前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
19 / 196
第一章:覚醒の時

その18 謎かけという罠

しおりを挟む


 「うう、お腹すいてきたね」

 「飲み物はあるけど食べ物は無いもんね。でもそろそろ試験も終わりそうじゃない?」

 「陽も暮れてきた、続きがあるとしても明日になりそうだな」

 リラとエコールがそれぞれそんなことを言う。あの試験は少しずつしか受けられないため、大幅に時間をくっていた。まあ、100人単位の試験で、対戦もあったから時間はお察しだろう。

 そしてようやく最後の受験者が終わり、スタッフの皆さんが衝立つきテーブルを片していく。後に残ったのは、時間経過で毒にやられた人達が転がっていた。

 「ぐう……は、腹が……」

 「いっそ殺してくれ……」

 「やれやれ、そんなことで冒険者を目指すのは無謀かもしれんのう」

 「お、それでも今回は少ない方だろマリーヌさん。さて、次の試験に関わってくるから治してやってくれ」

 「まあ、引っかからなかった奴が多いのは確かにそうかもしれんな。≪キュア≫」

 ヒューリさんがマリーヌさんと呼んだあのお婆さんがキュアを唱えると、倒れていた受験者がたちまち元気になる。解毒とか麻痺の魔法で、石化や病気には効き目が無い。上級になると、傷の回復も兼ねた魔法≪キュアヒーリング≫になる。エリィが得意としている魔法だったね。それはいいとして、ヒューリさんが不穏なことを言ったような気がする。

 「あの、次の試験って……?」

 「いい質問だ。二回目以降の連中は知っていると思うが、この後は森に入り野営訓練だ」

 「えーっと……ご飯は?」

 「ふっふ、安心しろ、今から説明してやる。さあ、出て来いヒカラルド!」

 「野営訓練まで口にしたんだから残りも自分で言えばいいじゃないですか、面倒くさい……。はい、初めましての人もまたお会いしましたねの人もいるかと思いますが、今ご紹介にあずかったヒカラルドです」

 と、青い髪をした眼鏡の男性が前へ出てにこりと笑う。冒険者って感じではなく、どちらかと言えば学者とかの方が合っていると思う。

 「では、時間もあまりありませんから早速説明です。あれを渡してください」

 ササッ……

 ヒカラルドさんが合図をすると、スタッフさんが目にもとまらぬ速さで僕たちに"ずた袋"を渡していく。本当に何者なんだろう。

 「今渡された袋には野営道具が一式入っています。もちろんご飯や干し肉といった食料から、雨風を凌げるシートなどです。そして今からこの町の外に広がっている森で野営をしてもらいます」

 (お、おい、マジか?)

 (今からかよ……)

 (もうへとへとなんだけど……)

 あちこちからため息が漏れてくる。無理もない、朝から夕方まで昼ご飯も無しでずっと試験を受けていたんだから疲れもピークだろう。そこへ野営訓練はきつい……だが、ヒカラルドさんはさらに予想を上回る発言をしてきた。

 「では続けてルールを説明します。最低三人以上、五人以下でパーティを組んでください。ソロや二人、または六人以上はポイントが下がりますので、森に入る前に申告をお願いします。森には試験官が潜んでいますので、それ以外で固まった時点で失格とみなします。ポイント減ではありませんよ、失格です。お忘れなく」

 「アタシ達はこれでいいわよね」

 「そうだな。レオスもいいか?」

 「うん。いいよ、どうせ組む人も居ないしね」

 さらにヒカラルドさんの話は続く。

 「次に訓練内容ですが、明日の正午まで森の中で過ごしてください。過ごしきることができたらポイントがもらえます。ちなみに森には我々が決めたエリアがありますから、そこから出ないようにも注意してくださいね」

 すると、剣を背負った真面目そうな男が手を上げて尋ねていた。

 「それだけですか? 寝ちゃいけないとか、水を飲んではダメとかそういうのは?」

 「ありません。寝てもいいですし、手持ちの食料を追加で食べても構いません。エリア外へ出ず、明日の正午まで耐えてください。ただ、森には魔物も居ますし、試験官も居ます。"油断しないよう"にしてくださいね」

 「は、はあ……」

 拍子抜けしたような剣士。他の受験者は簡単だ、魔物なんてパーティを組んでいれば余裕だろ、など思い思いの言葉が飛びかう。本当に楽だろうか……? 僕は嫌な予感がしていた。

