってんだおまえ」

 さすがダイル。そもそも信じなかった。

「いやほんと。ほんとに。そんな目で見ても事実は変わらないから」

 どんなに穢れを知らない子供のような目で見られても、存在しない真実を告げることはできない。

「つまらない冗談やめろよ!」
「怒ってもダメ。事実だから」




 それから再三言い含めたものの、

「もういいもん! カレカのバカ! もう知らない!」

 まるで聞き分けのない妹にキレる姉のようなセリフを言い放ち、ダイルは走り去った。

「……面白いからほっときたいんだけどなぁ」

 だが、それはさすがにダイルが可哀そうな結果になるので、放置するのはまずいだろう。
 奴が何をしでかすか予想もつかないので、カレカも追いかけることにした。

 告白なんてする前に捕まえて、ぜひとも恋心を葬ってやらねば。仕方ないし。決して楽しいことではないけど。









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