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第四章:魔族領からの刺客
その72:ザガムという存在
しおりを挟むバラバラと驚くべき数のゾンビやグール、スケルトンと言ったアンデッドが降ってくる。
スライムのような知性の無い魔物も含まれているようだが、どちらにせよ町に蔓延ることがあれば冒険者ではない町の者には厳しいだろう。
「どうしますかぁ?」
「とりあえず静観だな、エイターを返したのだ、騎士達がなんとかするだろう」
「「え!?」」
ソファに座り直す俺に、ファムとルーンベルが驚きの声があがり顔を上げる。
「あれくらいなら特に必要もあるまい」
「で、でも、町の人達が襲われちゃいますよ!!」
「だからそこは騎士達がやるだろう。冒険者もいる」
「なに言ってるの、今は夜よ? 酒場で盛り上がっている冒険者もいておかしくない時間なんだから、一人でも多い方がいいに決まっているでしょ!」
「聞け、これは――」
俺が口を開こうとした瞬間、外から騒ぎの声が聞こえてくる。
庭の入り口からここまではそれなりに距離があるのだが、それで聞こえてくるということはすでに大多数が落ちてきたのだろう。
「私、行きます! ルーンベルさん、手伝ってください!」
「ええ、ザガムも早く!」
「ダメだ。お前達も俺と待機するんだ」
「なんでですか! このままじゃコギーちゃん達も死んじゃうかもしれないのに……もういいです!」
「おいファム、待て」
「あんたって優しいけど、やっぱり魔族ってそうなのね? 自分のことばっかり」
ルーンベルも珍しく怒りの表情でそんなことを言い踵を返し、ファム共々止める間もなくこの場を去っていく。
「あららぁ、言っちゃいましたねぇ」
「まったく……分かりやすい囮に引っかかるとはな」
「追いかけないんですかぁ? ファム様達に嫌われますよぅ」
「……俺は、ダメだ。敵の意図が読めん。だから頼めるか?」
下級アンデッドを倒してもあの魔法陣から際限なく出てくるはずなので徒労に終わる可能性が高い。
要するに頭である首謀者を叩かなければこの戦いは終わらないのだ。
俺はメリーナに声をかけると、大きく頷いてからお辞儀をする。
「かしこまりましたぁ♪ ミーヤちゃんと行ってきますねぇ」
「頼む。俺は首謀者を探す」
「はーい」
元気よく出て行くメリーナはスカートを翻してスッと姿を消した。
「……さて、それでは俺も行くか。町の中に居るとは考えにくいが。イザール」
「お呼びでしょうか」
「流石に早いな。俺は出てくる、屋敷は任せたぞ」
「承知いたしました。力が必要ならお呼びください」
「ああ」
あまり気は進まないが力を戻しておくか……探知能力を戻しておいた方がいいしな。
俺は漆黒の鎧を身にまとい、窓から好都合とも言える夜の町へと繰り出した。
「ファムに嫌われる、か。それは困る」
メギストスの討伐には欠かせない。
だが、このやるせない気持ちはなんだ……?
◆ ◇ ◆
「うわあああ!?」
「【疎まれし肉体よ塵に還れ】<ターンアンデッド>」
「オッォォ……」
「大丈夫?」
「あ、ああ……いきなり町にアンデッドが……」
屋敷から出てすぐ、ゾンビに襲われている男を魔法で救出するルーンベル。
すぐに警戒をするがまだこの辺りには群がっていないとファムに叫ぶ。
「ファム、そっちは!」
「骨なのに手強い……! でも、ミーヤさんに比べれば全然!」
ファムはスケルトン相手に切り結んでいた。
二体を同時に相手取り、防戦一方だったが訓練を思い出し、一体の剣を弾いた後、すぐにもう一体の脇へと潜り込んで腰骨を打ち砕いた。
次いで残った一体の頭を突いて粉々にすると、死体も残らず消える。
「消えた……」
「やるわね、いい感じじゃない!」
「ありがとうございます! ……ルーンベルさん!」
「おっと!? おじさんは家に戻ってなさい! すぐに家を襲われることはないはずよ」
「あ、ああ! すまない……!」
背後から襲い掛かって来たゾンビを本でいなしながら尻もちをついた男へ言う。入れ替わりにファムがゾンビの腰を切り落として上半身と下半身に分かれて消えて行った。
「うう……人の形が残っているのはあまりいい気分じゃないです……」
「仕方ないわよ。それより、こいつら本物と魔法生物が混じっているような……」
「え?」
「なんでもないわ。とりあえず倒していきましょう」
ルーンベルが訝しむが事態の収束と救出に回るべきかと顔を上げ、頷いたファムと並んで走り出す。
「そうですね! ザガムさん、来てくれるかな……」
「どうかしらね。あいつ、ファムや私が好きってわけじゃないから、駒程度に思ってるんでしょ。たまにああいうとこあるわよね」
「あはは。でも、ザガムさんってちょっと不思議ですよね。利益優先かと思えば私を助けてくれたし」
「まあね。なんか考えがあると思うんだけど、頭で考えて動かない……って、そういやファムと逆よねあいつって」
そう言われてファムは襲ってきたスケルトンを倒しながら首を傾げる。
「えいえい! ……逆?」
「そうよ、ファムは感情や表情がコロコロ変わるけど、ザガムは無表情で無感情じゃない?」
「あー確かにそうかもです」
「それに……」
「それに?」
「なんでもない……って、ファム、横!!」
「え? ……っ!?」
ルーンベルがザガムが冥王であることを口にしようとして慌てて口を噤むと、ルーンベルの方に向いたファムの隙をゾンビが襲い掛かるのが見えた。
剣は握ったままだが振るには近すぎ、ファムは冷や汗をかく。
その時だ――
「あぶにゃーい!」
「グォォォ……」
「きゃあ!? あ、あれ、ミーヤさん!?」
「危機一髪だったにゃ。ダメだよ、ザガム様が一緒じゃないのに飛び出したら!」
「そうですよぅ。ファム様になにかあったらお仕置きされるのはわたし達ですからねぇ?
ミーヤの登場に驚くファムだが、さらに闇の中からメリーナが登場してルーンベルが目を細める。
「メリーナあなたも来たの? ちなみに私は!?」
「んー、ルーンベル様はあと少し? 嫌いなんじゃないんですかぁ?」
「……どうかしらねえ。それはともかく、手伝ってくれるの?」
「もちろんにゃ♪ ザガム様にはやることがあるから私達が付き添うように言われたにゃ!」
「やること……町の人を助けるよりも、ですか?」
「そうですよぅ。『結果的に』それが最善になると思ってのことだからですよぅ」
メリーナは薄く微笑みながら、続ける。
「だけど『人間』がそう簡単に割り切れないのは事実ですから、ファム様達が飛び出すのは理解できますよぅ♪」
「……」
「おっと、長話はここまでにゃ! 冒険者も出てきたし、遊撃に回るにゃよー!」
「あ、はい! お願いします!」
ミーヤの合図で四人は再び移動を始める。
そんな中、ルーンベルはメリーナに目を向けながら胸中で呟いていた。
「(メリーナもミーヤも魔族だろうけど、なにか引っかかるわね……。まるでザガムだけが異質のような――)」
◆ ◇ ◆
「さて、始まったねキルミス♪」
「そうだね、イルミス。まさかこんな大胆なことをしていいって許可が出るとは思わなかったけどね」
「でもいいじゃない! 大魔王様のお墨付き! ……さってと、【冥王】様を探さなきゃね」
「ああ。これで自他ともに【王】として認められるよ」
二人は歩き出す。
使役している魔族達を背後に引き連れて――
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