老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
322 / 385

第322話 竜、里へ降り立つ

しおりを挟む
「そろそろ到着じゃ」
「相変わらず速いのう」
「ほら、あそこがお父さんとお母さんが住んでいたところですよー」
「あー♪」
「あーう♪」
「……うぉふ」
「わん」
「こけー」

 雲がかかっている大きな山が眼下に見え始め、ディランが到着を促す。
 ロクローが顔を綻ばせて速いと口にしていた。
 トワイトが下を見せながら小さく見える里を指して教える。双子は相変わらず高いのに怖がらずに喜ぶ。
 だが、ヤクトやルミナスはドラゴンの住処ということで警戒の声を上げていた。
 勝手知ったる山なので、ディランは広い場所へ近くへ降り立つ。

「ワシは行かん方がいいかのう?」
「いや、追い出された側なんだから行くべきだろう。説明をしっかり聞かせて欲しいんだよねボクは」
「ふむ。啖呵をきって出て来たから戻りにくいがのう」
「まあいいじゃありませんか。一年は経過していないですけど、こっちは色々変わったことが多かったですし里も変わっているかもしれませんよ」
「あい」
「お前は来たことがないだろう」

 ディランは難しい顔をしていたが、ゾンネアは追い出された側のドラゴンは居て欲しいとのこと。
 トワイトもそれほど気にしなくてもいいと腰に手を当てて言う。そもそも、年寄りだから追い出されたのが不当なのだからと。
 リヒトがトワイトの真似をして賛同するが、ボルカノは笑いながら突っ込んでいた。

「ま、とりあえず行くか」
「うむ。ディラン達は後ろをついてきてくれ」
「さて、年寄りはどれくらい減ったかだな」

 ゾンネアは難しい顔をして年寄りドラゴンがどれくらい追い出されたのかを確認したいと足を進める。

「……止まれ、ここを竜の里と知っての来訪か?」
「もちろんじゃ。わしらの顔を忘れたか?」
「なんだと? ……!? あ、あんた達は!?」
「シンタ、お前も偉くなったもんじゃのう」
「ボ、ボルカノ爺さん……!? いえ、これは……」

 シンタと呼ばれた若い男が鋭い目を向けて来た。しかし、ボルカノの姿を見た瞬間ぎょっとして冷や汗をかく。

「通してもらうぞ」
「ちょ、ロクローさんもいるのか!?」
「あーい!」
「あうー!」
「え? 赤ちゃん? ドラゴンの着ぐるみ……?」

 門番を担っていたらしいシンタを押しのけてボルカノとロクローが里へ入っていく。
 慌てて止めようとしたところで、ダルとルミナスに乗っているリヒトとライルが手を上げて挨拶をしてすり抜けて行った。
 呆然とするシンタの前へディランとトワイトがやってくる。

「久しぶりじゃのう」
「あなたが門番だなんて頑張ったのね」
「……!? ディ、ディラン爺さん……!? どうしてここへ」
「里帰りだよ。ボクは追い出されてないし、招待したんだ。いいだろう?」
「ゾンネアおばさん!? ……ぐあ!?」
「お姉さん……だろう?」

 ゾンネアに小突かれて呻くシンタをよそに一行は中へ入っていく。
 
「ふむ、特に変わったことは無さそうじゃが……?」
「家屋もそのままだし、集会所も残っているな」
「コケー?」
「こけー?」

 のどかな里の風景が広がっており、特になにかあったようなことはなかった。
 そこへ呑気にてくてくと放し飼いにされているニワトリが歩いてきた。
 ジェニファーを見て首を傾げ、近づいていく。トサカの大きさからして雄鶏のようだ。

