老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
71 / 385

第71話 竜、家へ帰る

しおりを挟む
 雑貨の店を出たディラン達は食材の店へと足を運び、買い物を続けていた。

「まだ坊ちゃんは歯が生えていないならミルクだけになるな。もう少し大きくなったらトウモロコシスープならいけるんじゃないかな」
「トウモロコシは家で生育しておるのう。ウチで育てていない野菜を買おうか」
「毎度! このニンジンなんてどうだい?」
「早く大きくなって色々食べられるといいねえ」
「あー♪」

 野菜屋では自宅で育成していない野菜を購入。
 話題はリヒトで、こういうのもその内食べると良い、といったような話をしていた。
 ヒューシは王都に腰を据えて活動しているため、だいたい顔見知りのためディラン達はすぐに馴染むことが出来ている。

「また来てくれよ!」
「リヒト君、また連れて来てねー」
「その内にな」
「それでは」

 野菜屋の夫婦はほっこりした顔で見送ってくれた。特に奥さんの方はもう子供も大きくなっているためリヒトが可愛かったようだ。

「どこでも人気だなリヒト」
「あーい?」
「あら、指を咥えてはダメよ? 恐らく大人しいのもあるんでしょうね。ちゅー♪」
「あー♪」

 ヒューシがトワイトに抱っこされているリヒトに顔を近づけて、人気者だと笑う。リヒトはそんな彼を見て人差し指を咥えて首を傾げていた。
 トワイトはリヒトの指を口から外してキスをする。

「こうやって笑っているのを見ると、拾ってくれたのがお二人で良かったと思いますね」
「お父さんの耳が良かったから助かったわ」
「赤ん坊が捨てられているなどダメじゃからのう」

 ヒューシは次のお店へ向かう途中、小声でそう口にしていた。
 夫婦は助かる者を助けただけだと言う。
 そのまま魚屋へと立ち寄り、数匹を購入。そしてメインであるお肉の店へと到着した。

「お、ヒューシじゃないか。高い肉、食えるようになったかー? って、ガルフ達は?」
「別行動だ。今日はこっちのご夫婦が買いに来た」
「お? おお、そうなのか。いらっしゃい! 牛や豚、鶏に魔物と取り揃えているよ!」
「こけ?」

 そこでジェニファーがカバンから顔を出した。店主がそれを見て、おや? と漏らす。

「そのニワトリを預けてくれるんですかい?」
「こやつはウチのペットじゃ。食うてはならん」
「こけー!?」

 なんだか嫌な予感がしたジェニファーが、叫びながら慌てて首を引っ込めた。
 その叫び声でリヒトのポケットにいたひよこ達が目を覚ました。

「ぴよ……?」
「ぴよー?」
「あーい♪」
「ぴよぴー♪」

 リヒトが目を覚ました。ひよこ達を撫でると、彼等は嬉しそうに鳴いた。

「おお、そんなところにひよこも……ペットだったら食えねえな、そりゃあ」
「そういうことです。あと、お家にわんちゃんも三頭居るんですけど、いいお肉あります?」
「へえ、ニワトリと犬を一緒に」
「あ、いや……ちょっといいかい」

 トワイトの言ったことに店主が感心していると、ヒューシが少し考えてから店主だけを引っ張って話しかけた。

「なんでい?」
「犬じゃないんだ。あの人達の家に居るのは」
「なんだ?」
「……アッシュウルフだ」
「……!? 魔物じゃねえか……」
「まだ大きくなっていない個体だけど」

 それなりに凶悪な魔物の名前が出て冷や汗をどっと噴出させる店主。成狼ではないとヒューシが言うと、さらに続ける。

「よく飼いならしているな……よほど強靭な鎖でもつけているのか? あの二人は貴族か?」
「いや、山で放し飼いなんだ」
「嘘つくなよおめえ!?」
「信じられないかもしれないが本当だ。僕達も可愛がっている。だからアッシュウルフが好きそうな肉を頼みたい」
「すげえな……」

 肉を扱うということはどういう個体なのかも知っているのが肉屋である。
 それならと、肉を冷やす魔法がかかった箱を開けて物色する。

「グレードオックスはアリか…アッシュウルフって硬いすじ肉も好きだったよな確か――」
「ダルやルミナスが喜ぶといいですね」
「待たせておるから、いいものを食わせてやりたいわい。ジェニファーとひよこ達はウチの米が一番贅沢な食い物じゃからおやつの木の実とか買うか」
「ぴよー♪」
「よし、これならどうだ! ギッドブルのモモとヒレ、それとマッドガゼルのあばら付き骨肉だ! 人間が食っても美味いやつだ!」
「ほう、こいつは中々じゃ。買おう」

