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第六章:大魔王復活?
その103 バス子、致命的な大誤算
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「何、この悪寒!? 空気が切り裂かれるみたいな……森……?」
口からポロリと串を落としながらレオス達のいる森へと目を向けると、とてつもない邪気を伴った空気の淀みを感じ取るルビア。ただごとではないと即座に地面を蹴って走り始める。
「炎の精霊の力を試すチャンスかしらね。それにしても大魔王なんて比じゃないくらいのプレッシャーだわ。大物ね、一人で勝てるかしら……」
しかし何かに気圧されて苦しむ町の人たちを見てルビアは頭を振って呟いた。
「探している暇は無いか。というより、これだけの気配だし先に向かっているかもね」
ルビアは加速し、町の外へと飛び出していった。そして驚愕の光景を目にすることになる。
◆ ◇ ◆
「うああああああ!」
ゴッ!
「レオスさん! ……きゃあ!?」
「うひゃぁぁ!?」
レオスが叫ぶと同時に、レオスの体から衝撃波のようなものが放たれて砂ぼこりが舞う。次の瞬間、地震はおさまり、砂ぼこりも徐々に晴れていく。
そして、立っていたレオスを見たベルゼラが目を見開いて驚きの声をあげる。
「レオスさんの姿が、めちゃかっこよくなった!?」
身長も伸びて顔立ちも大人っぽくなったレオスがバス子を睨む。だが、髪の色が金髪から銀髪へと変化し、前世の成長が止まる前の姿であった。
「あ、あわわわわ……アスモデウスさん……ど、どうするんですかぁこの後……というかこの子何者なんですぅ……!?」
「ふ、ふふふ、わ、わたしの見込んだ通りでした! これだけの力があれば――」
ビュ!
「ひぃ!?」
レオスの手からファイアアローが飛び出し、アスモデウスの頬を切り裂く。レオスは無言で手を握り感触を確かめていた。
そこへ全てを吐き出して駆けつけてきたサブナックとオリアスの二人が武器を手にしてアスモデウスへと叫んだ。
「おい! こりゃどういうこった! なんだこいつは? とんでもねぇ魔力に当てられて目が覚めちまったぞ。こいつが俺達の計画に役立つってのか!」
「いやいや、これは無理でしょ……禍々しいにもほどがあるって!?」
「いえ、わたし達四人で一気に抑え込めばあるいは……序列が低いとは言え、解放すれば大魔王に匹敵する力はあります。後はわたしの魔眼で操れば……」
「おっそろしく無謀な気がするわよぅ……アスモデウスさんが撒いた種なんだからちゃんと刈ってよね」
「わかっていますよ。ほら、レオスさん、エリィさんの無残な姿ですよー」
「……」
アスモデウスがレオスを煽っている間に、サブナック達三人が力を解放する。
「この姿も久々だな」
「やれやれ、貧乏くじだよ……」
「ちゃんとしないと死ぬわよぅ。はああああ!」
「あ、ああ……!」
カッ! と、三人の姿が輝いて姿が変わっていく。その姿を見たベルゼラが驚くが、それも無理はない。なぜなら――
「み、みんな、ライオンじゃない!?」
バァーン!
「ん? おお、そういや俺達って獅子の姿だっけ……」
「た、確かにそうねえ……」
かぶりまくっていた。ヴィネだけは完全にライオン顔ではなく、耳と牙、それに鼻だけがそれっぽくなっている。
力を解放した三人は武器を手に、動かないレオスへと攻撃を仕掛けた。
「動かないなら死ぬだけだぜ? クラッシュ! ……ぷあ!?」
「サブナック!? み、見えなかった、今こいつなにしたんだ!? うおおお!」
「それそれそれ!」
サブナックが剣を振り降ろしてレオスの肩をバッサリやったと思われたが、何故か吹き飛んだのはサブナックの方だった。焦るオリアス。しかしついた勢いを止めるわけにもいかず、オリアスは目にもとまらぬ速さでレオスへ手足を狙い、それに合わせるような形でヴィネの突きが襲い掛かる。
パパパパパパパン!
