私がネズミになって世界の行方を見守ってみた

南野海風

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60.平凡なる超えし者、学園祭でも通常運転する……

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「――ふう……疲れた」

 おっと。珍しいな。

 それとなく聞いていただけなのに、その疲れきった溜息ははっきりと聞こえてしまった。
 興味を抱くと同時に、ちょっと心配もしてしまった。
 滅多に弱音を吐かない人物だけに。

「――ようやく終わりましたね」

「――ああ。本当に疲れた。毎年この時期は……公務の方がまだマシかもしれん」

 隣室の様子を伺うことはできないが、きっとキルフェコルトは椅子の背もたれに寄りかかって脱力し、クローナはそんな王子のために紅茶とお茶請けを用意しているのだろう。

 学園祭前日の夜だった。

 学校イベントがあっても私には関わりがないので、いつも通り本を読んだり昼寝したり散歩がてら兄アクロの様子をみたり過ごしていたが。
 そんな私が気の毒に思えるほど、キルフェコルトとクローナの生活は加速度的に忙しくなっていた。

 かなりの率で、クローナはキルフェコルトと行動する。
 まあ護衛も兼ねてるらしいからね。

 それでもメイド仕事もあるので、キルフェコルトが雑事で拘束される時間、クローナは部屋のことをしていた。その時間の中に空いた時間が、休憩に当てられていた。私と過ごす蜜月の時である。

 しかし、そんな貴重な休憩時間が減り、部屋にいる時間も減り、ついには朝部屋を出て夜まで帰らないという日々となってしまった。

 そして学園祭前日の夜である。

 門限があると聞いていたが、今日の帰宅はそれをオーバーする時間だ。
 確か、最上級生は何もせずただ参加するだけ、という話だったはずだけど。
 まあキルフェコルトは生徒会長だからね。ただ参加するだけってわけにはいかないよね。

「――おまけに次期国王も決まったしな」

 あ、決まったんだ? ってことは今の王様に報告が済んで、その辺の手続きだのなんだのも重なったんだね。

「――公式発表は卒業と同時期になるんですよね?」

「――ああ。しかし根回しはしておかんとな。そんなに時間はない」

 大変だねー王族って。

「――飯も食いっぱぐれたな」

「――そうですね。この時間ですし、食事の調達は難しいかと。保存食に取ってある乾パンと干し肉くらいしかありませんが」

「――フッ。明日こそ忙しいのに前日からこの様ではな。我ながら手際が悪い。王になったところで先が思いやられる」

 ふーん……弱音の似合わない筋肉王子だなぁ。その筋肉は飾りかよ。プレッシャーくらいマッスルポーズで跳ね返せよ。まあプライベートでくらいは許されるのかな。

 仕方ない。

 おーいクローナー。野菜と果物なら用意できるぞー。

「――あ、食料の当てがあります。少々お待ちください」

 隣の部屋に思念を飛ばしてみたら、クローナが上手いこと合わせてくれた。

「――本当か? 時間が時間だ、簡単なもので構わんからな」

 さて。
 次期国王が決まったお祝いに、ちょっとだけ奮発してやるかな。
 季節の変わり目でもあるし、病は疲れている時に襲ってくる。食事はちゃんと取っとかないとね。

 秋の野菜と干し肉を入れたスープとデザートの葡萄は、間に合わせにしてはかなり豪華だった。私も少し貰いましたよ?




 そして、学園祭当日。

 外は朝から騒がしい。
 ゲームでは二日間行われて、一日目は生徒と生徒の関係者のみ。二日目は一般人も入れて大々的なイベントをやる。

 「純白のアルカ」ではアレだったな。
 一日目はデートで模擬店なんかを回り、二日目は闘技大会に出たり出場する攻略キャラを応援したりしていた。
 特に、二日目の闘技大会は、国王が来て見学したり現役の騎士が参加したりしたはずだ。

 最近忙しくてあんまり話もできていないクローナがざっと教えてくれたが、二日目は本当に王都のお祭りのような騒ぎになるそうだ。
 まあ普段は見ることができない国のトップが現れ、血湧き肉踊る恰好のイベントがあり、更に一般人も来るっていうなら、盛り上がらない方が問題だろう。

 なお、今日明日は学校の前の大通りに露店がずらーっと並び、街の露天商が商売をしているらしく。
 キルフェコルトが昨夜遅くまで働いていたのは、偏に、外で商売をする連中の登録と調整に追われていたせいだ。
 勝手にやらせたら場所取りで揉め、ケンカが始まるんだとか。だから数年前からもう学校介入で登録料を取って場所を割り振り、公認という形にして治めたそうだ。