 立派な肉をドン! と、目の前に出してきてディランの眉が上がった。匂いと色で間違いない一品というのを確信して買っていた。
 
「毎度ー!」
「それで良かったですか? ちょっと高くなりましたね、すみません」
「まあ金は使ってなんぼみたいじゃし、良かろう。また稼ぐわい。あとは服の生地か」
「そうですね! 行きましょう」
「あー♪」

 意気込んだトワイトが生地の店へ行くも、あまり気になるものは無かったとのことで普通のタオル生地のようなものだけ買った。

「残念……」
「ま、そういうこともあるわい」
「デーモンスキュラの糸とかさすがにありませんよ……」

 がっかりしているトワイトだが、口にしたのは強さも素材もレアな魔物のものばかりで女主人は知識が凄いと褒めつつ、レア中のレアだから簡単には入らないことを告げられた。

「里の近くにいるのだけど、倒しておけば良かったわ」
「うん、トワイトさんなら倒せると思うけど僕達からしたらSランク近い魔物だよ。そろそろ戻りますか?」

 ヒューシが呆れながら返して、屋敷へ戻るか確認した。夫婦は頷き、再び屋敷へと戻っていった。

「もどったぞ」
「お、ヒューシか! ディランのおっちゃん達も! 買い物は?」
「バッチリじゃ」

 屋敷へ戻るとすでにガルフ達も帰ってきており、馬車から荷物を運びこんでいた。
 買い物が終わったことを確認すると、親指を立てて笑う。

「こっちも布団やら着替えなんかを買ってきたぜ。懐が寂しくなったけど、陛下からもらった報酬だしいいよな?」
「ああ。助かる。他のみんなは?」
「中に居るぜ。なんかお揃いの食器を買ったとかで盛り上がっているから、俺が荷台から出してるってわけ」
「ワシも手伝おう。トワイトとリヒトは庭で遊んでおるとええ」
「こけー」
「ぴよっ!」

 女子は仲良く買い物をした品の品評会をしているとガルフが肩を竦めていた。
 ディランは、まあ折角だし好きにさせておけとガルフの手伝いをすることにした。

◆ ◇ ◆

「……!」
「うぉふ?」
「わん?」

 自宅にて、アッシュウルフ達がリビングでくつろいでいるとダルが太い尻尾を立てて身体を起こす。
 なんだなんだとヤクトとルミナスも顔を上げると、ダルは一声鳴いた。

「わほぉん」
「うぉふ!」
「わん♪」

 なんとなくいいことがありそうな気がするとダルが語り、二頭は色めき立つ。
 そこで外から草が揺れる音がした。

「わほぉん!」

 ダルは早速、ディランの作った出入り口を使って外に出た。きっと主人達が帰って来たに違いない、と。
 
 すると――

「わほぉん……」
「うぉふ」
「わん」

 ――そこには誰も居らず、風でガサガサと草が揺れているだけであった。

 ヤクトとルミナスもディラン達が帰って来たと、いそしんで外へ出た。しかしすぐにとぼとぼと家に戻って寝そべった。
 早く帰ってこないかなと三頭はリビングでゴロゴロするのだった――
しおりを挟む
感想 688

あなたにおすすめの小説

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる

まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!  続編も宜しくお願い致します! 聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です! 婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。 王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。 彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。 有り難うございます! 前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった! お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥ ふざけてますか? 私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね? いいんですね? 勿論、ざまぁさせてもらいますから! ご機嫌よう! ◇◇◇◇◇ 転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥ 国外追放ざまぁから始まっていた! アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥ 実は、女神ミレディアだったというお話です。 ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥ 結婚するまでの道程はどんな道程だったのか? 今語られるミレディアの可愛らしい? 侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り? ◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!  追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ! 新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様! 転生もふもふとようやくリンクしてきました! 番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。 家出してきたミルティーヌの真意は? デイブとミレディアの新婚生活は?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

忘れるにも程がある

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。 本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。 ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。 そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。 えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。 でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。 小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。 筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者の心が読めるようになりました

oro
恋愛
ある日、婚約者との義務的なティータイムに赴いた第1王子は異変に気づく。 目の前にいる婚約者の声とは別に、彼女の心の声?が聞こえるのだ。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

試験の多い魔導王国王家

章槻雅希
ファンタジー
法律の多いことで有名なカヌーン魔導王国。 だが、実は王族に対しての試験が多いことは知られていない。 カヌーン王家に属する者は王も王妃も側室も王子も王女も定期的に試験を受けるのである。試練ではない。試験だ。ペーパーテストだ。 そして、その結果によっては追試や廃嫡、毒杯を賜ることもある。 そんな苛酷な結果を伴う試験を続けた結果、カヌーン王家は優秀で有能で一定以上の人格を保持した国王と王妃によって統治されているのである。 ネタは熱いうちに打てとばかりに勢いで書いたため、文章拙く、色々可笑しいところがあるかもしれません。そのうち書き直す可能性も大(そのまま放置する可能性はもっと大きい)。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

処理中です...