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第三章:堕落した聖女
その36:夜になると出るアレと冥王
しおりを挟む「ぐぬぬ……」
「頑張れ、この先にある川に着いたらキャンプをしながら依頼をこなすぞ」
「は、はいぃぃぃ……!」
というわけで雑貨屋を出た後、昼過ぎから依頼を遂行するため森へと来ていたりする。
俺の後についてくるファムは随分遅れているが荷物が多すぎて足が鈍いのでこればかりは仕方がない。
これも修行の一環なので、俺もゆっくり前を歩くことにしているが、このままでは陽が暮れてしまいそうな勢いである。
「ううう……が、頑張るべさ……」
「食材はまあまあいいものを買っているし、疲れている時の夕食は美味いぞ」
「は、はーい……」
正直無茶をさせているので、到着したら労ってやるかと思いながら俺達は地図を片手に進んでいき、なんとか暮れる前には川へついた。
「ぐふぅ……」
「よし、よく頑張ったな。では少し休んだらテントを組み立てるぞ」
「うえええ……」
「水だ、ゆっくり飲めよ」
「ありがとうございます……」
体力はもう限界といったところだが、限界まで使ってゆっくり休むというのを繰り返すことで自然と体力は上がるので今はこんなものだが、徐々に慣れてくれば疲労度は減るはずだ。
「ふう……いやあ、買いすぎちゃいましたね」
「そうだな。あえて何も言わなかったが、買いすぎると身動きすら取りにくくなるということを体で覚えてもらいたかったんだ」
「な、なるほど」
ファムががっくりと肩を落としているが、俺は続ける。
「気を落とす必要は無い、最初はこんなものだ」
「ザガムさんも?」
「うむ。俺は食料ばかり買い込んで食器などを忘れたことがあるな」
「あは、ザガムさんでもそうなんだ! ちょっと安心かも」
「そういうことだ。ここで少し講義になるが、荷物というのはある程度目的に合わせて変える必要がある。例えばテントや調理器具などは必須だろう?」
「ですね」
「だが、日帰りの場合テントは必要だろうか? 答えはノーだ。これは分かりやすい例だが、他にも川や海に行くなら釣り竿があった方がいいといったのもある。俺達の場合は依頼に合わせて持っていくのがいいだろうな」
店員に勧められるまま、まだ寒くもないのに厚手の毛布を買わされたり、でかい鍋や何に使うか分からない猫の置物といった本当に不要なものまで詰まっているので重いのは当たり前なのだ。
ちなみに今回の依頼は川辺にいるデーモンサーモンという川に棲む魔物の狩りなのだが、夜は活動をしなくなるので朝イチに始めることになると思う。
ファムの荷物と体力アップを兼ねているのでデーモンサーモンはまあおまけといったところだが。
「分かりました! 次からは荷物をしっかり選別しますので、出かけるときに一度見てくださいね」
「その意気だ。さて、それじゃそろそろ休憩は終わりだ。お前は初めてか?」
「ええ!? そ、そりゃ、今までずっと村に居たので初めてです……」
「だろうな、村に居ればわざわざ危険なことをする必要もない」
「き、危険……というか痛いのは最初だけって聞いています……」
「? お前はなにを言っているんだ?」
「初めてのことですけど……」
もにょもにょと指を絡ませながら顔を赤くするが、理由は分からないので改めて尋ねてみる。
「ふむ、よく分からんがテントの組み立ては村に居たらやらないだろう? 初めてじゃないのか?」
「え、テント!? ……あ、あはは……。そうです! 初めてですよテント! 早くやっちゃいましょう! ……も、もう……勘違いさせて……」
「なにか言ったか?」
「なんでもありません!」
何故か怒鳴られ、さっきまで疲れていたと思っていたファムは元気に背負ってきた物凄い大きさのリュックを漁り始めた。女はよく分からん……だが、あれだけ動いて元気そうなのはいいことだ。
「ではテントの組み方だが――」
人間のテントは俺も初めてだったが、概ね魔族のものと同じようなものだったのでファムと一緒にそれなりに大きなテントを張ることができた。
そこで陽がすっかり暮れてしまったので俺はファムに回復魔法をかけた後、夕飯の支度をする。
「んー! このお肉美味しいですね! 疲れが吹き飛びますよ」
「ロック鳥のもも肉は柔らかいし疲労回復効果があるからしっかり食べておけ。ほら、野菜も焼けたぞ」
「ありがとうございます! ふふ」
「どうした?」
「いえ、ザガムさんに会えて良かったなあって。もしあの時会わなかったら、もう死んでいたかもしれません」
「有り得ただろうな」
「そういうと思いました。ザガムさん容赦ないですもんね」
俺は正直に答えただけなのに、ファムがもも肉を口にしながら可笑しそうに笑う。
「そういえばユースリアも俺がハッキリ言うと呆れながら笑っていたな。女はそういうものなのだろうか」
「……ユースリア? 誰ですそれ……?」
「どうした、目が怖いぞファム? ……む、なんだこの気配は……」
「誤魔化さないで答えてください! って、ザガムさん!?」
俺は松明に焚火の火を移して立ち上がると、暗闇に目を向ける。するとそこには――
『う、うううう……』
『ああああああああ』
『イタイ……イタイ……』
「わああああ!? ゴースト!?」
――ファムがひっくり返りながら叫ぶとおり、そこにはゴーストが群れていた。
「ゴーストが出るとは聞いていないが、まあこいつらはどこにでも現れるしな。ファム、下がっていろ」
「は、はい!」
さて、ゴーストやゾンビを使役できる立場であるとはいえ、送り返すのは俺にはできない。とりあえずこの辺りに冥王の結界を張って近寄れないようにするのが一番だ。
「引け、ゴースト共。<シャイン・ペンタグラム>」
『おおおおおお――』
俺が腰の剣、ブラッドロウを振りながら魔法を使うとゴースト達は逃げるように空へ舞い上がりスゥっと姿を消した。
「す、すごいです! 流石ザガムさん!」
「これくらいはな。さて、食事の続きをするか」
「ですね。でも、ゴーストが出るなら注意喚起がギルドから出るはずなのに……イレギュラーなんですかね?」
「分からん。とりあえずファムじゃ倒せないし、俺も追い払うのが限界だ。依頼を終わらせたら報告してあの世へ送ってもらえばいい。……どうした?」
「あ、いえ、なんか苦しそうだったから、なんで死んじゃったのかなって思って」
「あまり気にするなよ。同情すると連れて行こうと寄ってくるからな」
「うう、や、止めてくださいよ……怖いから今日は一緒に寝ますからね」
怖がっていたファムが、いいことを思いついたとばかりに笑顔になり、そんなことを言う。
「俺は外でいいんだが……」
「ダメです。私になにかあったら大魔王を倒すどころじゃありませんよ?」
よく分からない脅迫だと思いながら、俺は無言でロック鳥のもも肉の串焼きを口に放り込んだのだった。
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