「おぶ! くあ!? ぐへあ!?」
「きゃあ!? いやああああ!?」
グシャ!
が、ダメ。
レオスはさらに上の速度でオリアスをべこべこにし、ヴィネを地面に叩きつけた。空から急降下して槍を刺そうとしていたアスモデウスは急停止して冷や汗を流す。
「そ、そんな……!? サブナックとオリアスはともかくヴィネさんは『王』の階級ですよ!? 一瞬も足を止められないとかそんなことが……!?」
そこでようやくレオスが口を開く。
「バス子、お前が望んだ力だ。その身で受けて確かめてみるといい」
「い、いや、わたしちょっとお腹が……」
「大丈夫。消えればその苦しみから解放される」
キュゥゥゥゥ……
レオスが両手を胸元に広げて魔力を収束させ始め、アスモデウスは戦慄する。あれはマズイやつだと。そんな胸中を知ってか知らずか、レオスは無表情のまま両手を向ける。
「ご、ごめんなさい! 謝りますから命だけはご勘弁を!?」
「……エリィはもう帰ってこない。お前も同じ目に合うんだ。すぐに仲間も送ってやる……」
「いやああああ!? ち、違うんです! これは演技で! ほ、ほら! 槍、刺さってないでしょ? ここがぐにょーんって曲がるんです! 血はエリィさんを気絶させた後、ケチャップを――」
「”ロスト・ジャッジ”」
レオバールを脅した時に使った技を呟くレオス。
「いやああああ!? ストーップ! ケチャーップ!!!」
「ダメよレオスさん! バス子たちは拷問して色々吐かせないと!」
「消えろ」
ベルゼラの制止も聞かず、レオスが技を放とうとした、だが、次の瞬間――
「危ない!」
「ぐっ……!?」
ボヒュ!
脇からルビアが現れ、レオスに飛び蹴りを入れた! レオスの技は大きく外れ、空の彼方へと消えていく。
「大丈夫バス子!」
「あ、姐さぁぁぁん!」
「どいてルビア。そいつは……バス子はエリィを殺したんだ」
「はあ!? ってあんた誰よ!」
ルビアが構えを解かずレオスを訝しむと、ベルゼラが代わりに答えていた。
「その人はレオスさんです! バス子がエリィを槍で串刺しにしたのを見てそうなったんです!」
「レオス!? あたしより背が高くなってるじゃない……髪の色も違うし……ていうか……めちゃ好みな顔なんだけど……」
「どいてルビア。用があるのはバス子だけなんだ」
「ちょ、ちょっと状況が飲み込めないんだけど……」
「助けて姐さん! エリィさんは生きているんです! ……ほら、お嬢様も確認して!」
涙と鼻水で顔をべちゃべちゃにしながらベルゼラにエリィを渡すアスモデウス。
「あ、うん。ぺろり……確かにケチャップね……」
「うふふ……レオス君の抱き枕……」
「レオスさん! 大丈夫! エリィさんは生きています!」
ベルゼラが手を振るが――
「うげ!?」
「え!?」
一瞬でアスモデウスの元まで移動し、その首をつかまえて吊り上げる。
「生きているんだ、良かった。でも、こんなくだらないことを二度と考えないように……殺しておかなくっちゃ。ね?」
「あ、がは……!?」
「ちょ、ちょっとレオス! あんた――熱っ」
いつものレオスらしからぬ言葉を吐き、ルビアが困惑して駆け寄ろうとした瞬間、ルビアの指輪から炎が噴き出した。
<あやつ、邪悪な心に支配されておるぞ。前世のことは聞いておったが、これほどとは……一発ぶん殴って正気に戻さねば>
「前世? ……ええい、よく分からないけどレオスを殴ればいいのね? やってやるわ!」
「ぶくぶく……アネさ、ん、たすけ……」
ルビアは虫の息のバス子を助け出すためレオスへと向かっていった。
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