 「では、移動します。ついてきてください」

 ヒカラルドさんが歩きはじめ、試験内容を聞いた受験者たちは嬉々としてついて行く。そんな中、ザハックを発見し、エコールが声をかけた。

 「寝ていたのか? 随分呑気だな?」

 「ふあ……へへ、エコールかよ。見分ける試験をさっさと終えてゆっくり休ませてもらったぜ。俺は二回目だ、この後何があるかも分かっているんだぜ? 見ろよ」

 ザハックが親指でとある場所を指すと、ザハック達と同じくゆっくりと休憩や睡眠をしている人達が居た。やっぱり一筋縄ではいかないってことか。

 「ま、お前等はここで落ちるだろうな! 俺は冒険にゃ、お前達はまた農民暮らしだ!」

 「噛んだね」

 「噛んだわね」

 「噛んだな」

 ドヤ顔で言い間違えたザハックをジト目で見ると、顔を赤くして叫びだす。

 「う、うるさい! おいモブイチ、モブゾウ、いくぞ!」

 「かわいかったから結果オーライでさあザハックさん!」

 「ひゃひゃひゃ、冒険にゃ!」

 「やかましいわ!」

 ポカリと頭を叩かれながら去っていくザハック一味。あいつらそういう名前だったのか……どうでもいいけど。

 それに続くかのようにぞろぞろと恐らく二回目以降の受験者たちが元気そうな顔で歩いていく。まあ、流石にそこは余裕が見えた。

 「オレ達も行こう」

 「そうだね」


 エコールの言葉で僕たちも進み、程なくして森の入り口へ差しかかる。ん? 地面に魔方陣……?

 「それではパーティを確認します!」

 一応この時点で失格者は居ない。僕が最後の100番みたいなので三人ずつなら一人あぶれる計算だ。だけど、前を見ると最大人数の五人で組む人が多いようだった。

 「三人じゃ心もとないかな? 魔物もいるみたいだし……」

 「そうだな……でも今から勧誘も難しいだろう」

 リラが不安がっていたので僕は思い当たることを口にする。

 「何となくだけど、少ないなら少ないでメリットはありそうだよ。パーティの追加合流以外は失格条件が明示されていないんだ。もしかしたら負傷した人数とかもカウントされるのかもしれない」

 「……なるほど! 凄いわねレオス。あんた本当に商人? ベテラン冒険者みたいな考察じゃない」

 「あ、あはは、商人は頭を使う職業だからね。今のも何となく思っただけで、合っているとは限らないし」

 「それでもオレには考え付かなかった。やるな……」

 エコールが尊敬のような悔しいような目を僕に向けてそう呟く。さて、何て返事をしようかと思った矢先のことだ。

 「そ、そんな! ここまで来てパーティになれないだなんて!」

 「うるさいわね! あんたが試験二回目だって言うから使ってやったのよ。でもここまでよ、あんたみたいに辛気臭い女より、こっちの男達の方が頼りになりそうだしね♪」

 「そういうこった。悪いが俺達はこれで五人。これが定員だってな!」

 「行きましょ」

 「あ、ああ……待ってください!」

 お約束のように捨てられていたのは受験番号084のセラだった。どうも一緒にいた女性二人が男三人のパーティに勧誘されたかで置いて行かれたようだ。大事なことだから二回言うけどお約束過ぎる。

 「あの子、一人みたいねどうするのかしら」

 「あ、他の受験者に話しかけた! ……ダメだった……」

 見た感じ回復魔法を使えそうだけど、先に仲の良いパーティを組んだり五人になっているところは門前払い。まあ、一人だと失格だから仕方ないよね。

 「行こう、僕たちも森に入らないと」

 「あ、ああ……」

 「うん……」

 めそめそと泣き崩れるセラの横を通り過ぎる僕達。もう話しかける気力も無くなったのか、横を通っても話しかけられなかった。

 「何だか可哀相ね……」

 「むう……」

 二人がチラチラと後ろを振り返りながら呟く。


 「ふう……」

 立ちどまり、僕は頭を掻きながらため息を吐く。ダメだなあ……お約束ってのは嫌いなんだけどね。あの時、悪神の僕が倒されたのもお約束な展開ってやつだったからさ。



 でも――

 「良かったら一緒に行くかい?」

 「え?」

 今の僕は悪神じゃないからね。そう胸中で思いながら、僕はセラに声をかけた。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...