 まあ何はともあれ、学園祭である。

 よーし、だらだら寝て過ごすぞー。
 見つかるのも嫌だし人ごみも嫌だしー。

 まあ真面目な話、クローナみたいにスピリチュアルな奴と遭遇したら、本当にバレちゃうからね。
 その時、生徒のフリして紛れ込んでいたら、返って不審者になってしまう。

 もし紛れるなら、明日だ。
 一般人が入れる時間に、一般人として紛れ込めば、少なくとも不審者ではなくなる。
 スピリチュアル系にバレても「人じゃないのは確かだけどただの客ですよ?」って顔して言い訳もできるしね。

 ……でも、今のところ、あんまり興味はないかな。

 確か、攻略キャラのラディアスっていうナンパな騎士志望のイベントがあったな。
 毎年あいつの兄が来るんだよね。たぶん今年も来ているだろう。

 そして、フラグさえ回収していれば、今年こそ勝てるってシナリオになっていたはず。あいつの恋のキーポイントは、騎士である親兄弟への劣等感だからね。
 アルカとラディアスの仲が親密なら、色々起こると思うけど。

 ただ、それでも私には関係ないからなぁ。
 できれば何事もなく過ぎてくれればいいなぁ。




 祭りの日でも、だらだらいつも通り過ごし、陽が暮れた。
 本番こそ一番忙しいのだろう生徒会長は、やはり夜遅くになって帰ってきた。

「――闘技大会に出られないのは歯がゆいな」

 キルフェコルトはそんなことを言いながら部屋に入ってきて、椅子が軋む音がした。

「――これで三年間出場できないことになりますか」

「――生徒会長としての用事やら仕事やらが増えるのは許容できるが、これだけは毎年受け入れがたいぜ」

「――そのセリフも三年間言い続けましたね」

 ああ、明日の闘技大会出たいのか。筋肉さんは。でも生徒会長だから出られないと。きっと出場じゃなくて裏方として働くのだろう。

「――結局ラディアスとは公式戦で決着はつけられなかったな……それが心残りだ」

 あ、ラディアスの名前出た。ナンパな騎士志望ね。そうそう、剣の腕はキルフェコルトと張り合うとかなんとかって設定だったよね。
 まあ、ゲームでは、だいぶ微妙な設定にされていたけど。
 キルフェコルトが火力重視の重戦士なら、ラディアスはスピード重視の軽戦士だった。

 武器補正の高いキルフェコルトは最初から強かったけど、ラディアスは完全に大器晩成型だった。
 作中最強武器とか装備させないと、あんまり強くなかったから。スピード重視なだけならクルスの方が高いしね。

「――ところでクローナ。『謎の美少女剣士サンライト仮面』の身元は特定できたか?」

 耳を疑ってしまった。
 今あの王子、なんつった?

 謎の?
 美少女剣士?
 セーラー○ーン? ああ、あれは美少女戦士か。

「――……十中八九間違いないかと」

 多分に呆れの混じったクローナの返答に、キルフェコルトは爆笑した。ちなみに私にはグサッと突き刺さった。違う可能性もあるのに。あるはずなのに。我ながら短絡的思考と言わざるを得ないほど早とりであるはずなのに。日本のアニメ情緒溢れた偽名だってたまたまなはずなのに。はずだよね? はずだよさ。

「――あの女は本当に面白いな! なあ!?」

「――私からはなんとも」

「――バレると思うか!? それとも騙せると思うか!?」

「――顔が見えなくても絶世の美女とわかり、コルセットなしで抜群のスタイルをキープし、目も眩むシルクのような金髪の女性が、そう何人もいるわけがないじゃないですか」

 あれ? なんか特徴に覚えがあるような? 気のせいかな? 気のせいだよ。

「――ちなみに、剣の腕はなかなかのものらしいぜ? なんとも貴族の剣にしては野蛮らしいがな」

「――剣の師が冒険者ですからね。装飾の剣ではなく実戦の剣なのは間違いないかと」

「――またメイドに怒られるんだろうな」

「――もう諦めているんじゃないですか。私が彼女の立場なら、もう諦めていると思います」

 …………

 明日の闘技大会、見学に行こうかなぁ。

 怖いもの見たさ、って感覚がだいぶ強いけど……






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