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00.二十一の戦乙女
しおりを挟む「――おのれ……おのれぇぇぇぇええええ!!」
異形の者が吼えた。
憤怒の声が天を衝く。
怒り、憎悪、屈辱、あらゆる負の感情に空気が淀む。
「うるさい」
「槍の乙女」の槍が鋼のように固い黒い皮膚を易々と切り裂き、異形の者の腹を貫く。
「ぐおおおおおおお!!」
逃がすまいと槍を掴む異形の者は、腕を振り上げた。
触れずとも、その衝撃だけで地面をえぐる、凶悪なる一撃。
槍を握ったまま防御体勢を取る「槍の乙女」だが――しかし、振り上げた異形の者の爪が振り下ろされることは、ついになかった。
「迂闊ね」
「緑の乙女」の放った刃の魔法が、異形の者の腕を斬り飛ばしていた。青黒い液体を撒き散らしながら高く舞い上がる。
「そろそろ終わりと致しましょう」
「槍の乙女」が引くのと入れ替わるようにして、「鉄の乙女」が異形の者の前に立ち、長く長く鍛錬を積んだ剛拳を叩き込んだ。
「後は頼みますよ」
岩を割るほどの重い拳は槍で付けられた傷をえぐり、追の蹴りで異形の者を宙に吹き飛ばした。
異形の者は考える。
認めたくないが、明らかな劣勢。
いくら多対一とは言え、たかが人間相手に遅れを取っているという事実。
異形の者は宙に止まり、揺るがぬ真実を認め、覚悟を決めた。
「貴様ら!! 殺す! 必ず殺してやる!!」
――ここは逃げる。そして一人ずつ確実に、絶対に殺す、と。
身体が震えるほどの屈辱を押さえ込み、憎しみに滾る目で人間たちを見下ろす。
己が恨むべき顔を、心に刻み込むために。
槍の乙女ザッハトルテ。
緑の乙女ロゼット。
鉄の乙女テンシン。
そして。
――もう一人がそこにいないことに、ようやく気づいた。
「殺す? 無理だと思うがな」
もう一人は、空に、自分の背後に、いた。
「――『氷の四角』」
振り向く間はなかった。
そして、それ以上思考する間もなかった。
傷口から侵入した神の力が、一瞬にして体内を浸食する。
凝固。
体内の水分が固まる――認識できたのはそこまでだ。
真四角の氷が閉じる。
内外から凍らされ、閉じ込められた異形の者は、
「――『『粉々』」
最後の声さえ聞くことはできず、氷として、粉々に砕かれた。
輝く氷の粒とともに、乙女は降臨する。
氷の乙女アイス。
二十一の神の巫女、神の力を授かり人の世を護る。
人は彼女たちを、尊敬を込めてこう呼んだ。
神が選びし戦乙女、と。
「ねえ聞いた? ワラビモチから聞いたんだけどさ」
「アプリコットさんのことですか?」
「そうそう! あいつ最近、魔物狩り来ないじゃん? どうもくせーなぁって思ってたんだけど、やっぱ臭いわ」
「おや。本当ですか?」
「本人に確認を取ったわけじゃないから確証はないけど、会いに言っても会えないし。前に会ってもう三ヶ月見てないしさ。明らかに何かはあったでしょ。
なんかあるならそろそろじゃない? 結婚式の招待状とか来るかもよ? アイス姉さん、どうする?」
「フン。決まっているではないか」
氷の乙女アイスは、堂々と答えた。
「――破り捨てる! そして呪いの手紙を返す! これが我らの祝福のやり方である!」
誰もが「違う」と思ったが、氷の乙女の顔が真剣すぎたので、何も言えなかった。
彼女たちは、神々が選びし戦乙女。
巫女という側面があるため、異性との触れ合いを禁じられし戦う者たち。
特に、氷の乙女アイス。
先月の頭に二十三回目の誕生日を迎え、決して、まったく、ちっとも嬉しくない盛大な誕生日パーティーを祝われた者。
結婚適齢期をすっかりオーバーし、いつの間にか二十一の戦乙女の中で、年長となってしまった者。
すでに乙女とは呼べなくなってしまった、なかなかどうにもならない業を背負いし彼女は。
今日も世界中の恋人たちに、氷のように冷たい呪詛を唄い、憎しみの炎を燃やしている。
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