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第三章
第92話 捕獲
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「どうする?」
「あ、あぶないですよ……」
あたしは親フォックスの頭をぐりぐりと撫でながら再度尋ねてみる。イラスがオロオロしているけど、こういうのも慣れているから平気なんだけどね。
子供を抱っこしているからというのもあるけど。
【きゅきゅー】
【グルゥ……】
「なんか喋ってます……」
ばたばたと手足を動かす子が親に話しかけていた。親もなにか探るようにあたしを見ながら小さく鳴く。
しばらく見ていると親フォックスがあたしをぐるりと取り囲むように体を預けてきた。
【キュー】
「お、行く? よし決まり!」
「だ、大丈夫なんですか本当に……」
「多分ね。はい、返すわよ」
【きゅーん】
【キュー】
ポスンと子供を背中に乗せて上げると親フォックスはあたしの腰に頬ずりをしてきた。敵じゃないと判断してくれたらしい。
「あ、すごい」
「賢い個体じゃとこいうこともある。貴族が犬とか猫とか鳥のペットを飼うじゃろ? あれが魔物に変わっただけじゃな」
「確かに……」
イラスが自宅を思い出しているのか納得した声を上げていた。
子供が出てきたため、殺さずに済んだのは良かったかな? 食用にするにはグラップルフォックスのお肉って固いし。
「そ、そういえば魔物と一緒に魔物と戦うって言ってましたけど、同族と戦うものなんですか?」
「仲間意識があるかないかで変わるわ。フォレストウルフみたいな群れで狩りをするようなタイプは戦う前に説得してくれるらしいし」
「そうなんですね。賢い……」
【きゅーん♪】
恐る恐る子フォックスの頭に手を乗せて撫でると大きなしっぽをブルンブルン振るわせていた。
「それじゃ町まで戻りましょ。今から戻ったらちょうど暗くなりそうだけど、依頼を達成したことを伝えないとね」
「うむ」
「うふふ、可愛い……こんこん」
「狐はこんこんって言わないわよ?」
「え……!?」
イラスの驚愕をよそにあたしと師匠は歩き出した。親フォックスも子を背中に乗せたままあたしの隣についていた。
きちんと洗ってあげてからモフらせてもらおう……
帰りの足取りは軽いなと思っていると、前から見知った顔が現れた。イラスはさっとあたしの後ろに隠れた。
「お、さっきのお嬢さん……か?」
「あら、グレンだっけ? 今から依頼?」
それはギルドで出会ったナンパ男だった。あたし達についてきたのかしら?
そんなストーキング疑惑が首をもたげるが、メンバーの一人が口を開く。
「ああ。シャープオウルっていう夜間に活動する魔物が近隣の村で畑を荒らすらしいんだ。で、ここを抜けた先の村に行くってわけよ」
「あ、そういう感じなのね」
「……ところで、そのでかいのはまさか……」
あたしが納得していると、グレンが親フォックスに目を向けて尋ねてきた。
「そう。依頼のグラップルフォックスよ! 仲良くなったからあたし達の拠点へ連れて行こうと思って」
「ま、マジか!? こいつがあの……」
「かなり賢い個体じゃ。間違いなかろう」
「それは……凄いな。爺さんと世間知らずのお嬢様の道楽かと思っていたけど、失礼した」
グレンが肩を竦めて謝って来た。どうやらあの時はあたし達を舐めていたらしいわね。ま、ちゃんと認識できるあたり悪い人間ではなさそう。
「テイムして別の場所に連れて行くならみんな万歳だろうな。ありがとよ! そんじゃ俺たちは行くぜ」
「気を付けてね」
グレンのパーティと挨拶を交わしてお互い逆の方へ歩き出す。意外な態度に拍子抜けしていると、師匠が言う。
「まあ、お主らは美人じゃしなにかにつけて声をかけたかったんじゃろう。町の専属冒険者ならそこまで変なヤツはおるまいて」
「び、美人……!? そんなことないです……」
「ま、それも一理あるわね。ん? どうしたの?」
【……】
少し歩いてから親フォックスがついてきていないことに気付き振り返ると、ここまで歩いて来た方角を見ていた。
あの冒険者達を見ているのかと思ったけど、どうも上を見ているようだ。
「気になることでもあるの?」
【クァァ……】
残念ながら言葉は分からない。
けど、グレン達とすれ違ってから親フォックスはよく振り返るようになった。
「どうしたんでしょうか……?」
「森を離れるのが嫌なのかのう?」
「うーん……?」
背中を撫でてやったりするんだけど、どうも歩みは鈍い。まあ、この子がいれば他の魔物もそうそう襲い掛かってこないかとのんびり行くことを決めた矢先、それは起きた。
(うわああああああああ!?)
