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第一章
第39話 後始末
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「……これで大丈夫です」
「ありがとう姫様!」
「いえ、これくらい。皆さんが頑張ってくれたから私はこうして生きているのですから」
――激闘とも言える戦いが終わり、一度整理をつけるため町の人間全員が集まって生死の確認などを行っていた。
その中でケガ人の治療をアウラ様が回復魔法なるもので癒していた。
「……悔しいわ」
「ああ」
町の死者は三十七名。
割合的には少ない方だが、亡くなった人数は関係ない。家族や恋人には『その他大勢』ではないのだから。
それとケガ人は百人ほどだったが、薬とアウラ様でなんとかなりそうだ。殆ど隠れていたのが良かった。
「家屋を潰されるところまで侵入を許した俺のせいだ。すまない」
「リク……」
「気負うな。お主が居なければワシらは追いつかれ、ソウとこの町は虐殺に合っていただろうからな」
「でもよ……」
「ありがとう、リク」
「……ああ」
俺がなにかを言おうとしたところで、泣き笑いの顔をしたシャルが俺を見上げて礼を言う。
「師匠の言う通りだからね。もっと酷いことにならなくて……良かったんだって……」
「ほら」
「ん」
コクピットハッチを開けてシャルを乗せてやる。ハッチを閉めるとシャルは大泣きを始めた。外部スピーカーは切っているので外には聞こえない。
「すまんの」
「それこそ気にしなくていい。それよりこれからどうする? しばらく追手は来ないだろうが、すぐに発つか?」
「それなんじゃが、姫様に考えがあるそうだ。落ち着いたら話をする」
「そうなのか? 分かった。なら、俺は外壁の修理を進めるよ」
「頼む。シャルは任せた」
ガエイン爺さんはそれだけ言うとアウラ様の下へ戻っていく。とりあえずこの身体でできることはと思い外壁の修理へと向かうことにした。
すると――
「あ、魔兵機《ゾルダート》」
「お、謎の魔兵機《ゾルダート》か! すげえな、ジョンビエルどころかディッター隊長とイラス殿を倒すとはよ」
「助かりました。ありがとうございます」
――ヘッジとビッダーというグライアードの騎士達が瓦礫を片付けていた。
「そういやジョンビエル機と戦っていたな。どういう風の吹き回しなんだよ?」
「なあに。野郎が気に入らなかった、ただそれだけだよ。かぁー久しぶりのタバコはうめえな……」
「そういうことです。我々は脱走騎士なので、どこの誰でもなくなりました。騎士になってから辞めていたからな。俺にも一本くれ」
「ほらよ」
少し軽そうな性格をしたヘッジが、あまり表情を変えないビッダーへタバコを渡していた。
どうやらこの二人もグライアードのやり方に疑問を持っていたらしい。特にジョンビエルの大量虐殺と女子供の確保は独断の可能性が高いと言う。
「ま、これでオレ達もグライアードからするとお尋ね者ってやつだ。そこで旦那に頼みがある」
「ん?」
「俺達もこのままエトワール王国の軍勢に入れてもらえないだろうか」
「マジか……!?」
二人は驚くことを口にした。ちょっと前まで殺し合いをしていたところに仲間に入れろときたもんだ。
俺が黙っていると、ビッダーはゆっくりと話し出す。
「ああ。信用しろ、と言われても無理な話だというのは分かっている。だから移動中は拘束してもらっても構わない」
「見返りは飯と戦闘時に魔兵機《ゾルダート》で戦うこと。なんなら操縦を誰かに教えてそいつに任せてもいい。死ぬのはもはや怖くねえが、グライアードがなにを考えているのか? ここにいりゃ分かりそうな気がしてな」
「そうか?」
「謎の魔兵機《ゾルダート》を使う旦那が居ればな。オレ達もこいつには驚かされたが、アンタのはもはや化け物だ」
