老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第204話 竜、リヒトと買い物をする

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「うぉふ?」
「あい」

 屋敷を出て少ししたところでヤクトの背に乗っていたリヒトが背中をぽふぽふと叩いて止めた。そのまま降りると、ゆっくり歩きだした。

「ぴよー♪」
「うぉふ……」
「自分で歩きたいんじゃよ。ダルとヤクトはついてやってくれ」
「わほぉん」

 レイタやソオンと並んで歩いていくリヒト。彼を乗せて歩くのが好きなヤクトは残念そうに尻尾を垂らしていた。
 ディランが二頭を撫でてついてやれと言うと、ダルはてくてくとリヒトの後ろについた。

「うぉふ」
「うむ」

 ヤクトも役目をもらったと感じたのか、また元気よく尻尾を立ててリヒトの横についた。こけそうになってもすぐに掴めるのと助けやすいと思ったからだ。

「さて、市場はどっちかのう。米と野菜はあるし、メインの肉か魚、調味料くらいは買っていくか」
「あーい!」
「ぴよー!」
「む、転ばないようにな」

 整地されている道なので歩きやすく、トワイトがリヒトの足に合った靴を作っているためリヒトは興奮気味に駆け出した。
 ひよこ達もリヒトについて駆け出し、ダルとヤクトは少しだけ早足になった。

「あー♪」 
「あら、どうしたの? えっと男の子かしら?」

 ぽてぽてと少々不安気な足取りではあるものの、しっかりと地面を踏んで歩くリヒト。
 住宅街を出て商業区画へ行くため大通りを出ると、たくさんの人が往来していた。 
 そこで通りかかった女性にリヒトが笑顔で手を上げて挨拶をした。
 一瞬、目をぱちくりしていたがすぐリヒトに微笑みかけた。

「おお、すみませんなウチの息子が。これ、いきなり話しかけてはいかんぞ」
「あーう?」
「わほぉん?」

 ディランはすぐに駆け付けて女性に謝罪をする。すると女性は手を小さく振りながら返事をする。

「ああ、お父さんですか。元気な男の子ですね。ワンちゃん達のお散歩かな?」
「あい!」
「そんなところですじゃ。今から夕飯の買い物もついでに」
「いいですね! それではこれで。またねボク」
「あーい!」
「うぉふ!」

 女性はニコニコ顔のリヒトに釣られて、笑いながら去って行った。愛想がいいのはリヒトの長所である。

「まあ、ええか。危なそうな奴には近づかなさそうじゃし」
「あい?」
「ほれ、お散歩じゃ」
「あー♪」
「ぴよー♪」

 ディランが先に行き、しゃがんでリヒトの方を向いて手を叩く。もちろんリヒトは大喜びで太鼓を鳴らしながらディランの下へ走っていく。
 
「えー、可愛い。ひよこも凄くなついている」
「ペットをあんなに飼えるなんて貴族かな? いや、お父さんの服装はかなり普通だ……」

 もちろんその光景は目立つので通りを歩く人が注目していた。
 ディランに抱き着くリヒトやひよこ達を見て微笑ましいと和やかな気分になっていた。

「あ、ドラゴンのおじさんだ」
「ん? おお、お主は罰を受けている冒険者の」
「シスですよ! 今日は息子だけなんですか?」
「あーい♪」
「はい、こんにちは~♪」

 そこで冒険者パーティであるヴァンダールストのシスが通りかかった。
 ディランとリヒトを見て声をかけてきたようだ。
 シスがリヒトの頭を撫でてからディランへ聞く。

「どうしたんですか?」
「リヒトの元気が良すぎて山を走ろうとするんじゃ。だからここへ連れて来て散歩をさせておる」
「あー、そういう」
「あー」
「ぴよー」

 ディランが説明をするとシスは手をポンと打って納得する。そこでリヒトがシスの真似をして声を出しながら手をポンと打つ。

「え、なにこの可愛い生き物……! 抱っこしちゃう!」
「あー♪」
「人気じゃのう」

 シスが目を輝かせて自分の真似をするリヒトを抱っこすると、リヒトは喜んでいた。

「ドラゴンおじさんも、ドラゴンの姿は大人気じゃないですか」
「お主の仲間に喧嘩を売られたがの」
「あ、あはは、確かに」
「まあそれはええがの。どこへ行くのじゃ?」
「今日は休みだからお買い物でも。あの二人は昼間から酒場だし」
「酒か、ええのう」
「この子が居るから酒場はダメよ?」

 ディランがフッと笑うとシスは酒場は赤ちゃんを連れて行ったらダメだと口を尖らせた。

「そういえばお主はガルフ達は知っておるんじゃっけ?」
「え? ああ、ユリ達のパーティね。ガルフがウチのウェリスに稽古をつけてくれってたまにあるから」
「ほう」
「あう」
「わほぉん」

 ディランが意外だと顎に手を当ててシスの言葉に反応する。リヒトもまた真似をしていた。
 
「レイカに赤ちゃんが出来たって聞いたわ。だからパパとしてしっかり稼げるようにしようとしたんじゃないかなーって」
「そうじゃのう。それと死なないためじゃろうな」
「そっか……冒険者はそういうのがあるものね。ドラゴンおじさんが本気だったらあの二人は一瞬で消えていただろうし」

 シスは少し困った顔をして納得していた。そこでディランがそうだと思い出してシスへ言う。

「お主はガルフ達の家は知っておるのか?」
「え? うん、トーニャとも仲がいいわよ」
「そうか。今、屋敷で女子会とやらをやっておる。暇なら遊びに行ってもええんじゃないか?」
「あ、ホント?」
「まあ、エメリとフレイヤはたまたまだったみたいじゃが」
「あのエルフさんか……ま、話してみたかったしいいかも。ありがとう、行ってみるわ!」
「あーい!」

 ディランは知り合いなら屋敷もありかと提案をすると、シスは行ってみると頷いてこの場を去っていく。リヒトは手を振って見送ると、再び商店街へと向かう。

「こう考えると知り合いがそこそこおるもんじゃ」
「ぴよ」
「あう」

 そのまま通りを歩き、リヒトは興味深そうにきょろきょろと周りを見て声を出す。
 手に持った太鼓は手放さず、たまにヤクトやダルに掴まってバランスを戻していた。

「さて、見ていくか」

 一度、屋敷を買った際に来たことがあるため迷わず商店の並ぶ通りに到着した。そこから物色していく店を探すためディランも周囲に目を向けていく。
 そこでひと際大きなお店があることに気づいた。

「む、ここは大きいのう」
「ぴよー」
「あーう」
「ん? 入りたいのか? そうじゃのうちょっと覗いてみるか。雑貨屋のようじゃが面白いものがあるかもしれん」
「あい♪」

 そこは他のお店に比べて装飾などは地味だが外装などはキレイにされていた。
 ディランはその様子が気に入り、入ってみるかとリヒトへ告げて扉を開けた。

「すまない、ここはペットを連れていてもええかのう?」
「いらっしゃいませ、ちゃんと大人しくさせているなら構いません……ってディランさん!?」
「む、ザミールではないか」
「あーい♪」
「リヒト君も! どうしたんですか!?」

 その店はザミールのお店だったようで、品物を出していた彼と目が合った。
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