前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪

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第六章:大魔王復活?

その88 前途多難な雨

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 <水曜の日>


 「雨、止みませんね。それどころか強くなっているような気がします」

 エリィがうんざりした顔で窓枠から空を見上げながら呟く。僕は焚火の前でそれを聞いていると、馬に餌をあげていたバス子が戻ってきた。

 「出発しますか? と言いたいところですけど、レオスさんちょっと来てもらえます?」

 「どうしたの?」

 バス子に連れられその場所へ向かうと、餌をあげた馬……ではなく荷台の方を指さす。

 「あれ、どうします?」

 「あー……」

 見れば荷台の幌が破れ、雨が入り込んでしまっていた。荷台だからと屋根の下に置かなかったのは失敗だったか……結構雨が入り込んでいるなあ。

 「レオスさんの<クリエイトアース>でしたっけ? レオスさんが居れば形は体裁を取れるんですよね?」

 「そうだよ。それがどうかした?」

 「なら魔法で屋根を作ったらどうですかね? 馬達に負担がかからないよう、岩を薄くして屋根にすれば雨くらい余裕ではないかと」
 
 馬のことを考えているあたりバス子も悪い奴ではないなと思わせてくれる。何気に一番性格が悪いのは僕かもしれないな、などと考えているとバス子が「おお!」と手をポンと打つ。

 「レオスさん、いっそ枠組みだけ残してレオスさんが荷台を作りませんか! あの不思議な魔法なら荷台を変形させて簡易なお店にすることもできると思うんですけど!」

 「ちょっと高さがある気がするからそれは難しいかも。でもいいアイデアだよバス子! 次の町に着いたら荷台を職人さんに大幅改造してもらうよ。公王様からもらった報償金もあるしね」

 お詫びとして謁見の間を出る時に金貨を50枚ずつもらっているので改造は多分できる。ただ、次の町に作業してくれる技術者がいるかどうかが問題である。
 ま、今は考えても仕方ないし、とりあえずバス子の提案通りクリエイトアースで屋根を作るのが良さそうだと、僕は雨の中荷台を整え屋根を作りはじめる。


 「それじゃあ出発しようか。僕は作業しているからみんなを呼んできてくれる?」

 「あいあいさー!」

 返事をして元気よく走って行くバス子。あ、転んだ。後でピュリファイをかけてあげないと。そんなこんなでクリエイトアースでちょっとした小屋みたいな荷台を作ることに成功。馬達に負担がかからないよう、立つと中腰くらいの天井にしてある。
 しばらくしてエリィ達が来て荷物を馬車に積み込むと、馬を荷台へつなぎ出発準備完了となった。

 「忘れ物は無い?」

 「大丈夫ですレオスさん。パーッと壊していいわ!」

 ベルゼラが荷台から手を振りそんなことを言うので、僕はサクッとお家を土くれに戻してから御者台へと戻り馬を歩かせる。

 「雨凄いなぁ……お前達、悪いけど頼むよ」

 ひひん!

 ぶるる!

 エリィが大きな葉っぱで傘のようなものを作って馬達につけてあげていたのだけど、それが気にいったようでご機嫌な調子でぽくぽくと歩く。

 「村まではとりあえずいいけど、この雨だと山越えは難しいわね」

 「そうですね。山崩れの可能性がありますし……」

 と、エリィとルビアは旅の経験から不安そうに話をしていた。土砂崩れは怖い……というか大魔王を倒せる力があっても自然には逆らうのが難しいのだ。まあ、強力な魔法で吹き飛ばすのはアリかもしれないけどね。
 
 お、そうだ、自然と言えばエリィに聞きたいことがあったんだと思い出し、暇つぶしがてら御者台からエリィへ訪ねる。

 「そういえば『精霊魔法』ってエリィも使えないんだっけ?」

 そう、いつぞや(その8)で気にしていた精霊魔法について聞いてみる。賢聖であるエリィでも使えない魔法で、僕が元居た世界には無く、この世界独自の魔法なので興味があった。

 「え? そうですね、私は使えないです。あれは特殊な魔法で、精霊と契約してようやく使えるものなんです。レオス君の使うクリエイトアース、でしたっけ? ああいうこともできるみたいです。レオス君は違うんですよね
?」

