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第五章:スヴェン公国都市
その85 とんでもない提案?
しおりを挟む「おかえりなさい、早かったわね? どうだった城下町は」
高台にあるセリアさんの家へ出向くとそのままリビングへと通された。かくかくしかじかして、全てが解決したことを告げる。
「そう、公王様も正気に戻ったのね。お疲れ様! 薬も役に立って良かったわ」
「これが無かったら中に入ることできなかったし、本当に助かりました。それで、その……元に戻りたいんだけど……」
「あれ!? 渡したわよね? どうしたの?」
「ルビアが自己欲の為にダメにしたんだよ」
「な、なによ、可愛いからいいじゃない!」
「それじゃレオバールと同じじゃないか……セリアさん、お願いします」
レオバールと一緒、という言葉にルビアが珍しく「ガーン」という顔でソファにもたれかかり、バス子が腹を抱えて笑い、拳骨を食らっていた。セリアさんは笑いながら研究室へ薬を取りに行ってくれた。
「ふう、無事に元に戻れそうだね」
「ですね。実家に帰って女の子になっていたらご両親もびっくりします」
「確かに……」
僕のため息でエリィが笑い、ベルゼラが喋り出す。
「これからどうします? 冥王を追いますか?」
「いや、僕は落ち着いたらまた実家へ戻る旅に戻るよ。気にはなるけど、どこに潜伏しているのかも分からないしさ。大魔王城が怪しいけど、ここからあそこまで行くのはかなり遠回りだしね。みんなはどうするの?」
「私はレオス君に付いて行きますよ? ルビアもベルもバス子ちゃんもそうですよね?」
「そうねえ……でもあたしはちょっとこの国で様子を見た方がいいかなと思ってるの。諦めたかどうか怪しくない?」
ルビアの言うことも一理ある。特に大魔王討伐をするような正義感あるルビアなら言うだろうな、とも思う。だけど僕はそれに返す。
「ならルビアは残るってことかな?」
「うーん、そこまでは言わないけど……レオスはこの国がどうなってもいいの?」
「僕は聖職って訳じゃないしね。冷たいようだけど、もしまた何かあったとして、ルビアが助けてめでたしめでたしになってもずっとルビアが居るわけじゃないよね? 大魔王みたいに本当にどうしようも無いような存在なら人間で協力して倒すべきだと思うけど、その国の問題は国が頑張ってくれなきゃ」
「う、うん」
ルビアが僕に押されていると、そこで意外な声があがる。
「レオスさんの言う通りですよ姐さん。いくら姐さんやエリィさん、レオスさんが強くて、敵を追い返すことができても、それはこの国のためにはならないんじゃないですか? 『何か起こる前に対処を考える』のは正しいですけど、それを姐さんが肩代わりするのは違うと思うんですよねえ。姐さんは優しいから犠牲が出るよりは自分が役に立てばと思ってのことだと思いますけど」
「私で言うと、お父様のことを思い出してください。お父様も考えがあって征服活動をしていたわけですけど、結果ルビアさん達に倒されましたよね? お父様の支配領地が国だと考えるなら六魔王がその防衛を担っていたわけです。最終的に倒されましたが、国を守るというのはそういうことだと思います」
ベルゼラとバス子が少し前の鬱憤を晴らすかのように長台詞を言うと、ルビアは腕組みをして二人の言葉を反芻する。
「……それもそうかもね。別に報酬が欲しいって訳じゃないけど、依頼をされたわけでもないし、無理する必要はないか。うん、あたしもレオスに付いて行くわ!」
そういって僕を手元に寄せて抱きしめるルビア。柔らかい!? じゃなくて! 慌ててルビアから
「もう、止めてよ! それじゃエリィの抱き枕と同じじゃないか」
「私は寝ている時こっそりですけど?」
「状況じゃないからね!? こほん。で、僕の実家に帰るのは満場一致ってことだね? それじゃ僕からもう一つ提案を出したいんだけどいいかな?」
「なんですか?」
エリィが首を傾げて聞いて来たので、僕はカバンから聖杯を取り出してベルゼラを見る。頬を赤らめるベルゼラ。
「……ベルゼラの持つ、ネックレスと聖杯。それと血があれば大魔王は復活するんだよね?」
「え、ええ。私はそう聞いていますけど……」
「まさか……」
ルビアが目を見開き、どさくさに紛れて僕をまた掴もうとしたのでヒラリと回避して全員に告げる。
「大魔王エスカラーチを復活させる。冥王やセーレのことを何か知っている可能性があるのはあいつしかいないからね」
「……マジですか……」
バス子が冷や汗を流し呟いていると、その瞬間、セリアさんが戻ってきた。
「お待たせー♪ 無かったからあわてて作っちゃったわ。あれ? どうしたの? 鬼気迫る顔しちゃって」
「あ、何でもないです。それより早く! プリーズ!」
「はい、これよ」
「ありがとうございます!」
セリアさんに薬を渡され、それを一気に飲み干すと、
パァァァァ!
僕の体が光出した!? あれ? こういうのじゃなかったよね!? う……
「レオス君!? え……!?」
膝から崩れた僕をエリィが支えてくれ、何とか踏ん張ることができた。
「ありがとうエリィ。え? どうしたのその顔? え? ルビア? バス子はどうしてそんなに怖い顔をしているの?」
するとベルゼラがハッとして震える指を僕に向けてポツリと呟く。
「レ、レオスさん……その体……」
「体? ……あ!?」
バン! ボン!
という表現がぴったりだと言わんばかりのナイスバディ!? それがこの僕!
「あははははは! すごいすごい! ルビア並みになったわ!」
「セリアさん!? うわ、目線ちょっと高い」
「『オトナビール』って薬なんだけど、女性化しても使えるか実験させてもらったの。ごめんね」
「困るよ……うわ!? バス子何するんだ!?」
「でかい……! 元々わたしより大きかったのにさらに姐さんクラスにまで……! 千切れろ! このこの!」
「必死すぎだよ!? セリアさん早く元に戻る薬を! このままじゃむしられちゃう!」
「もっと見たかったのに残念ねえ。はい」
きゅぽ、ごくごく……
一気に飲み干すとドクン、と体が熱くなる。するとだんだん体が縮んでいく感覚に襲われる。良かった……これでようやく元通り……僕に掴みかかっていたバス子が焦った声を出す。
「あやや? レオスさん!? ちょっと、あれ? セリアさん何飲ませたんですか?」
「え? 男の子に戻るための薬よ?」
「じゃ、じゃあ……なんでこんなに縮んでいるんですか!?」
最後の言葉はエリィだ。縮む? どういうこと――
「うわあああああ!?」
僕の体が……推定10歳くらいまで縮み、服がぶかぶかになっている!?
「新しい発見! 私は確かに男の子に戻る薬を渡したのよ!」
「最初に逢った時のレオスくらいの大きさかしら? 懐かしいけど女の子にはかなわないわね」
「……ならどうして抱っこしているんですかルビア? 私にも抱っこさせてくださいー!」
「私も私も!」
「はは……もう好きにして……」
女性陣が騒ぐ中、多分僕の表情は地球で見た名探偵のような顔をしていたと、鏡を見なくても想像ができた。 まあ、数時間後に何とかセリアさんの人体実験の末に元の姿に戻れたことを付け加えておきます……
そして次の日、僕達は出発前にとギルドへ足を運ぶことにした。
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