最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第六章:『神霊の園』

その105:ザガム

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 「……? ここは、どこだ?」

 俺は気づけば見知らぬ場所に立っていた。
 あの時、メギストスに胸を貫かれて倒れたところまでは覚えている。
 恐らく俺は死んだのだろう。

 【冥王】と呼ばれてはいるが、冥界が存在すると聞いたことが無いし行ったこともなかった。
 メギストスが『今日から冥王として働け』と言っていたからそれに倣っただけなのだ。

 「ここがそうなのか? だとしたら皮肉なものだ。冥王が葬送されるとは」

 ……その時、ファムとルーンベルの驚愕した顔が脳裏に浮かぶ。
 心配しているだろうか?
 それとも俺が死んだことで解放されて喜んでいるかもしれないし、メギストスが大魔王だと知り恨まれているかもしれないか。

 もしあいつらが殺されていたら……
 そう考えると、胸が痛い。
 十分な力をつける前に出くわすとは思っていなかったのは俺のミス。
 巻き込んでしまったことを後悔する。

 だが、俺にはもう確かめる術は無さそうだ。
 ずっと歩いているが上も下も分からない暗い空間を彷徨うだけの存在。
 
 心が渇くような感覚に陥る。
 これが寂しいということだろうか。もうファム達に会えないと思うと、何とも言えない気持ちになる……。

 「それが『悲しい』ってことよ」
 「……!」

 どこからか声がした瞬間、景色が一転しどこかの庭が眼前に広がった。
 いつの間にか、目の前には黒髪の女が立っていて、柔らかに微笑んでいた。
 凛々しい顔に豪華な装備が目を引く。

 「……なんだお前は? ここはどこだ?」
 「そうね、何度か語り掛けたはずだけど覚えてない? ザガム」
 「む」

 鈴の音のような軽やかな声に、俺は頭痛を覚える。
 確かに、聞いたことが、あるな……。

 「質問に答えていないぞ。お前は誰で、ここはどこだ」
 「ふふ、せっかちね。んー、ここはあなたの心の中かな。私はあなたを知っているし、あなたも私を知っている。遠い昔にね」
 「……心の? まずは名を名乗れ」
 
 俺が睨みつけると、女は涼しい顔で返事をする。

 「それはダメ。あなた自身が『思い出さないと』」
 「どういうことかと聞いている……!」

 流石に苛立ってきたので、俺は少し威嚇してやろうと一気に踏み込む。
 拳を目の前で止めれば少しは萎縮す――

 「んふふ、速いけどまだまだねえ」
 「いつの間に……」
 
 確かに目の前に居たと思った女の姿が消え、直後、後頭部を人差し指で突かれていた。気配も動きもまるで見えなかった……だと……

 「ファムちゃんだっけ? あなたの嫁。あの子がメギストスを殴りに行った時の方が鋭かったわよー」
 「知っているのか! 俺が倒れた後、どうなった?」
 「おっと、積極的ね♪ ……一応、メギストスは退却したわ、ファムちゃん達は無事よ」
  
 嘘か本当かわからんが、どうやら無事らしい。俺は掴んでいた女の手を離す。
 そうか、無事か。

 「ふひひ、安心したみたいね。嬉しい? ねえ嬉しい?」
 「やめろ、顔を近づけるな」
 「うりうり、どうなのよ安心したのー?」
 「せい!」
 「おっと。それじゃまだまだ私は倒せないわね」

 腕を取って投げるが、すぐに態勢を立て直し着地する。
 こいつ……メギストス並みの強さがあるぞ。
 
 「そういえばどう? 私が近づいても発作が起きないでしょ?」
 「……」

 そんなことまで知っているのか。
 確かに発作は起きていないことに気づき、俺はため息を吐く。

 「お前は本当に誰なんだ……」
 「ふふ、内緒。……あなたの発作は半分病気で半分は無自覚。無自覚の部分は恋愛って感じかしらね」
 「恋愛だと?」
 「そう。ファムちゃんを心配したり、殺されかけてキレたりしたでしょ? あれは相手を大事に思うから出てくる感情よ。だからドキドキする」
 「……」

 そういうものなのか?
 俺にはピンとこないが、確信を持って話しているのでそうなのかもしれない。
 ファムを好きだと思っている……

 「ではもう一つの病気とはなんだ?」
 「それは……記憶が返ってくればおのずと……取り戻して欲しくない気もするけど、あいつの部下が始動しているなら話は別。必ず思い出すことになるわ」
 「お前の言うことは分からん。ハッキリ言え」

 俺はイライラして声を荒げるが、気にした風もなく女は、寂し気な顔で笑って口を開く。

 「それはできないの。私が口にすればあなたがどうなるか分からない。だから……ザガム自身がそれを確かめて。思い出した時、全てがきっと終わる」
 「何もかもわからん……!!」
 「まあ、そうよねえ。この庭にも覚えはない?」

 そう言われて周囲を見渡すと、大魔王城の庭だと気づく。
 しかし、目の前の女は見たことが――

 いや、記憶の端々で見るのだ会ったことはあるのだろう。
 そして誰かに殺される記憶……

 「……お前は大魔王に殺されたのか?」
 「少しは思い出したかしら。おっと、そろそろお別れの時間みたいね」
 「む」

 その瞬間、目の前の景色が歪み、女が近づいてくる。
 眠気が襲ってきて膝をつきそうになるが、女は俺を抱きしめて、言う。

 「……ザガムの選んだ人が勇者……これも運命なのかしらね。ごめんね、辛いことばかり押し付けて――」
 「どういう……こと……だ」
 「会えてよかったわ。私に会えなければあなたは死んでいたもの。……力の欠片、返しておくわね」
 「ま、て……」

 寂しく微笑んだ女の顔を最後に、俺の意識はぷっつりと途切れた。

 運命? 俺とファムが?
 『こうなることが初めからわかっていた』ようなことを言う……
 
 俺は……俺こそ何者なんだ?


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