ヘッジが拳で魔兵機《ゾルダート》を小突くと金属のいい音がした。俺という存在がもしかするとエトワール王国奪還の突破口を開けるんじゃないかと二人は言う。
「まあ、俺は構わないけど、他の連中がなんて言うかだろうな」
「確かに」
その時、俺の腹あたりにあるコクピットハッチが開いた。
「いいわ。あたしがみんなと話をつけて同行を許してもらう」
「シャル」
「ありがとリク。もう大丈夫よ! で、魔兵機《ゾルダート》の操縦を教えてもらうわ」
「お、あんたは妹姫の方か。言っといてなんだがいいのか?」
「うん。今は対抗する戦力が欲しい。特に魔兵機《ゾルダート》は相手をするのが難しいからね。今ビッダーが乗っているのとそこに転がっているやつ。使えない?」
シャルはそう言って近くに倒れているジョンビエルと俺がダルマにしかけた魔兵機《ゾルダート》を指す。周囲には騎士と町の人が群がっていた。
「ジョンビエルのは使えないな。あれだけ真っ二つにされていれば無理だ。イラス殿のは腕がないだけだから、拾ってくるか、ジョンビエルのものを使えばなんとかなりそうだが……」
「だが?」
「修理できる技師がいるかどうか。俺達は遠征した際にメンテナンスは教わっているが、くっつけたりといったようなことはできないのだ」
まあ、そりゃそうだな。俺だってヴァイスの腕を別の機体と交換してくれって言われてもわからない。難しくはないとエルフォルクさんは言っていたけど。
「そっかー。でもまあそういう人がいればいいのよね。鍛冶師の人とか興味ないかしら……?」
「二人の処遇と含めて話してみたらどうだ? いい案が浮かぶかもしれない」
「そうね! ん? なんか下が騒がしいわね」
「なんだあ?」
ヘッジがタバコを咥えて下を覗く。俺とシャルも騒ぎのある方を見ると――
「くっ……殺せ……!」
――俺が戦っていたイラスとかいう奴がコクピットから引っ張り出されていた。長い銀髪……ありゃ、女だったのか!?
「ありがとう姫様!」
「いえ、これくらい。皆さんが頑張ってくれたから私はこうして生きているのですから」
――激闘とも言える戦いが終わり、一度整理をつけるため町の人間全員が集まって生死の確認などを行っていた。
その中でケガ人の治療をアウラ様が回復魔法なるもので癒していた。
「……悔しいわ」
「ああ」
町の死者は三十七名。
割合的には少ない方だが、亡くなった人数は関係ない。家族や恋人には『その他大勢』ではないのだから。
それとケガ人は百人ほどだったが、薬とアウラ様でなんとかなりそうだ。殆ど隠れていたのが良かった。
「家屋を潰されるところまで侵入を許した俺のせいだ。すまない」
「リク……」
「気負うな。お主が居なければワシらは追いつかれ、ソウとこの町は虐殺に合っていただろうからな」
「でもよ……」
「ありがとう、リク」
「……ああ」
俺がなにかを言おうとしたところで、泣き笑いの顔をしたシャルが俺を見上げて礼を言う。
「師匠の言う通りだからね。もっと酷いことにならなくて……良かったんだって……」
「ほら」
「ん」
コクピットハッチを開けてシャルを乗せてやる。ハッチを閉めるとシャルは大泣きを始めた。外部スピーカーは切っているので外には聞こえない。
「すまんの」
「それこそ気にしなくていい。それよりこれからどうする? しばらく追手は来ないだろうが、すぐに発つか?」
「それなんじゃが、姫様に考えがあるそうだ。落ち着いたら話をする」
「そうなのか? 分かった。なら、俺は外壁の修理を進めるよ」
「頼む。シャルは任せた」
ガエイン爺さんはそれだけ言うとアウラ様の下へ戻っていく。とりあえずこの身体でできることはと思い外壁の修理へと向かうことにした。
すると――
「あ、魔兵機《ゾルダート》」