 「うん。エリィ達と旅をする前もあったことは無いかな。そっか、契約とかいるんだ」

 「え、それってあたしでも使えるようになるわけ?」

 「ええ、魔法が苦手なルビアでも精霊が補助してくれますからね!」

 「へえ、いいわね」

 「お嬢様も補助してもらった方がいいんじゃないですか? ノーコンが治るかも……」

 「だまらっしゃい!」

 「ふぎゃ!?」

 とまあルビアが興味津々だったけど、エリィの話だと、大魔王が現れた50年前から精霊が姿を見せることが少なくなったらしく、契約するのが難しいとのこと。だからエリィも使えないんだとか。大魔王と何か関係があるのか気になったけど、ベルゼラは因果関係について不明と口をへの字に曲げていた。

 そんな話をしながら暇と戦うも雨は止まず、二日ほどの道程をゆっくり三日かけてようやく村へ到着。魔物も雨では活動しないのか宿泊中にニ、三回遭遇しただけで、さほど苦労はしなかった。

 「うわーい到着ですよ! ようやくベッドにありつけるんですねえ」

 目を輝かせながら荷台から飛び出し、足を滑らせずべしゃっと顔からダイブするバス子にピュリファイをかけつつみんなに手を貸して荷台から降りていく。
 とりあえずバス子の言う通りここ『サンロックの村』は、山越えをする前に立ち止まる旅人も多いようで、しっかりと宿屋や雑貨を売る店なんかがあり、人口は少ないけどよくある『何にもない村』ではないようだ。
 宿屋の横に厩舎があったので、馬を連れてそちらへと向かう。

 「すみませーん」

 「はいはい、お泊りですか?」

 「あ、はい。えっと、馬を置かせていただいても?」

 「ええ、お泊りいただけるなら構いませんよ! へえ、立派な馬だなあ」

 宿屋の人らしき男性(推定25歳)が、ニコニコしながら濡れた馬を布で拭きながらそう言ってくれる。短い付き合いだが馬を褒められると気分がいいね。

 「よしよし。それじゃ受付をお願いしていいかな?」

 男性が僕達を宿屋内に案内してくれる。中へ入ると、

 「おーい、母さん! お客さんだよ!」

 母親を呼んでくれ、すぐに優しそうなおばさんがやってきた。

 「はいはい、いらっしゃいませ! サンロック村へようこそ。雨は大変だったでしょう?」

 「ええ、もう散々でした。お風呂があったら入りたいです」

 ルビアがそれとなく設備を聞くと、おばさんは笑いながら言う。

 「一応、山から温泉があるんだけど――」

 「「え! 本当ですか!」」

 エリィとベルゼラも身を乗り出しておばさんに詰め寄るけど、その続きはがっかりするものだった。

 「――ここ最近の雨で温泉と村を繋ぐ道が閉ざされてしまって、お湯が流れて来なくなったんだよ。撤去しようにもこの雨だし、様子を見に行った若い衆によると温泉に魔物が住み着いてさらに倍率ドンで難しくなったのさ」

 「ええー……そんなあ……」

 よほどがっかりしたのか、バス子以外の三人はがっくりと肩を落とす。ま、まあ、無いものは仕方ないよね。そこへ、びしょ濡れの冒険者が数名宿屋へ転がり込んできた。

 「おや、おかえりなさい。どうだったね? ダメだったろ?」

 「いやあ、おかみさんの言う通りありゃダメだ。村から町へ向かう道は大岩が塞いでた。どかそうと思ったけど下手に魔法をぶっ放すと足元までいっちまいそうだったぜ」

 「だろう? ま、これだけ長く続くのは珍しいけどね。雨が止めば若い衆と一緒に大岩をどければいいさ。ウチも泊ってくれて大儲けってね! さ、お嬢さんたちは――」

 と、僕達と帰ってきた冒険者へ泊る部屋の算段を始めるおばさん。

 うーむ、実家へ帰るにはどうしてもここを越えないと近道にはならないんだよね……戻ったら遠回りだし……さてどうするかと頭を抱える僕であった……
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