蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~

南野海風

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204.今年の番の儀式は

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 記憶にないがカカラーナ様に会ったからだろうか、無性に神や神の使いを信じたくなってしまった。
 いや、信じたのだろう。

 だから断罪の雨が降る間は、婆様と一緒に、白蛇の神に祈りを捧げる生活を送ることにした。

 祈って、酒を呑んで、祈って、酒を呑んで。
 節制と清貧と粗食くらいは覚悟していたが、これほど偏ったひどい……いや、独特な信者のやり方があるとは思わなかった。

 祈りはカカラーナ様への感謝。
 酒は魂と身体を清めるものであり、カカラーナ様へ少しでも近づくためのものらしい。

 ……そういう風に考えると、戦士たちは非常に敬虔なるカカラーナ様の信者と言えるのかもしれない。
 普段の尋常じゃない呑み方の理由の片鱗が見えた気がした。

 酒量は関係ないというのが救いだった。
 婆様は結構呑んでいたが、私は一口程度である。

 それでも、そんな生活が二日も続けば強かに酔い、何度も寝落ちというか、気を失うほど頭がぐらぐらしていた。

 ――その間に、確かに神の存在を感じた気がした。

 すぐ傍にいるような、あるいは現実以外の場所で会っていたかのような。
 魂の分離だのなんだのといろんな考え方があるらしいので、やはり確かなことは言えないが。

 ただ、私にも白鱗が生えた。
 正式に白蛇エ・ラジャ族の一人と認められた。

 年に一回くらいは、こんな過ごし方でカカラーナ様のことだけ考え祈る時があっても、いいと思った。
 それくらいには、私はここでの生活が好きで、ここにいられることに感謝している。

 アーレとの出会いは、今や私の全てだから。




 今年もきっちり三日間降り注いだ断罪の雨が止むと、すぐに寒くなってきた。

 地面が乾いた頃に、今年も番の儀式をやるようになった。
 去年は、婚約者同士が多かったのでまとめてやることになったが、本来は一組ずつの催しである。

 集落問題で割れていたせいで、二年分の儀式が停滞していたのが理由だ。

 本来なら、別日に一組ずつ。
 あるいは午前と午後で分けて二組だ。

 基本的に一生に一度であろう結婚式だから、まあ男性はともかく、女性は花飾りを用意したり特別な服を作ったりと気合が入るものなのだとか。

 今年は、なんだかんだで四組の番が誕生することになった。
 付き合っている男女はいるが、いざ結婚となると当人同士だけの問題ではない……というのは、どこの世界でも同じだと思う。

 そして――




 秋のある日の夜。
 毎日のように来ているカラカロが、ケイラを隣に呼んで族長アーレに頭を下げた。

 ――ケイラと番になりたいから許しをくれ、と。

 今日も来ている女性戦士たちがわくわくしながら展開を見守る中、アーレは「許す」と返した。

 いい酒の肴ができたとばかり周りがわっと湧くが、アーレはこう続けた。

「だがカラカロ、ケイラはもう我の家族でもある。我の家族を絶対に泣かせるな。おまえは父親とは違うということを生涯証明し続けろ。約束できるな?」

 前族長が色々アレだったからこそ出た言葉である。

「約束する。大切にする。俺はケイラがいればそれでいい」

 気持ちのいい即答だった。

 こうして、いよいよというか満を持してというかやっぱりというか結果は見えていたというか、ケイラとカラカロの結婚が決まった。

 ほぼ毎日のように会いに来て「結婚したい」と言い続けたカラカロに、やっとケイラが返事をした形である。
 私と同じように、ほぼ半年の逢瀬の果てで互いの気持ちが繋がった結果だ。

 家庭の問題を抱えていたカラカロの母親たちは、まだあと一人残っているはずだが、彼女の再婚先は先方との折り合いで、冬を越えてからゆっくり向かうことになっている。
 母親が一人いるくらいなら大丈夫だろうと、母親を入れた三人で相談して決めたそうだ。

「あと留守番を頼む。我らは新婚旅行に行くから。ジータにはもう頼んである」

「その話はもういいぞ。もう八回くらい聞いたし、返事もしただろう」

「楽しみなんだよ! 我慢ができんくらいにな!」

「わかった。後は任せて行け」

 ちなみにケイラは、もう二度とフロンサードに戻る気はないそうだ。
 彼女も覚悟を決めてここに来た、ということだ。

 私も本来なら、帰るつもりはなかったから……ケイラもいずれ心変わりしたり、帰る理由ができたりするかもしれない。

 ……いや、こういう覚悟は女性の方が腹が据わっているのかもな。




 去年まとめてやった番の儀式だが、通常は別個にやる。

 一つ一つに分散するせいか、準備にはそんなに手間は掛からなかった。
 去年がかなり大掛かりだったのだ。それしか知らない私からすると、拍子抜けすくらいだった。

 そしてやることは去年と大して変わらない。
 宴用の料理を作って振る舞うだけだ。

 それを四回ほど繰り返し、最後の儀式でケイラを送り出し、今年の番の儀式は無事終了した。

 一応秋以外にも結婚式の申し込みはあるそうだが、滅多にないらしい。
 冬の白蛇エ・ラジャ族の弱さや、子供のことを考えると、やっぱり秋の結婚が推奨されるそうだ。

 ハクとレアも、乳母がいてくれて助かったからな。
 同じ時期ならなにかと支え合えるということもあるのだろう。




 イベントは粛々と消化され、ついに今年の狩りを締めくくる狩り納めの宴も開かれ。

 いよいよ旅立ちの日がやってきた。



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