「お、謎の魔兵機《ゾルダート》か! すげえな、ジョンビエルどころかディッター隊長とイラス殿を倒すとはよ」
「助かりました。ありがとうございます」
――ヘッジとビッダーというグライアードの騎士達が瓦礫を片付けていた。
「そういやジョンビエル機と戦っていたな。どういう風の吹き回しなんだよ?」
「なあに。野郎が気に入らなかった、ただそれだけだよ。かぁー久しぶりのタバコはうめえな……」
「そういうことです。我々は脱走騎士なので、どこの誰でもなくなりました。騎士になってから辞めていたからな。俺にも一本くれ」
「ほらよ」
少し軽そうな性格をしたヘッジが、あまり表情を変えないビッダーへタバコを渡していた。
どうやらこの二人もグライアードのやり方に疑問を持っていたらしい。特にジョンビエルの大量虐殺と女子供の確保は独断の可能性が高いと言う。
「ま、これでオレ達もグライアードからするとお尋ね者ってやつだ。そこで旦那に頼みがある」
「ん?」
「俺達もこのままエトワール王国の軍勢に入れてもらえないだろうか」
「マジか……!?」
二人は驚くことを口にした。ちょっと前まで殺し合いをしていたところに仲間に入れろときたもんだ。
俺が黙っていると、ビッダーはゆっくりと話し出す。
「ああ。信用しろ、と言われても無理な話だというのは分かっている。だから移動中は拘束してもらっても構わない」
「見返りは飯と戦闘時に魔兵機《ゾルダート》で戦うこと。なんなら操縦を誰かに教えてそいつに任せてもいい。死ぬのはもはや怖くねえが、グライアードがなにを考えているのか? ここにいりゃ分かりそうな気がしてな」
「そうか?」
「謎の魔兵機《ゾルダート》を使う旦那が居ればな。オレ達もこいつには驚かされたが、アンタのはもはや化け物だ」
ヘッジが拳で魔兵機《ゾルダート》を小突くと金属のいい音がした。俺という存在がもしかするとエトワール王国奪還の突破口を開けるんじゃないかと二人は言う。
「まあ、俺は構わないけど、他の連中がなんて言うかだろうな」
「確かに」
その時、俺の腹あたりにあるコクピットハッチが開いた。
「いいわ。あたしがみんなと話をつけて同行を許してもらう」
「シャル」
「ありがとリク。もう大丈夫よ! で、魔兵機《ゾルダート》の操縦を教えてもらうわ」
「お、あんたは妹姫の方か。言っといてなんだがいいのか?」
「うん。今は対抗する戦力が欲しい。特に魔兵機《ゾルダート》は相手をするのが難しいからね。今ビッダーが乗っているのとそこに転がっているやつ。使えない?」
シャルはそう言って近くに倒れているジョンビエルと俺がダルマにしかけた魔兵機《ゾルダート》を指す。周囲には騎士と町の人が群がっていた。
「ジョンビエルのは使えないな。あれだけ真っ二つにされていれば無理だ。イラス殿のは腕がないだけだから、拾ってくるか、ジョンビエルのものを使えばなんとかなりそうだが……」
「だが?」
「修理できる技師がいるかどうか。俺達は遠征した際にメンテナンスは教わっているが、くっつけたりといったようなことはできないのだ」
まあ、そりゃそうだな。俺だってヴァイスの腕を別の機体と交換してくれって言われてもわからない。難しくはないとエルフォルクさんは言っていたけど。
「そっかー。でもまあそういう人がいればいいのよね。鍛冶師の人とか興味ないかしら……?」
「二人の処遇と含めて話してみたらどうだ? いい案が浮かぶかもしれない」
「そうね! ん? なんか下が騒がしいわね」
「なんだあ?」
ヘッジがタバコを咥えて下を覗く。俺とシャルも騒ぎのある方を見ると――
「くっ……殺せ……!」
――俺が戦っていたイラスとかいう奴がコクピットから引っ張り出されていた。長い銀髪……ありゃ、女だったのか!?
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