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第四章
第138話 今、やるべきこと
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「くあー! きつかったぜ!」
「言うなヘッジ。この戦力でこれだけの成果が出たなら十二分だ」
魔兵機《ゾルダート》の足元で汗を血を流しながらヘッジが悪態をついていた。それに嘆息をしながらビッダーが返す。
そこへもう一機の魔兵機《ゾルダート》に乗ったアデリーが近づいていた。
「しかし、撤退を許してしまいましたね……」
「仕方ねえさ。それでもディッターの野郎を倒したから五分……ってことにしておこうぜ」
「それで済むといいのですが……」
アデリーは困惑した声色でそう呟いていた。
少なくともグライアード本国には俺のことが知れ渡るだろうし、対策を講じてくる可能性は断じて高い。恐らく、そういう意味でも困惑しているのだと思う。
俺が戦っている間、ビッダーやヘッジ達も騎士や魔兵機《ゾルダート》と戦ってくれていたけどあっちはあっちで激戦だったようだ。
死者は互いに数名いるみたいでやりきれない。これが戦争だというのはわかるが。
「……まあ、犠牲が少なくて良かったかもしれないな。どうだサクヤ?」
<命に別条はありませんが出血が酷いですね。傷薬と止血を>
「こっちに回してくれ! ポーションなどはあるぜ!」
「頼む!」
敵の副隊長らしき女性をコクピットから取り出して手のひらに置いてメディカルチェックをサクヤに任せていた。
どうやらコクピットが斬り裂かれた際に鎧ごと肩口までいってしまったようで出血が酷いとのこと。
ゆっくりと下に降ろしてから担架のような簡易ベッドに乗せられ、治療を開始。
見立てだと命は助かりそうなので安心だ。
「さて……それじゃ、その人の治療が終わったら後続を警戒しつつ拠点へ行くか」
「そうしましょう。エトワールの騎士殿が二人戦死されました……」
「残念だ……」
ビッダーがコクピットハッチを開けて騎士達が集まっているところに視線を合わせる。祈りを捧げているような仕草をしているのであの輪の中心に二人が寝かされているのだと思う。
キャラバンの人間はグライアードの騎士の遺体を回収しているな。そのままにはできないのと装備は偽装に使えるので取っておきたい。
「仕方ないことですが、やりきれないですね……」
「アデリーさんにとって戦友だし、辛いなあ」
「ええ。家族のいる王都に帰らせてあげたいですが……埋葬するしかないのも」
そう言ってアデリーさんもコクピットから出て騎士の遺体があるところへ向かった。
<あれはどうしましょうか?>
「一応、持っていくか。コクピットのあいつは多分蒸発しているから乗りたくはないけど、パーツ取りには使えるだろうし」
ディッター機を指してサクヤがどうするのか聞いてきたので俺は回収していくことを伝えた。へんな怨念とか残ってそうだし搭乗機にするのは嫌だな。
「リク様、ティアーヌさんの機体はわたしが運びます」
「いいのかイラス? てか知り合いか」
「はい。リント様から隊に誘われたことがあって、顔見知りなんです……」
「そっか。なら頼むよ。大丈夫、彼女は助かるよ」
イラス機が近づいてきてそう提案してきたので快諾しておいた。女性同士思うところもあるだろう。
ティアーヌという名前のパイロットはイラスに任せるとして、ひとまずキャラバンの代表と話をすることにした。
「すみません、キャラバンの代表はどなたですか?」
「ん? ああ、フェンロバさんならあそこだよ。おーい!」
代表はフェンロバという人のようだ。体格のいい男がのっしのっしと歩いてきた。
「呼んだかい?」
「こんな姿でも申し訳ない。今回、指揮を取ったリクです、オンディーヌ伯爵とは話をしたことがあります」
「この姿って……」
「えっと――」
ということで俺がヴァイスと一体化している話をかいつまんで話しておく。目を見開いて驚いていた。
「……なら今はその姿があんたってことか……」
「ええ。ひとまず拠点までは索敵と戦力になれるので、町まで安全に行けると思います」
「まあさっきの戦いを見ていればな。すまないが頼む。女騎士のおかげでこちらの犠牲は比較的少なかったのは幸いだった……」
リント・アクアという例の騎士がディッターを止めてくれていたようで、道中の犠牲は無かったそうだ。
ディッターのせいでリントは本来の力を発揮できなかったが、話はわかりそうだな。
<それこそティアームさんが鍵になるかもしれませんね>
「そうだな……」
イラスが見ているティアームに視線を合わせながら次の襲撃に備えることを考える俺だった――
◆ ◇ ◆
『……』
『リント様、如何しましょう……』
『どうもこうもない……ディッターが死んだのは自業自得だが、あの白い魔兵機《ゾルダート》の情報は持ち帰らねばならない』
敗走したリント達は丘陵を真っすぐ越えてグライアードへの帰還を目指していた。
来た道をそのまま引き返す形である。
『あれは……一体何だったのでしょうか……光の剣を持っていました。まさか伝説の勇者とでも――』
『……』
部下の言葉にリントは答えなかった。
その昔、エトワール王国を救ったという英雄……その人物が持っていたのが光の剣だった。
『(……英雄が国を救った時もエトワール王国が危機に瀕していた時と聞く。確かに我々の行った所業は陛下のためとはいえ許されるものではないが……)』
それでも、自分はグライアードの騎士だと頭を振る。
今やらなければならないこと。それは敵の戦力を正確に本国へ伝えることなのだと胸中で繰り返しながら――
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