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第一章:旅立ち
その1:冥王と大魔王
しおりを挟む「いける……これならどうだ! ‟冥哭斬”」
「どこに行こうかなー。あ、<リフレクトウォール>からの……<プライマルファング>!」
「な!? うおおおお!?」
俺の最高剣技は魔法壁であっさりと阻まれ、その後すぐに最上級魔法で全身をズタズタにされ片膝をつく。
「くっ……ま、まだ終わりではないぞ……!」
「はっはっは、まだまだだなザガム! 私を倒すには実力が足りなさ過ぎる。まあ、寝首をかこうとして奇襲をかけたのは魔族らしくていいし、その野心も悪くない。精進するんだな! ……さーて、サキュバスのジェーンちゃんとデートしてこようっと!」
傷だらけで地に伏せる俺を一瞥し、奴は……大魔王メギストスは俺が頬に一撃だけつけた傷をすぐに癒してこの場を去っていく。
「忌々しい……アイツさえいなければ魔族のトップはこの俺だというのに……」
血を吐き出しながら立ち上がり、よろめく足取りで自分の城へ向かうため歩き出す。
――俺、冥王ザガムは魔王軍のナンバー2を任されているエリート魔族で【王】の肩書を冠する六人の内の一人。
ナンバー2なので先ほど戦った大魔王の次に強い……はずだが、大魔王メギストスの強さは桁違いで、戦力を数字で表したとしたら恐らく俺の10……いや、100倍は違うような気がする。
奴が先代の大魔王討ち取ってからかなり経つらしいが、未だに負け知らずという文字通りの化け物。
魔族は実力主義なので、上を狙うなら寿命を待つか倒すしかない。
しかし現在、通算999戦0勝。引き分けすら許されず、俺は負け続けている。
何故そこまで俺が拘っているのかというと――
「今日も派手にやられたみたいですね」
「ユースリアか。ふん……見ての通りだ。しかもこれで手加減されているようだからな」
「回復魔法は?」
「魔力などとうに尽きている。……化け物め」
大魔王の城を出たところで声をかけてきたのは‟海王ユースリア”。
海で右に出る者は居ないであろう猛者で、海中での戦いになれば俺も相当苦戦すること請け合いという【王】の一人だ。地上戦が苦手なため、序列が五位と低いのだが。
「ではわたくしめが……」
「……助かる」
「しかし、あなたも凝りませんね? 大魔王様を倒すのは正直なところ無理だと思いますけど」
「説教なら聞かんぞ。あんなちゃらんぽらんな奴にトップは任せておけないからな」
「いいではありませんか、先代よりも力は強大、人間達とは程よく均衡を保てていますし」
それを聞いて俺は苛立ちを覚え、回復魔法をしてくれている手をやんわりと払い再び歩き出す。
「……人間と均衡だと? あれだけの力があるならさっさと人間どもを駆逐か隷属させるといった手段を取ればいい。どうして人間の領地を奪わずにの放置しているのかが分からんと言っているのだ。……先代は侵略に積極的だったではないか」
「それはそうだけど、魔族は強者に従う理があるのだから――」
「だから倒そうとしているのだ。お前とて、人間に海を荒らされているのは面白くあるまい」
「あ、ちょっと!」
ユースリアが立ち去ろうとした俺の前に回り込み話を続ける。疲れたからもう帰りたいと思っていると、ユースリアが興味深いことを話し出した。
「もう大魔王様に突っかかるのは止めなさい。いつか本当に消されてしまうわ、それについ先日耳にしたわ」
「何をだ?」
「……人間達の中で勇者が選出されたそうよ」
「なんだと……それは本当か?」
ユースリアが静かに頷いたので、俺は顎に手を当てて考える。こいつが嘘をつくことはまず無い。
となると勇者が現れたのは本当だということになり、俺達魔族にとっては脅威が増えたことを意味する。
――勇者
それは古より魔族を倒すために存在し、その力は天を裂き、地を砕き、海を割るという。
一説だと、魔族の王を倒すために神が人間に神託をして選出しているらしく、実際過去に辛酸をなめさせられた魔族や【王】、それに大魔王も数多いと聞いたことがある。
ただ、所詮人間なので神から授かった力をうまく扱えずに倒された勇者も大勢いる。
が、その後も神は勇者を選出し続けるので、こちらとしてはいたちごっこになり、忌々しいことこの上ないと古い魔族に聞いたことがある。
「……勇者か、俺は初めてだな」
「ザガムはまだ【王】の中では若いものね。前に現れた時は百年前くらいかしら? だから、今は大魔王様より勇者に注意すべきじゃない?」
「……かもしれんな」
「変な気は起こさないでよ?」
「俺に触るな。女は……苦手だ」
「もう、心配してあげてるのに」
「頼んでない」
俺はそう言い放つと今度こそこの場を離れるため歩き出す。
「……」
一度だけ振り返り、大魔王城を見た後、俺はその場を離れた。
勇者のことを考えながら――
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