94 / 196
第六章:大魔王復活?
その88 前途多難な雨
しおりを挟む<水曜の日>
「雨、止みませんね。それどころか強くなっているような気がします」
エリィがうんざりした顔で窓枠から空を見上げながら呟く。僕は焚火の前でそれを聞いていると、馬に餌をあげていたバス子が戻ってきた。
「出発しますか? と言いたいところですけど、レオスさんちょっと来てもらえます?」
「どうしたの?」
バス子に連れられその場所へ向かうと、餌をあげた馬……ではなく荷台の方を指さす。
「あれ、どうします?」
「あー……」
見れば荷台の幌が破れ、雨が入り込んでしまっていた。荷台だからと屋根の下に置かなかったのは失敗だったか……結構雨が入り込んでいるなあ。
「レオスさんの<クリエイトアース>でしたっけ? レオスさんが居れば形は体裁を取れるんですよね?」
「そうだよ。それがどうかした?」
「なら魔法で屋根を作ったらどうですかね? 馬達に負担がかからないよう、岩を薄くして屋根にすれば雨くらい余裕ではないかと」
馬のことを考えているあたりバス子も悪い奴ではないなと思わせてくれる。何気に一番性格が悪いのは僕かもしれないな、などと考えているとバス子が「おお!」と手をポンと打つ。
「レオスさん、いっそ枠組みだけ残してレオスさんが荷台を作りませんか! あの不思議な魔法なら荷台を変形させて簡易なお店にすることもできると思うんですけど!」
「ちょっと高さがある気がするからそれは難しいかも。でもいいアイデアだよバス子! 次の町に着いたら荷台を職人さんに大幅改造してもらうよ。公王様からもらった報償金もあるしね」
お詫びとして謁見の間を出る時に金貨を50枚ずつもらっているので改造は多分できる。ただ、次の町に作業してくれる技術者がいるかどうかが問題である。
ま、今は考えても仕方ないし、とりあえずバス子の提案通りクリエイトアースで屋根を作るのが良さそうだと、僕は雨の中荷台を整え屋根を作りはじめる。
「それじゃあ出発しようか。僕は作業しているからみんなを呼んできてくれる?」
「あいあいさー!」
返事をして元気よく走って行くバス子。あ、転んだ。後でピュリファイをかけてあげないと。そんなこんなでクリエイトアースでちょっとした小屋みたいな荷台を作ることに成功。馬達に負担がかからないよう、立つと中腰くらいの天井にしてある。
しばらくしてエリィ達が来て荷物を馬車に積み込むと、馬を荷台へつなぎ出発準備完了となった。
「忘れ物は無い?」
「大丈夫ですレオスさん。パーッと壊していいわ!」
ベルゼラが荷台から手を振りそんなことを言うので、僕はサクッとお家を土くれに戻してから御者台へと戻り馬を歩かせる。
「雨凄いなぁ……お前達、悪いけど頼むよ」
ひひん!
ぶるる!
