14 / 155
第二章:勇者
~幕間1:【王】達の会議~
しおりを挟む「というわけでザガムが旅に出たらしい」
「は? ちょ、大魔王様どういうことですか!?」
「はははは」
「笑いごとじゃありませんよっ!」
「おお!? ユースリアちゃん積極的!? あ、締まる、締まってるから!?」
数か月ぶりに開催された【王】の会議はまるで緊張感の無い大魔王メギストスの一言で会議室が騒然となり、海王ユースリアが胸倉を掴んでメギストスを揺すると、みるみるうちに顔が紫色に変色しだしたので天王であるマルセルが慌てて止めた。
「待てユースリア!? とりあえず話を聞こう! な? お前興奮しすぎて下半身が正体現してんぞ!?」
「ふー!」
「今ので死んでたらユースリアが大魔王だったのね……やっちゃう?」
「焚き付けるなメモリー! だ、大丈夫ですか大魔王様?」
浴衣のような服を着て、緑のゆるふわな髪と眼鏡をかけた特徴的な美人女性が不敵に笑いながら首を掻っ切る仕草をするのをマルセルが窘める。
彼女は【樹王】メモリー。
南方にある樹海を領地とする【王】で、No.7の最下位の実力だが、草木や花、魔法生物といった眷属を配下に置くからめ手を得意とする。
そんな彼女や直接攻撃に及んだユースリアに叱るということもなくメギストスは笑いながら口を開く。
「まあ、私も詳しいことは知らないんだよ、ザガムの執事であるイザールから置き手紙を見せられて知っただけだからね」
「どこへ行ったのかは分からないのかよ? まあ、居なくてもこっちは困らねえんだがよ」
「それには同感だよ、ヴァルカン。私もザガムにいきなり襲い掛かられなくて平和というものだ。ザガムの気持ちがちょっと分かった気がするよ」
「チッ、あいつばっかり面白くねえ」
【炎王】ヴァルカンは炎のように真っ赤なざんばら髪を揺らしながら頬杖をついてそっぽを向く。
彼は魔王軍No.3でザガムのひとつ下だが、大魔王の強さに憧れており、倒そうとするザガムを毛嫌いしている。火山から生まれた人型の【王】で、手から繰り出される炎は鉄をも溶かし、吐く息はまともにあびれば火傷では済まない。
「領地を放置してどうするつもりなのだろうか。メギストス様ザガムを連れ戻しますか? その場合、大地の精を総動員すれば発見するのは容易いと考えます」
不貞腐れたヴァルカンの横に座っていた岩肌の男がそう言って手を上げると、メギストスは少し考えた後に岩肌の男へ指をさして言う。
「んー【土王】の言うことも……。いや、いいんじゃないかな放置で。ザガムの領地は部下がしっかりやってくれているから大きな問題にはならないだろうしね。なにか問題があれば、親として私が面倒を見ようじゃないか」
「ま、まあ、確かにメギストス様がザガムの義理の父親というのは知っていますが、よく命を狙う息子に肩入れできますね……」
紳士な口調をした【土王】ロックワイルドはゴーレムのような肌と大きな体躯が特徴で、土の精霊を通して地域の状況を知ることが出来る優秀な能力を持つ。
見た目はかなり怖いが、性格は穏やかで守る戦いが得意な彼がそう言うと、メギストスは口元を歪め、【王】達を見ながら高揚した口調で話し出す。
「まあ、あれくらいの気概が無いと大魔王の椅子は渡せないからねえ。君達も【王】だけど、私の椅子が欲しくないのかい? 手に入ればこの世界は思いのままだ。まあ、維持するだけの実力は必要だけどね」
すると落ち着いたユースリアがため息を吐きながらメギストスへ言葉を返す。
「……はあ、そう言われてもNo.2のザガムですら勝てないメギストス様を倒そうとは思いませんよ。ザガムと協力しても難しいでしょうし」
「いや、あんた今ヤりかけたじゃない」
メモリーが茶々を入れるが、ヴァルカンがスル―して肩を竦める。
「というより先代を圧倒的な力でねじ伏せたメギストス様に勝つどころか、突っかかることは不敬だと思うな俺は」
「慕ってくれるのはありがたいけど、私の気が変わって魔族も人間も滅ぼすとか言い出した時どうするんだい? 諦めて死ぬかな?」
「それは――」
急に恐ろしいことを言い出し【王】達は冷や汗をかきながらメギストスにくぎ付けになる。
「あっはっは! 冗談だよ、それにしてもザガムはどこに行ったんだろうね、私を倒すのを諦めたとは思えないから逃げた訳じゃなさそうだけど」
「修行でもしているのでしょうか?」
「さあ? とりあえず見合いが嫌で逃げたんじゃないかとはイザールの言だ。ま、今日はウチの息子が居なくなったという話がメインだからこれで終わりとしよう。なにか報告をしたい者は?」
「特段変わったことはありませんので問題ありません」
「結構だね。人間達は襲い掛かってきたら殺るくらいは変わらないでくれよ。さ、アンリちゃんとデートなんだ失礼するよ」
「あ、はい」
ロックワイルドが返事をしてメギストスは軽い足取りで会議室を出て行くと、メモリーが目を細めて場に居る全員に話しかける。
「ねえ、ザガムってどこに行ったと思う? なーんか、大魔王様は知ってそうなんだよね。ユースリアはお姉ちゃんとしてどう思う?」
「誰がお姉ちゃんですか! ……まあ、危なっかしいから世話を焼いているけど……うーん、巨獣フンババのところか邪龍ファフニールと戯れている、とか?」
ザガムはペット感覚で遊びに行くが二頭とも超凶悪な存在で、修行するつもりならそこではないかとユースリアが言うと、ヴァルカンが椅子から立ち上がり面白く無さそうに口を開く。
「いいじゃねえかあんな奴のことなんざ。あんまり帰って来なかったら冥王の椅子は誰か別の奴が座ればいいしな」
「どこへ行くか告げずに出て行ったんだ、俺もそう思う。野心のある魔族が居ればそいつに任せてもいいだろう」
「あ、ちょっと! もう……」
ヴァルカンとロックワイルドが会議室から出るのを引き留めようとするが構わず出て行くのを見てユースリアは頬を膨らませる。
そこでメモリーも席を立ち、嫌らしい笑いを浮かべながら片手を上げて歩き出す。
「ま、私達はそれぞれ領地運営があるから探しに行く手間は惜しいし仕方ないわよ。探したところで帰ってくるとは言わないだろうし、お見合いが嫌ってのは分かるわー」
「あんたも?」
「神木がうるさくてね、それじゃ帰るわ」
「またね。……ザガム、一体どこに行ったのかしら……」
ザガムが人間の町へ行ったことなど露ほども知らない彼らが気づくのはまだ先の話――
◆ ◇ ◆
「くく……ザガムは人間の国へ行ったようだね。やはり狙いはアレかな? 連れ戻されてはかなわないからここは黙秘といこう。いずれ気づく者がでてくるだろうけど、ね」
デートと言いつつ私室でグラスを傾けながら窓の外に見える青白い月を見ながら大魔王メギストスはひとり呟く。
「……強くなれザガム。お前にはそれだけの素質がある」
0
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる