最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第三章:堕落した聖女

その51:乖離する思考と身体

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 『め、【冥王】……だと!? なぜこんなところに!?』
 「う、噓でしょ……」
 「あれが……【王】?」

 意識ある三人がそれぞれ驚愕の表情で真の姿を現した俺を見て口を開くが、気に留めずアムレートの胸倉を掴んで持ち上げる。

 「お前が気にする必要はない。勇者は利用価値があるから一緒に居るだけだ。お前も村をお前の利があったからこそ村人をヴァンパイアに変えたのだろう? 魔族というのは多かれ少なかれ身勝手なものだ、知っているだろう?」
 『ぐ……』
 「正直、お前のやっていることに興味など無い。が、勇者を傷つけられては困るので、力を狙うお前にはここで消えてもらおう」

 魔族なら至極真っ当な話。
 俺の獲物を狙って行動を起こしたのなら強い者に粛清されるのが当然なのだ。
 
 ……そうなのだが、俺はそのことを口にするたび頭に激痛が走る。
 
 (そうじゃないわ……あなたはそうじゃない……)

 「なん、だ……、俺は……俺、だ……」
 
 顔が歪むのが自分でも分かり、手で抑える。その僅かな隙を見極めたのか、アムレートが俺の頭に爪を伸ばしてきた。

 『わ、私は【王】に……な、なるのだ……! 貴様を倒して……ち、力をしょうめ』
 「調子に……乗るな」
 『ぐあああああああ!?』

 胸倉から手を離し、伸ばしてきた腕の肘の関節を殴ると枝が折れるようにぺきりと音がして爪が俺の頬を掠めていく。もちろん傷一つつくことは、ない。

 『あがぁぁぁぁぁ!? と、止まれ……シャ、<シャドウスナップ><ダークネスエッジ>』
 「無駄だ」

 影から出た腕のようなものをマントで払い、魔力で生み出された闇の剣を拳で打つとガラスが砕けるような音と共に霧散。

 「ダークネスエッジって上級クラスの魔法なのに、あんなにあっさり……!? つ、強すぎる……。EランクどころかSランクより何十倍も……あれば魔族のトップ【王】……。でも、素っ気ないけどザガムにそんな感じはしなかった……」

 視界の隅でルーンベルが青い顔で呟くのを聞いて、俺は目線をルーンベルへ向ける。

 「普段は力を抑えているからな。正体を知られたからにはここで死んでもらうが」
 「ひぃっ……!? ファ、ファムちゃんは知っているの!?」
 「知らん。気絶しているからお前達だけで問題ある……まい……うぐ……あ、頭が……」
 「なに、どうしたの……?」
 『わ、分からんがチャンス、か!』
 「逃げられると……思って、いるのか」

 涙を流し、這うようにファムたちの下へ行こうとするアムレートの足を掴む。すると、

 『足など……くれてやる……! 勇者の力を私に!』
 
 自らの足を切断し、腕の力だけで飛び上がってファムの下へと向かう。

 「まずい!? くっそ、動け私の体……! サボってたツケか……!」
 
 ルーンベルは俺の魔力にあてられているのと、単純な魔力不足で身体が動かないようだ。邪魔ものが居ないと、アムレートは苦痛に涙しながら手を伸ばす。
 
 問題ない、まだ間に合うと俺は足を踏み込み地面を蹴りってからブラッドロウを抜く。
 背後からの一撃で終わり、そう思っていたが眼前で行われた光景に俺は急停止をすることになった。

 「な……」
 「ああ……!? お、お婆さん!?」

 倒れたファムに爪を伸ばすが、れはまたも立ちふさがった老婆に阻まれ、驚愕の表情を浮かべる。
 その光景に、俺はまたしても頭痛を引き起こして膝をつく。これは……いったいなんなんだ……?

 『……ダリーニャ!? うぐ……』
 「もう、終わりに、しましょう……アムレート……どんなに力を得た……ところで、死んだ人間は生き返ることは……できないのよ……」
 『うるさい! ごふ……これは、銀のナイフ、か……。お前も娘が帰ってきて欲しかっただろう……に』
 「貴方の母親は……もう還ったのよ……私の娘も……もう、どこに、も……お、お嬢さんこれを……」

 アムレートの胸にナイフ、老婆の胸に爪が深々と突き刺さり、回復魔法で助かるかどうかという致命傷。
 そんな二人が折り重なるように倒れると、老婆がルーンベルに袋を投げた。

 「こ、これで、冒険者さんたちの解毒が……できます……脅されていたとはいえ……罪が償えるとは思えませんが……村の人達を葬って――」
 「待って! 今、回復魔法を!」
 「俺がやろう<ヒーリング>」
 「ザガム……!?」
 
 頭痛をこらえながら近づいた俺は無意識に老婆を助けるため回復魔法を使おうと、手を伸ばす。

 「い、いいのよ……この傷は助からないって自分で分かる……。あなたは分かっているはずなのに……優しいのね……確かにアムレートは村を崩壊させ……悪いことをした……けど、彼も母親を人間に殺されたの……それで憎んで……殺して……ま、魔族の王なら……こういう悲しいことが無くなるよう……に――」
 「……」
 「お、お婆さん……!? ま、間に合わなかった……」
 「老婆の言う通り致命傷だった。仕方がない」
 「あんたって人は……! あ……」
 「む」

 ルーンベルが目を向けると、アムレートが這いながら老婆……ダリーニャの下へ向かっていた。
 
 『……私は……母、さん……』
 
 アムレートはたった一言だけ呟いて息絶える。

 「こいつがやったことが許される訳じゃないけど、ある意味犠牲者なのかもね」
 「死ねば同じだ、加害者だろうが犠牲者だろうが、全て意味が無くなる。ただ空虚な無に還るだけだ」
 「……なら、あんたはなんで泣いているのよ」
 「なに?」

 言われて初めて自分が泣いていることに気づく。
 恐らく、俺は生きてきた中で泣いたことなど一度もない。メギストスに山で置き去りにされても、大けがをしてもだ。そんな俺が泣いている、だと?

 「なんだこれは……お前だって泣いているじゃないか」
 「知らないわよ……。あんた冷酷そうな感じだったのに、今はそう見えない……【冥王】ザガム、あんたは一体なんなの……?」
 「……帰るぞ、老婆に冒険者を助けてくれと頼まれたのだろう。お前のことはその後考える。ただし、俺のことを話したら即座に殺す」
 「……いいわ」

 俺は力を抑えた姿に戻しながらファムを治療して背負うと、気づけば頭痛がおさまっていることに気づく。

 あれは一体……それに途中で頭に声が聞こえた気がしたが――

 (それが【心】よ、あなたは――)

 「……! 誰だ」
 「どうしたの? それより洞窟の前に立ってどうする気?」 
 
 ルーンベル、じゃない。なんだか懐かしい感じがしたが、思い出せず俺はルーンベルに返す。

 「このまま晒しておくのも不憫だろう。……母と一緒に眠らせてやる」
 「ああ……。ホントわかんないわね、あんたって」
 
 洞窟に魔法を放って崩壊させ、俺達は村まで戻ることにした。

 「魔族が人間に殺される、か」

 アムレートの境遇がどういったものか今となっては知る由もない。ただ、その生が残念だったことだけ。

 同じ魔族として、冥王として。次はマシに生まれてくればいいと祈っておくことにした――
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