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旅の始まり
初めての町
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「へえ、じゃあお前は爺さんが死んで一人になっちまったから旅に出ることにしたのか」
「そう。とりあえず町に行って知っている人に会おうかなって」
「麓の町か? なら俺も戻るし一緒に行きゃいい」
お互い自己紹介を終え、男の名前がジェイということを知った。
『依頼』というものを受けて薬草採りをしているところに先ほどの群れに追い立てられたとのこと。
せっかくなので話を聞いて人間のことを知っておくのもいいのかもしれない。
じいちゃん以外の人間とはこの前の四人組が初めてだったし。
「爺さんが亡くなっちまったから町に仕事を探しに行くのか?」
「いえ、じいちゃんの知り合いを探そうと思って」
「どこにいるのかわかってんのかよ」
「まったく。もしかしたらじいちゃんと同じように死んでいるかもしれない」
「ええー……? それは――」
「あ、もしかしてあれかな?」
そう言うと僕を怪訝な目で見てくるジェイさんがなにかを口にしようとした時、先に剣が落ちているのを見つけて指さす。
するとジェイさんが嬉しそうな声を出しながら先を急ぐ。
「おお、見つかったか! 良かったぜ、なんとなくこっちだったと思ったが当たっててよ」
「良かったです。それで依頼というものは大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、薬草とキノコはきちんと採っているからこのまま帰れるぞ。行こうぜ」
そういって指を麓に向けて笑い、剣を鞘に納めてからまた歩き出す。
「それにしてもこんな山奥まで採りにこないといけないのは大変だ」
「……あー、えっとだな、何年か前までいいハイポーションを売りに来ていた人が町に来なくなってな、需要はあるが供給が足りないんだ。ま、おかげで俺みたいなしょぼい冒険者でも仕事にありつけるわけだが」
目を泳がせながらそんなことを言う。
ハイポーション……そういえばじいちゃんの体がまだ動いていたころは作って売りに行っていたことを思い出す。
回復魔法は貴重で使用者が限られているから薬は売れると言っていたっけ。
僕やじいちゃんは攻撃や生活魔法を使えるけど回復魔法は習得していない。仲間だったプリエさんのような神官といった聖職でないと難しいらしい。
神様というよくわからない存在に力を借りる神聖魔法だから『シンジンブカク』ないとダメなんだとか。けどそれがなんのことかは結局聞きそびれたままだった。
「シンジンブカイってどういうことか知ってる?」
「あ? いきなりなんだ? シンジンブカイって『信心深い』ってことか? 神官とかが祈りを捧げるって?」
「あ、そうそう。どういうことなのかなって。僕は山奥でずっと過ごしていたからそういうのに疎くて」
「爺さんは教えて……いや、世捨て人だったらあり得るか」
「?」
僕が首を傾げていると、ぶつぶつなにかを言った後にシンジンブカイについて話してくれる。
どうやら神様はこの世界をつくった凄い存在らしいんだけど、会ったことがある人間はいないそうだ。
だけどその神様が『居ると信じて』いてその想いが強いことをシンジンブカイというのだそう。
そうすることで信じてくれている人に癒しの力などの神聖魔法が使えるという話みたい。そう言われれば居るかどうかも分からない神様を信じるのは難しいと思う。
特にじいちゃんなんか頑固だったし使えないのはなんとなく分かる気がする。
でも――
「はは」
「ど、どうしたディン?」
「あ、ごめんなさい。教えてくれてありがとうジェイさん」
神様がもし居れば僕が人間になる手掛かりになるかも、と少し考えて笑う。今後なにかあったら神様を信じてみようかな?
まあ、居るかどうかも分からないから口にしてみるだけになりそうだけど。
『ヨステビト』も気になるけどそれを聞く前にジェイさんが口を開く。
「そういうわけで薬草採りは重要なんだよ。実際、魔王が倒されても魔物は減らないし魔族も消滅したわけじゃないから危険が多い。回復薬はいくらあっても足りないくらいだ。お前も薬草を採ったら薬屋に渡して小銭を稼いでおけよ」
「そうする」
薬は貴重ならもしかしたらと僕はあることを閃く。
それを実践するのは町についてからかなとジェイさんと山を下っていき、やがて麓へと到着した。
「よし、魔物に会わずにここまで帰ってこれた!」
「良かったね」
「もし出会ったとしてもディンが魔法使いで俺も剣を拾いなおしたからどうにかなったと思うけどな。まあなにも無い方がいい」
「あれが町なんだね」
「今、いいことを言ったんだから無視しないでくれよ……。ああ、来たこと無いんだったな。ここもまだ安全じゃないしさっさと行くか」
初めて見る町なので僕はそちらに興味がいっていた。
苦笑するジェイさんに連れられて町の入口へ近づいていくと、魔物から身を守るための高い壁が目に入り、格子状になっている門の前に立つ。
「冒険者のジェイだ開けてくれ」
「あいよ。ご苦労さん」
「僕も入って大丈夫かな?」
「ん? 問題ないぞ? 中で暴れたり犯罪行為をしたら牢屋行きだが、そんなことはしないだろう?」
「うん」
「なら問題ない。さ、入りな」
なるほど、人間なら町に入ることは難しくないんだな。ロウヤでなにをされるかわからないけど大人しくしておいた方がいいね。
そしてさらに内門を抜けるとついに僕は町という新たな場所へ足を踏み入れることができた。
「俺はギルドに行くけどディンはどうするんだ?」
「んー、僕も行こうかな。もしかしたら知り合いがいるかもしれないし」
「よく考えたら町に来たことが無いのに知り合いが居るのかよ……」