エリィが大きな葉っぱで傘のようなものを作って馬達につけてあげていたのだけど、それが気にいったようでご機嫌な調子でぽくぽくと歩く。
「村まではとりあえずいいけど、この雨だと山越えは難しいわね」
「そうですね。山崩れの可能性がありますし……」
と、エリィとルビアは旅の経験から不安そうに話をしていた。土砂崩れは怖い……というか大魔王を倒せる力があっても自然には逆らうのが難しいのだ。まあ、強力な魔法で吹き飛ばすのはアリかもしれないけどね。
お、そうだ、自然と言えばエリィに聞きたいことがあったんだと思い出し、暇つぶしがてら御者台からエリィへ訪ねる。
「そういえば『精霊魔法』ってエリィも使えないんだっけ?」
そう、いつぞや(その8)で気にしていた精霊魔法について聞いてみる。賢聖であるエリィでも使えない魔法で、僕が元居た世界には無く、この世界独自の魔法なので興味があった。
「え? そうですね、私は使えないです。あれは特殊な魔法で、精霊と契約してようやく使えるものなんです。レオス君の使うクリエイトアース、でしたっけ? ああいうこともできるみたいです。レオス君は違うんですよね
?」
「うん。エリィ達と旅をする前もあったことは無いかな。そっか、契約とかいるんだ」
「え、それってあたしでも使えるようになるわけ?」
「ええ、魔法が苦手なルビアでも精霊が補助してくれますからね!」
「へえ、いいわね」
「お嬢様も補助してもらった方がいいんじゃないですか? ノーコンが治るかも……」
「だまらっしゃい!」
「ふぎゃ!?」
とまあルビアが興味津々だったけど、エリィの話だと、大魔王が現れた50年前から精霊が姿を見せることが少なくなったらしく、契約するのが難しいとのこと。だからエリィも使えないんだとか。大魔王と何か関係があるのか気になったけど、ベルゼラは因果関係について不明と口をへの字に曲げていた。
そんな話をしながら暇と戦うも雨は止まず、二日ほどの道程をゆっくり三日かけてようやく村へ到着。魔物も雨では活動しないのか宿泊中にニ、三回遭遇しただけで、さほど苦労はしなかった。
「うわーい到着ですよ! ようやくベッドにありつけるんですねえ」
目を輝かせながら荷台から飛び出し、足を滑らせずべしゃっと顔からダイブするバス子にピュリファイをかけつつみんなに手を貸して荷台から降りていく。
とりあえずバス子の言う通りここ『サンロックの村』は、山越えをする前に立ち止まる旅人も多いようで、しっかりと宿屋や雑貨を売る店なんかがあり、人口は少ないけどよくある『何にもない村』ではないようだ。
宿屋の横に厩舎があったので、馬を連れてそちらへと向かう。
「すみませーん」
「はいはい、お泊りですか?」
「あ、はい。えっと、馬を置かせていただいても?」
「ええ、お泊りいただけるなら構いませんよ! へえ、立派な馬だなあ」
宿屋の人らしき男性(推定25歳)が、ニコニコしながら濡れた馬を布で拭きながらそう言ってくれる。短い付き合いだが馬を褒められると気分がいいね。
「よしよし。それじゃ受付をお願いしていいかな?」
男性が僕達を宿屋内に案内してくれる。中へ入ると、
「おーい、母さん! お客さんだよ!」
母親を呼んでくれ、すぐに優しそうなおばさんがやってきた。
「はいはい、いらっしゃいませ! サンロック村へようこそ。雨は大変だったでしょう?」
「ええ、もう散々でした。お風呂があったら入りたいです」
ルビアがそれとなく設備を聞くと、おばさんは笑いながら言う。
「一応、山から温泉があるんだけど――」
「「え! 本当ですか!」」
エリィとベルゼラも身を乗り出しておばさんに詰め寄るけど、その続きはがっかりするものだった。
「――ここ最近の雨で温泉と村を繋ぐ道が閉ざされてしまって、お湯が流れて来なくなったんだよ。撤去しようにもこの雨だし、様子を見に行った若い衆によると温泉に魔物が住み着いてさらに倍率ドンで難しくなったのさ」
「ええー……そんなあ……」
よほどがっかりしたのか、バス子以外の三人はがっくりと肩を落とす。ま、まあ、無いものは仕方ないよね。そこへ、びしょ濡れの冒険者が数名宿屋へ転がり込んできた。
「おや、おかえりなさい。どうだったね? ダメだったろ?」
「いやあ、おかみさんの言う通りありゃダメだ。村から町へ向かう道は大岩が塞いでた。どかそうと思ったけど下手に魔法をぶっ放すと足元までいっちまいそうだったぜ」
「だろう? ま、これだけ長く続くのは珍しいけどね。雨が止めば若い衆と一緒に大岩をどければいいさ。ウチも泊ってくれて大儲けってね! さ、お嬢さんたちは――」
と、僕達と帰ってきた冒険者へ泊る部屋の算段を始めるおばさん。
うーむ、実家へ帰るにはどうしてもここを越えないと近道にはならないんだよね……戻ったら遠回りだし……さてどうするかと頭を抱える僕であった……
10
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる