蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~

南野海風

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227.新婚旅行  四日目

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「――というわけで、今日と明日は外出しないで過ごしてほしいんだが、どうかな?」

 朝食の席で、アーレとタタララに予定を告げた。

 昨日話した通りだ。
 今日と明日は外に出ないで過ごしてほしい、と。

 その間にリカリオ・ウィークのことを調べる、というのは伏せておく。
 直接の関係はないので、説明が面倒臭いのだ。
 する方も、聞く方も。

 まあ何にせよ、他でもないカリア嬢からの要望なので、聞き入れないわけにはいかない。

 なお、ナナカナは覗いていたのでもう知っていることである。

「外に出ないのか?」

「ああ。天気もよくないし、そうしてほしいんだ」

 夜の内に流れて来たらしい雨雲が、空一面に広がっている。
 まだ雨こそ降っていないが、今にも降り出しそうなので、そういう意味でも妥当な予定だと思う。

「まあ我らは構わんが。なあタタララ」

「そうだな。酒さえあれば文句はないよな」

「うむ。こっち・・・は酒の種類がやたら多いから、いつもより酒が楽しみでいいな」

 ああ、うん。

「さすがに午前中から呑むのはやめてくれるかな」

 それは本当にダメ人間のやつだ。せめて昼食を食べた後からにしてほしい。

「そう言われると困るな。ここではやることがないぞ。二度寝くらいだ」

 え?

 ……あ、そうか。

 戦士たちは家事はしないが、だからといって暇であるわけでもないのだ。

 家では暇があれば武器の手入れ、骨や石の研磨、狩猟道具の点検と、戦士業に関わることは全部自分でやっている。

 だが、ここには手入れする武器も研磨する骨や石もない。

「――いや、アーレ。やることはあるだろう」

「あ? ……あっそうか! おい言うなよタタララ!」

「言ってないだろ。むしろおまえが騒ぎすぎなんだよ」

 ……?

「レイン、今は気にしないでくれ。いずれ話す」

「あ、ああ……わかった」

 今のアーレとタタララの話はまったく心当たりがないが、今は私に隠してやることがある、ということでいいのだろうか。
 まあ、二人が退屈しないで過ごせるなら、私はそれでいい。

「では、今日と明日はそういうことで」

 リカリオ殿の問題はあるが――これはこれで好都合。
 幸いアーレにもやることがあるらしいので、今日と明日は私の自由時間にできそうだ。

 望外に湧いた自由時間だ。
 この先、こんな時間が取れるかどうかはわからない。

 効率的にやるべきことをこなしていこう。




 この屋敷に厄介になってから、食べ歩きだなんだとウィークの街を知ることができた。
 多少なりとも土地勘が育っているので、一人で出歩いても迷うことはないだろう。

 雨が降りそうなことだけが気になるが、雨より得難い自由を活かす方を優先せねば。

 朝食が終わると、アーレとタタララはいつも酒を呑む空き部屋に消えた。
 やることがあると言っていたので、そこで何かをやるのだろう。

 ナナカナは、カリア嬢が面倒を見てくれるそうだ。
 理由はわからないがあの子を気に入ったらしく、図書室で紅茶を飲みながら本を読んだり話をしたりするそうだ。
 私はこそっと「ナナカナは参謀に興味があるんだ。策士が策に溺れた失敗談をいっぱい教えてやってほしい」とカリア嬢に頼んでおいた。

 彼女は嬉しそうに了承した。
 嬉しそうなところが非常に引っかかった。
 彼女の隣に立つジャクロン殿が心配そうに私を見ているのにも引っかかった。

 もしかしたら、私はとんでもない人にとんでもないことを頼んでしまったのかもしれない……
 そんな一抹の不安を感じるが、気のせいと振りきった。

 今は立ち止まっている時間も惜しい。

「――どこか行くのか?」

 フレートゲルトには察知された。付き合いが長いからわかるのだろう。

「ああ。向こう・・・に持って行きたいものがたくさんある」

 こうして前例ができた以上、もう二度とこちら・・・には来ない……とも言いづらくなったが、気軽に来られる安全性と距離ではないのは変わらない。

 特別な用事でもなければ、またやってくることもないだろう。

 要するに、二度と来ないかもしれないので、この自由時間を有効活用したいのだ。
 
「俺も付き合う」

「いい。一人の方が早い。それに私はもう庶民だ、護衛なんて上等なものを付けられる身分じゃない」

「おまえのためじゃない。万が一にもおまえに何かあったら、誰がアーレとタタララを止めるんだよ」

 …………

「もっともだ」

 もし私に何かあったら、あの二人は街中を探すだろう。それこそ森の向こう・・・の住人であることが露見してもお構いなしに。
 なんなら、邪魔する者を殺しながらでも、暴走するかもしれない。

 というか、すると思う。

 この短期間に、あの二人……いや、私の嫁の性格はしっかり把握したようだ。まあわかりやすいしな。

「ではついてきてくれ。少しばかり慌ただしいが、時間を無駄にはできない」

「ああ。俺は馬を用意するから、おまえも外出の準備をしろ」

 フレートゲルトは外へ向かい、私は自室へ戻り外出の準備をすることにした。




 さて、まずはどこへ向かうべきか。
 どこからどう回るのが効率的で無駄がないだろうか。



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