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65.勝利の欠片は小さくも誇り高く……

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 倒れ伏したドラゴンの傍らに降り立ったアルカは、一つ頷いて剣を納めた。

「――うん、弱い」

 弱くねーよ! 相手がどうこうじゃなくておまえが強すぎるんだよ! ……あ、でも、やっぱ「空龍」としては弱いのか? だって子ドラゴンって話だしな。
 ……いややっぱおまえが強いんだと思うぞ! いくら子供でも並の冒険者じゃ一撃必殺は無理だろ!

 確か「峰打ち」っつってたな。モンスターの行動をキャンセルさせる剣技だ。スタン効果ってやつだな。……あれ!? ということは死んでないのか!?
 よく見ると、ドラゴンは呼吸している。お、おいおい生きてるじゃん。いいの? いいのか?

「とどめは?」

 未だ警戒して盾を構えているグランも、同じことを考えたようだ。

「殺しちゃまずいのよ。……お?」

 まずい?
 アルカはドラゴンに近づき、頭に触れ――こちらにやってきた。

「殺したら親が来るかも。大きさからしてここには入れないから、上からブレスかな。ここら一帯が火の海になるかもよ」

 あ……そうか。上にはでっけーのがいたもんな。……そういや子ドラゴンはブレス吐かなかったな。まだ吐けないのかもしれない。

「――ってジングルくんが言ってた」

 あ、そう。……そうだな、言っちゃ悪いがアルカよりジングルの方が頭回りそうだもんな。

「強烈なのが綺麗に入ったし、しばらく起きないだろ。ついでに眠り香でも嗅がせとくか」

 と、いつの間にかすぐそばにいたジングルも、アルカとすれ違ってドラゴンの方へ行ってしまった。眠り香っつーと睡眠薬だな。睡眠薬とか普通に持ってるのか。やはり密偵って感じだな……

「よくがんばったね」

 ポンと肩を叩かれ……グランはその場に座り込んだ。

「し、死ぬかと思った……!」

 おう、俺もだよ! お疲れさん!
 張り詰めていた緊張の糸が、切れたのだ。俺も同じ気持ちだ。ここまでよくがんばったし、よく踏ん張ったと思う。こいつなしじゃどうなっていたか知れない。

「はい」

 と、アルカは俺に何かを差し出した。
 一見すれば、ただの尖った骨だ。灰色で、バナナかキュウリかっつー感じの大きさで同じように湾曲している。

 俺はその骨をじっと見つめ――ハッと息を飲んだ。

「もしかして角!?」
「うん。まあ、私が今折ったんだけど」

 アルカは苦笑し、首を傾げた。

「これは一番の功労者が持つべき勝利の証……とは言えないかな。勝利の欠片だね。まだ小さい角だけど、今はこれでいいと思う」

 ……確かにな。今はこれくらいがちょうどいいんだろう。身の丈に合っているというか。
 ちゃんとした大きなドラゴンの角は、その内ちゃんと、今度こそ勝ち取ればいい。

 これは言わば勲章だ。
 今日、この時に誕生した、新たな冒険者が勝ち取ったものだ。

 ――まあ、出戻りだけどな。

「グラン、あなたの戦利品だってさ」




「すげーな」
「うん……我ながらよく保ったと思う……」

 変形しているグランの鉄の盾を外す作業を、ジングルが手伝っている。
 幾度も強烈な攻撃を受けてベッコベコにされた鉄の盾は、かろうじて原型をとどめているだけ。尖った爪が当たったのか、小さいながらもいくつも穴が空いているくらいだ。どう見ても限界って感じだ。ジャンク間近どころか片足突っ込んでやがる。

「これからどうする?」

 俺は、アルカの治療をしながら、全員に問う。

 ――そう、実はアルカ、足と腕と肩の骨折だけ治し、ギリギリ最低限戦える状態で駆けつけたそうだ。まだ完治はしていなかったのだ。

 ちなみにあの攻撃速度は、ジングルの魔法で速度を上げていたそうだ。補助魔法ってやつですね!

「私より治癒魔法うまいね」
「うるさい。無茶しやがって」

 男たちに聞こえないよう小声で言い返したら、アルカも小さく「ごめん」と言った。うるせーよ。謝ったり礼言ったりしたいのは俺の方だっつーの……
 くそ。やっぱ俺も強くなりてーわ。もっと強くなりたい。

「この辺ならわかる。来たことあるからな」

 言ったのはジングルである。

「ここから幾つか、どこかへ行ける穴なり道なりあるだろ?」

 確かに、この巣を中心にして、四方八方にはどこかへ繋がる穴がある。パッと見では六つかな。俺たちが並んでも通れるような道から、一人ずつ屈まないと入れないような小さいものもある。どれが正しいかなんてさっぱりだ。

「向こうに行くと正道に出るぜ。あとは全部行き止まりだ。ほかの巣とかに繋がってる」

 ――なんでも、俺たちが落ちた崖付近の岩壁に洞窟があって、そこを通って下に降りる……というのが、順当な道に当たるらしい。うん、確かゲームでもそんな感じの冒険フィールドだったと思う。
 なお、本当にもう今更って感じだが、目的地としていた『ドラゴンの巣』というフィールドは、今ここも含まれるらしい。一応「ただの巣」とフィールドとしての『ドラゴンの巣』とは別物として考えていたのだが……まあ今更どうでもいいことか。

 つまり、落下は計らずとも目的地へのショートカットになったわけか。二度と通りたくない道だがな!

「えっと……フロントフロン様の目的は、『光の大賢者』の石碑だよね?」

 グランの質問に「そう」と頷く。
 一応、目先の驚異は突破したからな。アルカも回復したし、レンとゼータとははぐれたままだが、石碑が近いのであれば目的を果たしたいところだ。
 というか、なんにしろ早くここから離れたい。すぐそばでドラゴン寝てるし。落ち着かねーよ。……だってマジドラゴンだしよ、感動するじゃねえか。なんかすげー近くで観察したくなってくるんだよ。でもそういうことしてるとサッと! サッと食われるのがハリウ○ドの王道だろ!? 一番最初に犠牲になる研究員的だろ!? 好奇心に駆られる前に早く離れたい!

「石碑か。だったら向こうが近道だな。この際だ、案内するから付いてこいよ」

 言うだけ言うと、ジングルはポケットに手を突っ込んで、気だるげに歩き出した。

「あ、ちょっと待って」

 俺が口を開くと、何事かと三人の目がこちらに向く。

「レンとゼータのことだけど。このまま進んでいいの?」

 あいつらは今どうしてるんだろう? あのでかい親ドラゴンと戦闘でもやらかした……とは、さすがに思えない。あんな巨体が暴れたら、ここまで振動やら音やら伝わりそうだしな。たぶんうまいこと逃げたんだろう。

「ああ、そうだった。それがあったな」

 ジングルは、「一応飛び降りる時に伝言は残したんだわ」と言った。

「道に沿って追ってこい、って言っといたぜ。だからあいつらが向かう先は、あんたと一緒なんじゃねーの?」

 なるほど。そうだな、レンには冒険の目的を話してあるし、追いかけてきているなら石碑の前で会える可能性は高そうだ。

「もういいか? あんまりゆっくりしてると帰りが夜になっちまう」
「ええ、行きましょう」

 こうして俺たちは、冒険を再開した。








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