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中学生
第109話 揺れる評価
パリの昼。
ホテルのロビーは、相変わらず落ち着いた空気に包まれていた。観光客のざわめきと、スタッフの静かな動き。そのどちらもが心地よく混ざり合い、非日常でありながら不思議と馴染む空間を作っている。
その一角で、燈由はソファに腰掛け、タブレットを見つめていた。
画面には、自分に関する記事や動画、そして数えきれないほどのコメントが並んでいる。
「……まだ伸びてる」
ぽつりと呟く。
再生数は朝の時点よりもさらに跳ね上がっていた。
「すごいね、ほんとに」
どこか他人事のように言いながら、指先で画面をスクロールする。
評価は大きく分かれていた。
――「革命的」
――「表現力が異次元」
――「新しい時代のモデル」
その一方で。
――「でも身長はやっぱり足りないよね」
――「モデルとしては異端すぎる」
――「女優として見るなら分かる」
「……まあ、そうなるよね」
小さく息を吐く。
完全な賛辞だけでは終わらない。
それもまた当然だった。
「読んでる?」
隣に座り込んできたのは、容子さんだった。
「うん」
タブレットを少し傾けて見せる。
「評価、結構分かれてるね」
「分かれてるねえ」
容子さんは腕を組む。
「でもこれ、かなり良い分かれ方だよ」
「そうなの?」
「うん」
指で画面をなぞりながら説明する。
「“全員が褒める”より、“賛否があるけど印象に残る”方が強いの」
「へえ」
「特に今回みたいに、“常識を崩すタイプ”はね」
「……なるほど」
納得したように頷く。
もう一度画面を見る。
「でも」
少しだけ言葉を選ぶ。
「やっぱり気になる?」
容子さんが横目で見る。
「うん、ちょっとだけ」
正直に答える。
「身長のこととか」
「うん」
「どうしようもないしね」
「それはそう」
容子さんもあっさり頷く。
「でも、それ込みで評価されてるんでしょ?」
「……うん」
「だったら問題ないよ」
軽く言い切る。
「むしろ武器になってる」
「武器かあ」
少し考える。
「今まで気にしたことなかったけど」
「これからは意識する?」
「……どうだろ」
少しだけ笑う。
「たぶん、あんまり変わらないと思う」
「らしいね」
容子さんも笑った。
そのとき、近くのテーブルでスタッフたちが何やら話しているのが耳に入る。
「例の子、見た?」
「見た見た、すごかったよね」
「でも賛否あるらしいよ」
「まあ、あれはそうでしょ」
ちらりと視線がこちらに向く。
すぐに逸らされるが、明らかに話題の中心は自分だ。
「……聞こえてるね」
「聞こえてるね」
小さく笑い合う。
「どうする?」
容子さんが冗談っぽく言う。
「乱入して解説する?」
「やめて」
即答。
「恥ずかしいから」
「珍しい反応!」
「普通に恥ずかしいよ、それは」
くすっと笑う。
少しだけ沈黙が流れる。
その間にも、タブレットの通知は増え続けている。
新しい記事。
新しい考察。
新しい評価。
「……揺れてるね」
ぽつりと呟く。
「うん?」
「評価」
画面を軽く叩く。
「すごいって言われたり、違うって言われたり」
「それが普通だよ」
容子さんはあっさりと言う。
「むしろ揺れてるってことは、ちゃんと見られてるってこと」
「ちゃんと、か」
「どうでもいい人には、何も言われないからね」
「……それはちょっと寂しいね」
「でしょ?」
容子さんは笑う。
「だから今の状況は、かなりいい」
「そっか」
小さく頷く。
「じゃあ、気にしすぎなくていいかな」
「うん、気にしすぎないで」
「でも全く気にしないのも違うよね」
「それもそう」
二人で顔を見合わせる。
「難しいね」
「難しいね」
同時に言って、少し笑う。
燈由はタブレットを閉じた。
「……とりあえず」
「うん?」
「次、どうするか考える」
「出た、前向き思考」
「だって、もう終わったことだし」
「それはそう」
容子さんは立ち上がる。
「次の打ち合わせ、もうすぐだよ」
「行こっか」
立ち上がる。
ロビーを抜ける。
外の光が眩しい。
パリの街は、今日も変わらず動いている。
その中で、自分の評価もまた動いている。
上がったり、下がったり、揺れながら。
「……ねえ」
歩きながら、燈由が口を開く。
「なに?」
「もしさ」
少しだけ空を見上げる。
「全部の評価がなくなったら、どうなると思う?」
「え?」
容子さんは一瞬考える。
「それ、誰も見てないってこと?」
「うん」
「それは……」
少し間を置いてから答える。
「たぶん、一番つまらない」
「だよね」
納得したように笑う。
「じゃあ、今は楽しいね」
「そういうことになるね」
軽やかな足取りで進む。
評価は揺れる。
でも、それでいい。
揺れている限り、止まってはいない。
燈由は、その流れの中を進んでいく。
自分のままで。
