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第二章
第65話 作戦
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ヘッジが決死のダイブを敢行して敵の魔兵機《ゾルダート》のコクピットに劇薬粉末を入れることに成功した。意外と隙間があるということを知っていたのは大きかったのだ。
しかし、それでビッダー機を助けたものの、地面へと落下してしまう。
「いってぇ……!?」
「む! 裏切り者が落ちてきたぞ!」
「げっ、やべえ!? ……お」
「うが!?」
気づいたグライアードの騎士が倒れたヘッジへ向かおうとしたが、その騎士を外壁上にいるザナックが迎撃していた。
「おい! 早く逃げろ! 援護してやる!」
「すまねえ! その前に……!」
「なんだ?」
立ち上がったヘッジは動きを止めた魔兵機《ゾルダート》へよじ登り始めた。ザナックはなにをやっているんだと訝しむ。
コクピット付近に到着した時、ヘッジの意図が判明する。
「おらぁ! 降りろってんだ!」
「!?」
ヘッジはコクピットの扉を無理やりこじあけたのだ。
目を真っ赤にし、鼻水を流すパイロットが怒声を聞いてビクッと体を強張らせる。
「な、なんだ……? ぐ、目が……痛いっ!?」
「くっくっく、こいつはオレ達がいただくぜ? 降りな!」
「うあ……!? き、貴様ぁぁぁぁ!」
笑いながらシートベルトを引きちぎり、騎士を持ち上げたヘッジはそのまま地面へ投げ捨てた。
「チッ、やりすぎたか? さて、オレでも少しは動かせるだろ。後はビッダーのコクピットを開けて乗り換えてもらおう――」
そう、ヘッジが呟いた時、魔兵機《ゾルダート》の足音と雄たけびが聞こえてきた。
「うおおおおお!」
「さっさと隠居すればいいのにさあ!」
「ガエイン爺さん!? それにその魔兵機《ゾルダート》はディッター殿か……!」
町の前へ躍り出たのは崖から魔兵機《ゾルダート》へ飛び掛かり、大剣を振るうガエインとそれを剣で受け止めるディッター機だった。
幾度かここへ来る前に攻撃を当てていたようで魔兵機《ゾルダート》の肩や足にへこみと傷があった。
その激闘を見て、斧魔兵機《ゾルダート》を乗っ取ったヘッジが声を上げると、ディッターが目を細めてスピーカーから声を上げる。
「……その声はジョンビエルの部下で裏切り者か? ふむ、エージャが下に居るということはそういうことだな……!」
「チィ……!」
「させんぞ!」
「うっとおしい爺さんだね!」
斧魔兵機《ゾルダート》へ剣を振り下ろそうとしたが、ディッター機に取りついているガエインが大剣を振って剣を弾く。
「そいつでこやつを倒せんか!」
「すまん、オレじゃ満足に動かせねえ……! 一旦、ヘッジに乗り換えてもらえば!」
「なるほど、魔力が少ないのか君は。なら、脅威ではないな」
「う……!?」
「ええい……!」
にやりと笑みを浮かべたディッターはすかさずヘッジへ狙いを定め、急停止をしてガエインを落とした後、ヘッジへ剣を振り下ろした。
狙いは頭部からコクピットにかけての正中で、ヘッジは咄嗟に右腕で庇う動作を見せた。
「私の剣は特注品だ。ガードなどできんよ」
「なら……!」
「ほう……!」
ガードモーションを取りつつ、左へと避けるヘッジ。しかしそれほど素早い動作ができないため、右腕が斬り裂かれ、二の腕と肩を残した状態になった。
地面に右腕と斧が落ち轟音が渓谷に響く。
そのままディッターはヘッジに体当たりをしてその場に転がした。
「ぐあ!?」
「そこで寝ているといい。とどめを刺してやりたいが、まずは町を蹂躙しないといけなくてね」
そう言いながら斧を拾い、両手に武器を持つディッター。そのまま町の門へと突っ込んでいった。
「グライアードの者達は道を開けろ。私が門を打ち破る」
「簡単にさせるわけにはいかん……!」
