前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

文字の大きさ
22 / 196
第一章:覚醒の時

その21 イレギュラー

しおりを挟む


 ――だいたい午前4時前後

 「うあーん、これで失格なのぉ!?」

 「最後のポイント次第だからまだ諦めるなよ?

 ぽいっと魔方陣の外へ女性冒険者を捨てるグラン。そろそろ疲れがピークの冒険者達だが、攫われて森の外へ強制退去させられることに気付いてから彼等ものんきに寝ているということが無くなっていた。それでも半数くらいの冒険者は外へ退去させられていたのだが。

 「魔物はもっと恐ろしいからな、野営は特に――」

 ズズズ……バキ……ベキ……

 「何だ……?」

 グランはAランクの冒険者。森の奥で何か大きな音がしたのを聞き逃さなかった。そしてどこからともなく集まってきたスタッフが話しかけてきた。

 「グラン殿、今のは……」

 「マーリンさんの魔方陣で何かできるやつがいるとは思えないが、念のため行ってみよう。明るくなるのも近いから寝ているヤツを連れ去るのはこれくらいでいいだろう」

 「はい」

 グラン達は森の奥に向かって歩き出す。



 ◆ ◇ ◆


 「本当に申し訳ありません……!」

 「気にするな、回復魔法で疲れていたんだし、結果レオスが助けたから問題ない」

 「そうそう。レオスが凄い勢いで走って追いかけて助けたから大丈夫よ」

 ジッ……

 スッ……

 セラに話しかけているのに、二人の目線はずっと僕に向けられていたので僕は目を逸らす。ま、まあ、特に言及はしてこないのでこのまま話を進めよう。

 結局セラはあれから数時間経っても起きてこなかったので、寝かせておいた。ようやく起きてきたので経緯を説明すると土下座せんばかりの勢いで謝っているという状況である。

 「そんなに私のことを……まだ会ったばかりなのに……」

 「うん、多分思い違いをしていると思うから早く目を覚ましてね? それより襲撃が無くなったね」

 「そうだな。このまま昼まで何も無ければいいんだが」

 「あ、あの、みなさん少し休まれては? 私が見張りをしておきますので……」

 セラが殊勝なことを言ってくれるが、

 「セラちゃんは起きたままでも連れ去られそうだからダメね……」

 「ええ!?」

 あっさりと同性のリラに却下され僕達は笑い合っていた。だけどその時だ――

 ズズズ……バキ……


 「……何だろう、今何か音が……」

 「アタシも聞こえた。奥の方からじゃない?」

 エコールとセラには聞こえていないようだけど、感覚の鋭いシーフであるリラには聞こえていたようだ。これも試験の罠かもしれない……そんなことを考えていると森の奥から悲鳴を上げながら受験者達が駆けてきた。


 「うわあああ!」

 「な、なんであんなのがこんなところに居るんだよ!?」

 「これも試験の一つだったら私やめますぅぅぅ!」

 「きいてねえ、きいてねえよー」


 "あんなのが"という言葉を聞くに、彼等は何かから逃げているらしい。今回もスタッフさんかな? するとエコールが口を開く。

 ズズズ……ズゥン……


 「何か近づいているのか? とりあえず逃げられる準備だけしておこう、この窪みなら様子を伺うこともできる」

 しかし――

 ヒューン……

 ドン! ゴロゴロゴロ!

 「いてええ!? くっそ! 何であんなのが……! おい、マリーヌさんとヒューリさんに現状を伝えて来い! それと受講者は一旦森の外に行くよう探して回れ」

 「りょ、了解!」

 「分かりました、グラン殿は?」

 「俺はあいつを足止めする」

 「……ご無事で!」

 転がってきたのはどこからか吹き飛ばされてきた試験官だった。確か戦闘試験の時に居た気がする。さらに一緒に吹き飛ばされてきたと覆面スタッフさん達と何やら会話をしてスタッフさんが散っていく。まるで忍者みたいな身のこなしだ。そこへセラがグランと呼ばれていた冒険者へ駆け寄っていく。

 「だ、大丈夫ですか! ≪ヒール≫」

 「おう、サンキュ……って、受験者か! 早くここから動けじゃないと……チッ、図体の割には速いな」

 ズズズ……ズゥゥゥン! ベキベキベキ!