次に何を見せるかを、考えながら。
ホテルのロビーは、相変わらず落ち着いた空気に包まれていた。観光客のざわめきと、スタッフの静かな動き。そのどちらもが心地よく混ざり合い、非日常でありながら不思議と馴染む空間を作っている。
その一角で、燈由はソファに腰掛け、タブレットを見つめていた。
画面には、自分に関する記事や動画、そして数えきれないほどのコメントが並んでいる。
「……まだ伸びてる」
ぽつりと呟く。
再生数は朝の時点よりもさらに跳ね上がっていた。
「すごいね、ほんとに」
どこか他人事のように言いながら、指先で画面をスクロールする。
評価は大きく分かれていた。
――「革命的」
――「表現力が異次元」
――「新しい時代のモデル」
その一方で。
――「でも身長はやっぱり足りないよね」
――「モデルとしては異端すぎる」
――「女優として見るなら分かる」
「……まあ、そうなるよね」
小さく息を吐く。
完全な賛辞だけでは終わらない。
それもまた当然だった。
「読んでる?」
隣に座り込んできたのは、容子さんだった。
「うん」
タブレットを少し傾けて見せる。
「評価、結構分かれてるね」
「分かれてるねえ」
容子さんは腕を組む。
「でもこれ、かなり良い分かれ方だよ」
「そうなの?」
「うん」
指で画面をなぞりながら説明する。
「“全員が褒める”より、“賛否があるけど印象に残る”方が強いの」
「へえ」
「特に今回みたいに、“常識を崩すタイプ”はね」
「……なるほど」
納得したように頷く。
もう一度画面を見る。
「でも」
少しだけ言葉を選ぶ。
「やっぱり気になる?」
容子さんが横目で見る。
「うん、ちょっとだけ」
正直に答える。
「身長のこととか」
「うん」
「どうしようもないしね」
「それはそう」
容子さんもあっさり頷く。
「でも、それ込みで評価されてるんでしょ?」
「……うん」
「だったら問題ないよ」
軽く言い切る。
「むしろ武器になってる」
「武器かあ」
少し考える。
「今まで気にしたことなかったけど」
「これからは意識する?」
「……どうだろ」
少しだけ笑う。
「たぶん、あんまり変わらないと思う」
「らしいね」
容子さんも笑った。
そのとき、近くのテーブルでスタッフたちが何やら話しているのが耳に入る。
「例の子、見た?」
「見た見た、すごかったよね」
「でも賛否あるらしいよ」
「まあ、あれはそうでしょ」
ちらりと視線がこちらに向く。
すぐに逸らされるが、明らかに話題の中心は自分だ。
「……聞こえてるね」
「聞こえてるね」
小さく笑い合う。
「どうする?」
容子さんが冗談っぽく言う。
「乱入して解説する?」
「やめて」
即答。
「恥ずかしいから」
「珍しい反応!」
「普通に恥ずかしいよ、それは」
くすっと笑う。
少しだけ沈黙が流れる。
その間にも、タブレットの通知は増え続けている。
新しい記事。
新しい考察。
新しい評価。
「……揺れてるね」
ぽつりと呟く。
「うん?」
「評価」
画面を軽く叩く。
「すごいって言われたり、違うって言われたり」
「それが普通だよ」
容子さんはあっさりと言う。
「むしろ揺れてるってことは、ちゃんと見られてるってこと」
「ちゃんと、か」
「どうでもいい人には、何も言われないからね」
「……それはちょっと寂しいね」
「でしょ?」
容子さんは笑う。
「だから今の状況は、かなりいい」
「そっか」
小さく頷く。
「じゃあ、気にしすぎなくていいかな」
「うん、気にしすぎないで」
「でも全く気にしないのも違うよね」
「それもそう」
二人で顔を見合わせる。
「難しいね」
「難しいね」
同時に言って、少し笑う。
燈由はタブレットを閉じた。
「……とりあえず」
「うん?」
「次、どうするか考える」
「出た、前向き思考」
「だって、もう終わったことだし」
「それはそう」
容子さんは立ち上がる。
「次の打ち合わせ、もうすぐだよ」
「行こっか」
立ち上がる。
ロビーを抜ける。
外の光が眩しい。
パリの街は、今日も変わらず動いている。
その中で、自分の評価もまた動いている。
上がったり、下がったり、揺れながら。
「……ねえ」
歩きながら、燈由が口を開く。
「なに?」
「もしさ」
少しだけ空を見上げる。
「全部の評価がなくなったら、どうなると思う?」
「え?」
容子さんは一瞬考える。
「それ、誰も見てないってこと?」
「うん」
「それは……」
少し間を置いてから答える。
「たぶん、一番つまらない」
「だよね」
納得したように笑う。
「じゃあ、今は楽しいね」
「そういうことになるね」
軽やかな足取りで進む。
評価は揺れる。
でも、それでいい。
揺れている限り、止まってはいない。
燈由は、その流れの中を進んでいく。
自分のままで。
次に何を見せるかを、考えながら。
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