老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第335話 人、ひとまずフリをする

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「グラーデン国の騎士達よ! 我が名はアクティ! サリエルド帝国を落としたくば我らを倒していくのだな!」
「我が名はデッガ! その意気や敬意に値する!」

 空を駆けていくディラン達の下では騎士団同士の接敵があった。
 待ち受けていたサリエルド帝国騎士団長の一人、アクティが名乗りを上げる。
 そしてグラーデン国の騎士も剣を掲げて名乗りを上げた。

「その敬意を表して、私はアクティ殿に一騎打ちを申し入れたい!」
「な……!?」
「なんだって……?」

 さらにデッガは剣をアクティへ向け、一騎打ちを挑んできた。
 不意打ちからのドラゴンを連れている完全優勢な状態での一騎打ちにサリエルド帝国の騎士たちは驚愕の表情を見せた。
 しかし、これは好機と見てアクティは馬を一歩前へだした。

「アクティ殿……!」
「案ずるな、ここで彼を倒して相手の士気を下げる! 受けてたとう!」
「そうこなくてはな! 行くぞ!」

 デッガは馬を操り、右手の剣を振り上げた。迎え撃つ形のアクティ。
 接近すると、デッガは剣を勢いよく振り下ろす。直線的な一撃は読みやすいとアクティは剣を受け止めた。

「そんなものか!」
「やるな! ……すまない、このままの状態を維持してくれるか?」
「なに……!」

 鼻を鳴らしながら大したことは無いといった感じで返すと、デッガは小声で鍔迫り合いを維持してくれと頼んできた。
 驚くアクティだが、なにか情報を手に入れられるかと小さく頷いた。

「……この度の侵攻、こちらも解せぬことがあってな。ヘルシャフト王女の指示ではあるが、どうも怪しい。ルーガスという男が来てから、和平に向けて動いていた王女が手のひらを返して侵攻を命じてきた」
「黒竜は?」
「どこから来たのか不明だ。そのルーガスという男の仲間とやらが城に出入りするようになってな。あいつらが恐らく黒竜ではないかと」

 正体は分からないが黒幕はそいつであろうとデッガは目を細める。
 実際に黒竜であるが、ドラゴン状態を見せていないようで城の人間達には怪しい男たちという印象でしかないらしい。

「我々はひとまず出撃して王女の意向を汲んだ。だが、私の部隊のみで残りは城の調査に残っている。とりわけ、ルーガスという男を追い出す必要がありそうなのでな」
「そういうことか……ではどうする?」
「一度このまま拮抗状態で戦うふりをしてくれ。しばらくしたら後退して陣を構える」
「承知した」
「そちらにはドラゴンが居ると聞いている。空に浮かぶあいつらになにか出来るといいのだが」
「それは問題無さそうだ。あれを」
「……金色のドラゴン」

 アクティが上を向くとギーラとトーニャ、そしてその後をディランが追いかけていくのが見えた。
 あれは強そうだとデッガがフッと笑い、剣に力を込めた。

「動きのない黒竜は恐らく観察役だ。すまないが少々時間を稼がせてもらう」
「受けてたとう……!」

 そして再び騎士二人が戦いを始める。
 決して鈍くはない剣だが、お互いの攻撃はクリーンヒットしない。まるで踊るように剣撃が続く。
 デッガの言葉は欺く目的はなく、もちろん他の騎士にも通達は行われていた――

「……戦争か、民を傷つけるなら相手になるぞ」
「オーレル様! オラたちも戦うだ!」
「おお! ここで足止めしてりゃ陛下がなんとかしてくれる!」
「いや、我々は……」
「死んでも譲らないからね! ほら、前領主様もなんか言ってやりなよ!」
「ひぃ!? 私を前に出すな!? 今の領主はオーレルだろ!?」
「大丈夫、我々は……」
「こ、来ないでくれぇぇぇぇ!?」

 風車のある領主の土地にグラーデンの騎士たちが集まっていた。それと同時に、ザミールの父で現領主のオーレルや町や村人も集合している。
 サリエルド帝国側は徹底抗戦の構えで、威嚇していた。リヒトとライルの祖父のダニーや叔父のキーラも矢面に立たされていた。
 なにかを言おうとしているが、興奮状態なのでなかなか話ができないでいた。

「ええー……ぐあ!?」
「副団長!? いったいなにが!?」
『……!』
『……!』

 そこへ空から降って来たソルが手にした剣で先頭にいた騎士の頭を殴っていた。
 鈍い音が鳴り響き、副団長と呼ばれた男が叫んでいた。
 そしてエレノアと共にしりもちをついているキーラの前に立つ。
 
「うおおお兄貴……!! 俺を守ってくれたのか……!? ありがとう兄貴!」
『……!』
「兄貴ってこれ、ソル様かい……?」
「なんだっけ、東の国の置物だろこれ? キーラ様、ついに……」

 埴輪を掴んでむせびなくキーラを見て町の人がごくりと唾をのむ。ついに……の後は別の声で遮られた。

「ソル、エレノアさん!?」
『……!!』
「ああ、まさかここに来てくれるなんて……」
「わしもおるぞ」
「ロクローさんも!?」

 その声は里帰りをしていたミルザ……ザミールだった。 人をかき分けて前へ出てきた。ソル達とロクローを見て驚きを隠せない。

「うごおお……か、兜があるのに痛い……!? 一体何者……!」
『……!』
「こやつらが敵か? わしが相手に……」
「おう!? 待て待て! 別に攻撃しにきたわけではない!」
「なんだって? ロクローさん、ソル、話を聞いてみよう」
『……』

 副団長がよろめきながら立ち上がり、ソルを見るとサッと剣を構えた。
 副団長が慌てて手を振って待ったをかけると、ザミールが訝しむ。しかし争わないのであればと、まずは話を聞く提案した。

「――というわけで、現状我々はあの黒竜を操っている者がルーガスという男なのではないかと疑っているのだ」
「ルーガスか。なんかディランがそんなことを言っていたような気がするのう」
「知っておられるのですか?」
「さっき飛んで行った金色のドラゴンじゃ。もしかすると化けの皮を剝げるかもしれん」
「それは心強い……」

 説明をすると、ロクローが顎に手を当ててルーガスのことを口にしていた。副団長は少しほっとしたような顔になる。

「これから我々はどうしましょう?」
「このままなんとなく『追い詰められた風』を装っていただきたい。空からこちらを見ている可能性があるのでな」
「……」
『……』
「ふん、空を飛べれば一掃してやるのじゃが」

 そして――

「……!? なんだ、大量のドラゴンがグラーデンへ向かっている!?」
「どういうことだ……あれは我々も聞いていないぞ? 一人、国へ伝令を回せ! 状況を確認したい!」
「ハッ!」

 ディランの後におかしくなった若いドラゴンが通過していき、戦慄する。

「この世の終わり、みたいな光景だな……」
「だけどさっきディランさんが飛んで行った。多分、なんとかなると思います」
「うむ。さて、どうするかのうこっちは」

 ザミールは真面目な顔でそう呟き、ソルとエレノアが頷いていた。
 ロクローは若い衆を見ながらどう動くか考えるのだった。
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