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第一章:覚醒の時
その21 イレギュラー
しおりを挟む――だいたい午前4時前後
「うあーん、これで失格なのぉ!?」
「最後のポイント次第だからまだ諦めるなよ?
ぽいっと魔方陣の外へ女性冒険者を捨てるグラン。そろそろ疲れがピークの冒険者達だが、攫われて森の外へ強制退去させられることに気付いてから彼等ものんきに寝ているということが無くなっていた。それでも半数くらいの冒険者は外へ退去させられていたのだが。
「魔物はもっと恐ろしいからな、野営は特に――」
ズズズ……バキ……ベキ……
「何だ……?」
グランはAランクの冒険者。森の奥で何か大きな音がしたのを聞き逃さなかった。そしてどこからともなく集まってきたスタッフが話しかけてきた。
「グラン殿、今のは……」
「マーリンさんの魔方陣で何かできるやつがいるとは思えないが、念のため行ってみよう。明るくなるのも近いから寝ているヤツを連れ去るのはこれくらいでいいだろう」
「はい」
グラン達は森の奥に向かって歩き出す。
◆ ◇ ◆
「本当に申し訳ありません……!」
「気にするな、回復魔法で疲れていたんだし、結果レオスが助けたから問題ない」
「そうそう。レオスが凄い勢いで走って追いかけて助けたから大丈夫よ」
ジッ……
スッ……
セラに話しかけているのに、二人の目線はずっと僕に向けられていたので僕は目を逸らす。ま、まあ、特に言及はしてこないのでこのまま話を進めよう。
結局セラはあれから数時間経っても起きてこなかったので、寝かせておいた。ようやく起きてきたので経緯を説明すると土下座せんばかりの勢いで謝っているという状況である。
「そんなに私のことを……まだ会ったばかりなのに……」
「うん、多分思い違いをしていると思うから早く目を覚ましてね? それより襲撃が無くなったね」
「そうだな。このまま昼まで何も無ければいいんだが」
「あ、あの、みなさん少し休まれては? 私が見張りをしておきますので……」
セラが殊勝なことを言ってくれるが、
「セラちゃんは起きたままでも連れ去られそうだからダメね……」
「ええ!?」
あっさりと同性のリラに却下され僕達は笑い合っていた。だけどその時だ――
ズズズ……バキ……
「……何だろう、今何か音が……」
「アタシも聞こえた。奥の方からじゃない?」
エコールとセラには聞こえていないようだけど、感覚の鋭いシーフであるリラには聞こえていたようだ。これも試験の罠かもしれない……そんなことを考えていると森の奥から悲鳴を上げながら受験者達が駆けてきた。
「うわあああ!」
「な、なんであんなのがこんなところに居るんだよ!?」
「これも試験の一つだったら私やめますぅぅぅ!」
「きいてねえ、きいてねえよー」
"あんなのが"という言葉を聞くに、彼等は何かから逃げているらしい。今回もスタッフさんかな? するとエコールが口を開く。
ズズズ……ズゥン……
「何か近づいているのか? とりあえず逃げられる準備だけしておこう、この窪みなら様子を伺うこともできる」
しかし――
ヒューン……
ドン! ゴロゴロゴロ!
「いてええ!? くっそ! 何であんなのが……! おい、マリーヌさんとヒューリさんに現状を伝えて来い! それと受講者は一旦森の外に行くよう探して回れ」
「りょ、了解!」
「分かりました、グラン殿は?」
「俺はあいつを足止めする」
「……ご無事で!」
転がってきたのはどこからか吹き飛ばされてきた試験官だった。確か戦闘試験の時に居た気がする。さらに一緒に吹き飛ばされてきたと覆面スタッフさん達と何やら会話をしてスタッフさんが散っていく。まるで忍者みたいな身のこなしだ。そこへセラがグランと呼ばれていた冒険者へ駆け寄っていく。
「だ、大丈夫ですか! ≪ヒール≫」
「おう、サンキュ……って、受験者か! 早くここから動けじゃないと……チッ、図体の割には速いな」
ズズズ……ズゥゥゥン! ベキベキベキ!
「う、うわ……!?」
「さっきの音はこいつか!?」
大きな音が近くまで来たので窪みから顔を覗かせるとそこには人に近い形をした巨大なゴーレムが歩いていた。木を倒しながら器用に前進していく。
「ウッドゴーレム……!? これも試験の一つですか!」
ダガーを構えるリラに、グランさんは怒号を飛ばす。
「馬鹿野郎、いいから逃げろ! こいつは俺も知らないイレギュラーだ。今、確認を急がせているが、多分誰も知らないと思う」
ギギギ……
「!?」
僕と、目が、合った。
その瞬間、真っ黒だった双眸に光が灯る! そしてゆっくりと片腕を持ち上げる。
「危ない! みんな逃げて!」
「うわあ!?」
「きゃあああ!」
「ひいん!?」
ガゴン!
振り下ろされた腕が先程まで僕達が居た場所に落とされると、大きな振動と共に窪みが完全に埋まってしまう。あのまま居たら潰されるか窒息死だったに違いない。
「だありゃあ! ぐお!?」
「グランさん! エコール、こいつは手に負えない逃げよう!」
振り下ろされた腕を斬ろうとグランさんが剣を叩きつけるがガツっと傷が入っただけであっさり吹き飛ばされてしまった。僕がエコールに叫ぶと即座に頷き走り出す。
「入り口まで行けば他の試験官もいるはずだ、行くぞ!」
「は、はい!」
駆け出す僕達。チラリと後ろを振り返ると、グランさんが再度アタックをかけているところだった。だけど、ウッドゴーレムはものともせず僕達を追い掛けてきた。
「なんでこっちを向かねぇんだ!?」
ズシン……ズシン……
段々遠くなっていく声。対照的に足音はどんどん近くなっている……!? ゴーレムは拠点防衛や大型の魔物を狩る場合に使役する人造魔物。作った人の能力に左右されるんだけど、こいつ相当な実力者が作っているぞ!
「速い!?」
ゴッ!
ウッドゴーレムは迷わず"僕"に拳を振り下ろしてくる。咄嗟に横っ飛びで回避する。空ぶった拳は近くの木をへし折るに十分な威力だった。
べきべきべき……根元から折れた木が僕とエコール達を寸断し、セラが慌てて振り返って叫ぶ。
「レオスさん!」
「だ、大丈夫! エコール達は助けを呼びに行って!」
「そんな!?」
するとエコールとリラがそれぞれセラの肩に手を置いて首を振る。ありゃ、諦めろって言いたいのかな?
「レオスならきっと大丈夫だ」
「ええ、レオスは謎の力できっと助かるわ」
「何、その謎の根拠!? いいから早く行ってよ! ……っとお!?」
ごしゃ!
尚も攻撃してくるウッドゴーレムを回避しつつ僕は叫ぶ。すると、エコールとリラは親指を立ててセラと共に森の闇へ消えて行った。うーん、記憶を消す魔法を使おうかな……でも副作用で頭がパーになっちゃうからあんまり使いたくは――
「おお!? でけぇな! こいつが試験の本命か!」
「みたいですぜ、いっちょ倒しちまいましょう!」
「ひゃっひゃ、名声名声」
「あちゃあ……」
僕がエコールとリラのことを考えていると、間の悪いことにザハック一味が姿を現した……
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