ジェイが呆れる中、僕は彼の背中を軽く叩きながら催促の合図をして再び歩き出した。
「そう。とりあえず町に行って知っている人に会おうかなって」
「麓の町か? なら俺も戻るし一緒に行きゃいい」
お互い自己紹介を終え、男の名前がジェイということを知った。
『依頼』というものを受けて薬草採りをしているところに先ほどの群れに追い立てられたとのこと。
せっかくなので話を聞いて人間のことを知っておくのもいいのかもしれない。
じいちゃん以外の人間とはこの前の四人組が初めてだったし。
「爺さんが亡くなっちまったから町に仕事を探しに行くのか?」
「いえ、じいちゃんの知り合いを探そうと思って」
「どこにいるのかわかってんのかよ」
「まったく。もしかしたらじいちゃんと同じように死んでいるかもしれない」
「ええー……? それは――」
「あ、もしかしてあれかな?」
そう言うと僕を怪訝な目で見てくるジェイさんがなにかを口にしようとした時、先に剣が落ちているのを見つけて指さす。
するとジェイさんが嬉しそうな声を出しながら先を急ぐ。
「おお、見つかったか! 良かったぜ、なんとなくこっちだったと思ったが当たっててよ」
「良かったです。それで依頼というものは大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、薬草とキノコはきちんと採っているからこのまま帰れるぞ。行こうぜ」
そういって指を麓に向けて笑い、剣を鞘に納めてからまた歩き出す。
「それにしてもこんな山奥まで採りにこないといけないのは大変だ」
「……あー、えっとだな、何年か前までいいハイポーションを売りに来ていた人が町に来なくなってな、需要はあるが供給が足りないんだ。ま、おかげで俺みたいなしょぼい冒険者でも仕事にありつけるわけだが」
目を泳がせながらそんなことを言う。
ハイポーション……そういえばじいちゃんの体がまだ動いていたころは作って売りに行っていたことを思い出す。
回復魔法は貴重で使用者が限られているから薬は売れると言っていたっけ。
僕やじいちゃんは攻撃や生活魔法を使えるけど回復魔法は習得していない。仲間だったプリエさんのような神官といった聖職でないと難しいらしい。
神様というよくわからない存在に力を借りる神聖魔法だから『シンジンブカク』ないとダメなんだとか。けどそれがなんのことかは結局聞きそびれたままだった。
「シンジンブカイってどういうことか知ってる?」
「あ? いきなりなんだ? シンジンブカイって『信心深い』ってことか? 神官とかが祈りを捧げるって?」
「あ、そうそう。どういうことなのかなって。僕は山奥でずっと過ごしていたからそういうのに疎くて」
「爺さんは教えて……いや、世捨て人だったらあり得るか」
「?」
僕が首を傾げていると、ぶつぶつなにかを言った後にシンジンブカイについて話してくれる。
どうやら神様はこの世界をつくった凄い存在らしいんだけど、会ったことがある人間はいないそうだ。
だけどその神様が『居ると信じて』いてその想いが強いことをシンジンブカイというのだそう。
そうすることで信じてくれている人に癒しの力などの神聖魔法が使えるという話みたい。そう言われれば居るかどうかも分からない神様を信じるのは難しいと思う。
特にじいちゃんなんか頑固だったし使えないのはなんとなく分かる気がする。
でも――
「はは」
「ど、どうしたディン?」
「あ、ごめんなさい。教えてくれてありがとうジェイさん」
神様がもし居れば僕が人間になる手掛かりになるかも、と少し考えて笑う。今後なにかあったら神様を信じてみようかな?
まあ、居るかどうかも分からないから口にしてみるだけになりそうだけど。
『ヨステビト』も気になるけどそれを聞く前にジェイさんが口を開く。
「そういうわけで薬草採りは重要なんだよ。実際、魔王が倒されても魔物は減らないし魔族も消滅したわけじゃないから危険が多い。回復薬はいくらあっても足りないくらいだ。お前も薬草を採ったら薬屋に渡して小銭を稼いでおけよ」
「そうする」
薬は貴重ならもしかしたらと僕はあることを閃く。
それを実践するのは町についてからかなとジェイさんと山を下っていき、やがて麓へと到着した。
「よし、魔物に会わずにここまで帰ってこれた!」
「良かったね」
「もし出会ったとしてもディンが魔法使いで俺も剣を拾いなおしたからどうにかなったと思うけどな。まあなにも無い方がいい」
「あれが町なんだね」
「今、いいことを言ったんだから無視しないでくれよ……。ああ、来たこと無いんだったな。ここもまだ安全じゃないしさっさと行くか」
初めて見る町なので僕はそちらに興味がいっていた。
苦笑するジェイさんに連れられて町の入口へ近づいていくと、魔物から身を守るための高い壁が目に入り、格子状になっている門の前に立つ。
「冒険者のジェイだ開けてくれ」
「あいよ。ご苦労さん」
「僕も入って大丈夫かな?」
「ん? 問題ないぞ? 中で暴れたり犯罪行為をしたら牢屋行きだが、そんなことはしないだろう?」
「うん」
「なら問題ない。さ、入りな」
なるほど、人間なら町に入ることは難しくないんだな。ロウヤでなにをされるかわからないけど大人しくしておいた方がいいね。
そしてさらに内門を抜けるとついに僕は町という新たな場所へ足を踏み入れることができた。
「俺はギルドに行くけどディンはどうするんだ?」
「んー、僕も行こうかな。もしかしたら知り合いがいるかもしれないし」
「よく考えたら町に来たことが無いのに知り合いが居るのかよ……」
ジェイが呆れる中、僕は彼の背中を軽く叩きながら催促の合図をして再び歩き出した。
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