「ジジイを止めろ! ……ぎゃあ!?」
「邪魔だ!」
「囲め! ディッター様の邪魔をさせるな!」
「死に急ぎたいか……!」
グライアードの騎士や兵士達に囲まれ道を阻まれるガエイン。しかし彼等が壁になることはなく斬り伏せていった。
だが、一瞬の足止めはこの場の命運を分けた。すでに歩兵の大槌で緩んでいた門へ――
「ははは! 崩れろ!」
「うわああ!?」
斧と剣が振り下ろされ、粉々になった。後ろで控えていた騎士達が悲鳴のような声を上げてその場から散る。
「よし! 爺さんに構うな町の人間を捕まえるんだ。人質になる」
「「はっ!」」
「ぬうう……!」
「ぐあ……!?」
ガエインは町に向かう者を斬りながらヘッジの下へと向かった。
「無事か?」
「ああ、すまねえ爺さん。オレはビッダーを助けてくるからこいつを頼むぜ」
「承知した」
「さて……もう少し気づくなよ?」
そう呟いたガエインはヘッジと交代し、魔兵機《ゾルダート》を動かして立たせていた。
その間にヘッジが駆動系にかんだ岩をどけると、ビッダー機が動き出す。
「助かった」
「ここで乗り捨てるつもりだったがまだ頑張ってくれそうだな。ずらかるぞ」
「ああ」
そして三人は町を大きく迂回してリク達が抜けた北側へと回り込む。
そんな中、町では困惑の声が上がっていた。
「ここもだ……! 隊長! 町には誰もいません……!」
「なんだって? ふん」
ディッターがその辺にある家屋を斧で破壊するも悲鳴は聞こえず、よく見れば家畜すら厩舎にいなかった。
「これは……」
「あ! 奴等が逃げています!」
そこで散ったと見せかけていたエトワールの騎士達が北門へ集合していた。
「万が一に備えて町の人間には脱出してもらったんだ。後はここでお前達を食い止めればいい」
「半壊した魔兵機《ゾルダート》とその数の騎士で私を倒すつもりかい? さすがにこっちも三回目は面目が立たないんだよね……!」
「……!?」
ディッターが少し苛立った調子でそう言うと、その場から駆けだして行く。
一気に距離を詰めてくるのを見て、エトワールの騎士達は門を閉じて退却の足を進めていた。
しかし、ディッター機のスピードは思いのほか速く門をつ破られてしまう。
「くっ……!」
「渓谷ではこの動きは難しいが町の中なら造作もないね。お前等は後だ。町の人間もそう遠くには行っていまい、先にそちらからやらせてもう」
「うお……! ま、待て!」
前へ出ようとしたディッターを追おうとする騎士。するとディッター機の前へ立ちふさがるように魔兵機《ゾルダート》が現れた。
「行かせんよ!」
「裏切り者ならいざ知らず、エトワールの爺さんが動かせるものか」
「やってみなければわかるまい!」
「フッ、無駄なことを。仕方あるまい、追いついたら即座に町人は始末しよう。抵抗後の見せしめとして皆殺しにしてやる」
「……それはさせんと言っている。やれ!」
ガエインがそう言った瞬間、後ろに下がりながら大声を上げた。するとその時、崖の上に人影が現れて巨大な岩を押し始めた。
「うおおりゃぁぁぁ!」
「なんだ!? いや、そういうことか……! つまらん手を!」
「ここまでじゃ。貴様等グライアードにはこのワシが必ず報復する。覚えておくのだな」
「……」
急いで渓谷の奥へ向かうがその前に巨大な岩が落ちて道を塞いだ。周囲を確認するとヘッジとビッダーの魔兵機《ゾルダート》の姿も無い。
エトワールの騎士達も打ち合わせ通り、早々に撤退していた。
「してやられた、ということか」
斧を大岩に振り下ろし金属音が鳴り響く。焦ってはいなかった。白い魔兵機《ゾルダート》も居なかったのに損害は大きいことにディッターは片目をつぶる。
「……町を焼き払っておいてくれ。とりあえず一つ潰したとあれば言い訳もたつ」
「了解しました。騎士だけなら隙間を縫って追えますが――」
「いや、いい。逃げた奴等には後悔してもらおうじゃないか。他にも町はある。そうだなあ?」
「そ、そうですな」
