最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

文字の大きさ
22 / 155
第二章:勇者

その21:ファム

しおりを挟む

 「ひっく……ぐす……」
 「……」

 とりあえず移動してソファに座らせると、途端にファムは大泣きを始めて俺は立ち去る機会を失い泣き止むのを待っていた。
 本人としては泣きたくないのだろう、歯を食いしばって耐えているが本能的に心が折れてしまったのかもしれない。

 それにしても、だ。

 歴代でも弱い勇者が居なかったわけじゃない。女の勇者も幾度となく現れたこともあると聞いている。
 ただ、歴代でも弱い勇者の数はあまり多くなかったらしいので今回のファムは相当ハズレということになる。
 なのでガッカリはしたが今回は俺の運が無かったと諦めるしかない。

 そう考えたところでようやくファムが泣き止み口を開く。

 「ふぐ……ご、ごめんなさいザガムさん……依頼、行っていいですから……」
 「……」
 
 そういってくれるのは物凄く助かるが、このまま放置していいものかどうか。
 ユースリアには『女の子には優しくしなさい』と言われているが、俺は女性が苦手なので、今も少し落ち着かない。しかしここで放置すれば後でユースリアにバレた時物凄く怒られるだろう。

 「がっかりしましたよね……私、勇者なのに魔物一匹倒したことがないんですよ……」
 「お前は最初から強かったわけじゃなかったんだな」

 俺が適当な返事を返すと、ファムは小さく頷いてから言葉を続ける。声はかすれているが少しは落ち着いたようだ。

 「はい……神託を受ける前はここから遠い場所の田舎にある村に住んでいました。戦いなんて全然したこともありません。なのにある日突然、どこからか声が聞こえ、私は勇者に任命された、と言われました。それでいつの間にか胸元に勇者の印が出てて……」
 「おい、年頃の娘がそんなところを見せるんじゃない」
 「あ、そ、そうですね……」

 ちょうど左胸の上、鎖骨の下に少しだけなにかの『刻印』のようなものが見えたが、それ以外のものも見えそうになったので俺は視線を反らす。
 ファムは今頃気づいたのか恥ずかしそうに胸元を隠して身を縮こませる。その様子を見て、俺は疑問に思ったことを口にする。

 「……そういえばあのBランク冒険者はともかく、オーラムもお前に対して随分な言動をしていたな。ただの村娘がいきなり戦えるはずもない、それを弱いだの言いがかりをつけているのはどうしてだ?」
 「それは……恐らく国王様のせい……かもしれません」

 歯切れ悪く周囲を気にしながら小声で話すファムに、俺は少し顔を前に出して聞き返す。

 「国王の、とはどういうことだ」
 「私が勇者としての神託を受けた後、三日ほど経ったころでしょうか。国王様の兵隊さんが村に来たんです。そのまま謁見をするように言われて旅立ちました。すぐにこの王都に到着した私は国王様の御前で戦いを強いられ――」

 そこで顔を歪めて言葉が詰まるのを見て、どうやら負けたということのようだ。

 「……負けたんです。すると国王様は『勇者がこんな雑魚では話にならん』と吐き捨て、大魔王を倒すため城を出て行けと……」
 「……」
 「その時に銅の剣と50ルピを渡されたんですけど、これじゃ村に帰ることもできず、仕方なく冒険者として依頼をしてお金を稼ごうとしたら、勇者だからと簡単な依頼はさせてもらえないとギルドの人が……。多分、国王様がそう言えと指示しているのだと思います。たまに申し訳なさそうにする人もいるので……って、どうしたんですか!? 険しいとかそういうものを越えた顔をしていますけど!?」

 そこで俺はソファから立ち上がる。
 勢いあまってテーブルを転がしてしまったので、ファムが驚き、周囲の人間も何事かと視線を向けてくる。

 が、そんなことはどうでもいい。

 「行くぞ」

 俺はファムの手を掴んで立ち上がらせると、そのまま引きずるように歩いていギルドを後にする。
 
 「は? え!? ちょ、ちょっとどこに行くんですか!?」
 「決まっている、城だ」
 「えええええええ!?」

 狼狽えるファムは無視して大通りを突き進む。
 久しぶりに……怒りを覚える出来事だと思いながら――



 ◆ ◇ ◆


 「ねぇん、メギストス様ぁ。どうして冥王を探させないのぉ? 居場所、本当は知っているんでしょ?」
 「ん? ……まあね、私を誰だと思っているんだい?」
 「んー、めちゃ強いおっさん♪」
 「ははは、言ってくれるね。そういうところも好きさ」
 「はぐらかした? メギストス様、あれだけ突っかかられて命も狙われているのに彼を殺さないのはぁ、やっぱり義理でも息子だからぁ?」

 サキュバスにそう言われてメギストスは肩を竦めてため息を吐くと、ベッドから出て窓の外を見ながら小さく呟く。

 「息子だからとかそういう感情はないんだ、これがね。ただ、あそこまで強くなったのは賞賛すべきだし、折角面白いおもちゃが出来たんだ、簡単に壊したら面白くないだろう?」

 振り向いたその顔はぞっとするような笑みで、思わずサキュバスは布団を手繰り寄せてから頷く。

 「……そうねぇ」
 「ザガムは人間と触れ合う機会が無かったから様子見ってところだ。人間に対してどう思うのか? なにをどう選ぶのか、私はそれが知りたくて放置しているのだよ」
 「そ、そうですかぁ……あ、きょ、今日はこれで帰りますねぇ!」

 目を細めて笑うメギストスに怯え、サキュバスはそそくさと部屋を出ていき、特に追いかけるということもせず、もう一度窓に目を向け、青く輝く月に向かって語るように話す。

 「ザガム、お前の目的はだいたいわかる。が、あえて踊ってもらう。……ああ、せめて嫁を連れて帰って欲しいものだな、からかって遊べるし。くく……くはははは! ……あがっ!? あ、顎が……誰か!? アーシャちゃん待ってぇぇぇ!」

 メギストスはザガムを追いかけない。
 何もかも、自分の手のひらの上だと言わんばかりに――
しおりを挟む
感想 304

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...