 「う、うわ……!?」

 「さっきの音はこいつか!?」

 大きな音が近くまで来たので窪みから顔を覗かせるとそこには人に近い形をした巨大なゴーレムが歩いていた。木を倒しながら器用に前進していく。

 「ウッドゴーレム……!? これも試験の一つですか!」

 ダガーを構えるリラに、グランさんは怒号を飛ばす。

 「馬鹿野郎、いいから逃げろ! こいつは俺も知らないイレギュラーだ。今、確認を急がせているが、多分誰も知らないと思う」

 ギギギ……

 「!?」

 僕と、目が、合った。

 その瞬間、真っ黒だった双眸に光が灯る! そしてゆっくりと片腕を持ち上げる。

 「危ない! みんな逃げて!」

 「うわあ!?」

 「きゃあああ!」

 「ひいん!?」

 ガゴン!

 振り下ろされた腕が先程まで僕達が居た場所に落とされると、大きな振動と共に窪みが完全に埋まってしまう。あのまま居たら潰されるか窒息死だったに違いない。

 「だありゃあ! ぐお!?」

 「グランさん! エコール、こいつは手に負えない逃げよう!」

 振り下ろされた腕を斬ろうとグランさんが剣を叩きつけるがガツっと傷が入っただけであっさり吹き飛ばされてしまった。僕がエコールに叫ぶと即座に頷き走り出す。

 「入り口まで行けば他の試験官もいるはずだ、行くぞ!」

 「は、はい!」

 駆け出す僕達。チラリと後ろを振り返ると、グランさんが再度アタックをかけているところだった。だけど、ウッドゴーレムはものともせず僕達を追い掛けてきた。

 「なんでこっちを向かねぇんだ!?」

 ズシン……ズシン……

 段々遠くなっていく声。対照的に足音はどんどん近くなっている……!? ゴーレムは拠点防衛や大型の魔物を狩る場合に使役する人造魔物。作った人の能力に左右されるんだけど、こいつ相当な実力者が作っているぞ!

 「速い!?」

 ゴッ!

 ウッドゴーレムは迷わず"僕"に拳を振り下ろしてくる。咄嗟に横っ飛びで回避する。空ぶった拳は近くの木をへし折るに十分な威力だった。

 べきべきべき……根元から折れた木が僕とエコール達を寸断し、セラが慌てて振り返って叫ぶ。

 「レオスさん!」

 「だ、大丈夫! エコール達は助けを呼びに行って!」

 「そんな!?」

 するとエコールとリラがそれぞれセラの肩に手を置いて首を振る。ありゃ、諦めろって言いたいのかな?

 「レオスならきっと大丈夫だ」

 「ええ、レオスは謎の力できっと助かるわ」

 「何、その謎の根拠!? いいから早く行ってよ! ……っとお!?」

 ごしゃ!

 尚も攻撃してくるウッドゴーレムを回避しつつ僕は叫ぶ。すると、エコールとリラは親指を立ててセラと共に森の闇へ消えて行った。うーん、記憶を消す魔法を使おうかな……でも副作用で頭がパーになっちゃうからあんまり使いたくは――

 「おお!? でけぇな! こいつが試験の本命か!」

 「みたいですぜ、いっちょ倒しちまいましょう!」

 「ひゃっひゃ、名声名声」

 「あちゃあ……」

 僕がエコールとリラのことを考えていると、間の悪いことにザハック一味が姿を現した……
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる
ファンタジー
 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?  挿絵結構あります

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...