「……! 今のは!」
「男の悲鳴じゃな……! さっきの連中か?」
【クォォォォ!】
「あ、あれ? どうしたんです!?」
あたし達が振り返ると親フォックスは毛を逆立てて大きく吠えた。イラスがびっくりして宥めようとしたら、その場で伏せる仕草を見せた。
「乗れっ、てことかしら?」
「そのようじゃ。三人乗れるか?」
【クァァ】
……いけるみたいね? さっきから気にしていたことの答え合わせができそうだとあたしは子フォックスを抱きかかえて背中に乗る。
「イラスも乗るのじゃ。ワシは走る」
「ええ……? ひゃ――」
師匠が親フォックスのお尻を叩くと、力を蓄えた足を一気に解き放つ。その瞬間、景色が急に流れていく。
【きゃっきゃ♪】
「慣れてるわね。……師匠も追いついたわ」
「速っ……!?」
「油断するな。こやつ怒っておる。なにかあるぞ」
「うん」
そして悲鳴のあったであろう場所へ到着すると――
「あ、あぶないですよ……」
あたしは親フォックスの頭をぐりぐりと撫でながら再度尋ねてみる。イラスがオロオロしているけど、こういうのも慣れているから平気なんだけどね。
子供を抱っこしているからというのもあるけど。
【きゅきゅー】
【グルゥ……】
「なんか喋ってます……」
ばたばたと手足を動かす子が親に話しかけていた。親もなにか探るようにあたしを見ながら小さく鳴く。
しばらく見ていると親フォックスがあたしをぐるりと取り囲むように体を預けてきた。
【キュー】
「お、行く? よし決まり!」
「だ、大丈夫なんですか本当に……」
「多分ね。はい、返すわよ」
【きゅーん】
【キュー】
ポスンと子供を背中に乗せて上げると親フォックスはあたしの腰に頬ずりをしてきた。敵じゃないと判断してくれたらしい。
「あ、すごい」
「賢い個体じゃとこいうこともある。貴族が犬とか猫とか鳥のペットを飼うじゃろ? あれが魔物に変わっただけじゃな」
「確かに……」
イラスが自宅を思い出しているのか納得した声を上げていた。
子供が出てきたため、殺さずに済んだのは良かったかな? 食用にするにはグラップルフォックスのお肉って固いし。
「そ、そういえば魔物と一緒に魔物と戦うって言ってましたけど、同族と戦うものなんですか?」
「仲間意識があるかないかで変わるわ。フォレストウルフみたいな群れで狩りをするようなタイプは戦う前に説得してくれるらしいし」
「そうなんですね。賢い……」
【きゅーん♪】
恐る恐る子フォックスの頭に手を乗せて撫でると大きなしっぽをブルンブルン振るわせていた。
「それじゃ町まで戻りましょ。今から戻ったらちょうど暗くなりそうだけど、依頼を達成したことを伝えないとね」
「うむ」
「うふふ、可愛い……こんこん」
「狐はこんこんって言わないわよ?」
「え……!?」
イラスの驚愕をよそにあたしと師匠は歩き出した。親フォックスも子を背中に乗せたままあたしの隣についていた。
きちんと洗ってあげてからモフらせてもらおう……
帰りの足取りは軽いなと思っていると、前から見知った顔が現れた。イラスはさっとあたしの後ろに隠れた。
「お、さっきのお嬢さん……か?」
「あら、グレンだっけ? 今から依頼?」
それはギルドで出会ったナンパ男だった。あたし達についてきたのかしら?
そんなストーキング疑惑が首をもたげるが、メンバーの一人が口を開く。
「ああ。シャープオウルっていう夜間に活動する魔物が近隣の村で畑を荒らすらしいんだ。で、ここを抜けた先の村に行くってわけよ」
「あ、そういう感じなのね」
「……ところで、そのでかいのはまさか……」
あたしが納得していると、グレンが親フォックスに目を向けて尋ねてきた。
「そう。依頼のグラップルフォックスよ! 仲良くなったからあたし達の拠点へ連れて行こうと思って」
「ま、マジか!? こいつがあの……」
「かなり賢い個体じゃ。間違いなかろう」
「それは……凄いな。爺さんと世間知らずのお嬢様の道楽かと思っていたけど、失礼した」
グレンが肩を竦めて謝って来た。どうやらあの時はあたし達を舐めていたらしいわね。ま、ちゃんと認識できるあたり悪い人間ではなさそう。
「テイムして別の場所に連れて行くならみんな万歳だろうな。ありがとよ! そんじゃ俺たちは行くぜ」
「気を付けてね」
グレンのパーティと挨拶を交わしてお互い逆の方へ歩き出す。意外な態度に拍子抜けしていると、師匠が言う。
「まあ、お主らは美人じゃしなにかにつけて声をかけたかったんじゃろう。町の専属冒険者ならそこまで変なヤツはおるまいて」
「び、美人……!? そんなことないです……」
「ま、それも一理あるわね。ん? どうしたの?」
【……】
少し歩いてから親フォックスがついてきていないことに気付き振り返ると、ここまで歩いて来た方角を見ていた。
あの冒険者達を見ているのかと思ったけど、どうも上を見ているようだ。
「気になることでもあるの?」
【クァァ……】
残念ながら言葉は分からない。
けど、グレン達とすれ違ってから親フォックスはよく振り返るようになった。
「どうしたんでしょうか……?」
「森を離れるのが嫌なのかのう?」
「うーん……?」
背中を撫でてやったりするんだけど、どうも歩みは鈍い。まあ、この子がいれば他の魔物もそうそう襲い掛かってこないかとのんびり行くことを決めた矢先、それは起きた。
(うわああああああああ!?)
「……! 今のは!」
「男の悲鳴じゃな……! さっきの連中か?」
【クォォォォ!】
「あ、あれ? どうしたんです!?」
あたし達が振り返ると親フォックスは毛を逆立てて大きく吠えた。イラスがびっくりして宥めようとしたら、その場で伏せる仕草を見せた。
「乗れっ、てことかしら?」
「そのようじゃ。三人乗れるか?」
【クァァ】
……いけるみたいね? さっきから気にしていたことの答え合わせができそうだとあたしは子フォックスを抱きかかえて背中に乗る。
「イラスも乗るのじゃ。ワシは走る」
「ええ……? ひゃ――」
師匠が親フォックスのお尻を叩くと、力を蓄えた足を一気に解き放つ。その瞬間、景色が急に流れていく。
【きゃっきゃ♪】
「慣れてるわね。……師匠も追いついたわ」
「速っ……!?」
「油断するな。こやつ怒っておる。なにかあるぞ」
「うん」
そして悲鳴のあったであろう場所へ到着すると――
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