背筋に寒気が出るような声でディッターはそう言い踵を返す。幸いこちらにも死者は居ない。戦いは始まったばかりだとコクピットで一人呟くのだった――
しかし、それでビッダー機を助けたものの、地面へと落下してしまう。
「いってぇ……!?」
「む! 裏切り者が落ちてきたぞ!」
「げっ、やべえ!? ……お」
「うが!?」
気づいたグライアードの騎士が倒れたヘッジへ向かおうとしたが、その騎士を外壁上にいるザナックが迎撃していた。
「おい! 早く逃げろ! 援護してやる!」
「すまねえ! その前に……!」
「なんだ?」
立ち上がったヘッジは動きを止めた魔兵機《ゾルダート》へよじ登り始めた。ザナックはなにをやっているんだと訝しむ。
コクピット付近に到着した時、ヘッジの意図が判明する。
「おらぁ! 降りろってんだ!」
「!?」
ヘッジはコクピットの扉を無理やりこじあけたのだ。
目を真っ赤にし、鼻水を流すパイロットが怒声を聞いてビクッと体を強張らせる。
「な、なんだ……? ぐ、目が……痛いっ!?」
「くっくっく、こいつはオレ達がいただくぜ? 降りな!」
「うあ……!? き、貴様ぁぁぁぁ!」
笑いながらシートベルトを引きちぎり、騎士を持ち上げたヘッジはそのまま地面へ投げ捨てた。
「チッ、やりすぎたか? さて、オレでも少しは動かせるだろ。後はビッダーのコクピットを開けて乗り換えてもらおう――」
そう、ヘッジが呟いた時、魔兵機《ゾルダート》の足音と雄たけびが聞こえてきた。
「うおおおおお!」
「さっさと隠居すればいいのにさあ!」
「ガエイン爺さん!? それにその魔兵機《ゾルダート》はディッター殿か……!」
町の前へ躍り出たのは崖から魔兵機《ゾルダート》へ飛び掛かり、大剣を振るうガエインとそれを剣で受け止めるディッター機だった。
幾度かここへ来る前に攻撃を当てていたようで魔兵機《ゾルダート》の肩や足にへこみと傷があった。
その激闘を見て、斧魔兵機《ゾルダート》を乗っ取ったヘッジが声を上げると、ディッターが目を細めてスピーカーから声を上げる。
「……その声はジョンビエルの部下で裏切り者か? ふむ、エージャが下に居るということはそういうことだな……!」
「チィ……!」
「させんぞ!」
「うっとおしい爺さんだね!」
斧魔兵機《ゾルダート》へ剣を振り下ろそうとしたが、ディッター機に取りついているガエインが大剣を振って剣を弾く。
「そいつでこやつを倒せんか!」
「すまん、オレじゃ満足に動かせねえ……! 一旦、ヘッジに乗り換えてもらえば!」
「なるほど、魔力が少ないのか君は。なら、脅威ではないな」
「う……!?」
「ええい……!」
にやりと笑みを浮かべたディッターはすかさずヘッジへ狙いを定め、急停止をしてガエインを落とした後、ヘッジへ剣を振り下ろした。
狙いは頭部からコクピットにかけての正中で、ヘッジは咄嗟に右腕で庇う動作を見せた。
「私の剣は特注品だ。ガードなどできんよ」
「なら……!」
「ほう……!」
ガードモーションを取りつつ、左へと避けるヘッジ。しかしそれほど素早い動作ができないため、右腕が斬り裂かれ、二の腕と肩を残した状態になった。
地面に右腕と斧が落ち轟音が渓谷に響く。
そのままディッターはヘッジに体当たりをしてその場に転がした。
「ぐあ!?」
「そこで寝ているといい。とどめを刺してやりたいが、まずは町を蹂躙しないといけなくてね」
そう言いながら斧を拾い、両手に武器を持つディッター。そのまま町の門へと突っ込んでいった。
「グライアードの者達は道を開けろ。私が門を打ち破る」
「簡単にさせるわけにはいかん……!」
「ジジイを止めろ! ……ぎゃあ!?」
「邪魔だ!」
「囲め! ディッター様の邪魔をさせるな!」
「死に急ぎたいか……!」
グライアードの騎士や兵士達に囲まれ道を阻まれるガエイン。しかし彼等が壁になることはなく斬り伏せていった。
