俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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125.終焉の始まり……

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 天候は相変わらずだ。
 時折、窓を叩く雨音が聞こえる。さほど強くないのは助かるが、昼から降ったり止んだりしているので、足元は最悪だろう。そこを走らねばならないのだからやはり最悪だ。

 できれば見通しの良い晴れの日が良かったのだが、まあ、贅沢は言ってられない。時々雨が止むこともあるので、それだけでも御の字だ。

 ただただ紅茶の香りをくゆらせながら、暗い部屋で外を眺めながらじっと待つ。こんな習慣も今日で終わりだ。少し退屈だが、嫌いな時間の過ごし方ではなかった。
 この時間で、いろんなことを考えたからな。特に天使プロジェクトの細かな肉付けは、この時間に詰めていった。

 そして今は、これから辿るべき計画を頭の中で反芻し、何度も何度もシミュレーションしている。こればっかりは失敗が許されないからな。いい加減な俺でも「まあいいか」では済ませられないからな。
 考えつく限りの不測の事態とアクシデントを考え、それに対応する行動を考えておく。いざその時に迷わないように。

 ――さてと。

 俺は立ち上がり、テーブルの上に用意していたマントを羽織り、机の引き出しに入れている仮面を取り出す。

「失礼します」

 仮面をマントの内ポケットに詰めると同時に、ノックもなくキーナとダリアベリーが素早く室内に滑り込んできた。隠密行動中なので音を立てる行動は厳禁なのだ。

「昼に話した通り、今日で終わりにするから。最後まで付き合ってちょうだい」

 二人は無言で頷き――そして俺たちは窓から飛び出した。




 屋敷から出て坂を下る。

 うん……地面がぬかるんでいるのも嫌だが、それよりやはり街の様子がアレだな。昨日より潜んでいる人が多いな。
 今は黒マントで闇に紛れる格好だし、表にいる人が多いことが逆に隠れ蓑になってくれる。

「後で」

 計画通り、俺たちはここで一旦別れた。
 人出が多いことを利用して隠れ蓑にするなら、三人一緒に行動することこそ逆に目立つからな。一人ずつ個別に動いた方が紛れるだろう。

 今日の標的である大きな病院は、昼の内にちゃんと下見と下調べをした。だから俺は一人でも行ける。もちろんメイド二人は元から場所知ってるしな。
 一応、ダリアベリーを通してクリフのじいさんには計画を話してある。その返答は「街に仲間を点在させとく。もしもの時は助けに入るから安心しな」だ。実に頼もしいじいさんである。
 でも、じいさんの用意した保険を使うってことは、その時はほぼ失敗に近い状況って意味だからな。できれば頼りたくはないな。

 本当に人出が多い。ゆえに、俺は堂々と大通りを歩いて・・・いく。何人かの視線を感じるし、細い路地の入口や、店の前にある木箱の影などに潜んでいる何人かと至近距離で擦れ違った。

 結果、ジロジロ見られたが、特に問題なく素通りだ。

 こんな時間に女が一人で歩いているなんて、この街どころかこの世界では珍しいのだが――しかし今夜は例外だ。至るところに天使目当ての奴らが出張っているからな。俺もそんな野次馬の一人、あるいはそれ関係で出てきた冒険者的な存在に見えるはずだ。

 ――よし、ここまではOKだ。何一つ計画に狂いは生じていない。

 一つ路地を曲がった大通り沿いにある目当ての病院は、すぐそこだ。

「……多いな」

 やはり病院関係は監視者が集まっているようだ。気配でわかる限りでも二十人以上はいる。多すぎだろ。見張りすぎだろ。
 じいさんの仕込みで、裏の鍵は開けてあって、元冒険者のブルムが先に侵入している手筈になっている。さすがにこの状態でダリアベリーに鍵開けとか頼めないからな。普通に泥棒扱いで捕まっちまう。

 キーナとダリアベリーは、俺より先に、すでに入口付近に到着しているはずだ。何せ俺は歩いてきたからな。走っていったあいつらと比べりゃ移動時間が段違いだし。

 あとは、病院を見張る野次馬どもを追っ払えばいいだけだ。

 ――道中、引いてきた・・・・・からな。あとは唱えるだけだ。

「『照明ライト』」

 本来なら、発光する球体が生まれるだけの初歩の初歩にある光魔法だが、俺はこの魔法が秘めた応用力に気づいている。そして磨いてきた。

 この『照明ライト』の魔法は本当に面白い。
「置ける」し「まとえる」し「残せる」し「変形」もできる。
 更には「移動」も「点滅」も「分裂」も、なんなら「動かす」こともできる。

 つまり、だ。

 導火線のように引いてきた・・・・・魔力に『照明ライト』を使用すると、簡単に言えば、大通りに横たわる超長い蛍光灯の出来上がりというわけだ。

 あとは光を、ある程度の速さで「移動」させればいい。
 そうすれば――

「――天使だ!」

 暗闇を走る「天使のような形の光」に、みんな騙されて追いかけるってわけだ。

 大騒ぎしながら駆けていく連中を見送り、物陰から出てきたメイド二人と合流し、これまた堂々と病院のドアを開いた。

 ちなみに野次馬どもが追いかけていった『照明ライト』は、大通りの中程で空中に飛ぶようにして消えるようにしてある。というかもう消えてるかな。表は大騒ぎだ。




 先行していたブルムが説明していたようで、患者たちは俺が来ることを知っていた。まあその方が無難だよな。表で天使騒動が起こって、患者たちも一緒になって騒ぎ出したら俺も困るし。治療どころじゃなくなるし。

「ちょっと人数が多いのよね……」

 大丈夫かな。魔力。……もしもの時は通うか。さすがに「やってみたけど治せませんでした」であとは放置じゃ俺も患者も心苦しい。その時はクリフのじいさんに相談して、知恵を拝借しよう。一度は治療する以上、その人の完治まではやりたい。やりきりたい。これもけじめだ。

 まあ、でも、やはり何があっても天使は今晩で終わりにするけどな。


 
 
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