俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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163.いざ出航、始まりの島へ……

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「払っといて」
「……」

 壁に掛けられている帽子を見ていた弟に、水着の支払いを任せて表に出た。
 ……俺を見たクローナが穏やかな表情のまま、若干距離を取ったのが少し悲しい。
 とにかく水着だけは買ったようなので、もうそれでよしとする。

 ――と思ったら、話しかけられた。……若干距離を取ったまま。

「フロントフロン様。もしかして潜らせるおつもりですか?」

 熟練の水魔法使い、そして水着。
 二つの要素を考えればそう結論を出すのは当然だ。

「全員揃って船に乗ったら話すつもりだけれど、結論だけ言うとその通りよ」

 水魔法には、水中で息をする魔法がある。
 レンも使えるらしいが、クローナの方が適任だと言うから彼女に任せようと思う。

 だって水中で何かあったら……魔法効果が切れるようなことがあったら、大変だろ。
 水魔法のことは詳しくないが、下手すりゃ溺死したり水圧に潰されたりするかもしれない。絶対に凄腕の熟練者にやってほしいとは思うからな。
 魔法に関してはレンよりクローナを信じると言っているだけだ。

「わたしの調べと読みでは、財宝は隠された・・・・んじゃなくて、沈んだ・・・のよ」

 なんて思わせぶりなことを言ったが、全てはゲームの知識です。




 港で待つ班と合流すれば、すでに領主への挨拶と手続きを済ませたキルフェコルトが合流していた。しかも魚のパニーニ食ってた。ジングルと一緒に。

「準備できてんぞ」

 ――この小悪党の街サラ・ドジェス (只今「きわどい水着」ブーム中)は、常に繁栄と歴史の両方に海賊との縁があった。

 繁栄初期こそ、略奪目当ての海賊の襲撃を受けていたらしいが、村の規模が大きくなるに連れて海賊の襲撃はなくなっていった。
 村が街と呼べるほど大きくなった頃、しかし海賊はやってきた。目当ては略奪などではなく、食料や物資、船のメンテナンスなどの補給が目的だった。
 大きな港は、軍や兵隊が守っている。大事な航路を奪われまいと警備は厳重。
 いつからか、表立って補給ができない海賊たちにとって、ここは数少ない「安心して入れる街」になっていた。

 そして、手が回らないからと放置していた領主が異変を聞きつけ調査に乗り出した頃には、もう遅かった。
 海賊たちが「サラ・ドジェス」と勝手に呼び始め、自然と「この街の中での死闘は禁止」と掟ができていた。逆に言うなら「掟がないと困る」からできたわけだ。
 そう、そんな掟が必要になるほど、数多くの海賊たちが自由に出入りしていた。
 それも、海に関わる者なら知らない者はいないほどの札付きの悪人たちが、平然と。何人も。

 略奪者として最も恐れられた海賊団の長、皆殺しのヒース。
 海賊を専門に襲う海賊団、ガナッシュ艦隊。
 大海原の毒花と呼ばれた女性海賊団、ヒスタークラウン。
 ほんの一時期ではあるが、西海を支配したという武闘派海賊団、海帝ヒスター。

 そして、誰もが知っているキングオブパイレーツ、あらゆる海の財宝魔宝秘宝を集めたと言われる大海賊キャプテン・ギャット。

 ……こうして並べてみるとワ○ピースっぽいが、あくまでもこの世界の海賊の歴史に出てくる登場人物たちだ。ワンピー○読むくらいわくわくしながら調べたけどな。

 あ、ちなみに「皆殺しのヒース」は、別に襲った船の人間を皆殺しにはしていなかったらしい。なんかの偶然が重なって勝手に恐れられた、ある意味特大の風評被害を被っただけの人物だ、という説もあるそうだ。
 だって皆殺しにする理由がないからな。そんな完全に潰す系の略奪ばっかやってたら、最終的に襲う相手がいなくなるからな。そしたら海賊同士で潰し合うことになるからな。

 大物ばかりが集うようになったサラ・ドジェスに、領主は手が出せなかった。
 兵を派遣しても相手は海賊、分が悪いと見ればすぐに海に逃げる。派遣するだけでも金は掛かる。常駐させれば徒党を組んで襲われる。正直もうどうしようもなくなり、また放置された。

 そんなこんなで街はどんどん大きくなり、人が集まり……まああと色々あって、ここは領主が住まう街として確立した。
 が、今はそれはいい。
 海賊たちが横行したのは昔の話で、まあ今もいるっちゃいるらしいが、この大陸が平和になってしまった今は派手にやればすぐに潰されるくらいには、優秀な海軍が揃っている。特に西海は安全な航路となって久しい。

 だがしかし、サラ・ドジェスはまだ、現代でも、海賊との縁が続いている。
 子孫たちの多くが海賊の血を引いているらしいが、まあそれはともかくとして、今は「大海賊ギャットの宝探し」というイベントで客を集めているのだ。
 
 まず「宝探しに参加します」という手続きが必要になる。参加者一人につき一日金貨一枚……一万円の参加費を収めねばならない。
 これをしないと「領土で発見された歴史的価値のある拾得物・発掘物は、全て領主の物となる」という法に基づき、財宝は全部没収されることになるからだ。

 次に、船のレンタル。
 今回キルフェコルトは中型の帆船を借りたようだ。操舵士……いわゆる運転手を含めて。領主の紹介らしい。あと船乗りも数人だ。……タトゥーマン率たけえな。超こええ。
 この世界では誰もが魔法を使える。つまり風魔法使いがいれば、自然の風を待たなくても船は進む。よって船乗りたちは風属性らしい。

 ここまでで五十万くらい使っているかもしれない。
 なんか「お試し一週間パック」とか「たっぷり三ヶ月パック」とか「大海賊パック (がっつり本気の半年分)」とか、セットメニューのお得な料金プランもあるらしい。ボロ儲けだな、領主。

 ぶっちゃけこれからすぐに見つける予定なので、俺たちは一日あれば充分だ。なんなら半日でもいい。




 レンタル船に乗り込むと、風を受けて広げられた帆が膨らむ。

「お客さん! まずはどこへ向かうんだ!?」

 アクロディリア(おれ)のウエストくらいある二の腕にアンカーの刺青を入れた、キルフェコルトよりでかいムキムキなおっさんが、帆を調整するロープを引きながら腹に響く銅鑼声を張り上げた。

 お客さんであるところの制服+メイド集団の視線が、俺に集まった。

 ――さすがにこれは、弟には任せられないからな。だって目的地は言ってないし。

「『始まりの島』へ!」

 始めて大海賊ギャットの財宝が見つかった、ここから見えるほど近い島へ行くよう告げると。

「始まりの島へ!」
「面舵ぃーーーー!!」

 嫌でもテンションが上がるような声が空に広がり、そして船はゆっくりと動き出した。

 ……でも、どんなにテンション上がろうと、冒険の予感がビシバシ感じられようと。

 マジですぐ見つけちゃうつもりなんだけどね。




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