だが、一瞬の足止めはこの場の命運を分けた。すでに歩兵の大槌で緩んでいた門へ――
「ははは! 崩れろ!」
「うわああ!?」
斧と剣が振り下ろされ、粉々になった。後ろで控えていた騎士達が悲鳴のような声を上げてその場から散る。
「よし! 爺さんに構うな町の人間を捕まえるんだ。人質になる」
「「はっ!」」
「ぬうう……!」
「ぐあ……!?」
ガエインは町に向かう者を斬りながらヘッジの下へと向かった。
「無事か?」
「ああ、すまねえ爺さん。オレはビッダーを助けてくるからこいつを頼むぜ」
「承知した」
「さて……もう少し気づくなよ?」
そう呟いたガエインはヘッジと交代し、魔兵機《ゾルダート》を動かして立たせていた。
その間にヘッジが駆動系にかんだ岩をどけると、ビッダー機が動き出す。
「助かった」
「ここで乗り捨てるつもりだったがまだ頑張ってくれそうだな。ずらかるぞ」
「ああ」
そして三人は町を大きく迂回してリク達が抜けた北側へと回り込む。
そんな中、町では困惑の声が上がっていた。
「ここもだ……! 隊長! 町には誰もいません……!」
「なんだって? ふん」
ディッターがその辺にある家屋を斧で破壊するも悲鳴は聞こえず、よく見れば家畜すら厩舎にいなかった。
「これは……」
「あ! 奴等が逃げています!」
そこで散ったと見せかけていたエトワールの騎士達が北門へ集合していた。
「万が一に備えて町の人間には脱出してもらったんだ。後はここでお前達を食い止めればいい」
「半壊した魔兵機《ゾルダート》とその数の騎士で私を倒すつもりかい? さすがにこっちも三回目は面目が立たないんだよね……!」
「……!?」
ディッターが少し苛立った調子でそう言うと、その場から駆けだして行く。
一気に距離を詰めてくるのを見て、エトワールの騎士達は門を閉じて退却の足を進めていた。
しかし、ディッター機のスピードは思いのほか速く門をつ破られてしまう。
「くっ……!」
「渓谷ではこの動きは難しいが町の中なら造作もないね。お前等は後だ。町の人間もそう遠くには行っていまい、先にそちらからやらせてもう」
「うお……! ま、待て!」
前へ出ようとしたディッターを追おうとする騎士。するとディッター機の前へ立ちふさがるように魔兵機《ゾルダート》が現れた。
「行かせんよ!」
「裏切り者ならいざ知らず、エトワールの爺さんが動かせるものか」
「やってみなければわかるまい!」
「フッ、無駄なことを。仕方あるまい、追いついたら即座に町人は始末しよう。抵抗後の見せしめとして皆殺しにしてやる」
「……それはさせんと言っている。やれ!」
ガエインがそう言った瞬間、後ろに下がりながら大声を上げた。するとその時、崖の上に人影が現れて巨大な岩を押し始めた。
「うおおりゃぁぁぁ!」
「なんだ!? いや、そういうことか……! つまらん手を!」
「ここまでじゃ。貴様等グライアードにはこのワシが必ず報復する。覚えておくのだな」
「……」
急いで渓谷の奥へ向かうがその前に巨大な岩が落ちて道を塞いだ。周囲を確認するとヘッジとビッダーの魔兵機《ゾルダート》の姿も無い。
エトワールの騎士達も打ち合わせ通り、早々に撤退していた。
「してやられた、ということか」
斧を大岩に振り下ろし金属音が鳴り響く。焦ってはいなかった。白い魔兵機《ゾルダート》も居なかったのに損害は大きいことにディッターは片目をつぶる。
「……町を焼き払っておいてくれ。とりあえず一つ潰したとあれば言い訳もたつ」
「了解しました。騎士だけなら隙間を縫って追えますが――」
「いや、いい。逃げた奴等には後悔してもらおうじゃないか。他にも町はある。そうだなあ?」
「そ、そうですな」
背筋に寒気が出るような声でディッターはそう言い踵を返す。幸いこちらにも死者は居ない。戦いは始まったばかりだとコクピットで一人呟くのだった――
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