「ぴよー」
「コケー♪」

 そこでひよこも居ることに気づき、嬉しそうに鳴く。仲間が増えたと思っているのかもしれない。

「うぉふ」
「コケー!?」
「あーい!」
「わふ……」
 
 しかしヤクトが匂いを嗅ぎに来た瞬間、雄鶏はびっくりしてどこかへ走って逃げてしまった。
 遊ぼうと思っていたリヒトがヤクトに声をかけ、しょぼんとしてしまう。

「……しかし妙じゃな、外に出ておるものがおらん」
「そういえばそうですね。畑仕事をしたりする時間のはずですけど」
「あーう?」
「自宅へ行って来るわい。もう誰かが住んでいるかもしれんが」
「俺も行こう。アビーを置いて来たままだからこの機会に連れて行くつもりだ」
「そういえば居ついたら呼ぶと言っていたな。サルエイスもどっかにおるかのう」

 ディランは目を細めて周囲を見る。そういえばと他にドラゴンが居ないことに気づいた。
 気にはなるが異変はないため、ひとまず散って元自宅などを確認しに散っていく。
 ボルカノは妻のアビーを探しに行き、ロクローは封竜《シールドラゴン》のサルエイスも居ないか呟きながら立ち去る。

「ワシらも家へ行ってみるか?」
「そうですね。トーニャちゃん達が戻った時は無人だったらしいですけど、この子達も居るしお家を見せてあげましょうか」
「そうするか」
「わほぉん」
「ボクはここに家が無いから一緒に行くよ。少なくとも君たちを追い出した若者に話を聞きたいのだがね」

 話し合いの結果、自分達も家へ行こうと決めて歩き出す。ゾンネアは旅竜のため家が無い。ここへ帰ってきたら誰かの家で寝泊りするため、必要がないのである。
 とはいえ、目的はこの里から追い出した連中から話を聞きたいとゾンネアが再三口にする。

「あの時はシュウとザグスじゃったかな」
「ふむ。双子君を家に置いたら探しに行こうか」
「ぷひー」
「あーい♪」
「あーう♪」
「あら、子豚ちゃん? どこから来たのかしら」

 そこへ子豚がリヒト達の前に現れ小気味よく鳴く。新しい生き物に双子は喜び、でんでん太鼓を叩いて歓迎した。

「ぴよー」
「ぷひー?」
「なんだか汚れている子ね? 洗ってあげるから連れて行きましょう」
「あい」

 レイタが子豚をみてついばむ。
 よく見ると泥に汚れたようになっており、トワイトは洗おうと連れて行くことに決めた。
 そのままダルが歩いていくと、子豚はとことこと着いてきてくれた。ジェニファーやひよこ達もその後についていく。

「誰か居るか?」

 そして自宅に帰り入口で声をかける。
 ディランの声には反応がなかったので、扉を開けた。そこは出て行った時のままであった。

「まあ、半年ちょっとくらいじゃし誰もおらんか」
「久しぶりの畳ですね。それじゃ靴を脱ぎましょうか」
「あーい」
「あうー?」

 いつも家では靴を脱いでいるので二人は了承する。ダル達も足を拭いてもらい土間から畳の上に移動する。
 遊戯室は床が木なので畳は初めてである。みんながその不思議な床に興味を示していた。

「あー……♪」
「あうー……♪」
「わほぉん……♪」
「あら、なんだか眠りそうですね」
「畳で寝るのは割と気持ちええからのう。畳部屋を作るか?」
「あーい♪」

 なぜかリヒトとライル、そしてダルが畳の上でうっとりとした顔を見せていた。
 そこでディランがまた増築を考えていた。

「さて、それじゃそろそろ――」
「よう、邪魔するぞ」
「ふん、来たか」
「誰かのう。開けていいぞ」

 ゾンネアが土間でそろそろ調査に出るかと言おうとしたところで、外から声がかかった。ディランは顎に手を当てて玄関を開けるように言う。
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者の心が読めるようになりました

oro
恋愛
ある日、婚約者との義務的なティータイムに赴いた第1王子は異変に気づく。 目の前にいる婚約者の声とは別に、彼女の心の声?が聞こえるのだ。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...