これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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女子会

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「…というわけで、日浦君と付き合うことになりました」

舞の報告に、一瞬しーんと静まりかえったと思ったら、いち早く我に返った唯奈が慌てたように言った。

「お、お祝いしなくちゃ!理恵子さん、お赤飯!!…なんて、あるわけないか…」
「あるよ。ちょうど昨日、職場のパートさんに手作りのやつをもらったんだ。食べる?」
「って、あるんかい!」

ここは理恵子の住むマンションの一室。
今日は平日だが午前診療で午後から休みだったので、仕事終わりにそのまま唯奈と一緒に、理恵子の家にお邪魔して、女子会中だ。

「日浦さんって、楠野さんと舞さんが飲みに行ったときに、居酒屋の居場所を聞いてきた人ですよね?高校の同級生で、サークルの声優をやってるっていう。急展開すぎません?」

手土産として持ってきたはずのシュークリームを頬張りながら、唯奈が舞に聞いた。

「あの時は2人ともありがとう。もし日浦君が来てくれなかったらって考えたら、ゾッとした」
「そんなの当然だよ。でも、ごめんね。私も日浦君に聞くまで楠野君が既婚者だなんて知らなくて」

申し訳なさそうに眉を下げた理恵子の横で、唯奈もぎゅっと悔しそうに唇を噛む。

「私も知りませんでした。知ってたら絶対に飲みに行かせたりしなかったのに!」
「気にしないで。2人のせいじゃないんだから」
「酔った舞さんをラブホに連れ込もうとするなんて、犯罪です!ってか、七瀬さんも知らなかったらしいですよ、楠野さんが既婚者だってこと」

『七瀬』とは、舞の職場によく来る製薬会社営業の男性で、楠野と再会するきっかけになった飲み会の発足者だ。
楠野は、七瀬の大学の先輩という関係で、飲み会に参加していた。

「七瀬さんの話によると、楠野さんとは一か月前に飲み屋で偶然会って、今回の飲み会に参加することになったそうです。ほんっと楠野さんってクズですよね。セフレを探すために飲み会に参加するなんて、奥さんが可哀想。…七瀬さん、今回の事で舞さんにめっちゃ謝ってて、楠野さんとは縁を切るって言ってましたよ。…あ、ちなみに、お陰様で七瀬さんと矢野ちゃんは付き合うことになったみたいです」
「そっか。よかった」

楠野と再会した飲み会は舞にとって嫌な記憶になってしまったが、2人が恋人になるきっかけになったならよかったとホッとする。

「そうだ、理恵子さん。日浦さんの写真はありますか?どんな顔か見たいです!」
「あるよ。去年の飲み会のやつ。えっと、確かこのフォルダに…」
「なんで理恵ちゃんに聞くのさ!」
「だって舞さん、恥ずかしがって見せてくれなさそうなので。…あ。ありがとうございます。って、めっちゃイケメンじゃないですか!顔面偏差値やば!」
「しかも大手自動車販売店営業のエースという好物件だよ!」
「きゃー!高収入イケメンなんて最強じゃないですか!」
「ちょっと!あまり騒ぐとお昼寝中の菜穂ちゃんが起きちゃうよ!」
「大丈夫。案外図太いから、うちの子」

部屋の隅の小さな布団でお昼寝中の菜穂に視線を向けると、確かにこれだけ騒いでるのにスヤスヤ眠っている。

「テンション高いね、二人とも」
「そりゃそうですよ!あの二次元しか興味なかった舞さんに、三次元の彼氏ですよ?」
「私も。日浦君と舞ちゃんがくっついてくれて嬉しい」
「…ありがとう」

からかわれてるのかと思いきや、本気で祝福している様子にじーんときてしまった。

「それで結局、その亡くなった先輩と日浦さんがした約束って何だったんですか?」
「ああ、それは…」
「『10年間友人関係を壊さないこと』だよね?」

説明しようとした舞の言葉を遮って、理恵子が言う。

「え?理恵ちゃん、知ってたの?」
「うん。実は、麦野先輩から聞いてたんだ。黙って見守ろうって先輩と決めてたから、今まで言えなくてごめんね」

まさか理恵子が先輩と日浦の約束を知っていたなんて。
理恵子とはもう10年以上の付き合いになるが、彼女と恋愛の話をした事はほとんどない。
両親が離婚して三次元の恋愛を嫌悪している舞に気を遣っているのかと思ったが、それだけではなかったらしい。

「えっと、いつから?」
「んー。日浦君がサークル入ってきてすぐの頃かな?そもそも、あの人がうちのサークルに入ってくること自体おかしいし、舞ちゃんばっかり見てたからもしかしてって思って事情を知ってそうな先輩に聞いたの。そしたら教えてくれた。下手に口を出すとこじれそうだから、舞ちゃんが相談してきたら話そうと思ってたよ」

知らなかった。

「そもそも、日浦さんとその先輩は、何でそんな約束したんですか?」
「…えっと」
「そうだ、ちょっと待ってて!あれ、取ってくる!」

唯奈の質問に、どう説明しようか考えていると、何かを思い出したらしい理恵子が立ち上がって寝室に消えて行った。
不思議に思いながら待っていると、戻ってきた彼女の手には高校の卒業アルバム。
パラパラとページを捲って目的の人物を見つけた舞は、明るい茶髪の男子生徒を指さす。

「このチャラい人が、高校時代の日浦君ね。この見た目も原因なんだけど、過去に日浦君の元カノが舞ちゃんに嫌がらせをしたこともあって、先輩は日浦君を信用してなくて、サークルに入りたいって言った時に大反対したんだよね。でも結局、どれだけ舞ちゃんが好きか熱弁されて、10年間友人として接することが出来るならって許可したんだって」

(なんか恥ずかしいんですけど)

「でもなんで10年なんですか?長すぎません?」
「それについては私も聞いたんだけど、『当時、そういう漫画があったからなんとなく』だって。深い意味はなかったみたい。まさか亡くなった後もずっとその約束を守ってるなんて、当の先輩も思わなかったんじゃないかな。日浦君の執着って怖いよねー」

最後は軽くディスりながら、理恵子はいつもより饒舌に話す。

「あと、約束を守るご褒美として、収録の度に先輩は日浦君に、舞ちゃんの情報を話してたんだって。好きな色とか、誕生日とか。だから日浦君の猫の名前が『なめこ』なのは、拾った日に舞ちゃんの好きな味噌汁の具を教えてもらったからで…」
「わー!もういいから!やめて!これ以上は恥ずかしい!ってか理恵ちゃん!何でそんなに嬉しそうなの?」
「だって、ずっと誰にも言えなくて我慢してたんだもん。テンション上がっちゃう。いやー。2人がくっついてくれて本当に嬉しい」
「…とにかく、日浦さんが舞さんにベタ惚れなことは理解しました」

それからしばらく、三人でアルバムを見ながら思い出話に花を咲かせていたが、ふと、今回の女子会の目的を思い出してハッとする。

(そうだ。あの事を二人にお願いしなきゃ!)

「…あのね。実は、二人にお願いがあるんだけど…」

真剣な口調で言った舞の言葉に、顔を上げた二人は不思議そうに瞬きをした。
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